平成30年度全国山村振興連盟通常総会における事例報告

平成30年11月29日に開催された全国山村振興連盟通常総会において、米田 徹新潟県糸魚川市長及び奥田正和 広島県世羅町長から事例報告が行われた。
その報告の概要と配布資料を紹介します。

一 米田 徹 新潟県糸魚川市長

(一) 糸魚川市の概要

糸魚川市は、海と山しかないところです。
海岸線は51kmあり、新潟県の海岸線の約10分の1です。背後地の山は北アルプスに属し、2,000m級の山が7つあります。非常に風光明媚ではありますが、平場は猫の額ほど、林野面積は約9割を占めています。
北陸新幹線が平成27年3月に開通して交通事情は大きく変わり、新潟県庁へは電車で約2時間30分かかりますが、新幹線の開通により隣の富山県庁へ約30分、石川県庁へ約50分、長野県庁へ約30分、東京都庁へも2時間強で行けるようになりました。

(二)地域振興への取組み

平成17年3月に1市2町が合併しました。合併に際し、新市建設計画等いろんな計画を立てて進めていくわけですが、なかなか一体となって動くことができないとう悩みはどこでもお持ちだと思います。当市でも「親不知」は世界一だ、「ヒスイ」は日本一だ、「蟹」がおいしいのはここだ、とそれぞれの地域が競っていました。
それぞれの自分達の地域の自然を生かした地域振興といっても一枚岩になれない。それぞれ頑張っているけれども方向がバラバラでベクトルが自分の好きな方向に向いている。なんとか、まとまって同じ目標に向かって行く、一体感を持って進めて行くのがまちづくりの基本ではないかと模索していたところ、「世界ジオパーク」という活動を知りました。「ジオパーク」をベースにして方向がそろうと大きな力と流れになり、愛着と誇りを持った地域の一体性が形成されることになります。これを核として地域振興を進めていくことにし、現在取り組んでいます。

(三) ジオパーク

ジオパークとは「丸ごと学習する場所」です。大地(地形・地質)だけでなく、動植物、歴史・文化も含めてジオパーク活動に属します。大地、恵まれた自然資源があり、そこに動植物が生息し、人間が住むということでジオパークは成り立ちます。人の住んでいないところはジオパークになれません。ジオパークの要素は、恵まれた自然資源の保護・保全、教育・防災、地域振興という3点が肝です。
なぜ教育かというと、貴重な自然資源を保護するには、誰のためにするのか、誰がそれを破壊するのか、やはり人でありますので、そこに住んでいる人が愛着と誇りを持ってもらえるよう教育の中でしっかり教えていく必要があります。
そこに人がいなくなれば破壊されるわけですので、やはりそこに人が住むことが大切になります。そこに人が住むには、自然資源を生かした生業により生活ができるようにすることが大切になります。人に恵みを味わい、食べてもらって生活を成り立たたせていくことが大切です。
また、そこに住んでいる人がそこの特徴をしっかりと伝えていくことも大切です。愛着と誇りを持つものが育てていくものです。
ジオパークにはそういう要素があります。
糸魚川ジオパークは平成21年(2009年)に世界ジオパークに認定されましたが、4年に一度の再認定審査があります。ゴールになっていなくていいのですが、自分で作った目的に向かって進んでいるか、ということが問われます。4年に一度の再認定審査を繰り返していくのは大変なことです。行政も4年に一度の審査を受けていますが、まちづくりには必要なことだと思っています。
日本ジオパーク委員会は平成20年(2008年に)に発足し、その時はジオパークは7地域でしたが、平成30年9月現在で44地域、関係市町村数では約150となっています。その中で、世界ジオパークに認定されているのは糸魚川を含め9地域です。世界では学者が推進していますが、日本では地方自治体がボトムアップして進めているのが特徴です。

(四)糸魚川ジオパークの特徴

糸魚川ジオパークの特徴は、フォッサマグナの西端の断層である糸魚川ー静岡構造線が市内を通っていることです。フォッサマグナは日本列島の形成に係わりがあります。
日本列島はユーラシア大陸から分裂して形成されたものですが、その過程で列島の中央部が落ち込んで南北に分かれる形になり、その後そこに火山と海底の隆起により新しい地層ができました。その大きな溝がフォッサマグナと称されるもので、その西端が糸魚川ー静岡構造線です。糸魚川―静岡構造線を境にして、西側を西南日本、東側を東北日本といいますが、西側と東側では全然地質が違います。西側は4~3億年前の地層(中生代・古代)、東側は1,600万年前くらいの地層(新生代。フォッサマグナの地層)です。西側には「ヒスイ」があります。糸魚川の自然は多種多様です。
地質や文化・歴史を感じることができるジオサイトは24あり、商品開発も行っています。

(五)ジオパークの保護・保全

ヒスイは国石に選定されています。ヒスイは人が張り付いて監視しています。
青梅海岸ジオサイトの田海ヶ池には、池の中から湧き出るきれいな水のおかげで48種類ものトンボが生息しています。市民と力を借りてトンボの天敵であるブラックバスの駆除を実施しています。
(六)ジオパークの教育・研究
0歳から18歳までの子ども一貫教育方針の中に糸魚川ジオ学を入れてもらいました。
自然の恵みから親しんでいただき、交流人口の増加につなげていきたいということで色んな手立てをしています。

(七)ジオツアー

マイコ三平ツアーを実施しています。ここは大変危険なカルスト地形でありまして以前大学の探検隊が遭難した場所でもあります。閉鎖していたのですが、限られた時期、限られた人員だけは対応するということで案内しています。年10回、20名づつで実施していますが、いつも満杯状態で今年だめなら来年ということで好評です。

(八)農林水産業との関わり

サザエファーム(さざえ獲り体験)を実施しています。
また、海洋高校の皆さんが鮭がタマゴを取った後は捨てられいるのを、資源が大切だということで魚醤を作ったところ好評で、香港、マレーシア等世界各国での商談に対応しています。この高校の評価も上がって、市外からも入学しています。

(九)結び

自分達の資源を大事にするという気持ちが高まっています。ジオパーク活動をしながらいろんなところに波及し、一体感を持って、愛着と誇りを持った市民がしっかり育っていると思いますし、今後とも努力していきたいと思っています

(資料) 米田 徹市長

二 奥田正和 広島県世羅町長

(一)世羅町の概要

世羅町は、平成16年に3町が合併してできた町です。合併当時は約3万人いましたが、10年間で約3千人減少しました。瀬戸内海に芦田川水系、日本海に流れる江の川水系の分水嶺になっています。風光明媚で花農園があります。

(二)世羅町の特色

世羅高校の高校駅伝が有名で、男子は9回、女子は1回全国優勝しています。
農業が盛んで、県営、国営の農地開発事業により大規模団地を整備されています。ここに、農外企業が参入しており、トマト加工場、大きなレタス工場もあります。半分は畜産で、鶏卵が県内でも大きなシェアーを占めています。鶏、牛、豚がいますので、困っているのはその臭気です。
6次産業が全国的に盛んですが、その名称は世羅町が発祥の地です。東京大学名誉教授の今村先生が女性にもなにか仕事を作ろうということで加工を始め、6次産業化を進めたということです。
産直も結構できています。観光客数219万人となっていますが、合併時は115万人程度で落ち込んでいました。何とかしなくてはということで、道の駅を国交省のお世話になって作りました。インフォメーション機能が発揮され、V字回復しました。
雑誌「じゃらん」の全国アンケート調査「じゃらん 道の駅満足度ランキング2018」で「道の駅 世羅」が3位になりました。

(三)世羅町の取組み

いつまでも住み続けたい日本一のふるさとをめざして、5つの柱を立てています。
① 健幸づくり
10月に「いきいきポイント制度」を作りました。60歳以上の住民を対象に
老人クラブや地域の活動等を1つ行うと1ポイント加算し、100ポイント溜
まると世羅町の特産物(2,000円相当)をプレゼントするもので、世羅町
健康診断の受診には10ポイント加算します。30年度はスタート特典として
50ポイントをプレゼントしました。事務は、老人クラブ連合会に委託してい
ます。

② ものづくり
6つの農業法人がひとつになって株式会社を設立しました。園芸作物に特化し
ています。土地改良と暗渠排水を進めることにしています。次の担い手を育て
るということで、研修を行っています。
農泊にも力をいれています。空港から30分の立地ですが、世羅町だけでは
やっていけないということで、近隣市町村と手を組んで取り組んでいます。
空港が民営化になるまでに体制を作っておかなくてはということで進めていま
す。

③ 人づくり
世羅高校に対する補助を行っています。
世羅町は以前は、お茶の産地でしたが、ほとんど消滅したため、なんとかしな
けらばいけないということで、若い人に頑張ってもらいたいと思っています。
世羅高校の生徒が先般スローフードの大会がイタリアで開催された際にお茶を
紹介させてもらっています。また、大妻学院(東京都千代田区)の創立者が世羅
町出身の大妻コタカさんであることもあり、同学院とお茶に係わるコラボをし
ています。

④ 安全安心づくり
デジタル防災行政無線設備を全戸に配布しています。防災無線でお金をいただ
いて農協と一緒にやっていましたが、今回、町が全部配布するということにし
ました。災害対策に役立つと思います。

⑤ 地域づくり
小さな拠点整備ということで、公民館を自治センターに名前を変えて、それぞ
れの組織で運営してもらっています。廃校をうまく活用してそういった拠点を
作ったところには拠点づくりの補助を行っています。
地域おこし協力隊は、3名活躍しています。そのうちのひとりは60歳を過
ぎていますが、JTBという旅行会社を退職された方で、即戦力をもって頑張っ
てもらっています。

(資料) 奥田 正和町長