平成28年度全国山村振興連盟度通常総会における事例報告

平成28年11月17日に開催された全国山村振興連盟通常総会において、森 利男北海道苫前町長及び寺本光嘉 和歌山県紀美野町長から事例報告が行われた。
その報告の概要と配布資料を紹介します。

1.北海道苫前町長 森 利男

(概要)

苫前町の概要ですが、図面にありますように札幌と稚内の中間くらいに位置し、北海道北西部の日本海に面しています。海岸の長さ17.3㎞、奥行き50㎞で、面積は454.53平方キロメートルとなっています。
①自然ですが、降雪は多い方ですが、融雪は早い方です。②社会・経済ですが、産業構造は一次産業が主な産業で、特に農業は水稲・畑作の複合経営や乳牛を主とした酪農が主体です。漁業は沿岸漁業と増養殖漁業を主としていますが、近年資源管理型漁業への転換が図られています。③過疎の状況ですが、平成22年の国勢調査による総人口は3,656人、1,600世帯の小さな町です。昭和35年の10,898人と比較して66.5%減少しています。高齢者比率は36.6%です。北海道はおしなべてこういう町が多いと思っていますが、過疎化の要因は、第一次産業や第三次産業の後継者不足、商工業の低迷などによるものだと思っています。これまで産業基盤の振興、生活基盤の整備等に努めていますが、日本海に面して通年して吹く風を利用した風力発電施設の誘致や建設などを進めています。日本の再生可能エネルギーの比率はまだまだ低く8.5%くらいですが、先進国は20%以上あり、私達は、今日は仲間が来ていますが、いずれは20%以上に上げて先進国と対等に話ができるように比率を上げたいなと思いながら普及に取り組んでいます。右下の図面の「牧場内にある風車」ですが、町営の牧場の中に風力発電施設を42基設置していまして、52,800kwの発電能力、約人口9万人を賄えます。日本で大型風車を一番先に建てた地域でして、実はFIT制度(再生可能エネルギー固定価格買取制度)により私の町が最初に適用されましたが、20年間ということであと2、3年で制度が切れます。太陽光、バイオマスに取り組んでいるところもありますが、同様に20年で切れるということになっています。私たち風力発電の組織が一番大きいので、私(注:森町長は、風力発電推進市町村全国協議会会長を務めています。)が先頭に立って国の方と協議を行っています。何とか自然エネルギーの活用を図って、日本の比率を上げていきたいと考えています。

(産業振興)

〇農業についてですが、農業経営基盤の安定化や若い担い手の育成及び新規就農者等による農業者の確保が課題となっています。また、消費者は食の安全・安心を求めており、質の高い農産物、環境の優しい農業が求められるのは当然で、北海道ではクリーン基準を設けていますが、本町ではその基準に合致したクリーン農業を基本とした栽培技術の向上と貯蔵・集出荷などの流通体系の整備に取り組んでいます。
下の表をご覧下さい。「山の恵みカレンダー」です。米、メロン、ミニトマト、かぼちゃ、とうもろこしが主流です。米は、三重県、愛知県辺りに出荷されております。
メロン、ミニトマト、かぼちゃは大手の回転すしとかに出荷していたのですが、不作の時に対応が非常に難しくなるということで長い目で見て、今は全部市場に出荷しています。どこに入っているか市場調査した結果、本町はクリーン農業ですので、生協に入っているのが多いような感じがします。
下の左の写真は選果システムで、これはX線、コンピューターなどを使用するものです。右の写真は雪冷熱を活用した定温貯蔵施設です。
農業者136戸、一戸当たり約2千万円くらいになるのかなと思っています。

〇漁業についてですが、漁業者は54戸ですが、一戸当たり約3,8000万円くらいになるかなと思っています。
沿岸漁業を主にカレイ・タコ・コンブ・ウニ、沖合漁業のエビ、海面養殖業のホタテなど四季折々の漁獲があります。ホタテは主に韓国に輸出されています。昨年は非常に値が高くて、成貝、半成貝が主流で、稚貝は全部一円に回っています。新たな取り組みとしてナマコ漁を安定的にする調査・研究事業を行っています。北海道開発局とも連携して日本海の北側にナマコを定着させることを狙っています。漁業の担い手育成、新規着業者、繁忙期の労働力確保にも苦慮しており、これらを含めて漁業協同組合と経営基盤の強化を図っていく必要があると思って、取り組んでいるところです。原料安定確保、消費者ニーズに対応した製品開発に努めています。海から上がったら屋根付き岸壁を通ってすぐ雪冷風の荷捌き場に入ります。荷捌き場は夏でも寒くこれにより価値を高めて出荷しています。エビは全国、カレイは道内、ホタテは韓国、タコは全国、ナマコはほとんど中国、カジカは道内にそれぞれ出荷されています。

(様々な施策)

住みよいまちづくりとして、「結婚・妊娠・出産」、「子育て」、「住宅支援」、「高齢者」、「起業支援」の大きく5つに分けて施策を展開しています。アイデアをどんどん集めて審査会をやって実施しています。住民ニーズが下火になってくるとそれを切り替えながらやっています。
「出産支援費助成事業」については、一人目20万円、二人目25万円、三人目50万円、四人目100万円です。子育てに伴う経済的負担軽減のための「町内保育所の保育料軽減措置」や「高校生までの医療費無料化」、地元商業高等学校通学者への支援としての「学校諸経費・入学支度金の補助」を行っています。
高齢者の関係では、公共交通が不便ですので、移動の利便性向上のために、「にこにこタクシー運行事業」をやっています。町内どこまで行っても400円。4人で乗車する場合は一人100円、1週間2回96回のカードを発行しています。高齢者の皆さんが誘い合い、病院、買い物に行けるようにしています。温泉がありますので「いやしふれあい助成事業」として高齢者が年に1回10月~3月まで利用できる宿泊助成券(5千円)を交付しています。

(締めくくり)

本町の一次産業は、農業・漁業については後継者もある程度整ってきている、施設整備を含めて町もお金を出しながら、安定してきていると判断しています。
昨日、山本幸三 地方創生担当大臣から稼げる農業・漁業でなければ駄目だという話が出ました。私も稼げる農業・漁業でなくてはいけないと思いながら仕事を進めているところです。今後さらに各項目を分析して収入が上がるように内容の充実も図ることとしています。
先ほど金子恭之先生からご挨拶がありましたが、山村振興法は幅広い法律であり、なんでも来いの法律かなと私は解釈しています。皆様と一緒にこの法律を大いに活用しながらしっかり全国ネットワークで町づくりをしていかなければならないと思っています。

(資料) 森  苫前 町長(pdf)

2.和歌山県紀美野町長 寺本光嘉

(概要)

紀美野町は和歌山県の北部に位置し、世界遺産「霊峰高野山」のふもとにあって、面積128.34平方キロメートルで山林面積が75%の山村でして、町の端から端まで約28㎞の長い中山間地域の町です。
当町は平成18年1月1日の平成の合併により旧野上町と旧美里町が合併し、当時人口
1万2千人弱の町でありましたが、御多分にもれず高齢化率は43.4%になり、過疎化が進んで現在では人口は9,424人になっています。
実は、先ごろ、増田元総務大臣が和歌山県で2番目になくなる町、紀美野町と発表されましたが、これを覆すためにも、「空、山、川のふれあいのある美しいふるさと」をスローガンにして、7つの目標をもってまちづくりを進めています。

(みんなでつくるまちづくり)

行政の押し付けではなく、やはり、まちづくりは町民みんなの力で行う、その環境を整備をしていくのが行政であるという風に考えています。そうした中で、「まちづくり推進協議会」を平成19年に発足し、会員60名の町民の皆さん方で現在も活動をしていただいています。専門部会として、ブランド部会(特産品の部会)、美しい郷づくり部会、紀美野史発見部会といった各部会を作って、それぞれ皆さんに活動していただいています。それの環境整備をしていくのが町の行政の役目であるということで進めています。
また、一方で町民の皆さんに活気と団結を持ってもらうために、まちおこし事業、過疎対策事業ですが、各地区においてまちおこし活動が町内5か所において現在取組みが行われています。これについては、過疎集落等の自立再生対策事業という国の補助金、また、県においては再生活性化支援事業という100%補助ですが、それらの補助金を受けて、現在実施しているところです。しかしながらこのまちおこし、立ち上がるのは立ち上がるそれをいかに継続していくかが大きな課題で、町単独事業として年50万円以内の補助制度を設けています。
次に人口減少を少しでも食い止めるために、定住促進ということで平成18年から県下に先駆けて積極的に取り組んできました。約10年間、平成28年9月現在で、58世帯、116人が定住しています。早くも2世が誕生しています。
そこで、思わぬような副産物が出てきまして、技術を持った方々が定住してこられ、そこで店を開店される。それによりおいしいパン屋が3軒、ジェラード店、イタリアン料理、フランス料理、カフェもある、こうした状況になっています。京阪神から若い人達がこれを求めて沢山来ていただいています。

(住みやすいまちづくり)

地上デジタル放送難視聴対策として、ブロードバンドを光ケーブルでなく、ギャプフィラー方式ということで電波を飛ばす、そのため町内に60局を開設し、全町内に送信しています。これは災害に強い。中山間地域では、災害・土砂災害が起これば道路が寸断される、また、光ケーブルも寸断される。そうするとそこから先には情報が伝わらない、そうしたことに対してこのギャプフィラー方式は電波を飛ばしますので、携帯電話、ワンセグが活用でき、災害状況が把握できるということになります。
光ケーブルは各社において採算性を重視されまして、山間地域では採算が採れないということで光ケーブルネットは引いてくれませんでした。そこで、光インターネット全町開通整備補助金ということで、過疎債を2億円借り入れて、これをNTTに補助して町内に光ケーブルを設置しました。これが、定住促進にも大きく影響しています。

(安全・安心なまちづくり)

中山間地域においては、本当に防災対策が大事です。近い将来東南海地震の発生が言われています。どういう救助体制を整えるかということで自主防災組織を立ち上げました。町内18の自主防災組織に対して、防災訓練、資機材購入費などを出しています。自主防災組織、地域の消防団、町の消防この三者一体になって救助活動に取組むという体制づくりを行っています。防災用の無線ですが、非常に町の奥行が長いということで、136局作り、防災行政無線を流しています。これを活用して、12時と17時の時報、その他の連絡事項を流しています。町民の皆さんは町の情報を聞くことで安心感を得ることができます。
中山間地域では土砂災害が起こると集落が孤立します。そこで活躍できるのはヘリポートです。このため、正式ヘリポートを3か所設けています。これによりなんとかいち早く土砂災害に際し救助できるようにしています。

(福祉の充実したまちづくり)

人口減少に対する対策として、子どもは宝ということで、スローガンを作りまして、子どもの医療費を平成18年から小学校6年生までの医療費を無料化、その後中学校3年生までの医療費を無料化、そして、平成28年から18歳未満の人も無料化しました。
そうしたことで子どもを生み・育てる環境づくりもしています。
また、高齢者は一人でいる方が多い、そんな中で、「ふれあいサロン」を作って、高齢者とは限りませんが、憩いの場として町内に45か所開設し、一か月に一度か二度、皆で集まって食事をしよう、また、レクレーションを楽しもうという場を設けています。これに対して補助金を出しています。それにより、高齢者の安否確認もできます。

(活気のあるまちづくり)

グリーンツーリズム、体験型の農家民泊の取り組みを行っています。町内20か所、20軒の民泊が登録をしています。昨年は12校の子ども達を受け入れています。都市との交流を図るとともに、田園回帰を同時に図っています。
また、高齢者対策の一つとして、シルバー人材センターを平成17年6月に設立し、5年間で法人化をしようということで進めてきました。法人化により国からの補助金も受けられるということで、現在では、国からの補助金5百万円、町の補助金5百万円で活動を行っています。ちょっとしたお手伝い、庭木の剪定など皆さんに喜ばれています。

(締めくくり)

行財政改革進める中で、中山間地域という厳しい条件の中ですが、豊かな自然を活かした夢と活気のあるまちづくりのために、人口減少対策並びに防災・減災対策、町の強靭化に向けて積極的な取り組みを行っています。

(資料) 寺本 紀美野 町長(pdf)