第1064号(令和2年6月15日発行)
- 我がまち・我がむらの誇りー奈良県東吉野村
- 新たな「食料・農業・農村基本計画」
~ 我が国の食と活力ある農業・農村を次の世代につなぐために ~ - 新型コロナウイルスは山村に何をもたらすか
全国山村振興連盟事務局長 實重重実
新型コロナウィルスの脅威が世界中に蔓延し、この半年の間に人類社会は一変してしまいました。我が国も1か月半に及ぶ緊急事態宣言がようやく5月末に解除されましたが、今後も長期間にわたって行動変容が求められます。いわば、世界は不連続に激変してしまったと考えなければならないでしょう。
このウィルスの影響は、経済や社会に壊滅的と言えるほど大きな打撃を与えましたが、破壊の後には私たちは再び立ち上がって、新しい社会を建設していかなければなりません。
そして私たち山村関係者としては、新しい社会を建設していくプロセスの中で、少しでも山村が良くなっていく方向性を選び取りたいものです。不幸にも破壊された部分の大きかった従来の社会の中から、そうした新しい芽があちこちに芽吹いてきていることも見えてきました。
まず何よりもテレワーク(在宅勤務)が一般化されたことが大きいと言えます。テレビ会議やメールなどのデジタル・コミュニケーションによって、多くの仕事をこなすことができるということが判明しました。企業はテレワークのための投資をさらに加速していきますし、労働者にとっても満員電車の通勤で疲弊してしまわないのはありがたいことです。
テレワークが一般化する中で、緑深い山村に居住したいという人はますます増えることでしょう。住居だけでなく、逆にオフィスの方が山村にあっても良いわけです。
同様に、オンライン教育とオンライン医療が実際に試行されたことによって、山村であっても子育てや医療面で不利性が縮小できることも明らかになりました。今後はキャッシュレス決済や電子申請が当たり前になってくるでしょうから、店舗や官公庁と離れていることによる不利性も縮小します。
そして最後は交通・物流です。自動運転の実証実験はコロナ危機によって少し頓挫していると報じられています。しかし、人手不足を解消するだけでなく疾病予防にもなる自動運転交通やロボット、ドローンによる物流は、確実に開発が促進されることでしょう。アバターという代理の自分を操作する革新技術も進展しています。
一方で、今回のコロナ危機は、人口の都市集中に対する真剣な反省を促したのではないでしょうか。新しい社会において、人々が過密状態を避け、安全で幸福に暮らしていくためには、科学技術を結集して、人口の分散を図ることが不可欠だということが改めて認識されたものと思います。
「条件さえ合えば農山村に住みたい」と考える若者は、3~4割にも上ります。そのうちの一部でも山村に来てくれれば、山村は従来のように人口が減少する一方の地域ではなくなることでしょう。そして4月から本格的に展開されている「地域人口急減に対処するための特定地域づくり事業推進法」に基づく特定地域づくり事業協同組合は、その重要な受け皿になるものと思われます。
今こそ山村関係者は力を結集して、コロナ難局下での新しい社会の建設に向けて、声を上げて行こうではありませんか。