地域資源を活かした農村の振興・活性化ー平成30年度食料・農業・農村白書からー

政府は、令和元年5月28日に「平成30年度食料・農業・農村白書」を閣議決定し、公表した。そのうちから、「第3章 地域資源を活かした農村の振興・活性化(第5節 都市農業の振興を除く。)」及び「トピックス3 消費が広がるジビエ」の部分を紹介します。
なお、白書の構成は次のようになっています。
はじめに

特集1 平成30年度に多発した自然災害からの復旧・復興
特集2 現場への実装が進むスマート農業
特集3 広がりを見せる農福連携
トピックス1 農産物・食品の輸出拡大
トピックス2 規格・認証・知的財産の活用
トピックス3 消費が広がるジビエ

第1章 食料の安定供給の確保
第2章 強い農業の創造
第3章 地域資源を活かした農村の振興・活性化
第4章 東日本大震災・熊本地震からの復旧・復興

第3章 地域資源を活かした農村の振興・活性化

第1節 社会的変化に対応した取組

農村地域の人口減少、高齢化が進む中、都市部の若い世代を中心に高まりを見せる「田 園回帰」の流れを活かし、段階的に移住・定住を図るとともに、仕事を作り、安心して 住める仕組みを構築することが重要です。

(1)農村の人口、仕事、暮らしの現状と課題

(農村では都市に先行して高齢化と生産年齢人口割合の減少が進行)
我が国を農業地域類型区分別に見ると、面積では、平地農業地域 で14.2%、中間農業地域と山間農業地域を合わせた中山間地域で72.5%と、これらの地域で合わせて9割を占め、都市的地域は1割となっています。一方で、人口では、都市的地域1億143万人、平地農業地域1,147万人、中間農業地域1,069万人、山間農業地域351万人となっており、8割が都市的地域に集中しています。
平成22(2010)年から平成27(2015)年までの5年間における年齢区分別の人口割合の推移を見ると、平地・中間・山間の各農業地域では、都市的地域に先行して、高齢化と、15歳以上65歳未満の生産年齢人口割合の減少が進行しています。また、この5年間で、都市的地域、平地農業地域、中間農業地域が、それぞれ、平成22(2010)年の平地農業地域、中間農業地域、山間農業地域の人口構成に近づいていることも見てとれます。

(総戸数9戸以下の小規模集落が増加、一部集落で機能維持が困難となるおそれも)
我が国の農業集落は、冠婚葬祭等の生活扶助や農作業等を世帯間で助け合う生産補完 機能のほか、農道の補修、草刈り、水路掃除や共有林の手入れ等、農地や山林に関わる地域資源維持管理機能等、都市部に比べて多様な機能を発揮し、環境を維持しています。
しかしながら、集落の小規模化・高齢化が進む中、このような集落機能は低下し、一方で生活支援の需要は増加するという課題に直面している地域もあります。
平成22(2010)年から平成27(2015)年までの農業集落の平均総戸数の変化を農業地域類型別に見ると、都市的地域では増加しているものの、平地農業地域と中間農業地域 では微増、山間農業地域では減少しています。また、平均農家数は全地域で減少しています。
総戸数が9戸以下の小規模な農業集落の割合について見ると、平成22(2010)年から平成27(2015)年までの5年間で、山間農業地域で2.2ポイント上昇して17.9%等となっており、特に山間農業地域の集落における世帯の低密度化が進展しています。
総戸数が10戸を下回る農業集落では、農地や農業用用排水路等の地域資源の保全、伝 統的な祭り等の保存や各種イベントの開催といった集落活動の実施率が急激に低下する傾向が見られ、集落機能の維持には、最低限度の集落規模の維持が必要であることがうかがえます。
総戸数が3戸を下回ると、他の集落との共同保全活動を通して機能維持を図る傾向が見られます。しかし、今後の山間農業地域等では、一定範囲の複数集落が総じて機能を維持できないリスクが高まることも懸念されます。
(空き家の増加、商店の閉鎖等の暮らしの課題)
総務省と国土交通省が過疎地域等の集落を対象に行った調査を見ると、集落で発生している課題について、生活面では、空き家の増加、商店・スーパー等の閉鎖、住宅の荒廃(老朽家屋の増加)、産業面では、耕作放棄地の増大、働き口の減少、環境面では、獣害・病虫害の発生、森林の荒廃の割合が高くなっています。
最寄りの店舗まで直線距離で500m以上の位置に居住し、自動車を利用できない65歳 以上の人の数である食料品アクセス困難人口は、平成27(2015)年に全国で825万人と推計されています。65歳以上の人口に占めるその割合を市町村別に見ると、地方において高くなっています。また、食料品アクセス困難人口のうち75歳以上は536万人と推計されており、75歳以上の人口に占めるその割合を市町村別に見ると、40%を超える市町村も多くなっています。

(2)「田園回帰」と「関係人口」を通じた交流・移住・定住の動き

(農村地域の維持・強化へ向け多様な人材を迎える必要)
農村を自己実現の場として、また、新しいビジネスモデルやイノベーションが生まれる 課題先進地域として注目する若者も増えています。
特に東日本大震災以降、人の役に立ちたいという社会的な価値を重視する価値観が広が るとともに、若者を中心に従来の都市志向から地方志向が広がっています。
人口減少や高齢化等が先行する農村地域を維持・強化するためには、若い世代を中心に 「田園回帰」の意識が高まっている中で、多様な人材を農村に迎えて、既存の住民とともに、仕事や生活の新たな仕組みづくりに、創意工夫を発揮してチャレンジしていく必要があります。

(東京一極集中の緩和に向けた施策が展開)
このような「田園回帰」の動きについて、国土審議会の専門委員会が平成30(2018) 年12月に公表した分析によると、平成24(2012)年から平成29(2017)年の6年間で、東京圏からの転入が東京圏への転出を上回る年が3回以上あった市町村は146確認されました。この中には山間部や離島等の市町村も確認できます。

事例 きめ細かな対応で移住者を受入れ(岡山県)
岡山県瀬戸内市せとうちしの裳掛もかけ地区コミュニティ協議会は、同地区の活性化を目指し、平成24(2012)年度に「むらおこしプロジェクト」を発足させました。地域おこし協力隊と住民を中心に、平成27(2015)年度からは瀬戸内市役所を加えた裳掛地区農村活性化協議会として、農林水産省の農山漁村振興交付金を活用し、ワークショップやアンケートを通じた地域の将来像づくり、鳥獣害対策等の農業支援、移住者を増やすための活動等を行っています。
移住者を増やす活動では、東京で行われる移住フェアへの出展や、移住相談会の開催といった広報活動に加え、移住者が入居できる空き家の確保やその整理も行っています。
平成29(2017)年度までに20戸の空き家で受入準備を行いました。また、特産のピオーネの栽培等、農業を営みたい人には、農地探しや販路開拓の手伝い、農業研修の受入促進も行っています。
このようなきめ細かな対応が功を奏し、移住者の受入実績は平成27(2015)年度から平成30(2018)年度までの間に16世帯37人となりました。

 

平成26(2014)年11月のまち・ひと・しごと創生法の施行以降、東京圏から地方への人の流れを更に創出するための取組が推進されています。平成27(2015)年3月には、移住・交流情報ガーデンが東京駅近傍に設置され、一般的な移住相談のほか、専門家を配置して就職や就農についての相談にも対応するとともに、地方公共団体等による移住セミナー等の場として活用されています。平成29(2017)年度には来場者数13,955人、移住候補地等のあっせん件数9,792件と、地方への移住を考える際の手掛かりを提供する場所となっています。

(「関係人口」の裾野の拡大が移住・定住の入り口に)
将来的に移住を希望する者は増えていますが、実際の移住では、家庭環境や生活環境により、様々なステップを経ることが一般的です。このため、その実現に向けては、移住希望者が地域を知る交流の機会を積極的に創出し、将来の移住・定住をより具体的に考えられる仕組みを整えることが重要です。
また、出身地、就学地や勤務地のほか、ボランティア活動を通じて縁のできた地域等、 自らの居住地以外で人々が想いを寄せる地域が生まれるきっかけも多様になっています。
特定の地域に貢献するため、資金や知恵、労力を提供する取組も積極的に行われ始めています。
これからの地域づくりの担い手として、このような、長期的な定住人口でも短期的な交流人口でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者である「関係人口」が注目されています。
ふるさと納税は、都市住民等と地方公共団体の間に新しい関係を生むことが期待されており、今後、寄附金を活用する施策の明確化等、使い道が評価される取組が望まれます。
例えば、北海道上士幌町では、寄附者のうち移住を希望する者を対象としたツアーが実施されています。また、宮崎県綾町では、寄附金を、返礼業務のほか、地域の農作業の受託や農産物の販路開拓等を行う拠点の開設に活用しました。

(「農地付き空き家」を取得できる環境整備が進展)
農村への移住を希望する者の中には、移住後に趣味として農作業を楽しみたい者や、生業として農業に従事したいといった者は少なくありません。また、その中間として、農業以外を本業としつつ、無理のない範囲で農業を行いたい者もいます。移住後に農業をできる環境があることは、農村への移住・定住を進める上で大きな魅力となります。
農地を貸借等する際は、農地法により、一定の下限面積以上の農地を取得することが必要ですが、同法の特例により、一定の条件下でこれを引き下げることも可能です。平成30(2018)年10月1日時点で、空き家とセットで農地を取得する場合の下限面積の特例を153市町において定めています。
農村への移住希望者にとって、住宅の確保は、収入の確保とともに大切な課題です。一部の地方公共団体は、空き家等の情報をWebサイト等で発信する空き家・空き地バンクを運営しています。国土交通省は、これらを一元化した「全国版空き家・空き地バンク」を平成30(2018)年度から本格運用しています。ここでは、「農地付き空き家」を検索
することも可能となっており、平成29(2017)年度末時点で、204件の「農地付き空き家」が登録されました。また、同省では、農地付き空き家を地域資源として活用するための取組事例や関連制度をまとめた手引きを公表しました。

(3)農村の地域資源を活用した雇用と所得の創出(農村の仕事)

農村に住む人が、やりがいをもって働き、家族を養っていけるだけの収入を確保できるよう、魅力ある就業の機会を創出する必要があります。仕事の創出は、農村への移住・定住を進める上でも、最も重要な課題の一つです。
農村において、農林水産業の振興やその6次産業化は最大の地方創生策の一つです。
同時に、新しい技術や制度、異なる業種や異なる政策の連携を活かした農村における仕事づくりの取組も行われています。

(地域商社を設立し、農林水産物の販路を拡大する取組が広がる)
農産物や工芸品、サービス等の販路を開拓する地域商社が各地で誕生しています。
株式会社日本政策投資銀行が平成30(2018)年7月に公表した調査報告では、地域商社は、地域産品の生産段階から流通・販売まで一貫してマーケティングを行う存在であり、「地域で、地域と地域産品のマーケティングを担う地域発の主体・プロジェクト」等と定義されています。また、地域商社は、地域産品を販売し外貨を獲得するだけでなく、市場の情報を地域にもたらすこと等により、地域のビジネスの成長に寄与していくことが期待されます。
地域商社は、都市でビジネスに従事するなどして社会経験を積んだ者等が、マーケティング等農山漁村に不足する能力を補強することで取組を軌道に乗せる例が見られます。

事例 地域の潜在力を持続可能なビジネスに(宮崎県)
宮崎県児湯郡新富町こゆぐんしんとみちょうは、平成29(2017)年4月、新富町観光協会を法人化した地域商社として、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(以下「こゆ財団」という。)を設立しました。
こゆ財団は、米国のIT企業等での経験がある齋藤潤一さいとうじゅんいちさんを代表理事とし、役場からの出向者2人を含む16人(平均年齢35歳)のスタッフから構成されています。町内外からの多様な人材で構成されるこゆ財団では、特産品販売と起業家育成に取り組んでいます。
特産品販売については、希少性の高い国産ライチを、ロゴやパッケージデザインの統一等を通してブランド化し、「1粒1,000円のライチ」として販売するなどして、地域の農業を支援しています。
起業家育成では、「世界一チャレンジしやすいまち」をスローガンに、塾の開講やコワーキングスペースの提供により、地域づくりを担う人材の育成に取り組んでおり、平成29(2017)年度は7人が移住し、企業4社を誘致しました。また、地元の若手農家らと農業研究会を設立し、農業ベンチャーや高等専門学校と連携し、IT・IoTをほ場に導入した実践的な研究を行っています。
齋藤さんは、「ICTにより情報を早く広く伝えられる現代は、小さな組織でも十分に戦える。今後も志が近い人と、経済的にも持続可能な地域づくりの実現に向けて、努力を続けたい」と言います。

 

(ICTを利用した新しい販路開拓の動きも活発化)
農林水産物の消費者への直売は、従前から様々な民間企業等によって実施されてきました。さらに、近年ではスマートフォン等の携帯情報端末等の普及に伴いICT技術が身近 になった結果、より多くの団体や個人農家が、一般的な販売手段として直売を行っています。
これにより、特徴ある農産物を生産し、その品質やそこで生産する意義を伝えたり、消費者とのコミュニケーションやつながりを構築することで、条件不利地域の農業者がニッチな市場をつかむことも可能となることから、その重要性が増しつつあります。

(旅客鉄道や高速バスで農産物を輸送する試みも増加)
近年、旅客車両に少量の貨物を載せ、地域の農産物を都市部に送る試みが増えています。
東日本旅客鉄道株式会社は、平成29(2017)年度から、管内の各地域から新幹線で直送した野菜や果物を中心に販売する産直市を東京駅等で不定期開催しています。平成30(2018)年11月には、日本郵便株式会社と連携し、同社が仙台駅まで輸送した宮城県山元町の朝採れいちご等を新幹線で運び、東京駅で即日販売する取組を試行しました。
高速バス等の路線バスで少量の農産物を運ぶ取組も始まっています。近年、全国39都府県を結ぶ高速バスの停留所が集約されているバスタ新宿を活用し、茨城県、千葉県、山梨県等の農林水産物を高速バスで届けて周辺で即日販売する取組が行われています。
このような取組は、旅客の安全な運送が前提ですが、少量生産の伝統野菜等、大量輸送に向かない農産物を、新鮮なまま低コストで輸送し、新しい販路を作るものとして注目されています。
また、旅客車両で貨物を運ぶ等の「貨客混載」をより行いやすい環境が、許可の運用の見直し等を通して整えられました。

(4)住み続けられる地域への挑戦(農村の暮らし)

農村の生活の課題を解決するための取組が、地域住民同士の共助を中心に、様々な主体の力により行われています。また、ICT等の新しい技術やシェアリングの仕組みを活用して地域の生活を支えていくことも期待されています。

(「小さな拠点」を中心に地域の生活圏を再構築する活動が広がる)
政府は、各種生活サービス機能を集約・確保したり、地域に仕事や収入を確保したりする「小さな拠点」を中心に、地域住民が主体となり地方公共団体等と協力・役割分担しながら地域の生活を支える様々な取組を推進しています。まち・ひと・しごと創生法に基づく市町村版総合戦略に位置付けられた「小さな拠点」は、平成30(2018)年5月末時点で1,069か所となりました。
そのうち84%においては、住民主体の「地域運営組織」が設立され、地域の祭りや公的施設の運営、広報誌の作成のほか、体験交流や特産品の加工・販売といった6次産業化、高齢者等の見守り、買物支援、コミュニティバスの運行等、様々な取組が行われています。

(ICTやシェアリングの仕組みを活用して生活の足の確保等の地域活動を効率化)
生活サービスの提供についても、ICTやシェアリングの仕組みを活用して効率化できる余地があります。
京都府京丹後市丹後町きょうたんごしたんごちょうの特定非営利活動法人「気張きばる!ふるさと丹後町」は、高齢化の進行やタクシーの撤退により、住民の生活の足の確保が問題となっていたことから、市から受託している予約制のバスの運行に加えて、平成28(2016)年5月から、登録された住民ボランティアが自家用車で地域住民等を運ぶ公共交通空白地有償運送を行っています。
同法人は、公共交通空白地有償運送の実施に当たり、スマートフォン等で利用する民間の配車アプリを導入しました。これにより、利用者とドライバーのマッチングが自動で行われ、配車希望の受付、運行可能なドライバーの探索といった運行管理を効率化しました。また、高齢者のニーズを踏まえて、代理人による配車や現金支払も可能としています。利用者の多くは地元住民ですが、多言語に対応しているアプリを活用したことで、訪日外国人旅行者を含む観光客等にも利用されています。
公道における自動車の自動運転やドローンによる郵便物等の輸送の実証実験は、中山間地域や離島を中心に行われていますが、人口規模が少なく十分な人件費を確保できない農山漁村においても、このような省力化技術の導入が期待されます。
このように、農村の課題解決にはICT等の活用が期待されており、農林水産省では、平成30(2018)年度、ICTを活用し定住条件の強化に取り組む優良事例について事例集を作成し、ホームページ上に公表するなど、横展開を図っています。
また、日本郵便株式会社と東日本旅客鉄道株式会社は、平成30(2018)年6月、郵便局と駅の機能の連携等を内容とする協定を結びました。この中では、地方における郵便局舎の駅舎内への移転等による窓口業務の一体運営も検討されています。
このような地域の生活インフラのシェアリングは、人口規模とそれに伴う需要規模の小さな地域ならではの仕組みづくりとしても期待されます。
事例 食・農・福祉の小さな経済循環を目指す地域づくり(島根県)
島根県益田市真砂ますだしまさご地区は人口370人、高齢化率56%、市街地から15kmほどの中山間地域です。
商店の閉鎖で高齢者の買物が不自由となるとともに介護施設への入所が顕在化してきたこと、地域の主産業である農業の担い手不足等による地域力の低下が大きな課題となってきました。
これらの課題を解決していくため、平成23(2011)年度から「食と農と福祉」をキーワードに地域で活躍している地域商社と、将来、真砂地区を担う子供たちを公民館活動に取り込む「農から食育」活動を開始し、野菜の生産から販売までを自分たちで担う6次産業化により、地域内経済の循環を目指しました。
この取組は主に女性農業者が主体となって始め、市内4保育所の給食食材やレストランの食材として納入しています。現在では男性農業者による市内大型店の地産地消コーナーでの販売等も手掛けています。園児の健全育成支援はもとより農業者の生きがいづくりにも貢献しています。
これら一連の取組は公民館が主体となってサポートしています。平成28(2016)年度からは、このような活動をまとめるために設立した地域自治組織「ときめきの里 真砂」と公民館が連携し、活動に必要な情報交換等を行うことで地域運営がスムーズに動き出しています。また、益田市が導入したクラウドシステムを活用することで地域運営の効率化を図っています。

第2節 中山間地域の農業の振興

中山間地域は、不利な営農条件下にありますが、地域資源を活かすことで地域ならではの収益力のある農業を実現できる可能性を有しており、様々な施策を講じて、農業と地域の活性化を支援しています。

(地域資源を活かすことで収益力のある農業を実現できる可能性)
中山間地域は、我が国の人口の1割、総土地面積の7割、農地面積と農業産出額では4割を占めており、我が国の食料生産を担うとともに、豊かな自然や景観を有し、多面的機能の発揮の面でも重要な役割を担っています。
一方で、傾斜地が多く存在し、ほ場の大区画化や大型農業機械の導入、農地の集積・集約化等が容易ではないため、生産性の向上が平地に比べて難しく、人口減少、高齢化とあいまって、担い手不足等、営農条件面で不利な状況にあります。
1経営体当たりの経営規模を見ると、経営耕地面積規模が1.0ha未満の経営体の割合は、
平地農業地域で4割であるのに対し、中山間地域では6割となっています。
また、中山間地域は、野生鳥獣の生息地となる山林と農地が隣接することから平地に比べて農作物の鳥獣被害を受けやすく、過疎や高齢化の進行による担い手不足もあいまって、荒廃農地が発生しやすい環境にあります。
このような不利な営農条件下にあるものの、中山間地域特有の冷涼な気候や清らかな水を活かして良食味の米や伝統野菜が栽培されるなど、地域資源を活かすことで収益力のある農業を実現する地域もあり、今後も特色ある農業や6次産業化の取組が展開されることが期待されています。

事例 元そば店経営者が中山間地域で行うそば単作経営(群馬県)
群馬県渋川市(しぶかわし)の株式会社赤城深山(あかぎみやま)ファームの代表である髙井眞佐実(たかいまさみ)さんは、平成3(1991)年まで東京で自らそば店を経営していましたが、品質や香り、使いやすさにこだわったそばを生産したいという想いから、渋川市に移住しました。
そばの農地は、当初はえだまめの裏作としての農地を利用することから始め、次に造園業の経験を生かし、住民が手を出せずに困っていた桑畑等の遊休農地を借り入れて重機で開墾しました。地域に貢献したことで信用を得て、やがて農地を使ってほしいと声が掛かるようになりました。
その結果、規模拡大が進み、平成29(2017)年には夏そば・秋そば合計で200haと、群馬県のそばの栽培面積の4割を栽培するまでになるとともに、高齢者も含めた近隣の雇用にも貢献しています。
標高200から800mという中山間地域ならではの高低差を逆手にとり、作付け・収穫時期を分散させることで、人や機械の有効活用につなげています。香り高いこだわりの無農薬そばは、高い評価を得て22都道府県の150のそば店に直接販売しています。
また、従業員の足腰の負担軽減のために導入しているアシストスーツに加えて、「将来は自動運転トラクターを導入し、畑を耕せるような技術も積極的に取り入れていきたい」と考えています。

(中山間地農業ルネッサンス事業や中山間地域所得向上支援対策で地域農業が活性化)
農林水産省では、平成29(2017)年度から、複数の市町村単位等で中山間地農業の振 興を図る地域別農業振興計画を策定した地域を対象に、中山間地農業ルネッサンス事業により、経営規模の大小にかかわらず意欲ある農業者の新たな取組に対し、各種事業での優先枠の設定や面積要件の緩和等の優遇措置を通じた総合的な支援を行っています。
また、中山間地域所得向上支援対策により、地域別農業振興計画等を策定した市町村を対象に、水田の畑地化等の基盤整備や、生産・販売のための施設整備等を支援しています。
平成30(2018)年度は252地域で地域別農業振興計画が策定され、地域の特色を活かした農業の展開に向けた基盤整備や施設整備、農地等の地域資源の維持・継承に向けた共同活動等が実施されています。

事例 中山間地農業ルネッサンス事業を活用した特産品開発と鳥獣対策(長野県)
長野県伊那市いなしは市域の8割が山林の中山間地域で、米のほか、花き、果樹、野菜の生産が盛んに行われています。
同市は、産官学連携による更なる所得向上を目指し、加工による付加価値向上や販路の拡大と同時に、有害鳥獣による農作物等への被害防止に取り組むため、中山間地農業ルネッサンス事業を活用しました。
所得向上を目指す取組では、農協、商工会議所、市役所、農業法人が連携した地域特産のかぶを使った漬物の製造・販売促進や、同市が信州大学と開発したワイン用やまぶどう(信大W-3)の搾りかすを活用したホワイトブランデー等の開発に取り組んでおり、さらに、農産物の集出荷や加工の施設の整備を行うこととしています。
一方で、頻発する鳥獣被害に対しては、対策を行ってきた猟友会会員の半数が70代と高齢化する中で、設置した捕獲用わなの見回りが負担になっていました。そこで、労力の軽減に向けて、民間企業、信州大学、プログラマー等で構成する開発チームが、低電力・低コストの通信技術を活用した「くくりワナセンサー」の開発・実証に取り組んでおり、現地の山林等での動作試験等を経て、市内で量産する予定としています。

 

また、中山間地域の中でも特に条件が不利な棚田は、農業生産により多くの労力とコストが必要です。棚田を維持していくためには、地域住民のみならず、地域おこし協力隊等の外部人材も活用しながら、棚田の美しい景観をアピールし、オーナー制度や農業体験学習、農泊等を通じた都市住民との交流活動、付加価値を高めた棚田米やその加工品の販売を行うなど、棚田の持つ多様な価値を活かした取組を行うことが重要です。

(山村地域における取組)
国土面積の47%を占める振興山村は、国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等に重要な役割を担っていますが、人口減少、高齢化等が他の地域より進んでいることから、国民が将来にわたってそれらの恵沢を享受することができるよう、地域の特性を活かした産業の育成による就業機会の創出を図ることが重要です。
このため、振興山村においては農山漁村振興交付金の山村活性化対策により、山菜やくり、ゆず、木工品等の特色ある地域資源を活かした新商品の開発や販路開拓等を支援し、地域の雇用と所得の増大を図っています。

コラム 棚田を中心とした地域の保全と振興
農林水産省では、平成11(1999)年に、棚田の保全を推進し、理解を深めるため、全国134の棚田を棚田百選として認定しました。その中には、棚田オーナー制度等の取組により、棚田の維持に努力している地域もあります。
このような地域では、都市を中心とした他地域の人との交流の中で加工品の販売やイベントによって新たな収入を増やしたり、クラウドファンディングを活用した資金で移住者のための住居を整備したり、農泊に取り組んだりと様々な活動を行った結果、仕事が生まれ、移住によって住民が増えた例もあります。農林水産省では、このような棚田を核に特色ある発展を実現した先進事例や、棚田の保全や地域の活性化を図る際の壁となりやすい項目の解決策、活用できる施策等をまとめた「棚田キラーコンテンツ化促進ガイド」を平成30(2018)年7月に公表しました。
全国的な傾向として、中山間地域の稲作の中でも特に農業上の生産性が低く、その維持に多大な労力とコストを要する棚田は、農業の担い手の減少とあいまって、耕作が断念され荒廃が進んでいます。
棚田は、農産物の供給にとどまらず、国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成、伝統文化の継承等、多面にわたる機能を果たすとともに、我が国の稲作文化の原点を今に伝えています。
国民的財産である棚田の保全と振興が今求められています。

 

事例 若者や女性が6次産業化に取り組み、農泊も行う棚田地域(宮崎県)
宮崎県高千穂町たかちほちょうは、棚田を含む山間地における伝統農林業と伝統文化が現代に受け継がれている地域で、世界農業遺産に認定されています。
そのうち、向山むこうやまの秋元あきもと集落は、人口100人のうち60歳以上が7割と限界集落化した棚田地域ですが、平成21(2009)年、田舎で働き隊の若者たちの支援を受けた女性たちが、街にアンテナショップを開いたことをきっかけに、集落にも無人直売所を開設しました。その翌年には農産品の商品開発や民宿開業等を目的に協議会(任意団体)が立ち上がり、県の研究機関と連携して挑戦を重ね、様々な取組がなされています。
平成23(2011)年には棚田米を使ったどぶろくが完成し、その翌年には民宿も黒字を達成しました。さらに、地産食材を使った食堂や夜神楽よかぐらの観賞、棚田等のツアー等が次々と動き出しました。本格ビジネスを展開する株式会社高千穂ムラたびが発足し、乳酸菌発酵の甘酒を開発。平成26(2014)年からは、どぶろく・甘酒の本格製造に伴い、住民による原料米生産体制を整備しました。このような取組で、遊休農地化した棚田が再び活用され、その耕作率は100%に復元しました。
平成29(2017)年以降も、米糠の菓子製造、クラウドファンディングによるどぶろくの販売、海外旅行会社からの送客等も実現し、交流人口年間3万人、どぶろく・甘酒の売上約1億円、雇用12人、民宿の利用者約600人、うち外国人観光客の割合は2割となっています。

第3節 農泊の推進

農泊とは、農山漁村において我が国ならではの伝統的な生活体験と非農家を含む農山漁村の人々との交流を楽しみ、農家民宿や古民家等を活用した宿泊施設に滞在して、観光客にその土地の魅力を味わってもらう農山漁村滞在型旅行です。増加が続く訪日外国人旅行者を農山漁村に呼び込んで交流を図るとともに、地域の所得向上に活かすことが重要です。また、教育旅行等の都市農村交流においても、その持続可能な経営の実現に向け、農泊との連携が進んでいます。

(地方部への分散を背景に、インバウンド需要は堅調に拡大)
平成30(2018)年の訪日外国人旅行者については、台風第21号による関西国際空港の閉鎖や北海道胆振東部いぶりとうぶ地震により、9月中は前年同期に比べ伸びが低下したものの、年間では堅調に増加し、旅行者数3,119万人となり、過去最高を記録しました。また、旅行消費額は4兆5,189億円、地方部における延べ宿泊者数は3,636万人泊となり、いずれも過去最高を記録しました。
旅行消費額のうち、飲食費は9,783億円、買物代のうち食料品(菓子類、酒類、生鮮農産物等)は3,314億円となっています。このような日本食・食文化の需要を農山漁村に呼び込み、訪日外国人の更なる増加と農林水産物・食品の輸出増大につなげるといった好循環を構築していくことが重要です。
外国人延べ宿泊者数に占める地方部の割合は4割を超えています。過去5年間の延べ宿泊者数の増加率を都道府県別に見ると、青森県、山形県、山梨県、岡山県、香川県、佐賀県で4倍以上となっています。
観光庁の調査によると、例年訪日外国人旅行者の7%前後が農山漁村体験等を行ったと回答しており、訪日外国人旅行者数全体の伸びや目的地の地方部への分散とともに、農山漁村での体験を行う訪日外国人旅行者が増えていることがうかがえます。
このような中で、農山漁村体験への訪日外国人旅行者の誘致を円滑にしようとする動きも見られ、例えば、訪日外国人旅行者向けに、観光農園を紹介するとともに体験の予約等を行えるWebサイトも開設されています。

事例 訪日外国人旅行者が3割を占めるいちごの観光農園(福岡県)

福岡県筑紫野市ちくしのしの石橋徳昭いしばしのりあきさんは、民間企業を退職後の平成18(2006)年、水田を転作し、「筑紫野いちご農園」を開園しました。
当初はハウス3棟で、直売所への出荷が中心でしたが、2年目からは観光農園としました。いちごは高設栽培し、1棟で複数の品種を栽培したり、車椅子の来園者のために通路を広くしたりと、営業職であった経験から、顧客満足を重視した経営を行っています。平成30(2018)年には、ハウス24棟といちごを利用した洋菓子の店舗を併設し、九州有数の規模となっています。
同園では、平成25(2013)年から訪日外国人旅行者が増え始めました。口コミや海外の旅行会社等による紹介もあり、平成30(2018)年の来園者の3割は、香港、タイ等海外からの旅行者となっています。
その円滑な誘致のため、同園は、園内やホームページで外国語による案内を行っているほか、観光農園の検索・予約を多言語で行えるWebサイトにも登録しており、来園者の中には、このようなWebサイトから予約する人もいます。
いちごをお土産として求める訪日外国人もいるため、石橋さんは、検疫が簡易又は不要な国・地域を中心に提供していきたいと考えています。


(農泊をビジネスとして実施できる体制の整備)
都市と農村の交流の推進は、都市住民の農業・農村への関心を高めるとともに、農村で暮らす人々にとっても、地域の魅力の再発見を促し、生きがいと活性化をもたらす大きな役割を果たしています。
一方で、都市農村交流においては、サービス等の価格設定が低く持続的でない場合が多いことや、訪問時期が土曜日・日曜日や修学旅行シーズンである秋冬に限られること、小規模であるために効率化が難しく、結果的に公費に依存する場合もあること等の課題があります。
また、その運営体制の多くが任意組織であるため、責任の所在が不明確であるとともに、複数年にわたって資金を活用することができず、長期的な視点での運営が難しい面もあります。このような課題の結果、事業の後継者が現れず、高齢化とともに受入疲れする地域もあります。
このような中で、農山漁村滞在型旅行を持続的なビジネスとして実施し、農山漁村の活性化を目指す農泊が推進されており、農泊ビジネスの現場体制の構築、古民家等を活用した滞在施設や農林漁業・農山漁村体験施設の整備等を実施しています。農林水産省では、平成30(2018)年度までに、農山漁村振興交付金の農泊推進対策により、全国で352地域を採択し、農泊の取組を支援しています。
また、増加する訪日外国人旅行者は、訪問時期が土曜日・日曜日や我が国の祝祭日に集中せず、1人当たりの消費支出が国内観光客に比べて高いことから、農泊を行う地域においては、その誘致を重要視しています。
農泊については、地方創生や観光立国の関連施策にも位置付けられ、令和2(2020)年までに、農泊を持続的なビジネスとして実施できる体制を持った地域を500地域創出することを目標としています。
また、農泊を、我が国での観光に興味を持つ海外の人に知ってもらうため、平成29(2017)年度には海外のタレント等を起用した情報発信等の支援を行いました。平成30(2018)年度には、国内向けには、農泊地域の情報を一元的に集約し、発信する「農泊ポータルサイト」、農泊地域と料理人のマッチングサイト「サトchef」の開設を支援しました。また、海外向けには、台湾、香港、欧米、豪州に対象地域を絞り、現地Webメディア等、各地域に効果的な媒体による情報発信を行いました。

事例 地域一体となったプロモーションによる訪日外国人旅行者の取り込み(熊本県)
「人吉球磨ひとよしくまグリーンツーリズム推進協議会」は、人吉球磨地域10市町村の団体や行政、個人で構成されています。
同協議会は取組開始から10年を経過し、新たに訪日外国人旅行者等を対象とした農泊の実施とそのビジネス化に取り組んでいます。
具体的には、外部専門家を招聘しょうへいして研修等を行うとともに、滞在プランや体験プログラムの開発に取り組みました。
この結果、平成29(2017)年度には2軒の農家民宿が新規開業し、10の体験プログラムが新たに開発されました。
また、旅行会社によるプロモーションも展開されています。平成29(2017)年に開業したうちの一軒である「農家民宿とよのあかり」の山並勝志やまなみかつしさん夫妻は、農薬を使わずに育てた野菜やハーブの料理を提供しています。また、一緒に家庭料理を作ったり周辺地域を案内したりと、宿泊者との交流も積極的に行っています。このようなおもてなしが、宿泊者の半分以上を占める訪日外国人旅行者の評判を呼んでいます。

 

(SAVOR JAPAN認定地域は全国で21地域に)
我が国を訪れて本場の日本食を体験したいという外国人のニーズは高まっており、農村の食は農泊の主要コンテンツの一つです。地域の食と、それを生み出す農林水産業を核に訪日外国人旅行者を中心とした観光客を誘致する取組である「SAVOR JAPANセイバージャパン(農泊食文化海外発信地域)」として認定された地域は、全国で21地域となりました)。

(子供の農山漁村体験の充実)
都市農村交流の一環である子供の農山漁村体験は、地方の自然、歴史、文化等の魅力について学び、理解を深めることで、生命と自然を尊重する精神や環境保全に寄与する態度を養い、人と人とのつながりの大切さを認識し、農林漁業の意義を理解することにより、子供の生きる力を育むことができます。また、農山漁村体験を通じて、都市部の児童生徒が小中高の各段階において、将来の地方へのUIJターンの基礎を形成することも期待できるため、一定期間農山漁村に滞在し、体験活動を行うことが重要です。このため、子供の農山漁村体験の取組を一層推進することとし、これに必要な施策を関係省庁で連携して実施しています。

事例 教育旅行を中心とした地域ぐるみの取組(栃木県)
栃木県大田原市おおたわらしの株式会社大田原ツーリズムは、平成24(2012)年、民間企業から社長を迎え、市と地元企業18社が出資して設立されました。併せて発足した地元協議会と、地域ぐるみのグリーンツーリズム事業を展開しています。
主に団体教育旅行を受け入れ、1年目には農業体験や農家民宿等のプログラムを120以上開発しました。他県から来た中学校の教諭は、「農家に泊まり、生活を共にすることで生徒の社会性を向上させる目的と合致する」と訪れた理由を話しました。
平成27(2015)年には、教育旅行を継続しつつ、持続的な経営の実現に向け、収益率の高い企業向けのプログラムを開発しました。また、古民家の再生を検討するなど、インバウンドを含む国内外の誘客にも取り組んでいます。
農家民宿で交流したベトナムの大学生は、「日本人はまじめで冷たいという印象だったが、とても心温かく、実の子のように接してくれた」と話しました。
平成24(2012)年度から平成28(2016)年度の間に、農家民宿は0軒から約160軒に、交流人数は189人から8,351人に、1軒の農家当たりの売上げは50万円から100万円ほどになりました。
社長の藤井大介ふじいだいすけさんは、「これからも感動を大切にして、大田原に来る人と地元農家に喜んでもらえる企画を考えていきたい」と話します。

第4節 農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮

農村は、農業の持続的な発展の基盤であり、農業の持つ多面的機能の発揮の場となっています。

(農業・農村の有する多面的機能の効果は、国民全体が享受)
農業・農村は、食料を供給する機能だけでなく、農業生産活動を通じ、国土の保全や水源の涵養、生物多様性の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等、様々な機能を有しており、このような多面的機能の効果は、農村地域の住民だけでなく国民全体が享受しています。歴史や伝統ある棚田・疎水等については、地域の協働力を育みながら、美しい農村景観を形成しており、地域資源として保全・復元し、次世代に継承していくことが重要です。
また、農業、林業及び水産業は、農山漁村地域において、それぞれの基盤である農地、 森林、海域の間で相互に関係を持ちながら、水や大気、物質の循環等に貢献しつつ、多面的機能を発揮しています。

(日本型直接支払制度により、多面的機能の維持・発揮に向けた活動を支援)
農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮のために行われる地域の共同活動や農業生産活動等への支援を目的として、日本型直接支払制度が平成26(2014)年度に導入され、平成27(2015)年度からは、「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」に基づく制度として、支援が行われています。
(多面的機能支払は、非農業者等の参画が拡大するとともに多様な効果を発現)
多面的機能支払は、多面的機能の維持・発揮を目的として平成19(2007)年度に農地・水・環境保全向上対策として始まり、日本型直接支払制度の一つとして実施されてい ます。平成30(2018)年度には、平成26(2014)年度からの5年間の取組の最終評価を行いました。
農地維持支払に取り組む認定農用地面積は平成29(2017)年度で227万haと、同制度の対象となり得る全国の農地面積の54%となり、平成25(2013)年度の147万haから1.5倍に増加しました。
活動組織の構成員数234 万人・団体のうち、非農業者や農業関係以外の団体は71万人・団体と3割を占めており、地域ぐるみでの地域資源の適切な保全管理が拡大しました。また、広域活動組織の数は、平成25(2013)年の551組織から平成29(2017)年の853組織へと302組織増加しており、体制強化も進んでいます。
保全活動に取り組む地域の団体に多面的機能支払の成果を聞いたアンケート調査では、 遊休農地の解消・発生防止や農業用施設の適切な保全管理といった様々な効果が見られました)。
一方で、活動組織の代表の高齢化、書類作成等の事務の負担といった課題が全国的に見られることも明らかになりました。
このため、農林水産省では、後継者確保や事務負担の軽減に向けて、既存の活動組織による近隣の農用地の取込みや活動組織の合併等による広域的な体制づくりを進めています。
また、多面的機能支払に取り組む全国の地域の参考とするため、特色ある発展を実現した活動組織を取り上げ、どのような取組を行ってきたのかを経時的な一連のプロセスとして整理した「多面的機能支払交付金プロセス事例集」を公表しています。

事例 土地改良区、町会等が参加した地域ぐるみの活動(石川県)

石川県羽咋市はくいし 、宝達志水町ほうだつしみずちょう、中能登町なかのとまちの一部の58町会で構成される「邑知潟水土里おうちがたみどりネットワーク」は、地域の土地改良区が事務局となって日本型直接支払制度を活用し、多様な活動を行っています。
毎年春に町会代表による施設点検を行い、その結果を踏まえて年度の修繕計画・予算を作成し、町会総出で水路の泥上げ、農道等への砂利の補充、防草シートの敷設、ため池の補修等を実施しています。
また、水路・農道等の管理を行う町会への自走式草刈機の貸出し、鳥獣害防止用の電気柵の設置、小学校等と連携した子供の稲刈り体験・生き物調査、老人会によるホクリクサンショウウオの保護等も行っています。
交付金の申請、書類の整備等のために職員を1人雇うことにより、各団体の事務作業は軽減され、市町、農業団体、町会、土地改良区のみならず、子供会、PTA、老人会、女性グループ、青年団等の地域の連携が深まりました。
草刈り等の担い手の負担が軽減したことや、地域の話合いが活発になったことにより、地域の認定農業者への農地集積率は平成24(2012)年度の54.1%から、平成29(2017)年度の66.3%に上昇しています。

 

(中山間地域等直接支払の取組により、耕作放棄地の発生抑制等の効果を発現)
中山間地域等直接支払は、不利な営農条件下での農業生産活動の継続を目的として平成12(2000)年度に始まり、現在は日本型直接支払制度の一つとして実施されています。
具体的には、交付金を受ける集落等の単位ごとに、必須事項としての耕作放棄の防止活動や水路・農道等の管理活動等、選択事項としての機械・農作業の共同化や高付加価値型農業の実践等の活動内容や、その達成目標を定めた協定を定め、参加した農業者が実施しています。
平成29(2017)年度における中山間地域等直接支払の協定の数は2万5,868協定となり、交付面積は、前年度に比べ2千ha(0.3%)増加の66万3千haとなりました。
農林水産省は、平成30(2018)年6月に、平成27(2015)年度から令和元(2019)年度までの第4期対策の中間年評価の結果を公表しました。
活動に対する集落等の自己評価では、9割以上の協定が目標以上の達成が見込まれる「優良」、又は目標の達成が見込まれる「適当」となりました。
耕作放棄の発生防止では、中山間地域等直接支払制度の活用を契機とした集落等での話合いにより農地保全に対する意識が高まるといった効果も認められ、農林業センサスを活用した効果分析では、中山間地域等直接支払を活用した農地を含む集落は、活用していない集落に比べ、耕作放棄地の増加率が低く、農地面積の減少を抑制していることがうかがえます。
また、地域おこし協力隊の受入れや都市との交流を通じた農業の担い手・移住者の増加等、人材の確保や移住・定住を進める動きも見られます。
一方、達成の度合いが低い協定も1割弱見られ、今後、市町村が、話合いの充実、共同活動の充実等に向けて必要な指導・助言を行っていくこととしています。

(環境保全型農業直接支払の取組による温室効果ガスの削減量は年間15万tと評価)
環境保全型農業直接支払は、多面的機能支払と同様に平成19(2007)年度に農地・水・環境保全向上対策として始まり、現在は日本型直接支払制度の一つとして実施されています。
環境保全型農業直接支払に取り組む農業者団体等は、化学肥料・化学合成農薬の使用を慣行レベルから原則5割以上低減させるとともに、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動を実施しています。具体的には、全国共通の取組であるカバークロップ(緑肥)の作付け、堆肥の施用、有機農業のほか、地域の環境や農業の実態等を勘案した上で、地域を限定して取り組むことができる地域特認取組があり、平成29(2017)年度における環境保全型農業直接支払の実施市町村数は899、実施件数は3,822件、実施面積は8万9,082haとなりました。
農林水産省は、平成30(2018)年9月に、平成27(2015)年度から令和元(2019)年度までの対策期間の中間年評価の結果を公表しました。
中間年評価において、地球温暖化防止効果が見込まれる有機農業、カバークロップ等の取組について評価した結果、温室効果ガス削減量の合計は、年間で15万631tとなりました。
また、生物多様性保全効果が見込まれる有機農業、冬期湛水管理等の取組について評価した結果、高い生物多様性が確認されました。
一方で、環境保全型農業直接支払の未実施市町村が今後取り組むために解決すべき課題は、農業者に関する課題としては、組織化の推進や事務手続の負担軽減等、行政に関する課題としては、事務手続に割く人員の確保、農業者への理解の醸成等とされました。

(世界農業遺産、日本農業遺産の認定地域において、伝統的な農林水産業を継承)
世界農業遺産、日本農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、シースケープ、農業生物多様性等が相互に関連して一体となった農林水産業システムを認定する制度です。
世界農業遺産には、平成30(2018)年12月時点で、世界で21か国57地域、我が国では11地域が認定されています。また、日本農業遺産には、平成31(2019)年2月に新たに7地域が認定され、計15地域が認定されています。
認定地域では、地域の自信と誇りを醸成し、農業遺産の維持・保全に向けた取組が行われています。また、認定を機にブランド化、国内外からの観光客の増加、移住・定住者の増加に向けた取組が活発に行われ、一定の効果が上がっています。

第5節 鳥獣被害への対応

野生鳥獣をめぐっては、生息数の増加等により深刻な農作物被害が全国的に発生しており、また、車両との衝突事故や住宅地への進入等の被害も発生しています。このような中、市町村を中心に対策が進められており、農林水産省は、農林水産物への被害防止の観点から様々な支援を実施しています。

(1)鳥獣被害の現状と対策

(野生鳥獣による農作物被害額は5年連続で減少)
平成29(2017)年度の野生鳥獣による農作物被害額は164億円で、被害の内訳を見ると、7割がシカ、イノシシ、サルによるものとなっており、また、都道府県別では被害額が大きい順に北海道、福岡県、茨城県となっています。
鳥獣被害防止特措法が施行されて以降、市町村を中心として被害防止に向けた取組が進められ、野生鳥獣による農作物被害額は5年連続で減少しています。しかしながら、野生鳥獣による被害は営農意欲の減退や耕作放棄の要因ともなっており、これが更なる被害を招く悪循環を生じさせていることから、直接的に被害額として数字に現れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしています。

(鳥獣被害防止特措法が施行され、市町村が中心となり鳥獣被害対策を展開)
野生鳥獣による農作物被害の防止に向けては、平成20(2008)年2月に施行された鳥獣被害防止特措法に基づき、現場に最も近い行政機関である市町村が中心となり、鳥獣被害防止計画の策定や鳥獣被害対策実施隊の設置等の対策を進めています。鳥獣被害対策実施隊は市町村職員や農業者、猟友会会員等で構成され、捕獲活動や追い払い、侵入防止柵の設置、農業者への指導・助言等を実施しています。
平成30(2018)年4月末時点で、1,479市町村が鳥獣被害防止計画を策定し、そのうち1,183市町村が鳥獣被害対策実施隊を設置しています。農林水産省は令和2(2020)年度までに鳥獣被害対策実施隊の設置市町村数を1,200にする目標を掲げており、鳥獣被害対策実施隊を設置した際に受けることができる、狩猟税の軽減措置、猟銃所持許可の更新等における技能講習の免除等の優遇措置について周知を図っています。また、鳥獣被害対策実施隊の活動をより効率的に実施していくためには、地域の被害の実態に合った計画の立案、現場の人材育成、NPO法人等の地域の組織との連携等が重要となります。
このような中、農林水産省では、鳥獣被害対策実施隊を中心とした地域ぐるみの取組を推進するため、鳥獣被害防止総合対策交付金による侵入防止柵の設置、わなの購入、人材育成のための研修等のほか、鳥獣被害防止マニュアルの公開や優良事例の紹介等、様々な方向から支援を行っています。

(シカ、イノシシの捕獲頭数は増加傾向で推移)
平成25(2013)年に環境省と農林水産省が策定した「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」では、令和5(2023)年度までに、シカ、イノシシの個体数を平成23(2011)年度と比べ半減させる目標が掲げられています。
現場の取組により、シカ、イノシシの捕獲頭数は増加傾向で推移しており、平成29(2017)年度では、シカ61万頭、イノシシ55万頭となっています。また、平成26(2014)年度以降は、シカ、イノシシの推定個体数が減少傾向を示しています。

(捕獲の強化に向けて、ICT等を用いた捕獲技術の高度化を推進)
平成28(2016)年度の推定個体数は、シカ、イノシシともにピーク時に比べると減少していますが、目標達成のためには、更なる捕獲の強化が必要であり、農林水産省では、ICTを用いた捕獲技術の高度化等を一層進めることとしています。
平成30(2018)年4月末時点で鳥獣被害対策にICTを導入している市町村は、鳥獣被害防止計画を策定している1,479市町村の2割に当たる346市町村、今後、ICT利用に取り組む意向のある市町村は168市町村となっています。
また、総務省が実施した調査によると、捕獲数の増加等の捕獲に係る効果では66.7%、わなの見回り負担の軽減については86.2%の市町村が、ICT機器の導入による効果があると回答しています。一方で、導入に至っていない市町村に対し、その理由を尋ねた設問では、機器が高額、製品の情報が十分に得られないなどの回答がありました。このため、農林水産省では、ICT機器の導入に鳥獣被害防止総合対策交付金が活用できることやICT機器の活用方法について、動画を配信するなどして、情報発信を行っています。あわせて、出口対策として、捕獲した鳥獣のジビエ利用拡大に向けた取組を推進しています。

事例 鳥獣対策を通じた地域の担い手育成(熊本県)

熊本県宇城市うきしの宮川将人みやかわまさとさんは、地域におけるイノシシ被害が深刻であることを知り、また、猟師や行政に頼るばかりではなく農家自身が取り組む必要があると考え、農家による自衛組織「くまもと☆農家ハンター」を立ち上げました。参加する農家は約100名で、その全員がイノシシ対策の担い手として活動しており、また、防除活動を通じて地域の担い手育成を進める観点から、年齢層は25歳から40歳となっています。
「くまもと☆農家ハンター」では、農作物を返礼品とするクラウドファンディングで対策に必要な資金を調達し、ICTを活用した箱わなによる捕獲を進めています。また、地域と畑を守る取組として、捕獲のみならず、防護柵の設置や講習会の開催等の活動も実施しています。さらに、経験豊富な猟師から得た技術や知見をマニュアル化し、クラウド上でメンバーに共有しています。
代表の宮川さんは、全国に活動が広がるように仲間と応援してもらう人を増やすこと、SNSでの情報発信やICTの活用を積極的に行っていくことを通じて、これからの農村をけん引していくリーダーを育成したいと考えています。

(2)消費が広がるジビエ

平成29(2017)年度の野生鳥獣による農作物被害額は164億円で、近年、減少傾向にあるものの農山村に深刻な影響を及ぼしており、被害の内訳を見るとシカ、イノシシによる被害額が103億円で全体の6割を占めています。このため、従来から実施されている狩猟に加え、農作物被害の防止等を目的としたシカやイノシシの捕獲が全国各地で進められており、平成29(2017)年度ではシカ61万頭、イノシシ55万頭が捕獲されています。
農作物被害対策として捕獲されたシカやイノシシは、そのほとんどが埋設や焼却により処分されていますが、これらをジビエとして有効活用することで、農山村の所得向上や、有害鳥獣の捕獲意欲が向上し、農作物被害や生活環境被害の軽減につながることが期待できます。また、新たな食文化の創造として、外食や小売等を始め、農泊や観光、学校給食での提供、さらにはペットフード等様々な分野での利用が進むことで、マイナスの存在であった有害鳥獣をジビエというプラスの存在に変えていくことが期待されており、また、ジビエは低カロリーかつ高栄養価の食材としても注目されています。

(捕獲した野生鳥獣のジビエ利用量は3割増加)
平成29(2017)年度に食肉処理施設で処理された野生鳥獣のジビエ利用量は、前年度に比べ3割増加の1,629tとなりました。特に食用のシカが149t増加の814t、ペットフードが223t増加の373tと前年度に比べて大きく増加しています。
一方で、平成29(2017)年度のジビエ利用率はイノシシ5.1%、シカ10.6%、イノシシ・シカの合計8.0%となっており、前年度に比べ向上したものの、依然として低い水準にとどまっているため、ジビエ利用の更なる拡大に向けた取組が必要となっています。

(ジビエ利用モデル地区を全国で17地区選定)
農林水産省では、令和元(2019)年度にジビエ利用量を倍増させるという政府目標の達成に向けて、平成30(2018)年度より、ジビエ利用モデル地区を整備しているほか、安全・安心なジビエを提供するための国産ジビエ認証制度の制定や、全国ジビエプロモーション等、ジビエの利用拡大に向けた様々な取組を進めています。
ジビエ利用モデル地区は、ビジネスとして持続できる安全で良質なジビエの提供を実現するため、捕獲から搬送・処理加工、販売までがしっかりとつながった我が国の先導的なジビエ利用のモデルとなる地区のことで、全国で17地区が選定されています。
これらの地区では、令和元(2019)年度においておおむね1千頭以上のシカ及びイノシシの処理頭数を確保することを目標として、平成30(2018)年度より、ジビエ利用の中核的な食肉処理施設や保冷施設の整備、ジビエカーの導入等が進められています。

(消費者の安心確保に向けて国産ジビエ認証制度を制定)
農林水産省は、安全なジビエの提供により消費者のジビエに対する安心を確保するため、平成30(2018)年5月に国産ジビエ認証制度を制定し、運用を開始しました。
同制度は、厚生労働省が定める「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づく衛生管理の遵守や、流通のための規格・表示の統一を図る食肉処理施設を認証するもので、認証された食肉処理施設は、生産したジビエ製品等に認証マークを表示して安全性をアピールすることができます。
平成30(2018)年度末時点で、食肉処理施設を認証する認証機関は一般社団法人日本ジビエ振興協会、ジビエラボラトリー株式会社の2機関、認証された食肉処理施設は、京丹波自然工房(京都府)、祖谷の地美栄(徳島県)、信州富士見高原ファーム(長野県)の3施設となっています。

事例 徹底した品質、衛生管理によりおいしいジビエを提供(京都府)
京都府京丹波町きょうたんばちょうの株式会社ART CBEアート キューブは、シカ、イノシシの捕獲から止め刺し、運搬、解体、精肉、販売、営業に至るまで自社で一貫して実施しています。
同社では、独自のマニュアルに基づき、全ての工程における作業記録の作成や、捕獲時や解体時の状態確認等、約90項目にわたるチェックリストに基づく確認作業を実施しています。さらに、同社の運営する食肉処理施設「京丹波自然工房」は食品衛生法に基づく食肉の処理、販売の営業許可に必要な設備基準を満たしており、搬入、洗浄、加工といった工程ごとの処理室が整備されています。同社は、このような取組を通じて、徹底した品質管理、衛生管理を実施しており、平成30(2018)年9月には国産ジビエ認証施設の第1号に認定されました。
また、大手百貨店での販売に向けて、大手百貨店の担当者と食肉処理施設の運営・管理状況の確認作業を繰り返し、約1年かけて衛生面や安全性の確認を受け、高級ブランドとして平成29(2017)年7月より常設販売、平成30(2018)年9月からは同百貨店の別店舗でも常設販売を開始しています。
代表取締垣内かきうち役のさんは、「これからは、豊かな山の恵みで育った「京都丹波の鹿・猪」を京都産ブランド品として育て上げたい」と話しています。

(全国的な需要拡大に向けたプロモーションを推進)
農林水産省は、ジビエの全国的な需要拡大に向けた全国ジビエプロモーションとして、平成30(2018)年7月にジビエに関する情報を集約したWebサイト「ジビエト」を開設し、20代から30代の若者層を主な対象として、ジビエを提供している飲食店やイベント情報、国産ジビエ認証制度等、ジビエに関する様々な情報を紹介しています。
また、消費者がジビエ料理を食べる機会を創出することを目的として、これまで提供してこなかった飲食店等においてジビエ料理を提供する、全国ジビエフェアを夏期と冬期の2回開催しました。同フェアには、全国で1千店舗以上の飲食店等が参加し、ラーメンやハンバーガー等の消費者にとって身近なメニューの提供も行われました。
さらに、平成30(2018)年度は飲食店の料理人を対象としたプロ向け国産ジビエ料理セミナーを全国4か所で開催し、流通のルールや取扱いの注意点、安全でおいしい加熱調理方法等の周知を図っているほか、一般消費者への普及啓発を目的としてジビエ料理コンテストを実施し、入賞したジビエ料理のレシピについて紹介しています。

コラム 低カロリーかつ高栄養価の食材として注目されるジビエ
シカ肉の栄養成分を見ると、牛肉に比べて、カロリーは半分以下、脂質は5分の1と大きく下回っており、たんぱく質、鉄分、ビタミン等、多くの栄養素を含んでいます。また、イノシシ肉の栄養成分を見ると、豚肉と比べて、カロリーやたんぱく質、脂質において大きな差はありませんが、鉄分の含有量は4倍となっており、ビタミンも多く含まれています。
近年の健康志向の高まりもあり、ジビエは低カロリーかつ高栄養価の食材として注目されており、体型維持や高齢者の介護食向けの食材として消費の拡大が期待されています。

第6節 再生可能エネルギーの活用

太陽光、水力、バイオマス、風力等は、永続的な利用が可能であるとともに、発電時 や熱利用時に地球温暖化の原因となる温室効果ガスを排出しないという優れた特徴を有し、我が国の農山漁村に豊富に存在しています。地域に新たな収益や雇用をもたらし、農山漁村の活性化につなげるためにも、このような再生可能エネルギーを最大限に活用していくことが必要です。

(再生可能エネルギーの導入は着実に進展)
「エネルギー基本計画」を踏まえた「長期エネルギー需給見通し」では、総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を令和12(2030)年度までに22から24%にする目標が示されており、平成29(2017)年度は前年度から1.5ポイント上昇の16.1%となりました。また、その内訳を見ると、水力発電が849億kWh(49.8%)、太陽光発電が550億kWh(32.3%)、バイオマス発電が215億kWh(12.6%)、風力・地熱発電が89億kWh(5.2%)となっています。

(農山漁村再生可能エネルギー法に基づく基本計画を策定した市町村は47)
再生可能エネルギーの活用に当たっては、農山漁村が持つ食料供給機能や国土保全機能の発揮に支障を来さないよう、農林地等の利用調整を適切に行い、地域の農林漁業の健全な発展につながる取組とすることが必要です。このため、農林水産省では、農山漁村再生可能エネルギー法に基づき、市町村、発電事業者、農業者等の地域の関係者が主体となって協議会を設立し、地域主導で再生可能エネルギーの導入に取り組むことを促進しています。
平成29(2017)年度末時点で同法に基づく基本計画を作成し、再生可能エネルギーの導入に取り組む市町村は、前年度に比べ10市町村増加の47市町村、発電設備の整備や発電事業が実施されている地区は18地区増加の55地区となりました。55地区の内訳を見ると、太陽光発電を行っている地区が23地区、風力発電が11地区、バイオマス発電が21地区となっています。
このうち、大分県日田市では、未利用のまま山林に残された木材をエネルギー源とした木質バイオマス発電事業が地元企業を主体として行われています。同市の基本計画では未利用の木材を長期的かつ安定的な価格で買い取ることや、発電設備の廃熱を隣接する園芸ハウスに供給することで地域の農林業の活性化に貢献することとされており、平成29(2017)年度からは市内の38公共施設に電力を供給するなど、エネルギーの地産地消を実現しています。
農山漁村再生可能エネルギー法を活用した再生可能エネルギー設備の設置数は年々増加しており、設置主体の内訳を見ると、地元企業が半数程度、県内企業と合わせると過半数となる一方で、県外企業や首都圏企業についても一定の割合を占めている状況にあります。再生可能エネルギー発電の導入に当たっては、農林漁業者との土地等の利用調整、地域の関係者との合意形成等が課題となる中、地方公共団体や地域の金融機関、事業主が連携して発電事業に取り組み、地元への利益還元や雇用増加につなげていく必要があります。

(農業水利施設を活用した発電による農業者の負担軽減を推進)
農業用ダムや水路を活用した小水力発電施設、農業水利施設の敷地等を活用した太陽光発電施設については、農業農村整備事業等により国、地方公共団体、土地改良区が実施主体となって整備を進めており、小水力発電施設は、平成29(2017)年度末時点で整備済109施設、計画・建設中71施設、太陽光発電施設は、平成29(2017)年度末時点で整備済116施設となっています。これら発電により得られた電気を自らの農業水利施設で利用することで、施設の稼働に要する電気代が節約でき、農業者の負担軽減につながります。

事例 地域の活性化に貢献する再生可能エネルギーの導入(兵庫県)
兵庫県洲本市(すもとし)では、固定価格買取制度が始まって以降、数多くのメガソーラー発電事業が実施されていましたが、事業主体が都市部の事業者であること等から、地域への恩恵が少ないことが課題となっていました。
このような中、平成28(2016)年に民間企業、行政、大学、金融機関が連携し、地域貢献型の再生可能エネルギー導入の検討が開始され、翌年には、大学が考案した事業モデルを基に、市内2か所の農業用ため池にソーラーパネルを浮かべる方式の発電施設が設置されました。ため池への発電施設の設置は、発電と農業利用が両立できること、土地の造成が不要であること、発電施設の冷却効果があること等のメリットがあります。
さらに、事業主体であるPS洲本(ピーエスすもと)株式会社は、非営利型の株式会社となっており、売電収入から経費を除いた利益は同市の農山漁村振興や都市農村交流の取組に活用することとしています。
今後も地域の活性化に貢献する事業モデルとして展開することを目指しています。

 

(営農型太陽光発電の促進策を公表)
農地に支柱を立て上部空間に太陽光発電施設を設置し、営農を継続しながら発電を行う営農型太陽光発電の導入も進んでおり、取組面積及び設備を設置するために必要な農地転用許可件数が増加しています。また、平成30(2018)年5月には、下部農地で担い手が営農する場合や荒廃農地を活用する場合等の一時転用許可期間を、3年以内から10年以内に延長するなどの促進策が公表され、担い手の農業経営の改善や荒廃農地の再生等により、地域活性化につながることが期待されています。

(バイオマスを基軸に地域全体の活性化を推進)
我が国では、地域に存在するバイオマスを活用して、地域が主体となった事業を創出 し、農林漁業の振興や地域への利益還元による活性化につなげていくため、関係する7府省が連携して、地方公共団体等による計画策定や施設整備等の取組を支援しています。
また、これらの関係7府省は、経済性が確保された一貫システムを構築し、地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸とした環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指す地域としてバイオマス産業都市を選定しています。平成30(2018)年度は5市町が選定され、バイオマス産業都市は全国で83市町村となりました。
平成26(2014)年度にバイオマス産業都市に選定された富山県射水市いみずしでは、同市のバイオマス産業都市構想に基づき、もみ殻を有効利用する事業が展開されています。平成30(2018)年5月から稼働しているいみず野農業協同組合のもみ殻循環施設では、カントリーエレベーターから大量に排出されるもみ殻を燃焼させ、熱を施設園芸用ハウスの暖房に利用しています。また、もみ殻の燃焼により得られる灰は可溶性シリカを多く含み、肥料として活用できることから、肥料登録に向けて協議を進めています。同施設では年間321tのもみ殻を処理する計画となっており、地域農業の活性化の一助にもなっています。