全国山村振興連盟メールマガジンNO256
2024.1.12
全国山村振興連盟事務局
- 2023年12月の農林水産行政の動向
2023年12月の農林水産行政の主な動向は、以下のとおりでした。
- 森林環境譲与税の譲与基準を見直し
12月14日、与党の税制改正大綱が取りまとめられ、森林環境譲与税について、森林面積(私有林人工林面積)に基づく配分割合を従来の50%から55%に引き上げる方針を決めた。またこの内容は 12月 22日、政府の税制改正大綱として 閣議決定された。
改正後の自治体への配分額は、私有林人工林面積が55%(従来は50%)、人口が25%(従来は30%)、林業就業者数が20%(従来は20% )に応じて算定されることとなる。
令和6年度からは、個人住民税に1000円を上乗せして森林環境税として徴収することとなっており、これを原資として自治体に対して 600億円が配分される。
- 宮下農相が辞任、坂本新農相が就任
12月14日、岸田文雄首相は自民党安倍派のパーティー券問題を受けて、宮下一郎農相を含め安部派の4 閣僚を交代した。新しい農相には、自民党の坂本哲志・元地方創生担当相が就任した。他には、官房長官に林芳正氏、経済産業大臣に斎藤健氏、総務大臣に松本剛明氏を充てた。安部派の副大臣 5人・政務官 1人も交代となった。坂本哲志新農相は 73歳。衆議院当選 7回、熊本3区、森山派所属、中央大学法学部卒、元地方創生担当相。
政府は通常国会に食料・農業・農村基本法の改正案を提出する予定であり、 坂本新農相は「これからの日本の農政の歩むべき道を決めるものだということで改正に取り組んでいきたい。」と述べた
- 農林水産予算総額2兆2686億円で、4年ぶりの増加
12月22日、政府は臨時閣議で令和6年度予算案を決定した。一般会計総額は112兆717億円であり、過去最大だった23年度当初予算を2兆3095億円下回る12年ぶりの減額となった。
このうち農林水産関係費は3億円増の2兆2686億円で、4年ぶりに増加に転じた。農林水産関係費の内訳は、農業が1兆7645億円で前年度比 67億円増、林業は3142億円で56億円減、水産業が1,899億円で 9億円減。
主な事業ごとの額は、
水田活用の直接支払い交付金・畑地化促進助成など3015億円
収入減少影響緩和対策交付金 419億円
収入保険制度 348億円
畜産・酪農経営安定対策 2296億円
持続的生産強化対策事業 150億円
輸出産地・事業者の育成・展開 32億円
農業支援サービス事業体の育成・確保 11億円
新規就農者の育成 121億円
地域計画策定推進緊急対策事業 14億円
農山漁村振興交付金 84億円
鳥獣被害防止対策・ジビエ利活用推進100億円
強い農業づくり総合支援交付金 121億円
農業農村整備事業 3326億円
などとなっている。
- 農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略を改訂
12月25日、政府は関係閣僚会議において、農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略 を改訂した。主な改訂内容は、
- 輸出先国の多国化として、 牛肉でイスラム諸国向け、米で台湾向けの目標を新設し、牛肉ではイスラム諸国で55億円、米やパックご飯・米粉などでは台湾で 9億円とした。
- 輸出産地の形成として、「フラッグシップ輸出産地」に約50産地を指定することとし、海外でニーズが高い有機農産物などをまとまった量で継続的に輸出することとした。
- サプライチェーンの構築として、「輸出支援プラットフォーム」による現地商流の開拓支援、現地での加工や物流で生じる利益の取り込み支援、物流効率化など品目団体の取り組み強化などを行うこととし、現地拠点である輸出支援プラットフォームを増やすこととした。
- 知的財産対策の強化として、国内品種の無断利用を防ぐため、生産・販売の許諾料を外国から得るライセンス契約を進めること等とした。
また12月25日、日本の優良品種の利用料を海外で得るビジネスモデルを後押しするため、農林水産省は「海外ライセンス指針」を策定し、①日本からの輸出と競合しない市場を選ぶこと、②流出時の賠償を設けること、といった契約の相手方や内容の決め方などを指針として定めた。具体的には、農作物の輸出先について、南半球など気候が異なり日本からの輸出と時期をずらすことができる国・地域、検疫や輸送の関係で日本から輸出できない国・地域等とするようにすること、② 流出時の損害賠償なども盛り込むべきことなどを定めている。
5 食料安全保障強化政策大綱を改訂し、基本法など5法案を提出予定
12月27日、政府は食料安定供給・農林水産業基盤強化本部(本部長:岸田文雄首相)を開催し、食料安全保障強化政策大綱を改訂した。
改訂された大綱では、食料・農業・農村基本法を含め5法案を通常国会に提出するとしている。
具体的には、
- 食料・農業・農村基本法の改正法案では、食料安保の強化、スマート農業、輸出促進、グリーン化などを重点とするとともに、基本計画については、令和7年の次期計画策定時にあり方を見直す、
- 不測時の対策のための新たな法的枠組みを創設する、
- 食料原材料の調達安定化を促す新たな金融・税制措置を整備する、
- 農地法制を見直し、農地の総量確保に向けた国の関与強化、農地所有的確法人への出資規制の緩和を盛り込む、
- スマート農業振興のための新たな法的枠組みを創設する、
などとしている。
このほか、
- 適正な価格形成の推進について、検討を継続する、
- 令和7年度までに輸出産地を50程度選定する、
- グリーン化について、クロスコンプライアンスを導入し、令和6年度に試行し、令和9年度の本格実施を目指す
- 環境負荷低減を促す既存の交付金を見直し、令和9年度を目途に新たな仕組みに移行する、
などを定めた。
6 その他
- 令和4年の農業総産出額は8%増の9兆円、生産農業所得は 7.3%減の3.1兆円
12月22日、農林水産省は令和4年の農業総産出額及び生産農業所得を公表した。このうち農業総産出額は、農畜産物の国内外の需要に応じた生産の進展等を背景に、平成27年以降 9兆円前後で推移している。令和4年においては、耕種で米や野菜、畜産で豚や鶏の価格が上昇したことなどから、前年に比べ1631億円(1.8%)増加し、9兆 15億円となった。
品目別では野菜が 3.9%増の2兆2298億円、米は1.8%増の1兆3946億円、果実は0.8%増の9232億円、畜産物では、豚は5.6%増の6713億円、鶏卵は3.1%増の5638億円、肉用牛は0.3%増の8257億円、生乳は0.7%増の7916億円だった。
一方、生産農業所得は平成27年以降、農業総産出額の増減はあるものの、3兆円台で推移している。令和4年は国際的な原料価格の上昇等により、肥料・飼料・光熱動力などの農業生産資材価格が上昇したことなどから、前年に比べ 2428億円(7.3%)減少し、3兆1051億円となった。
(2) 農水省不測時の食料安全保障検討会が取りまとめ
12月6日、農林水産省の「不測時における食料安全保障に関する検討会」は取りまとめを行った。不測時における食料安全保障上のリスクの高まりや現行制度の評価を示した上で、不測時に食料の供給を確保するため、従来の法律との連携も図りつつ、必要となる措置を定めるべきとした。
不測の事態について、①「食生活や事業活動に大きな影響が発生する段階」 (平時と比べた供給量の減少程度として2割を1つの目安とする)②「 国民が最低限度必要とする熱量供給が困難となる段階」(1人1日あたりの供給熱量が1900kcalを下回ることを目安とする)の2つの段階を設定した。
また不測時の対策の対象とする品目・資材については、米、小麦、大豆(食用・油糧用)その他の植物油脂原料(なたね・パーム油)、畜産物(鶏卵・食肉・乳製品)、砂糖に加え、肥料、飼料、種子・種苗、農薬、燃油などの生産資材を主な対象とすることが妥当とした。
政府の体制と役割に関しては、①平時には農水省による調査・情報収集等を行い、②重大な影響を及ぼす食料供給不足のおそれがあるときは、内閣総理大臣を長とする政府の対策本部を立ち上げるべきとした。
(3) 鳥インフルエンザ防疫対策本部を開催
12月26日、農林水産省は鳥インフルエンザ防疫対策本部を開いた。例年12月・1月が高病原性鳥インフルエンザの発生のピークとなる。今季は 11月25日 佐賀県下、11月27日茨城県下での発生に続き、11月30日埼玉県毛呂山市、12月3日鹿児島県出水市と、養鶏農場での発生が4県・4 事例生じている。過去最大となった昨季の同時期と比べると発生は少ないものの、野鳥では10月以降72事例で確認され、また韓国では12月に入ってから家禽農場で22事例が発生しており、 農林水産省は更なる発生の防止に向けて取り組むことが重要だとしている。