全国山村振興連盟メールマガジンNO231

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2023.7.7

全国山村振興連盟事務局

○2023年6月の農林水産行政

 

2023年6月の農林水産行政の主な動向は、以下の通りでした。

 

1 基本法見直しへ「新たな展開方向」を決定

6月2日、政府は「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」(本部長・岸田文雄 首相)を開催し、食料・農業・農村基本法の見直しの指針となる「新たな展開方向」を決定した。

「新たな展開方向」では、①平時からの国民一人一人の食料安全保障の確立、②環境等に配慮した持続可能な農業・食品産業への転換、③人口減少下でも持続可能で強固な食料供給基盤の確立の3つを柱にしている。

「政策の展開方向」のポイントとしては、①食料安全保障の強化のため、不測時の政策・政府の体制構築、適正な価格転嫁を進めるための仕組みの創設など、②農林水産物・食品の輸出促進のため、輸出産地の形成、輸出支援プラットフォームの整備など、③農林水産業のグリーン化のため、有機農業の大幅拡大、温室効果ガスの削減、生物多様性の保全など、④スマート農業推進のため、産学官での技術開発、サービス事業体の育成、圃場の大区画化などを掲げた。

これらのうち①不測時の体制整備、②適正な価格転嫁、③スマート農業の振興の3分野について、それぞれ新法を検討することとしている。不測時については、関係省庁が連携した政府本部を設置し、流通制限や増産指示などを総理が統一的に指示できるようにする法律を検討する。

また 6月16日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。その中で少子化対策や労働市場改革と並んで、「食料安全保障の強化と農林水産業の持続可能な成長の推進」を一つの柱とした。ここでは食料・農業・農村基本法の見直しの指針となる「新たな展開方向」の内容を反映し、① 不測時に政府一体で食料の確保などに取り組む仕組みを検討する、②スマート農業の実装加速へ産官学連携による新技術開発と生産・流通方式の変革を促す仕組みを検討する、③農林水産物・食品の輸出額は2025年に2兆円とする目標の前倒し達成を目指す、などを盛り込んでいる。食料・農業・農村基本法については、本年度中の改正案の国会提出を視野に、基本理念を含め見直しの検討を加速化させることとしている。

これを受けて、農林水産省は、6月23日からウェブサイトで国民の意見を募集するとともに、7月14日から全国11か所で地方意見交換会を開催することとした。

 

2 インドの G 20 農相会合に野村農水大臣が出席

6月16日・17日に インド南部ハイデラバードで 20カ国・地域(G 20)農相会合が開催され、野村哲郎農林水産大臣が出席した。

本会合では食料安全保障や栄養をめぐり議論が行われ、野村農相からは、4月に宮崎市で開かれた先進7カ国(G 7)農相会合で、「環境負荷を減らすなど持続可能な形で生産性向上を進めるべき」との見解で合意したことを紹介した。

ウクライナ危機に関する記述でロシアと中国が異を唱えたため、全会一致での共同声明の発出は見送られたものの、議長国のインドは 共同声明の代わりとなる議長総括を公表した。議長総括では、将来にわたり続けられる方法での農業の生産性向上に向けた研究開発が重要だと指摘しており、気候変動への対応といった課題を解決する際、各国に適した道筋を進む必要があるとしている。

 

3 7月4日に青山林野庁長官、長井農村振興局長等が就任

6月27日、農林水産省は、7月4日付の幹部人事を発表した。林野庁長官に青山豊久氏(現・農村振興局長)、水産庁長官に森健氏(消費・安全局長)、消費・安全局長に安岡澄人氏(大臣官房生産振興審議官)、農村振興局長に長井俊彦氏(大臣官房審議官兼経営局付)が就任する。織田央林野庁長官、神谷祟水産庁長官は退任する。

 

4 秋肥対策で地域単位での節減を支援

6月20日、農林水産省は野村農相の閣議後会見において、秋肥の価格高騰対策を発表した。秋肥対策としては、化学肥料の使量 2割低減に向けて、肥料の利用や土壌診断による施肥設計などに産地単位で取り組む場合、①かかり増し経費の半額相当を助成すること、②市町村・農家・JAなどで作る協議会に500万円を上限として交付することとなった。

化学肥料低減の取り組み項目としては、①土壌診断で施肥設計、②生育診断で施肥設計、③地域の低投入型施肥設計、④堆肥利用、⑤汚泥肥料利用、⑥食品残渣など利用、⑦有機質肥料利用、⑧緑肥作物利用、⑨施肥量の少ない品種導入、⑩低成分肥料利用、⑪可変施肥機利用、⑫局所施肥、⑬育苗箱施肥、⑭上記以外の施肥量・銘柄見直し、⑮各県で認める技術が掲げられている。

本対策の財源としては、価格高騰の支援金として2022年度の予備費から支出した 788億円を活用することとした。

なお飼料については、JA 全農は、6月22日、7月~9月期の配合飼料供給価格を前期(4月~6月期)と比べ、全国全畜種総平均で 1トン当たり2000円 下げると発表した。

 

5 水産に関し白書決定と検討会の取りまとめ

6月2日、政府は2022年度版の水産白書を閣議決定した。国内生産増産の取り組みの重要性が、ウクライナ危機や新型コロナウイルス禍によって増大したと指摘している。21年度の食用魚介類の自給率は概算値59%となり、ピークの1964年度の113%に比べておよそ半減している。政府は2032年度には 94%に上昇させる目標を掲げている。また22年の水産物の輸入額は2兆711億円と、比較可能な1960年以降で過去最高となり、これは円安などの影響で輸入水産物の価格が高騰するなどの影響もあった。22年の水産物の輸入量は前年比 0.9%増の222万トンであり、輸入価格の上昇を背景に輸入額は28.6%増となった。こうした輸入価格の上昇や燃油など漁業生産資材の価格高騰は日本の水産物の安定供給を脅かすリスクだとしている。

また6月7日、農水省は、「海洋環境の変化に対応した漁業のあり方に関する検討会」の取りまとめを公表した。これは、海洋環境の変化を要因として、イカ、サンマ、サケや地域における主要な魚種の不漁が続く一方で、これまで漁獲されていなかった魚種の増加も見られる状況等を踏まえ、資源変動に対応した適切な漁業経営・操業のあり方や当面の対応策について有識者で検討してきたものである。検討会は、今年3月から5月にかけて5回開催した。

対応の方向性として、①資源調査評価の充実・高度化(米国等関係国との情報交換の促進等)、②漁法や漁獲対象魚種の複合化・転換、③養殖業との兼業化・転換、④魚種の変更・拡大に対応しうる加工・流通、⑤複合化等の取り組みを行う経営体の確保・育成等が示されている。

 

6 畜産・酪農の適正な価格形成に向けて中間取りまとめを決定

6月13日、農水省は「畜産・酪農の適正な価格形成に向けた環境整備推進会議」を開き、「中間取りまとめ」を決定した。

今後専門家のワーキングチームを設け、まずは生乳と牛乳・乳製品について 生産費を価格に反映する仕組みを検討することとし、また、小売りや消費者も含めた幅広い関係者の合意を得ることを目指すこととした。輸送費、燃料費、光熱費なども含めてコスト指標を活用した仕組みを構築したいとしている。更に、世代に合わせて交流サイト(SNS)、雑誌、宅配チラシなどを活用することとした。

 

7その他

  • 外国人「特定技能 2号」に農業を追加

6月9日、政府は人手不足となっている産業で外国人が働くための在留資格 「特定技能」の2号に農業を追加することを閣議決定した。1号より熟練した外国人向けであり、1号は 在留期間が通算5年までだが、2号は無制限となる。また2号は、家族の帯同も認められる。

2号として働くためには、農業の実務経験と試験への合格が必要とされる。 2号で従事できるのは「耕種農業全般」「畜産農業全般」とそれぞれに関する管理業務とされた。新しい試験については この秋から行いたい考えである。

また、技能実習制度や特定技能制度については、同日に開いた関係閣僚会議において、技能実習制度は実態に即して発展的に解消することを決めた。

 

  • 農泊推進実行計画を公表

6月下旬、農林水産省は、「農泊推進実行計画」を公表した。農泊の年間宿泊者数は、コロナ禍で落ち込み、21年度の実績は約450万人と、19年度に比べて2割減となった。政府は、25年度までに700万人とする目標を掲げており、農林水産省の有識者検討会で、農泊実行計画を検討していた。計画では、①宿泊者の6%(19年度)にとどまる訪日外国人を10%に引き上げることとし、「重点受け入れ地域」を指定して、外国語対応などを行う、②体験メニューの充実、マーケティング戦略の立案など、地域の活動を支援する、③全国の宿泊施設や体験メニューを探せるウェブサイトを設ける、などとされ、農水省は、24年度概算要求などに反映させる考えである。

 

 

○鳥獣被害防止対策についてについて(山村振興実務研修会の資料)

6月9日に開催しました実務研修会の資料のうち、農林水産省農村振興局鳥獣対策・農村環境課 栗原 一能課長補佐に講演いただきました資料「鳥獣被害防止対策について」を参考までに別添します。

 

【R5資料】(セット)『鳥獣被害防止対策について』(農村振興局鳥獣対策・農村環境)