山村振興通信NO10(全国山村振興連盟都道府県支部・会員の皆様へ)

山村振興通信NO10(全国山村振興連盟都道府県支部・会員の皆様へ)

2018.12.21

 

1平成31年度農林水産関係予算について

 

本日(12月21日)の閣議で、平成31年度予算が概算決定されました。

農林水産関係予算の骨子は別添のとおりですが、山村関係の主な予算については、次のようになっています。

 

(1)「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策について」(平成30年12月14日閣議決定)に基づき、重要インフラの緊急点検等を踏まえた緊急対策として、公共事業を中心に「臨時・特別の措置」として、1207億円が計上されました。

閣議決定では、3年間の防災・インフラ対策の事業規模の目途は、全国でおおむね7兆円とされています。

なお、「臨時・特別の措置」を別としても、農林水産公共事業関係は、軒並み若干の増額となっています。

 

(2)「農山漁村の活性化」として、日本型直接支払いのほか、「中山間地農業の所得向上を始めとした農山漁村の活性化」として、次のような予算が計上されています。

① 中山間地農業ルネッサンス事業 440億円(30年度400億円)(以下括弧内は30年度)

② 中山間地域所得向上支援対策 補正予算280億円

③ 農泊の推進 53億円(57億円)

④ 農山漁村振興交付金 98億円(101億円)

うち山村活性化支援交付金 7億8400万円

⑤ 鳥獣被害防止対策とジビエ利用の推進 104億円(105億円)補正予算3億円

 

なお、②の「中山間地域所得向上支援対策」は、平成28年度・29年度補正予算にもあった事業で、

ア 計画策定・人材活用・マーケティング等のソフト事業

イ 基盤整備・施設整備等のハード事業

が行えるようになっています。

 

(3)「林業の成長産業化と生産流通構造改革の推進」では、次のような予算が計上されています。

① 林業成長産業化総合対策 241億円(235億円)

② 緑の人づくり総合支援対策 47億円(49億円)

③ 森林・山村多面的機能発揮対策 14億円(15億円)

 

2 山村活性化支援交付金について

平成31年度の山村活性化支援交付金の概算決定額は、上記(2)の④の農産業村振興交付金の内訳で、7億84百万円となりました。前年より400万円増えているのは、消費税分だとのことです。

2018.12.19-1H31農林水産予算概要
2018.12.19-2H31山村関係主要予算
2018.12.19-3緊急対策

 

(参考)土地改良新聞記事について

12月15日付け土地改良新聞に事務局長の寄稿が掲載されましたので、ご参考までに送付します。本新聞への寄稿は、2回で終わりです。

2018.12.21-3土地改良新聞記事

存在探求による価値創造に期待する

 

全国山村振興連盟常務理事・事務局長 實重重実

 

現在世界で急速に展開しつつある第4次産業革命の中核を担っているのは、AI(人工知能)技術である。コンピュータが膨大なデータを学習(ディープラーニング)することにより、問題解決に対して最適なパターンを見出すことができる。

日本では将来は知的労働の約半分程度が機械に取って替わられるとして、仕事の減少を心配する向きも多い。

しかしそう悲観する必要はない。AIで肩代わりすることのできる仕事というのは、あくまでもパターン化することのできる労働に限られる。

先般私はAIが作曲したという音楽を2曲聴かせてもらったが、1曲はバラード調、1曲はフュージョン調で、魅力的だが、どこかで聴いたようなメロディーの曲だった。AIはパターン化のできないこと、独創的なことは不得意だ。

農山村にはパターン化することのできない仕事が多い。その最たるものは人間の育児だと思うが、第1次産業が対象としている動植物を育てるということも、程度の差はあれ、育児と似たところがある。愛情をかけていつも見守っていなければ、病気になったり、一夜にして全滅したりしてしまうこともある。AIが発達しスマート農業が普及すれば、かなりの部分は機械が肩代わりして労働は楽になるかもしれない。しかし、人間が見ていてきめ細かく世話をしなければならないという中心の部分は、依然として残るだろう。

完全にパターン化できないのは、農林水産業の活動ばかりではない。農山村には、地域ごとに異なる四季折々の自然があり、その生態系は時間とともに変遷していく。山村の生活には自然の中での山菜やキノコの採集、草花や果実の収集、地元木材による工芸品の製造といったように、完全にはパターン化できないものが多い。

農山村の生活は、総合的だからこそパターン化することは難しい。地域振興の担い手たちは、こうした地域ごとに異なっていてしかも総合的であるという都会にはない特徴の中から、新しい経済的な価値を創造しようとして様々に工夫してきた。

その次のステップとしては、AIを用いることによって、山村の少ない人口であっても、居ながらにして新しい価値を創造することにつながっていくことに期待したい。

そこには再生可能エネルギーもあれば、自動運転もあるだろう。ICTを用いた生活の利便化や都市との交流もあるだろう。ほかにもドローンやビッグデータやロボットによる未来志向の価値創造が次々に模索されて行くことだろう。

しかしそれと同時に立ち止まって考えてみてほしいのは、世界でただ1つしかないその地域の歴史である。未来は多岐に分岐した可能性を選び取っていく価値創造の過程だが、過去は1回限りに起こってしまったことであって、変えようがない。

秋田県の「男鹿のナマハゲ」など8県10件の行事で構成される「来訪神 仮面・仮装の神々」が、ユネスコの無形文化遺産に登録されたことには、日本人の誰もが喜んだ。怖ろしげな異形の神々がやってきて、小さな子供が泣いたりわめいたりしている姿をTVで見て、実にわくわくさせられた。

しかしこうした世界的に認められた行事ばかりでなく、山村にはそれぞれの地域に、江戸時代やもっと古くからの習わしがあり、行事がある。

祭りなどの伝統行事、住民や村外者とのふれあいや交流など、日々の人間の生活そのものは、いくら機械がパターン的な作業を代替してくれる時代になっても、人間の活動として衰えるものではないだろう。

過去に1度だけ起こって変えられないことには、村の長老が戦前・戦後・平成の激動を生きてきた記憶や記録もあるだろう。また、江戸時代や戦国時代、あるいはもっと遡った古墳時代からの村の歴史があるだろう。何も大河ドラマに登場するような有名人の歴史ばかりが尊いのではない。今日の村人につながるその地域で生きた祖先の姿が、必ず記録されているはずだし、それを調査研究している郷土史家もいるはずだ。

そしてまた、最近北海道など各地での恐竜化石の発掘や、千葉県のチバニアン岩層が脚光を浴びているように、人間の歴史を超えて、地質学的な地球の歴史も各地域には必ずある。そしてかつては1人の人間がなかなか辿り着けなかったような知見でも、ITなど先端技術を駆使して英知を結集すれば到達できるようになってきている。

歴史は既に起こってしまった存在であって変えようがない。未来に向けての「価値論的な地域振興」を志向する一方で、過去に遡って探求する形での「存在論的な地域振興」があって良い。それは、地域住民に自己のルーツに関わる発見をもたらし、地域の誇りをもたらす。より現実的に言えば、地元の人も地域外の人も、そうした筋の通ったものにしかお金を払いたくなくなってきている。

そしてそれが未来的な技術革新と結びつくとき、価値論と存在論が統合される形で、新しい経済的な価値が創造され、新しい地域振興となって行くことを私は期待したい。