全国山村振興連盟メールマガジンNO135

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2021.7.30

全国山村振興連盟事務局

 

○新著「感覚が生物を進化させた」を刊行しました

 

この度、私こと事務局長の實重重実は、新曜社から「感覚が生物を進化させた -探索の階層進化でみる生物史」(実重重実著・2500円+税)と題する本を刊行しました。

農林業者、自治体関係者をはじめ、山村の振興に関わる方々は皆、植物や動物と密接な生活をお過ごしのことと思います。私自身も、動植物の生態や多様性に魅せられて、自然生態系に貢献したいという思いで、農林水産行政に関わってきました。しかし今、地球温暖化をはじめとして、自然生態系は大きく攪乱され、危機に陥っています。このようなときこそ、生命の淵源である進化という現象に思いを致して、私たちがどこからやってきたのかについて考えてみることが必要ではないでしょうか。

一般には、生物の進化は「ネオダーウィニズム」、つまり「遺伝子の突然変異」と「自然淘汰」によって起こるという考え方で説明されています。しかし21世紀の生物学の最先端では、このネオダーウィニズムが揺らいできているのです。

私の新しい著作では、最新の科学的知見を総動員して、「生物の主体性」という観点から、進化の姿を分析しようとしました。

この物語は、「生物界はヤマタノオロチの姿をしている」というところから始まります。生物界は、ヤマタノオロチのように8本の首を持っており、うねうねとのたうちながら探索しています。8本首のうちの1本は、動物界・菌類界(カビ・キノコ)、もう1本は植物界です。それでは他の6本は何なのかと言うと、ほとんどが単細胞生物の世界です。しかしその6本の首では多細胞化しなかったのかと言うとそうでもありません。褐藻類は、植物界とは違った首で多細胞化しました。粘菌もまた別の首で、多細胞的な生活をしています。

生物界の歴史を4次元の視点から見てみると、どう見えるでしょうか。哲学者ベルクソンは、生物が持っている認識の流れを「花火のようなもの」と言いました。私は、時間に沿って起こる生物界のあらゆる現象を「樹状分岐」と呼んで、あえて空間的に形象化してみました。生物史は原初の生命が既に持っていた「主体的な認識」が、樹状分岐していったものと見るのです。そしてそれは、階層を成していきます。

魚はなぜ上陸したのか、鳥はなぜ空を飛んだのかということは、誰もが思う生物史の不思議なドラマです。しかし植物がなぜ上陸したのか、昆虫はなぜ空中を飛行したのかということも、もっと古くて同じくらい不思議なことです。そして、それらよりも更に何十億年も前から、壮大なドラマが次々と起こっていたのです。

20億年前頃に、古細菌と細菌が合体して、核のある真核細胞やミトコンドリアができるという生物界の根幹にかかわる大事件がありました。そこからだんだんと8本の首が分かれて行って、地球の全球凍結、酸素濃度の上昇といった事件を経て、やがてエディアカラ動物・カンブリア爆発といった形で地上に多様多彩な生物が花開いていきます。

前作「生物に世界はどう見えるか ―感覚と意識の階層進化」(新曜社)は、おかげさまで好評を博しました。また豊島岡女子中学校の国語入試問題の文章としても採用されました。中高生にも読めるようにということを目標に執筆しましたので、これは嬉しいことでした。

今作でも専門用語を用いないで、生物の色彩豊かな多様性や不思議な生態が目に見えるように描きました。そして終盤では、こうした多彩な断片が組み合わされて、1つの絵が見えてくるようになっています。

私たちのもつ認識力という小舟に乗って、壮大な生物史の大河を上空から私と一緒に眺めてみませんか。それはきっと山村という多彩な生物が暮らしている圏域の発展にも役に立つものと信じています。