全国山村振興連盟メールマガジンNO133
2021.7.9
全国山村振興連盟事務局
○2021年6月の農林水産行政
2021年6月の農林水産行政の動向は、以下のとおりでした。
1 森林・林業白書、水産白書を公表
令和2年度森林・林業白書は、6月1日閣議決定され、公表された。「森林資源と経営の両方の持続性を確保するための林業経営体における取組み」を特集テーマとし、同時に「新型コロナウィルス感染症の拡大による林業・木材産業への影響と対応」について記述している。令和2年度の動きとしては、①公共建築物木材利用促進法の施行10年、②スマート林業の進展、③令和2年7月豪雨による山地災害への対応について記述している。
また、6月4日、令和2年度水産白書が閣議決定された。特集テーマは「マーケットインの発想で水産業の成長産業化を目指す」というもので、地域の強みを生かしたマーケットインの取組事例を紹介している。またマーケットインの取組を推進するために何が必要かの分析を行っている。このほか、①新型コロナウィルス感染拡大による水産業への影響、②我が国水産業をめぐる動きなどについて記述している。
2 森林・林業基本計画を策定
6月5日、森林・林業基本法に基づき 5年に一度見直すこととされている「森林・林業基本計画」が新たに定められた。
2030年度に国産木材の供給量を35%増加して2019年度対比で4200万立方メートルにすることを目標に掲げ、①再造林の推進、②建築物への活用の拡大による温暖化ガス吸収の増加、③生育の早い品種の導入、④間伐による吸収能力の 増加、⑤再造林の水準を維持するための経営の大規模集約化、⑥国産材の利用を現在の1/2から2030年度には6割強とすること、などを掲げている。
3 規制改革推進会議の答申を受け農協改革などを閣議決定
政府の規制改革推進会議は、6月1日、総理への答申を行った。これを受けて 政府は6月18日、規制改革実施計画を閣議決定した。
この中で農協改革については、2016年4月の改正農協法附則において、「改革状況を調査し、農協制度、准組合員の利用規制の在り方につき5年後に見直しをする」こととされていたが、「JA が自己改革実践サイクルを構築する」ということで決着した。具体的には、①各JA が目標を作り、②中長期的な収支を見直し、③組合員の意思を反映して事業利用方針を作成し、④組合員の評価を踏まえて、改革・実行を繰り返す、⑤農林水産省は、それを監督する、というもの。准組合員の利用規制については、一律の規制を導入することはなかった。
このほか、①JA の独占禁止法遵守に向けた取組みの推進、②生乳流通改革をめぐる取引の実態調査を21年度中に行うこと、③農地の違反転用につき発生防止と是正措置に向けて実態調査を行うこと、などが決定した。農地所有適格法人の議決権要件などについては、22年度に検討することとされた。
4 鶏卵行政に関する第三者委員会から提言、職員の調査結果も公表
吉川元農相と鶏卵生産者大手前代表が在宅起訴された贈収賄事件を受けて、 鶏卵行政にゆがみがなかったかどうかを検討してきた第三者検討委員会は、6月3日報告書を発表し、「政策決定の合理性への影響は認定できなかった」とした。これは、①動物福祉に関する飼育基準、②日本政策金融公庫の融資、③鶏卵経営安定対策事業の見直しの3施策に関するものである。
また同時に、農水省が行った職員と事業者との会食についての調査結果も公表され、2010年以降265回の会食があったが、国家公務員倫理規程に違反する追加的な事案は確認されなかったと公表した。265回中、利害関係者が費用負担した事案はなかったものであり、うち213回は1万円以上である場合の届出が行われていた。52回は自己申告されたものであり、1回については届出がなされていないものの出向中のため認定ができないとしている。
今回の問題を踏まえて、農林水産省は、①OIE連絡協議会のメンバー構成を川中・川下・消費者と多様化するとともに、②関係団体から推薦を受けてメンバーを選定する場合には、推薦理由を文書で確認するなどの改善措置を講じることとした。
また利害関係者との会食については、①幹部職員については金額にかかわらず届出、②大臣等政務3役と利害関係者が同席する会食に出席した場合には概要を届ける、といった省独自のルールを定めた。
5 7月からの3局設立に伴う人事異動を発表
農林水産大臣は 6月25日の会見で、7月1日付けの人事異動を発表した。定期異動の時期であるが、本年は特に7月1日付けで輸出・国際局、農産局、畜産局の3局が新設され、また大臣官房に事業・食品産業部(もと食品産業局)、環境バイオマス政策課が新設される時期に当たる。
①大沢誠農林水産審議官が退任し、新井ゆたか消費安全局長が後任に就任する。その後任に小川良介内閣食品安全委員会事務局長が就任する。②本郷浩二林野庁長官が退任し、その後任に天羽隆政策統括官が就任する。③山口英彰水産庁長官が退任し、神谷崇水産庁次長が後任となる。④太田豊彦食品産業局長が退任し、輸出・国際局長に渡辺洋一経済産業省審議官が就任する。⑤水野正和生産局長が退任し、新設される農産局長に平方雄策農産部長、畜産局長に森健国際担当総括審議官が就任する。枝元事務次官は留任する。
6 その他
(1) 骨太方針に「みどりの食料システム戦略」を盛り込み
6月18日閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)においては、デジタル化と脱炭素に係る政策を総動員することが中心となっているが、その中で農林水産省関係としては「緑の食料システム戦略」が位置づけられた。①革新的技術・生産体系の開発・実装、②グリーン化に向けた行動変容を促す仕組み、③国際ルールづくり、といった事項が掲げられており、「成長戦略実行戦略」においても、2050年に農林水産業からの温暖化ガス・ゼロミッションの実現を目指すとされている。これを受け、今後年末に向けて具体的な対策につき検討が進められることとなっている。
(2) 英国のTPPへの加盟交渉が開始
6月2日 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)加盟11か国の閣僚会合がオンラインで行われ、イギリスとの加盟交渉を開始することを決定した。加盟国は 英国の参加を討議するための作業部会を設置することとなり、本年秋から交渉が本格化する見込みとなっている。
(3) 子ども食堂への政府米無償支援を拡充
学校給食に対しては、かねてから政府米の無償交付を行ってきたが、コロナ禍の下で、昨年5月、子ども食堂にも無償交付を行うことを決定。本年2月からは無償交付の上限を90キロから300キロに引き上げていた。更に7月1日からは、関係者の声を踏まえて、①無償交付された米を使用し終えた場合、追加申請が可能であること、②1団体1回ではなくて支部ごとに申請が可能なことと方針を改め、子ども食堂への支援を拡充することとした。
(4) クロマグロの遊漁規制を開始、7月の国際委員会で増枠を提案へ
本年3月に広域漁業調整委員会から指示があったことを踏まえ、6月1日から ①30キロ未満のクロマグロの採捕を禁止するとともに、③30キロ以上の採捕については水産庁への届出義務を課すこととした。現在はクロマグロ遊漁が最盛期であり、水産庁は12月まで日本海・九州西海地区でクロマグロ遊漁を抑制するよう協力を要請している。
7月27日から29日にWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の会合が予定されており、日本としては、2011年以降資源が徐々に回復していることを踏まえ、漁獲枠を20% 拡大するよう提案することとしている。
(5) 担い手への農地の集約化が鈍化、新たな政策を検討へ
2023年担い手に農地を8割集中するという目標に対し、現在58% となっていることが発表され、これは前年に対し0.9%の増加であって、更なる加速化が必要となっている。 このため農林水産省は人・農地プランなど関連政策の見直すこととし、地域の農地集約化に重点を置いた農地利用の姿「目標地図」を地域ごとに作成し明確化して、その実現に向けて農地バンクを軸に農作業受託を含めて促進するとの方向を示した。