平成29年度全国山村振興連盟通常総会における事例報告

平成29年11月30日に開催された全国山村振興連盟通常総会において、髙橋重美山形県最上町長及び庵逧典章 兵庫県佐用町長から事例報告が行われた。
その報告の概要と配布資料を紹介します。

一 髙橋重美 山形県最上町長

最上町は、山形県の東北部に位置しており、県境が宮城県の大崎市で分水嶺のまちです。人口は9,000人、面積は330?、山林は84%、高齢化率は35.5%となっています。 地方創生が叫ばれていますが、町民にいつも「地方創生にとって基本として一番大事なことは、ここに住む町民一人一人がこの地に自信と誇りを持つこと。まちづくりの主役は、行政ではなく町民であって、町づくりの一つ一つに町民の皆さんがどういう位置に立っているのかイメージして下さい。この部分は誰にも負けない、でもこの部分は一人ではできないからあの人とあの人に仲間に入ってもらおう、そういうつなぎ方をしていけばやっていける。」 といった話しをしています。町民が主役のまちづくりということで、それぞれの集落で集落ビジョンをきちんと作成して地域づくりをしてもらうということで、集落活性化応援交付金を交付するなどして将来のまちづくりを皆で分かちあうように進めています。
地方創生戦略ビジョンでは、「子育て大国最上町」、「生涯現役で頑張れる健康と福祉のまちづくり」、「産業振興 雇用創出」」、「環境に優しいまちづくりのバイオマス産業都市」の4本の柱を立てています。

1.子育て大国最上町

医療費の中学校3年までの無償化については、私の前任の中村町長が健康と福祉のまちづくりを築き、どこよりも早く実施しました。山形県ではほとんどほ足並みがそろい、高校3年までの市町村も出てきました。保育料無償化については、平成27年度から実施しています。1市4町3村で広域圏を形成していますが、その中で大いに勉強し大学に行ってそれからいずれ戻ってきて地域に貢献してもらえる学生を対象に新たな給付型の奨学金を支給することにしています。子どもの成長のための教育は学校だけではない、1年の半分は地域の人と接して子どもが成長するということで、食べ物を通した「食育」、地域で遊ぶ「遊育」、対話による「知育」、広大な森と親しむ「森育」、健康づくり「健育」、将来の職業選択についての子供へ助言など「職育」の「六育」に取り組んでいます。

2.健康と福祉のまちづくり

高齢化を悲観する必要はない、高齢者はまちづくりの財産であり、「光齢者」と書き、志の高い「志民」と呼ぶようにしています。病院長をはじめとして働いている職員が生き生き輝いていなければ地域福祉、地域医療は成り立ちません。地域包括ケア保健・医療・福祉の充実は勿論ですが、プラス雪対策も必要です。
在宅医療・介護といわれてもそれを実行できる家庭は少なく、地域で支え合う居住空間がきちんと補完されて仕組みが成り立つわけで、そういったことについてもきめ細かい施策について全国山村振興連盟の活動の中で関係省庁連携して対応していただきたいと思います。

3.産業振興(農観商工連携)

インバウンド需要を取り込む仕組み作りをしていこうという中で、担い手さえしっかりしていれば、そこに働ける仕組みを作ることによって、これからの集落営農、地域営農の推進は可能だと思います。農林水産省の施策の中には農地の中間管理機構の制度もあり、集落営農、地域営農のグランドデザインを示せば基盤整備もやれるようになっています。体験交流、教育旅行も重要だと思っています。

4.バイオマス産業都市(地方創生の願いは里山再生)

最上町は、バイオマス産業都市の指定を受けています。平成17年度から、メトロ実験事業を通して、間伐材を燃料にして病院等の冷暖房を供給していますが、この実質事業効果は、4,500万円になっています。
また、若者定住環境モデルタウンを23区画整備しました。融雪設備で除雪の心配がなく、バイオマスボイラーで暖房を供給します。価格も1,600万円から1,700万円くらいです。
その他、バイオマスのチップ工場、バイオマスペレット工場、バイオマス発電工場、バイオマス園芸ハウス、木の駅プロジェクト(間伐材を地域通貨に交換して、温泉、買い物等に利用する。)を整備、実行しています。
資料の写真は、大学連携キャンパスの中で、女学生が間伐した材で製作したテーブルで食事をしている光景ですが、東京では見られない絶景のレストランです。一人の女学生から「高性能林業機械を操作している青年、格好いいね」との手紙がきました。東京の板橋区との間で防災協定、産直、修学旅行を行っていますが、板橋区の独身女性とわが町の独身男性を婚活しましたら、3組まとまりました。山登りは婚活に最高です。
地方創生のチャンスは里山再生だと思います。川上から川下までの仕組みを作り、都市と農村の連携を図り、観光までつなげるということが大事だと思います。
山を荒らすと災害が起こる、災害を大きくするのは流木です。森林環境税の狙いは国土の保全、安心・安全を担保するものです。山のない東京の皆さんにも負担をしていただいて、我々はきちんと山を守っていく、それが森林環境税だと思います。

(資料) 髙橋 最上町長
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二 庵逧典章 兵庫県佐用町長

1.佐用町の概要

兵庫県の西、岡山県と県境を接しています。4町で合併をして307?、合併時の人口は2万1千人余りありましたが、この12年ではや4千人くらい減ってしまいました。人口減少の激しい町です。森林面積は80%以上ありますが、町の一角には世界最高性能を誇る大型放射光施設Spring?8やX線自由電子レーザーSACLA等が集積する「播磨科学公園都市」があります。口径2mの公開望遠鏡として世界最大を誇る「西はりま天文台」のある公園があり、また、夏には10万人くらいの人が訪れる150万本が咲き誇るひまわり畑があります。

2.平成21年台風9号災害

合併から4年経過した平成21年8月、 台風9号による豪雨災害が佐用町及び近隣の町を襲いました。この災害は全国的にも注目されましたが、死者18名、行方不明2名の大部分が避難する途中に水路にはまるという非常に悲惨な状況でした。防災計画の中で避難の在り方等について非常に大きな問題提起がなされました。垂直避難、避難所に避難するのが避難ではなく、状況によっては家の中で2階に上がるのも避難であり、山から離れた部屋に避難するのも避難だと、そういう風に国の防災計画自体もこの災害の教訓の中から変更されるきっかけを作った災害でした。

3.災害に強い森づくり

豪雨により倒木して流出し川を塞いで災害を大きくするということを如何に防ぐか、これは21年の災害以前から山林を産業としての活用だけではなく、環境面、防災面からも間伐をし災害に強い山林を育てていくとう取組みはしてきました。しかし、そうした中で大きな災害が発生し、改めて個人の山林所有者だけでは到底管理はできない、公的な管理が必要である、これは兵庫県においても以前から公的管理に取組んできました。私もあえて森林組合長を引き受けて行政と一体となって山林の管理にあたっています。
林野庁において、間伐に対する補助制度が作られていますが、戦後の昭和20年の終わりから30年代に植栽された木はもう50年、60年の成木になっています。間伐をしてもこれから根をしっかり張って災害に強い木にしていくにはこれから大きな負担もかかります。災害後の治山治水対策においても、スリットのある堰堤を整備するというような対処療法的な対策は次々と実施していただいていますが、木が災害の要因となるのを防ぐには木を伐採して活用して若返らせるということが重要と思います。木材価格が国際価格になってしまって、関税なしで自由に入ってくる、木材価格が上がっていくことはなかなか期待できないと思います。木材価格が1㎡1万円前後では、高性能の機械を入れ、作業の効率化を図っても、作業の費用を賄うのがやっとです。特にバイオ燃料とかに出荷していますが、1トン6千円とかでは補助金なしでは事業は成り立ちません。森林組合を経営していく中で、若い人も雇用して事業を拡大していきたいと取組んでいますが、公共の造林補助金が増えなくて事業が止まってしまうという状況になっています。50年、60年の木になると直径が30㎝、1トンくらいになります。急な斜面に1トンの木が沢山並んでいれば、自然に下にずり落ちていく現象があり、山肌に亀裂が入っている、そこに大量の雨が降って大きな崩壊に繋がるということを現場で感じています。木材価格が上がらないのであれば、採算がまあまあ採れるくらいに補助金を継続して増やしていただきたいと思います。特に危険な箇所、急峻な箇所、下に民家のあるような箇所では間伐だけではなく、皆伐も対象となる事業にしていただきたい。

4.木製架台のメガソーラ施設の建設

町と民間の共同出資の有限責任事業組合で5メガの太陽光発電施設を建設し、管理・運営を行っています。林野庁の補助金をいただき、架台に1万4千本くらいの檜の角材を使用しました。木材の架台であれば20年間の買取期間で、20年間終了後処理するに際しても燃料として活用できます。

5.学校等の跡地活用

学校・保育園の統合を進めていますが、その跡地を、ドローンスクール、日本語学校(100人規模)、サービス付高齢者住宅等に活用するなど、民間の活力を取り入れた取組が大事だと思っています。

6.新たな農業事業への挑戦
中学校の跡地に次世代農業モデルプラント「佐用まなび舎農園」(6,800㎡)を建設しました。これも太陽光発電と同じ有限責任事業組合が建設、運営に当たっています。メーカーが開発したファインバブル等最新技術を活用して品質の良いトマトの栽培を行って1年経過しました。こうした事業も決して簡単なものではありません。軌道に乗るまでには少なくとも2年、3年の経験を積んで取り組んいかなければなりません。この事業にも地方創生の交付金等を活用していますが、事業が軌道に乗るための支援をしていただければ有難いと思います。

(資料) 庵逧 佐用町長
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