生物に世界はどう見えるか   實重重実

山村で働く農林業者の皆様や山村地域を対象とする行政関係者の皆様は、日々自然の中で動植物と係わりながら、自然と人間の関係を調整しつつ仕事をしておられると思います。そこには、山村を覆う広大で緑豊かな森林があり、その森林の中で暮らす鳥や昆虫がいるでしょう。せせらぎには小魚たちが泳ぎ、土壌の中ではミミズやキノコの仲間が活動しているでしょう。

シカ、イノシシ、サル、カラスなど、農作物被害をもたらす困った鳥獣もいますが、農林業者の皆様は被害防止のため、彼らの生態を観察し、知恵をこらしておられることでしょう。

私もまた元・農林水産省の行政官として、長期間にわたって動植物と人間の関係に係わってきました。そして今また、全国山村振興連盟において、動植物に係わりながら仕事をさせてもらっています。
こうした経験の中で、私はこの度、子供の頃から関心を抱いていた動植物に関して、1冊の本をまとめました。昨年12月に新曜社から出版した本は、「生物に世界はどう見えるか-感覚と意識の階層進化」(実重重実著、新曜社、2400円+税)と言います。

この本では、最新の科学的知見を総動員して、微生物から植物、カビ・キノコ、ミミズ、魚、鳥、獣まで、生物たちにとって世界がどう見えているのかを描きました。専門用語は使わないで、中高生でも楽しく読めるように執筆したつもりです。

例えば渡り鳥はどうやって何千キロものコースを飛ぶことができるのか。ミツバチは、あちこち飛び回ってから、なぜ一直線に巣に帰ることができるのか。植物は、葉と根の間でどうやって連絡を取り合っているのか。そうした自然界の謎について、最新の知見で解き明かします。

そして生物たちの歴史を辿って行くと、細胞たちの持っている「認識」が、個体レベルで「感覚」となり、更に私たちの「意識」へと進化していきます。私は師事していた発生生物学者・故・団まりな氏が提唱した「階層生物学」という手法を使って、その道筋を描きました。

山村に自然が豊かだということは、動植物がそこで豊富に育まれ、相互に影響を及ぼしながら生きているということでしょう。生物たちに世界がどう見えているか。それを知ると、その相互に影響を及ぼし合う網の目の一つのところに、人間の営みがあるということがよく分かるのではないでしょうか。