山村の動向と山村の活性化~平成27年度森林・林業白書から~

平成27年度森林・林業白書が5月17日の閣議を経て公表され、国会に提出された。 この白書の構成は次のとおりとなっている。

はじめに
トピックス
第Ⅰ章 国産材の安定供給体制の構築に向けて
第Ⅱ章 森林の整備・保全
第Ⅲ章 林業と山村
第Ⅳ章 木材産業と木材利用
第Ⅴ章 国有林野の管理経営
第VI章 東日本大震災からの復興

このうち、「第Ⅲ章 林業と山村」の中の「3.山村の動向」を紹介します。

第Ⅲ章 林業と山村

3 山村の動向

山村は、住民が林業を営む場であり、森林の多面的機能の発揮に重要な役割を果たしているが、過疎化及び高齢化の進行、適切な管理が行われない森林の増加等の問題を抱えている。一方、山村には独自の資源と魅力があり、これらを活用した活性化が課題となっている。以下では、山村の現状と活性化に向けた取組について記述する。

(1)山村の現状

(山村の役割と特徴)
山村は人が定住し、林業生産活動等を通じて日常的な森林の整備・管理を行うことにより、国土の保全、水源の涵かん養等の森林の有する多面的機能の持続的な発揮に重要な役割を果たしている。
「山村振興法」に基づく「振興山村」は、平成27(2015)年4月現在、全国市町村数の約4割に当たる734市町村において指定されており、国土面積の約5割、林野面積の約6割を占めているが、人口は全国の3%の393万人にすぎない。振興山村は、まとまった平地が少ないなど、平野部に比べて地理的条件が厳しい山間部に多く分布しており、面積の約8割が森林に覆われている。
産業別就業人口をみると、全国平均に比べて、農業や林業等の第1次産業の占める割合が高い。
また、山村の生活には、就業機会や医療機関が少ないなどの厳しい面がある。平成26(2014)年6月に内閣府が行った「農山漁村に関する世論調査」によると、農山漁村地域の住民が生活する上で困っていることについては、「仕事がない」、「地域内での移動のための交通手段が不便」、「買い物、娯楽などの生活施設が少ない」、「医療機関(施設)が少ない」を挙げた者が多い。都市住民のうち農山漁村地域への定住願望がある者が定住のために必要だと思うことについても、「医療機関(施設)の存在」、「生活が維持できる仕事があること」を挙げた者が多い。

(山村では過疎化・高齢化が進行)
山村では、農林業の衰退等により、高度経済成長期以降、若年層を中心に人口の流出が著しく、過疎化及び高齢化が急速に進んでいる。昭和40(1965)年以降、全国の人口が増加してきた一方で振興山村の人口は減少を続け、また、65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)も上昇を続け、全国平均23%に対して34%となっている。
また、過疎地域等の集落の中でも、山間地の集落では、世帯数が少ない、高齢者の割合が高い、集落機能が低下し維持が困難である、消滅の可能性があるなどの問題に直面する集落の割合が、平地や中間地に比べて高くなっている。
平成25(2013)年3月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の地域別将来推計人口」によると、平成52(2040)年における総人口が平成22(2010)年に比べて2割以上減少する自治体は、全自治体の69.5%を占める1,170自治体に上り、また、65歳以上の人口が増加する自治体は、全自治体の55.0%を占める926自治体に上ると推計されている。このような中で、山村においては、過疎化及び高齢化が今後も更に進むことが予想され、山村における集落機能の低下、さらには集落そのものの消滅に繋がることが懸念される。

(適切な管理が行われない森林が増加)
平成23(2011)年に総務省及び国土交通省が公表した「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査」の結果によると、平成18(2006)年以降、平成22(2010)年までに消滅した集落における森林・林地の管理状況は、これらの集落の54%では元住民、他集落又は行政機関が管理しているものの、残りの集落では放置されている。また、過疎地域等の集落では、働き口の減少をはじめとして、耕作放棄地の増大、獣害や病虫害の発生、林業の担い手不足による森林の荒廃等の問題が発生しており、地域における資源管理や国土保全が困難になりつつある。
特に、居住地近くに広がり、これまで薪炭用材の伐採、落葉の採取等を通じて、地域住民に継続的に利用されることにより維持・管理されてきた里山林等の森林は、昭和30年代以降の石油やガスへの燃料転換や化学肥料の使用の一般化に伴って利用されなくなり、藪やぶ化の進行等がみられる。また、我が国における竹林面積は、長期的に微増傾向にあり、平成24(2012)年には16.1万haとなっているが、これらの中には適切な管理が困難となっているものもあり、放置竹林の増加や里山林への竹の侵入等の問題が生じている地域がみられる。

(山村には独自の資源と魅力あり)
一方、山村には、豊富な森林資源、水資源、美しい景観のほか、食文化をはじめとする伝統や文化、生活の知恵や技等、有形無形の地域資源が数多く残されていることから、都市住民が豊かな自然や伝統文化に触れる場、心身を癒す場、子どもたちが自然を体験する場としての役割が期待される。
山村は、過疎化及び高齢化や生活環境基盤の整備の遅れ等の問題を抱えているが、見方を変えれば、都市のような過密状態がなく、生活空間にゆとりがある場所であるとともに、自給自足生活や循環型社会の実践の場として、また、時間に追われずに生活できる「スローライフ」の場としての魅力があるともいえる。
平成27(2015)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」によると、緑豊かな農山村に一定期間滞在し休暇を過ごすことについて、「是非過ごしてみたいと思う」又は「機会があれば過ごしてみたいと思う」と回答した者の割合は8割であった。また、「過ごしてみたい」と回答した者が森林や農山村で行いたいことについては、「森林浴により気分転換する」、「森や湖、農山村の家並みなど魅力的な景観を楽しむ」等の割合が高かった。
また、平成26(2014)年6月に内閣府が行った「農山漁村に関する世論調査」によると、都市と農山漁村の交流が必要と考える者の割合が9割と高くなっており、子どもたちに農山漁村地域での人々との交流や自然とのふれあいの機会を学校が提供する体験学習について、取り組むべきであると考える者の割合も9割を超えている。さらに、都市住民のうち農山漁村地域への定住願望がある者の割合は31.6%であり、前回調査(平成17(2005)年)の20.6%よりも増えている。

(2)山村の活性化

(地域の林業・木材産業の振興と新たな事業の創出)
山村が活力を維持していくためには、地域固有の自然や資源を守るとともにこれらを活用して、若者やUJIターン者の定住を可能とするような多様で魅力ある就業の場を確保し、創出することが必要である。
平成27(2015)年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015改訂版)」等においては、林業の成長産業化が地方創生の基本目標達成のための施策の一つとして位置付けられており、木材需要の拡大や国産材の安定供給体制の構築等の取組を推進するとされている。
平成27(2015)年3月には、「山村振興法」の有効期限を10年間(平成37(2025)年3月31日まで)延長するとともに、基本理念に関する規定を設けるなど山村振興の方向性をより明確化し、山村振興対策の充実を図るための改正が行われた。このことを受け、農林水産省では、振興山村を対象に、薪炭・山菜など地域資源の活用等を通じた山村の雇用・所得の増大に向けた取組を支援する「山村活性化支援交付金」を創設した。
また、農林水産省では、地域の第1次産業と第2次・第3次産業(加工や販売等)に係る事業の融合等により、地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を行う「6次産業化」の取組を進めており、林産物関係で96件の計画が認定されている( 平成27(2015)年11月時点)。さらに、「農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)」は、農林漁業・食品産業に関心のある地方金融機関等との共同出資によってサブファンド(支援対象事業活動支援団体)を設立し、地域に根ざした6次産業化の取組を支援している。
さらに、農林水産省及び経済産業省では、農林漁業者と中小企業者が有機的に連携し、それぞれの経営資源を有効に活用して新商品開発や販路開拓等を行う「農商工等連携」の取組を推進しており、林産物関係では37件の計画が認定されている(平成27(2015)年10月時点)。
このほか、内閣官房及び農林水産省は、「ディスカバー農山漁村むらの宝」として、埋もれていた地域資源の活用等により農林水産業・地域の活力創造につながる事例を選定し、全国へ発信している。

事例 地域資源を活かした地域活性化の取組

埼玉県秩父市ちちぶしの菓子製造業者により構成される「お菓子な郷くに推進協議会」は、秩父の山々に自生している20種以上の豊富なカエデ類の資源としての価値に着目し、これを活用した国産メープルシロップ事業に取り組んでいる。樹液の採取やこれを煮詰めたシロップの製造のほか、カエデ樹液に含まれる酵母菌を使用したパンの開発やカエデの茶葉を使用したラムネの販売等の6次産業化、「林商工連携」によるお菓子づくりを推進している。
また、同協議会は、「森を育てて、お菓子を創る」をスローガンとして掲げて、スギ・ヒノキの間伐跡地にカエデ類を植栽する取組も行っており、平成17(2005)年からこれまでに、9,000本以上植栽している。
これらの取組は、持続可能な森林資源の活用、お菓子製造による雇用創出等を通じ、地域活性化に貢献しており、他の地域の参考となるような優れた地域活性化の取組であるとして、「ディスカバー農山漁村むらの宝」(第2回選定)の優良事例に選定された。

(里山林等の保全と管理)
山村の過疎化及び高齢化等が進む中で、里山林の保全及び再生を進めるためには、地域住民が森林資源を活用しながら持続的に里山林と関わる仕組みをつくることが必要である。このため、林野庁では、「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」により、里山林の景観維持、侵入竹の伐採及び除去等の保全管理、広葉樹の薪への利用、路網や歩道の補修・機能強化等、自伐林家を含む地域の住民が協力して行う取組に対して支援している。
また、森林整備事業により、間伐等の森林施業を支援するとともに、除伐等の一部として行う侵入竹の伐採及び除去に対しても支援している。

事例 地域の歴史・文化を活かした里山再生の取組

秋田県仙北郡美郷町せんほくぐんみさとちょうの金沢かねざわ地区の里山林は、以前は手入れが行き届いていたが、近年ではかつて利用されていた山道がわからないほど荒廃が進んでいた。
このような中、地域の住民から成る「金沢諏訪堂すわどうの会」は、林野庁の「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」を活用しながら、里山林の再生に取り組んでいる。これまでに、里山林の間伐、携帯GPS機器を活用した山道の位置の特定やその修繕を行ってきた。 同地区は、周辺の里山に歴史に関わる史跡が残っているなど、歴史と里山の関わりが深い地区であり、同会では、同交付金を活用した活動の他に、歴史を振り返るシンポジウム等も開催している。地域の歴史と里山の自然という2つの地域資源を活用した活動を一体として行うことで、地域住民の関心が高まり、賛同者の増加につながっている。

(自ら伐採等の施業を行う「自伐林家」の取組)
主に所有する森林において、自ら伐採等の施業を行う、いわゆる「自伐林家」が、近年、地域の林業の担い手として、特に地域活性化の観点から注目されている。こうした林家では、主に自家労働により伐採等を行うことから、労働に見合う費用分が収入として残るという特徴がある。
このような林家等の取組で、全国各地で実施されている例として「木の駅プロジェクト」がある。林家等が自ら間伐を行って、軽トラック等で間伐材を搬出し、地域住民やNPO等から成る実行委員会が地域通貨で買い取って、チップ原料やバイオマス燃料等として販売する取組であり、地域経済を活性化する点でも注目されている。平成27(2015)年2月には、和歌山県日高郡ひだかぐんみなべ町ちょうにおいて「木の駅サミット」が開催され、同様の取組を行っている地域等が集まり、事例発表等が行われた。

(都市との交流により山村を活性化)
近年、都市住民が休暇等を利用して山村に滞在し、農林漁業や木工体験、森林浴、山村地域の伝統文化の体験等を行う「山村と都市との交流」が各地で進められている。
都市住民のニーズに応えて、都市と山村が交流を図ることは、都市住民にとっては、健康でゆとりある生活の実現や、山村や森林・林業に対する理解の深化に役立っている。また、山村住民にとっては、特用林産物や農産物の販売による収入機会の増大や、宿泊施設や販売施設等への雇用による就業機会の増大につながるのみならず、自らが生活する地域を再認識する機会ともなり得る。
このため、各市町村では、地域住民と都市住民が参画して、森林環境教育、アウトドアスポーツ、地元の特産品を使った商品開発や販売等を通じた体験・交流活動が進められている。
また、「子ども農山漁村交流プロジェクト」によって、子どもの農山漁村での宿泊による農林漁業体験や自然体験活動等を推進できるよう、農林水産省では山村側の宿泊・体験施設の整備等に対して支援している。林野庁でも、都市住民を対象とした森林環境教育の活動等に対して支援している。
平成26(2014)年1月には、農林水産省と観光庁が「農山漁村の活性化と観光立国実現のための連携推進協定(農観連携の推進協定)」を締結し、農林漁業体験等のグリーン・ツーリズムと他の観光の組合せによる新たな観光需要の開拓、森林浴やアウトドアスポーツ等、森林を活用した観光の振興等の取組を推進している。