全国山村振興連盟メールマガジンNO268
2024.4.5
全国山村振興連盟事務局
◎2024年3月の農林水産行政
2024年3月の農林水産行政の主な動向は、以下の通りでした。
1 スマート農業・漁業・農産加工に関する3法案を閣議決定
3月8日、政府は「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律案」「漁業法及び特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案」「特定農産加工業経営改善臨時措置法の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。
- 新法である「スマート農業技術活用促進法案」は、すでに提出されている食料・農業・農村基本法改正法案に定められた施策を具体化するものとして、農業者の減少に対応して農業の生産性の向上を図るため、スマート農業技術の活用・これと合わせて行う新たな生産方式の導入とスマート農業技術等の開発・供給の2種類の計画認定制度を設け、これらの認定を受けた農業者や事業者に対して日本政策金融公庫による長期低利融資や税制特例等の支援措置を講じるもの、
- 「漁業法及び水産流通適正化改正案」については、国際的に厳格な漁獲可能量(TAC)による資源管理が行われている太平洋クロマグロについて、TAC報告義務に違反した漁獲物が流通した事案が生じたことなどを踏まえ、特に 厳格に漁獲量の管理を行うべき水産資源について、個体の数等の報告、船舶の名称等の記録の作成・保存を義務付けるとともに、水産物の販売等の事業を行う者による船舶の名称等の情報の伝達を義務付けるなどの措置を講じるもの、
- 「特定農産加工法改正案」は、国際約束の締結等により農産加工品等の関税引下げによる影響が継続している状況を踏まえ、法の有効期限を5年間延長するとともに、小麦・大豆といった輸入原材料の価格水準の上昇・高止まり を踏まえ、新たに国産農産物の利用の促進など原材料の調達の安定化を図るための取組みに対する日本政策金融公庫による長期低利融資等の支援措置を講じるものとなっている。
2 食料・農業・農村基本法改正案が審議入り
3月26日の衆議院本会議において、食料・農業・農村基本法改正法案が審議入りし、岸田文雄首相が出席。坂本哲志農相が趣旨説明を行った後、各党の代表が質問を行い、岸田首相、坂本農相が答弁した。食料・農業・農村基本法改正法案は、今国会で特に丁寧な審議を要する「重要広範議案」に位置付けられている。衆議院本会議散会後、同法案は農林水産委員会に付託され、同日、与党による質疑が行われた。
政府・与党は、同法案と関連法案を含む4法案の一括審議を求めていたが、野党は基本法改正案単独での審議を要望。これを踏まえ、基本法改正案は単独審議し、残る関連3法案を一括審議とする方向となっている。
3 WTO 閣僚会議で合意に至らず
2月26日から3月2日までアラブ首長国連邦のアブダビにおいて、第13回 WTO閣僚会議が開催され、農林水産省からは武村副大臣ほかが出席し、交渉に当たった。農業分野では約2年後に予定されている次回閣僚会議に向けた「作業計画」の策定が焦点となり、また漁業分野では過剰漁獲につながる漁業補助金などの規律の策定が焦点となっていた。しかし 両分野ともに各国の意見に隔たりが大きく合意には至らず、議論が継続されることとなった。
我が国は輸出規制に関して、輸出規制の透明性を高めることが世界の食料安全保障の確保に当たって重要であるとして、昨年10月、WTO農業交渉において 輸出規制にかかる提案を行っている。今回の閣僚会議において議論された 約2年後に予定される次回閣僚会議に向けての「作業計画」において、輸出規制が含まれるよう日本としても主張してきたが、「作業計画」全体として各国の意見の隔たりは大きく、合意に至らなかったところである。
4 能登半島地震による農地等の被害を踏まえ、営農再開に向けて支援
能登半島地震の被災地の農地について、春の営農に向けて、今年田植えを行うかどうかなどの判断が迫られる時期となっている中で、3月18日、農林水産省は農地農業用施設の被害状況を発表した。石川・富山・福井・新潟・長野・岐阜の6県において、農地 1132か所、農業用施設 5081か所、合計6213か所の被害が報告されているとしている。
特に被害の大きかった石川・富山両県については、積雪等の影響もあり全体像の把握には至っていなかったが、農林水産省では延べ 7300名のMAFF- SATを現地に派遣し、被災自治体や関係団体等と連携して被害の状況把握や応急対策等を進めた。
稲作などの地域農業を支える農業者の営農再開については、5月上旬からの田植えを実施できるよう、現地に派遣したMAFF-SAT が、県・市町・土地改良区と連携しながら、水張りが可能かどうか、圃場の被害状況等を確認した。
また必要な苗の確保等については、県・市町・JA 等と連携しながら、農業者の意向を把握しスピード感を持って進めている。
その上で「被災者の生活と生業支援のためのパッケージ 」に基づき、①査定前着工制度を活用し、仮設水路や応急ポンプによる用水を確保するとともに、②農地等の早期復旧を図るほか、③水稲の作付けを断念せざるを得ない場合には 大豆・そば等の代替作物の種子の購入支援や、④それらを作付けした際の「水田活用直接支払い交付金」の活用など各種支援を重層的に講じることとしている。
5 令和5年度食料・農業・農村白書の骨子案を提示
3月8日、農林水産省は食料・農業・農村政策審議会企画部会を開き、令和5年度食料・農業・農村白書の骨子案を提示した。
特集は、「食料・農業・農村基本法の検証・見直し」とするとともに、 7つのトピックスを設けることとしている。
特集である 「食料・農業・農村基本法の検証・見直し 」では、見直しの経緯、 情勢の変化と今後20年を見据えた課題を説明するとともに、2023年6月に決定された「食料・農業・農村政策の新たな展開方向」の概要や基本法改正法案について記載することとしている。
またトピックスでは、①食料安全保障の強化に向け構造転換対策や地域計画の策定を推進、②「物流の2024年問題」への対応を推進、③農林水産物・食品の輸出を促進、④スマート農業の導入による生産性の高い農業を推進、⑤農業と福祉の課題を解決する「農福連携」を推進、⑥農業分野におけるカーボン・クレジットの取り組み拡大を推進、⑦令和6年能登半島地震への対応、を掲載することとしている。
6 その他
- 鹿児島市でイモゾウムシが発生
3月12日、イモゾウムシの発生が 鹿児島県鹿児島市内で確認された。イモゾウムシは甲虫の一種であり、サツマイモに大きな被害を与えるため、植物防疫法の「侵入警戒有害動植物」として指定されている。我が国では島嶼部を除き平成24年に根絶が確認されていた。
農林水産省は3月13日、植物貿易官を派遣し、鹿児島県等と連携し、現地関係者から聞き取りを行うとともに、発生範囲を特定するための調査を進め、適切な防除を進めていくとしている。
- 日本の排他的経済水域内のサケ・マス漁につきロシアとの交渉が妥結
3月14日、日本の排他的経済水域内のサケ・マス量についてのロシアとの交渉(日露サケ・マス漁業交渉)が妥結し、2024年の日本漁船による日本水域でのロシア系サケ・マスの創業条件等について合意した。具体的には、漁獲量は前年同の2050トンとしつつ、協力金の額は前年よりも2000万円引き下げて1億8000万円となった。
一方、2022年以降操業が見送られているロシアの排他的経済水域内での漁業交渉については、「対応を検討中」としている。
- 環境配慮の新たな施策を推進
3月1日、農林水産省は温室効果ガスを減らして栽培した作物に付与する「三つ星ラベル」の本格的運用を始めた。有機栽培など環境負荷を低減する生産者の取り組みを可視化するとともに、生産コストに理解のある消費者の購買行動を促すことを目的としている。
また 3月7日、農林水産省は「環境保全型農業直接支払い交付金」の見直し案を示した。これは、環境負担軽減の取り組みを支援する環境保全型の直接支払い交付金について、新たな要件を追加することを検討しているというもの。
- 堆肥の施用、カバークロップ(被覆作物)については、メタン発生の抑制のため、水稲の場合、長期中干しか秋耕をセットで実施すること、
- 冬期湛水については、メタン発生の抑制のため、春に一時落水して圃場を乾かすこと、
- 長井中干しについては、生物多様性の保全のため、ビオトープなど生物のすみかを地域内に作るか、中干し時期を分散すること、としている。
- 1月の農林水産物・食品の輸出額は7%増
3月4日、農林水産省は2024年1月の農林水産物・食品の輸出実績は、総額で864億円、前年同期比 15.7%の増加となったと公表した。昨年1月には対前年同期比でマイナスであったことを踏まえると、中国などによる日本産水産物の輸入制限が実施されている状況のもとで、本年 1月の実績は順調であるとし
ている。
増加した理由は、2月中旬の春節を控えた需要増もあり、台湾・香港・米国向けを始め中国を含む多くの国・地域がプラスとなったこと、中国向けの水産物は 輸入停止措置の影響で対前年同月比で約7割の減少となった一方で、生鮮等のホタテ貝の輸出金額については、ベトナム向けが対前年同月比で約5倍、台湾向けが約2倍となっていることによるとしている。
またリンゴは前年比134%の30億円、米国・EU向けの緑茶は49%増の242億円と伸びた。
(5)卸売市場の取引適正化ガイドラインを公表
3月27日、農林水産省は「卸売市場の仲卸業者等と小売業者との間における生鮮食料品等の取引の適正化に関するガイドライン」を公表した。昨今の仲卸業者等と小売業者との間における取引で優越的地位の濫用に相当し独占禁止法上などで問題となりかねない9つの実例について、多かった順に示した。このガイドラインは、卸売市場の取引関係で問題となりうる事例を提示し分かりやすい形で独占禁止法等の考え方を示すことによって、法令違反が生じるのを未然に防止することを目的としたもの。①不当な返品、②客寄せのための納品価格の不当な引き下げ(特売への一方的な協力要請)などが上位に並んでいる。