山村地域の振興につきましては、日頃から格別の御配慮を賜り厚く御礼申し上げます。
我が国の山村は、日本人としての精神の原点として我が国を支えてきた力の源であり、水資源、エネルギー資源を守り、国土保全、都市住民のいこいの場、若者の教育の場の提供等、多面的・公益的機能の発揮に重要な役割を担ってまいりました。このような国民の共有の宝とでも言うべき山村は、国土の約5割にも及んでおり、そこを人口のわずか3パ-セントの住民が守っております。
特に近年の頻発する異常気象災害に対して、山村が果たしている環境保全・災害防止の機能及び二酸化
炭素の吸収源としての機能が広く国民に再認識されつつあります。その一環として森林環境税・森林環境譲与税が導入されたことは、国民全体で山村・森林を守るという画期的な政策となりました。また、若者の田園回帰志向も強まっています。
一方で、山村を取り巻く環境は、人口減少・高齢化の進展、これに伴う集落機能の衰退や自然災害・鳥獣被害の多発等により厳しさを増しており、多くの山村が存続の危機に瀕していると言っても過言ではない状況にあります。
こうした中で山村振興法により明確に示されている上記の多面的・公益的機能について更なる充実を図ることが重要であり、AI等時代の先端技術も駆使しながらこれらの課題解決に取り組み、山村の活性化、自立的発展を図っていくことは、地方創生や国土保全につながり、ひいては国民生活全体の発展・安定につながるものと言えます。
国におかれては、以上の認識の下に、山村振興を国の重要課題に据えて、下記の事項の実現を図っていただくよう強く要望致します。
記
Ⅰ 山村地域への革新技術の積極的導入
1.人口減少が進む地域社会の中にあって、人手不足を解消し、山村における生活の利便性の飛躍的向上を 図る観点から、自動運転技術、ICT、AIなど革新的技術を積極的に導入すること。その際、安全性を厳に確 保する一方で、山村における普及のために必要な規制緩和に取り組むこと。
2.ドローン、無人トラクターなどの先端技術を用いたスマート農業を普及するに当たっては、平地農村に偏る ことなく、山村地域の特色を活かした農業振興につながるようにすること。また、ICT等を活用したスマート林 業を推進すること。
3.山村地域において、再生可能エネルギーの導入を促進すること。特に、木質バイオマス産業化のための施設整 備・システム開発を図ること。またFIT制度を充実し、その取組みを地域経済の発展に寄与させるとともに、再生可 能エネルギーの発電比率の向上と、送電・熱利用システムの整備を図ること。太陽光発電施設の撤去費用につい ては、事業者の積立てを義務化すること。
Ⅱ 自然災害の被災地の復旧・復興と防災対策の充実強化
1.近年頻発している大規模な自然災害の被災地、特に東日本大震災及び台風15号・19号等の被災地につ いては、関係省庁連携のもと、被害が生じた山村地域における復旧・復興対策を早急かつ強力に推進する こと。
東日本大震災被害地については、原発事故放射性物質の除染等を早急かつ的確に行うとともに、除染に伴 う廃棄物の処理にも万全を期すこと。
2.近年、気候変動等により、多発、大規模化している災害により山村地域が大きな痛手を被っていることにか んがみ、防災減災、治山治水、砂防等の国土強靭化対策を強力に推進し、災害に強い地域・森林作りを行 うこと。またそのために将来を見通した十分な財源を確保すること。併せて、災害発生時の的確な情報提供シ ステムの整備を図ること。
Ⅲ 山村振興対策の総合的・計画的推進
1.山村振興法及び山村振興計画に基づき、関係省庁の一層の連携強化のもと、山村振興対策を総合的かつ 計画的に推進すること。
2.山村地域における農林水産業等地域の基幹産業の振興、生活環境の向上等を図るための施設の整備等に 対する助成措置を充実・強化するとともに、自立的な地域活性化を支える人材育成への支援に取り組むこ と。
3.農山漁村地域活性化対策、森林・林業振興対策に係る地方財政措置の充実・強化を図ること。
4.山村地域の活性化を図るために不可欠な辺地対策事業債及び過疎対策事業債の十分な確保を図る こと。
5.水源のかん養、自然環境の保全等国土保全に資する事業に係る地方財政措置を継続すること。
6.現行の過疎地域自立促進特別措置法が令和3年3月末で法期限を迎えるため、新たな過疎対策法を制定す ること。
Ⅳ 多面的・公益的機能の持続的発揮・公共事業の推進
1.森林環境税及び森林環境譲与税について計画に即した段階的な導入を確実に実施するとともに、市町村に 対して必要な助言等の支援を行うこと。また、その実施状況を踏まえ効果を検証しつつ、必要がある場合に は、譲与基準等について検討を行うこと。
2.棚田地域振興法に基づき棚田地域振興に関する人材確保等の支援を拡充するとともに、里山林等の美しい 景観の価値を見直し、その保存・再生を図ること。
3.山村の果たしている重要な役割や木の文化について、児童生徒を含め国民一般の理解を深めるための教育 ・啓発・普及対策を充実・強化すること。
4.山村地域における農林業の維持・活性化を図る「中山間地域等直接支払交付金」、「多面的機能 支払交付金」、「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」を充実・強化すること。
5.計画的な間伐等の森林施業と森林作業道の開設を直接支援する「森林環境保全直接支援事業」、林道 等の路網整備を支援する「森林資源循環利用林道整備事業」等を充実・強化すること。」
6.「農山漁村地域整備交付金」を拡充・強化するとともに、山村の存立基盤である森林・林業、経済・雇用 を支える上で重要な役割を担っている林野公共事業予算について、昨今の災害に鑑み、鉄道、道路等の重 要インフラ施設周辺の森林整備への支援の創設など、その内容の大幅な拡充を図ること。
7.景観対策、国土保全に資するため、松くい虫対策、ナラ枯れ対策について適切に行うこと。
8.侵入竹の駆除及び竹材等の利用推進を図ること。
Ⅴ 産業の振興・地域社会の維持活性化
1.山村地域の活性化と地域コミュニティーの再生のため、「山村活性化支援交付金」の拡大、農泊推進対策 など地域活性化のための「農山漁村振興交付金」を拡大するとともに、「強い農業・担い手づくり総合支援 交付金」、担い手への農地の集積・集約化等のための「農地耕作条件改善事業」を充実・強化すること。
2.「中山間地農業ルネッサンス事業」を拡大し、山村地域に対して優先的に予算配分を行うとともに、山村地 域を優遇する等、山村地域にとって使い勝手の良い制度とすること。
3.意欲と能力のある農林水産業の担い手の育成と6次産業化を推進するとともに、森林資源、農地 等の土地資源、優れた環境等を活用した新たな農林業の振興、更には、健康等の新たな分野で森 林空間を活用する「森林サービス産業」の創出・推進、平場とは異なる山村の条件を生かした園 芸等の振興、関連企業の立地・導入等の対策を充実・強化すること。
4.林業経営者や市町村による森林の経営管理の集積・集約化、所有者不明森林における経営管理 を推進するため、森林経営管理法に基づく新たな森林経営管理制度を地域の実情に応じて運用でき るものとすること。
5.「林業成長産業化総合対策」を拡充し、森林所有者等による計画的な森林施業をはじめ、川上から川下に至る 林業、木材産業の総合的な振興対策の充実・強化を図ること。
6.林業・木材産業、農業等山村地域における産業の担い手の育成確保対策を拡充・強化すること。 特に、地域の森づくりを主体的に先導する人材の育成確保を図ること。
7.急傾斜地における架線集材・ヘリ集材を含め、現場の実情に即した間伐などの森林施業を推進するほか、 施業の低コスト化、再造林対策を強化すること。
8.木材価格の安定化を図るとともに、「木材産業・木造建築活性化対策」や「木材需要の創出・輸出力強化 対策」等で進められている公共建築物・民間セクターによる非住宅建築物等における国産材活用の推進、C LT等の新たな木質建築部材の技術開発・普及、A材丸太を原材料とする構造材・内装材・家具・建具等 の普及啓発、木質バイオマスの利用の取組みの促進、効率的な木材サプライチェーンの構築や森林認証材 の普及を図るため、予算措置を充実・強化すること。また、木材・木製品の輸出促進等により木材の利用促 進を支援する制度を充実・強化すること。
9.特用林産物の振興を図るための予算を確保すること。
Ⅵ 山村と都市との共生・対流
1.若者の田園回帰志向が強まっている潮流を踏まえ、山村地域への移住者、二地域居住者などの定住を促進 するとともに、「地域おこし協力隊」を充実・強化すること。また、都市との連携強化による関係人口の増加 の取組み、高齢者の地域活動への参加の取組み等を充実・強化すること。
2.インバウンドの活用を含めグリーン・ツーリズムの一層の普及を行うとともに、地域ぐるみで行う受入体制や 交流空間の整備、NPO法人等の多様な取組主体の育成等グリーン・ツーリズムを総合的に推進すること。
3.空家等対策の推進に関する特別措置法に基づき空き家についての対策を講ずるとともに、空き家の利用を希望す る者とのマッチングや利用者の負担軽減等、空き家の有効活用について措置を講ずること。
4.自然資源の保護・保全をするとともに、地域資源を生かした教育、ふるさとに愛着と誇りを育む活動である 地方自治体の行うジオパーク推進の事業に対する支援を充実・強化すること。
5.山村における国民の幅広いボランティア活動を促進するための対策を充実・強化すること。
6.山村留学を含め学校・社会教育において学びや癒しの機能を有する山村での体験を推進すること。
Ⅶ 鳥獣被害防止
1.鳥獣被害防止特別措置法等に基づき、技術普及を含む各種鳥獣被害対策を一層充実・強化し、 対策に必要な財源を確保すること。
2.地域ぐるみの総合対策を推進する「鳥獣被害防止総合対策交付金」及び広域的な森林被害等に対応する「シカによる森林被害緊急対策事業」について継続するとともにメニューを充実・強化すること。
3.鳥獣被害対策実施隊の設置促進、猟友会等の民間団体の参加促進、林業分野・関係省庁との連携を促進 するとともに被害の深刻さの度合いによっては、防衛省・自衛隊は関係省庁と連携して、協力の可能性を検討する こと。
4.捕獲鳥獣の加工処理施設の設置促進、焼却対策を充実・強化するとともに、ジビエ振興対策を講ずること。
5.今後、ICTやドローン等の革新技術を活用し、より効果的な鳥獣被害対策に努めること。
Ⅷ 道路、情報通信基盤の整備
1. 2県以上にまたがる県管理の国道整備を含め計画的に道路の整備促進を図るとともに、市町村道の改良・ 舗装等、山村地域の道路整備を「コンパクト+ネットワーク」の観点に立って促進すること。また、基幹的な市町 村道路の整備の都道府県代行に対する助成措置を講ずること。
2.道路整備のための財源を十分に確保し、特に、地方における道路財源の充実を図ること。
3.携帯電話不通地域の解消、インターネットのブロードバンド接続可能地域の拡大、高速光ファイバー網の整 備等デジタルディバイドの解消を図るための高度情報ネットワークその他通信体系を充実・強化すること。ま た、地域の実情に即した通信システムに助成するとともに、これら通信網の維持のためのランニングコストの 助成を行うこと。
4.ラジオ難聴取地区を解消すること。
5.防災上並びに観光景観上の観点から無電柱化の推進に当たり、一定の財政措置(過疎債)を講ずること。
Ⅸ 生活環境の整備
1.山村地域住民の生活交通を確保するため、地方バス路線維持やデマンドバスの導入・運行対策を充実・ 強化すること。
2.山村の簡易水道等施設の整備を促進すること。
3.山村地域の実情に応じて汚水処理施設の整備を促進すること。
4.廃棄物処理施設の整備を推進するため、助成措置を講ずること。また、廃棄物処理施設の解体に対しては、 適切な措置を講ずること。
5.消防力の充実を図るため、消防庁舎・消防施設等の整備及び改修に対する助成措置を講ずること。
Ⅹ 医療・保健・福祉
1.山村地域の産科医、小児科医を含めた医師の確保に万全を期すこと。へき地診療所等の運営、医療施設 ・保健衛生施設の整備、医師及び看護師の養成・確保に対する助成措置を充実・強化すること。
2. 無医地区への定期的な巡回診療、保健師の配置、救急医療用のヘリコプターを拡充すること。
3. へき地保育所の運営、高齢者等の社会福祉施設整備、社会福祉関係職員等の養成・確保に対する助成 措置を充実・強化すること。
4.山村における障がい者施設の整備について、十分な予算を確保すること。
5.医療・保健・介護・福祉の充実、高齢者の職場、住居の確保は、その地域に居住する高齢者のみならず、 都市の団塊世代の山村地域への定住に不可欠であり、都市部との連携の下に、このような観点から充実・強 化すること。
ⅩⅠ 教育・文化
1.公立学校施設整備、スクールバス等の購入に対する助成措置を充実・強化すること。
2.寄宿舎居住費等へき地児童生徒に対する助成措置を講ずること。
3.山村地域の文化財の保護等に対する助成措置を講ずることと同時に遺跡発掘体験等により山村の自然に
触れる体験交流活動に対する支援措置を講ずること。
4.地域の伝統文化・芸能の体験等を通じた子供の育成に努めること。
5.教育環境の整備は、都市部からの若者の定住に不可欠であり、その観点からの充実を図るとともに、豊か な自然環境や伝統文化等を有する山村の特性を生かした教育を充実すること。
6.小中学校の統廃合の推進に当たっては、地域活性化の観点に十分配慮すること。
ⅩⅡ 貿易交渉について
貿易交渉及びその実施に当たっては、山村地域の主要産業である農林業に打撃を与えることのな
いよう、山村地域の住民が誇りを持って農林業を営み、住民が生活を維持できるよう、万全の対応をとること。
ⅩⅢ 山村地域の自主性の確立
1.財源保障機能及び財源調整機能を果たす地方交付税制度を充実・強化し、所要額を確保すること。
2.基準財政需要額の算定に当たっては、山村自治体が人口割合に比べて広い面積を有し、国土保全、地球 温暖化防止等に重要な役割を果たしていることを考慮し、面積要素を重視するなど、山村地域の実情に即し たものとすること。
3.独自の発想に基づく山村振興を助長するため、山村地域の自主性を尊重する助成措置、過疎地における交 通手段の確保のための道路運送法等の規制緩和を幅広く導入するとともに、木材のストックヤードの整備等 地方創生のために必要な事業について、既存の予算で対応できない場合は、ハード事業も地方創生交付金 の対象とすること。
4.償却資産に係る固定資産税は、山村地域の市町村の重要な財源であり、現行の課税対象、評価額の最低 限度を堅持すること。
5.道州制は絶対に導入しないこと。