山村振興通信NO31(全国山村振興連盟都道府県支部・会員の皆様へ)
2019.6.13
全国山村振興連盟事務局
Ⅰ 棚田地域振興法が成立
6月12日の参議院本会議で棚田地域振興法が全会一致で可決・成立しました。
本法の概要は、次のようなものです。
- 棚田を「貴重な国民的財産」と位置づけ、棚田地域の振興に向けて内閣総理大臣が基本方針を定め、閣議決定する。
- 都道府県は振興計画を定め、市町村は関係者から成る協議会を組織する。
- 国は、活動支援に向けて財政・税制上の措置を講じる。
- (具体的には、農水省だけでなく、総務省・国交省・文科省・環境省の施策を動員して一体的に支援する。)
本法の施行は公布から2か月以内とされています。
Ⅱ 山村振興実務研修会を開催
6月12日(水)全国町村会館(2階ホール)において、全国山村振興連盟の山村振興実務研修会が開催されました。
研修会には、全国の都道府県、市町村、町村会から62名が参加し、関係省庁の室長・課長補佐等7人が講師となって午前10時半から午後5時まで、濃密な研修が行われました。
会議に来ていただいた講師とその講義の中で特に特徴的だった話題を要約します。
1 挨拶と説明 農林水産省農村振興局地域振興課中山間地域・日本型直接支払室 荻野憲一室長
・本日、棚田地域振興法が成立する運びとなっている。また昨日、ため池整備法に基づき、防災重点ため池が選定された。
・中山間地域活性化のイメージとして、樹木の姿に例えれば、①根の部分を「中山間直接支払い」等で支援し、②幹の部分を「農地整備・農地集約」等で支援して基礎体力をつけた上で、③花の部分として「農泊・6次化・輸出・ブランド化」等を咲かせるという政策体系となっている。その各段階に支援施策が用意してある。
・また、優良事例地区について、なぜ優良事例になるに至ったかが分かる時系列的な発展過程を調べているので、資料・ホームページで参考にしていただきたい。
・中山間直接支払いは、「条件未達成の場合には返還する」といったペナルティがあるイメージが強いが、病気などやむを得ない場合は広く例外が認められている。次期対策では更に使い勝手が良くなるようにしていきたい。
2 『山村振興対策について』 農林水産省農村振興局地域振興課 伊藤香里課長補佐
・平成27年に山村振興法改正により、交付金制度と税制優遇措置ができた。税制については、山村振興計画の中に「産業振興施策促進事項」を定める必要があり、税制を今後とも維持するためにも協力いただきたい。
・山村活性化支援交付金(10割補助、上限1,000万円×3年間)は、ソフト事業なので、それ以外の補助金で行う施設整備等のハード事業とセットにして計画的に取り組むことが有効である。
・本年9月と11~2月に3回「山の恵みマッチング」(商談会)を開催する予定なので、応募いただきたい。
3 『鳥獣被害防止対策について』 農林水産省農村振興局鳥獣対策室 伊藤隆課長補佐
・全国の市町村1741のうち、1500市町村で鳥獣による農作物被害が生じている。直近では生息頭数・被害額とも微減傾向ではあるが、人口減少は今後も進むので長期的な課題である。
・鳥獣害対策には、鳥獣の捕獲や棚の設置等だけでなく、放置果樹の伐採、刈払いによる餌場・隠れ場の撲滅といった生息環境の管理も重要である。農水省ホームページを通じて、アドバイザー(登録者200名)を紹介している。
・鳥獣被害防止措置法では、市町村に交付率8割の特別交付税が交付される。また、対策実施隊員(非常勤公務員)になると、①狩猟税の免除、②狩猟免許更新時の講習免除、③ライフル銃の所持許可等の措置が受けられる。
・ジビエ利用は、590施設で9.7万頭となり、利用量は1630トンとなった。捕獲したシカ・イノシシの8%に相当する。
4 『総務省における山村振興関連対策について』 自治行政局地域力創造グループ地域振興室 高沢賢一課長補佐
・「関係人口創出・拡大事業」では、前年度までの機会提供、マッチングに加えて、本年度は都市住民への案内人、スタディツアーや訪日外国人へのプログラム実施をメニュー化した。
・「おためし地域おこし協力隊」については、2泊3日以上の体験をするものであり、1団体100万円を上限として特別交付税を交付する。また協力隊員による起業支援については、日本政策金融公庫から一般より0.4%低い利率で融資が受けられる。
・このほか移住者対策として、「ふるさとワーキングホリデー推進事業」、「サテライトオフィスマッチング支援事業」などがある。
・地域運営組織は平成30年度で4787団体となった。収益事業を起業する場合、経費に対して特別交付税を交付する。
5 『国土交通省における山村振興関連対策について』 国土交通省国土政策局地方振興課 渡辺英樹課長補佐
・2050年には全国の6割の地域で人口が半分以下になると推計される。例えば、人口1000人の山村集落は、このままでは309人まで減り高齢化率55%となる。しかし年間10人の移住者がいれば、人口は793人となって、年齢別の人口も維持できる。
・小さな拠点は、既に35%の市町村で1723拠点が整備されている。地域運営組織のある市町村は、1425である。「小さな拠点を核としたふるさと集落生活圏形成推進事業」は、市町村に対して1/2,NPOして1/3の補助を行う。
6 『森林・山村の諸問題について』林野庁森林整備部森林利用課山村振興・緑化推進室 日下部浩課長補佐
・国産材供給量・林業産出額が増加するとともに、緑の雇用事業等により林業者の平均年齢は横ばい又はやや若返りの傾向にある。
・仙台市では、CLT等の木材と鉄骨による10階建ての建物が竣工した。他にも学校・駅舎・金融機関などで木造の建物が増加している。
・私有人工林670万haのうち2/3で間伐等の管理が不十分なため、新たな経営管理制度を導入し、市町村が仲介・管理を行うこととした。森林環境税(森林環境譲与税)は、市町村が行う間伐・森林整備等に当てる必要がある。
・市町村の体制整備のため、地域林政アドバイザー(特別交付税上限350万円、措置率0.7)が措置されている。
・森林空間を活用した新たな産業(森林サービス産業)により、学び・遊び・健康・癒やし、更にはサテライト・オフィス、テレワークなどの新しいニーズに対応したい。
7 『農山漁村活性化整備対策及び農泊推進対策について』農林水産省農村振興局地域整備課 中尾仁課長補佐
・農山漁村振興交付金(元年度98億円)は、地域活性化、農泊、山村活性化、農福連携、施設整備、都市農業等を支援する。メニューは定住対策又は交流対策として選択することとなっており、農業基盤整備はこれらと一体となった場合に実施することができる。
・農泊は、地元産食材、体験プログラムなど農山漁村で滞在型の旅行をすることを指す。地域協議会を立ち上げてもらって、地域ぐるみでの推進を図っている。
・農泊推進対策の予算は、元年度53億円となっている。体制整備、人材活用などソフト事業(上限800万円)、古民家、廃校利用等のハード整備(上限1億円)、広域ネットワーク推進(上限250万円)を使うことができる。現在408地域で取組中である。