全国山村振興連盟メールマガジンNO219

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2023.4.7

全国山村振興連盟事務局

 

  • 2023年 3月の農林水産行政

 

2023年3月の農林水産業生の主な動向は、以下のとおりでした。

 

1 輸入小麦5.8%値上げで上げ幅抑制

3月14日、農林水産省は4月からの輸入小麦の政府売渡価格を2022年10月から2023年3月期に比べて平均5.8%引き上げると発表した。従来からの価格 改定手法では13.1%の値上がりになる見通しだった。

小麦の政府売渡価格は、国際相場・海上運賃などの変動を加味し4月と10月に見直している。昨年10月には、ウクライナ情勢の緊迫化を受けた物価高対策として、22年4月期の価格から据え置きとしていた。

2023年4月以降の政府売渡価格は、従来のルールでは1トン当たり8万2060円になり上げ幅が13.1%になるところを、今回は直近6カ月で算定することにより 7万6750円に抑えたものであり、これにより食品の値上がり抑制を狙った。

 

2 予備費での物価高対策を決定、農業関係では飼料、水利施設の電気代などを支援

3月22日、政府は物価・賃金・生活総合対策本部を開き、エネルギーなどの価格高騰を受けた追加の物価高対策を決定した。2022年度予算の予備費から新型コロナウィルス対策と合わせ2兆円超を支出する。

LPガス利用者への支援や低所得世帯への一律3万円給付などを柱とするが、 農林水産関係については、次のとおりとなっている。

  • 配合飼料対策

1~3月期には 昨年10~12月期に講じた緊急対策を拡大する。昨年10~12月期には、配合飼料価格安定制度とは別に配合飼料1トン当たり6750円を緊急的に補填した。1~3月期の単価はこれを増額し、1トン当たり8500円を緊急補填する。

また4~6月期以降については、価格の高止まりに対応するため価格安定制度の中に農家負担を抑える新たな特例措置(直前2年半と比較して補填額を算定)を設けることとした。

更に酪農の粗飼料高騰対策として、1頭当たり1万円(北海道は7500円)を交布する。

  • 農業水利施設の電気代高騰対策

2022年度第2次補正予算で、年度全体の電気代高騰分の7割を補助する事業を措置したが、予備費を活用し同様の対策を今年9月まで実施する。

  • 地方自治体が物価高対策として独自に行う「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」に7000億円の積み増しを行い、その使途として、酪農家の負担軽減、配合飼料の使用量低減、学校給食費の負担軽減策などが推奨メニューとされた。

 

3 諫早干拓裁判で最高裁上告棄却、開門せずで決着

3月1日、国営諫早湾干拓事業をめぐり、潮受け堤防排水門の開門を命じた確定判決の無効化を国が求めた訴訟で、最高裁第3小法廷は国側の主張を認め、漁業者側の上告を退ける決定を行った。裁判官5人全員一致の結論となった。これにより開門を認めず国側勝訴した福岡高裁判決が確定し、法廷闘争は事実上決着した。

漁業環境の悪化に悩む漁業者らは開門を求め、塩害や洪水を懸念する干拓地の営農者や住民は非開門を求めていた。2010年に 5年間の開門調査を命じる確定判決が確定し、これに対して国が判決に基づく強制執行を避けるため確定判決の無効化を求めた請求異議訴訟である。2018年の福岡高裁判決では開門命令の無効化を認めたが、最高裁が19年に差し戻した。差戻し後の22年3月、福岡高裁は2010年の確定判決について「開門の強制執行は権利の乱用で認められない」と結論づけ、今回最高裁もこの判断を支持した。

野村農林水産大臣は、非開門を前提とすることを条件に、国、地方自治体、漁業・農業関係者による話合いの場を設ける方針を表明した。

 

4 企業の農地取得特例を構造改革特区に拡大

3月3日、政府は企業の農地取得の特例を国家戦略特区(兵庫県養父市)から構造改革特区に移行する法改正案を閣議決定し、国会に提出した。

農地法上農地を取得できる法人は、農業関係者が議決権の過半数を占める「農地所有適格法人」に限られている。これに対し兵庫県養父市を対象とする国家戦略特区では、特例で一般企業にも農地取得を認めてきた。

今回の改正で構造改革特区法に移行することにより、養父市以外でも一般企業の農地取得が認められることとなる。この場合、要件として、①地域で担い手が著しく不足していること、②企業の継続的・安定的な農業経営が見込まれること が求められる。また、③対象農地を自治体が取得した上で企業に転売する仕組みや、④企業の不適切な農地利用があった場合は自治体が買い戻すといった仕組みについては、国家戦略特区法を踏襲する。

 

5 農水省が基本法の検証で農業施策の方向を提示

3月27日、農林水産省は第12回食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会を開き、農業に関する今後の施策の方向について検証を行った。

食料安全保障の観点から基本的施策を追加又は見直しをするとして、以下のような施策を提示した。

  • 個人経営の経営発展の支援

経営基盤が第3者を含め円滑に継承されるための対策

  • 農業法人の経営基盤の強化等

標準的な営農類型ごとの財務指標の水準の整理

  • 農地の確保及び適正・有効利用

農業者等による話合いを踏まえて将来の農業の在り方や農地利用の姿を明確化

  • 需要に応じた 生産

小麦・大豆・飼料作物について国内生産の増大

  • 農業生産基盤の維持管理の効率化・高度化

農業用排水施設等について、集約・再編、省エネ化・再エネ利用、ICT 等の新技術活用等

  • 人材の育成・確保

外国人労働者も含めた多様な雇用労働力、労働環境の整備や地域内外での労働力調整に関する施策

  • スマート農業等の技術や品種の開発・普及、 農業・食関連産業の DX
  • 生産資材の価格安定化に向けた国際化

肥料について堆肥・下水汚泥資源の利用拡大

このほか、農福連携の推進、知的財産の保護・活用、経営安定対策の充実、災害・気候変動への対応強化、動植物防疫対策の強化等を挙げた。

 

第6その他

(1)予算案が成立

3月28日、2023年度予算案が参議院本会議において賛成多数で可決・成立した。一般会計総額は114兆 3812億円で、過去最大となった。農林水産関係では、前年度当初予算比0.4%減の2兆 2683億円を計上した。(概要については既報のとおり。)

 

(2)農業景況感が過去最悪

3月14日、日本政策金融公庫は、担い手農業者を対象にした農業景況調査の結果を発表した。前年と比べた景況DI は、2022年でマイナス 39.1となり、1996年の調査開始以来最低となった。

生産資材高騰などによる経営難が深刻化しており、特に厳しい畜産では北海道酪農がマイナス87.7、都府県酪農がマイナス84.8 養豚がマイナス74.2、肉用牛がマイナス62だった。生産コストDIは、農業全体でマイナス88.3。従来では2014年に米価下落で稲作農家の経営が悪化したマイナス33.7が最低だった。

 

(3) 鳥インフルエンザが引き続き発生、殺処分1701万羽

3月14日、農林水産省は、岩手県金ヶ崎町の採卵鶏農場(採卵鶏約8万4000羽)で高病原性鳥インフルエンザの擬似患畜を確認したと発表した。岩手県下では今季初めてで、国内の農場では今季80例目となった。

その後3月中に、青森県で81例目、北海道で82例目が発生している。今期は3月28日までに26道県で82事例発生し、過去最多の1701万羽が殺処分の対象となっている。

こうした事態を受けて、卵の卸売価格は、4月3日現在で1kg当たり350円、平年比174%となっている。

 

(4)サンマの国際的な漁獲枠を25%減少で合意

3月22日から24日、日本・中国・韓国など 9カ国・地域がサンマの資源管理について協議する北太平洋漁業委員会(NPFC)年次会合が札幌市において開催され、漁獲上限を従来より約25%減少させて年間25万トンにすることで合意した。サンマは海水温の上昇や乱獲などにより歴史的な不漁が続き、全国の主要漁協のサンマ卸売価格は10年間で5倍に上昇している。

広範囲を回遊するサンマについては国際的な資源管理が重要であり、水産庁は大幅な漁獲枠の削減を求めていた。その提案は採用されず、現状の漁獲量の約2倍という漁獲上限となった。