全国山村振興連盟メールマガジンNO352

全国山村振興連盟メールマガジンNO352

 

                        2025.12.5

 

                        全国山村振興連盟事務局

2025年11月の農林水産行政

2025年11月の 農林水産行政の主な動向は、以下の通りでした。

 

1 政府が補正予算案を閣議決定、農林水産関係は 9602億円

政府は11月28日、総額18兆3000億円となる令和7年度補正予算案を閣議決定した。農林水産関係は総額 9602億円。このうち 物価高騰影響緩和対策が686億円、食料安全保障強化重点対策が4254億円(うち農業構造転換集中対策が2410億円)となっている。

主な重点事項は (1) 物価高騰の影響緩和対策

うち施設園芸 等燃料価格高騰対策 44億円、 漁業経営セーフティネット構築事業 232億円、 金融支援対策 240億円、 和牛肉需要拡大緊急対策 170億円、

(2)食料安全保障の強化のための重点対策

〈農業構造転換集中対策〉うち 農業農村整備574億円、共同利用施設の再編集約・合理化等 811億円、スマート農業技術・新品種の開発等897億円、輸出産地の育成 129億円、

〈過度な輸入依存からの脱却〉 畑作物の本作化対策等458億円ほか

〈生産者の急減に備えた生産基盤の再構築〉農地の集約化の推進 80億円 など

〈食料安全保障の確立に向けた持続的な食料システムの構築〉 食料生産資材の安定的なサプライチェーンの確保 25億円など

(3)総合的な TPP等関連政策大綱に基づく施策の実施

うち輸出促進に向けた環境整備 12億円、 産地生産基盤パワーアップ事業 80億円、 畜産クラスター等による生産基盤の維持・強化591億円の内数、

林業・木材産業国際競争力強化総合対策 450億円。

うち 林業・木材産業の生産基盤強化 116億円、 森林整備事業 265億円、 森林の集積・集約化の実証展開 5億円、 スマート林業・ DXと先端技術の実装の推進 7億円、建築用木材供給・利用の強化35億円、木材需要の創出・輸出力の強化2億円、林業の担い手の育成 21億円

(4)防災・減災・国土強靭化と災害復旧等の推進

うち農業整理施設・ため池等の対策 1378億円 など

(5)持続可能な成長に向けた農林水産施策の推進

うち花粉症解決に向けた緊急総合対策 56億円 など

政府与党は 令和7年度から11年度の5年間を「農業構造転換集中対策期間」と位置づけており、政府の総合経済対策では、農業の構造転換へ令和7年度から令和11年度に「別枠予算」を確保すると明記されている。

なお、各自治体が任意に利用できる重点支援地方交付金(2兆3765億円)の中で、推奨事例として、お米券や食品の現物給付などが掲げられている。

 

2 クマの被害対策パッケージを決定、一部の県で自衛隊が出動

11月14日、政府は各地で深刻化するクマ被害への対策に向けた新たな政策 パッケージを関係閣僚会議において決定した。今年度内に目標捕獲頭数などを定め、ロードマップを策定して対策の進捗状況を確認することとしている。

被害対策パッケージの概要は、

  • 緊急的に対応する事項として、農業従事者の安全確保の徹底(クマ スプレーの導入費の支援など)、緊急銃猟で捕獲に関わる人の責任範囲の明確化、警察によるクマの駆除
  • 年度内に取り組む事項として、捕獲単価の増額、干渉帯や強固な柵の整備、 誘引物の撤去に関する情報提供、ガバメントハンターの人件費などの支援
  • 来年度以降に取り組む事項として、ガバメントハンターの育成、クマの個体数の削減、堅果類の公共調査に基づく情報発信

などが掲げられている。

これに先立つ 11月5日、防衛省はクマによる被害が多発する秋田県の要望を受けて、陸上自衛隊を派遣した。一定の場合に自治体の業務を受託できる自衛隊法の規定に基づき、捕獲の支援に当たった。この日、秋田県駐屯地に拠点を置く第21普通科連隊が午後から鹿角市で猟友会メンバーとともに箱罠 1つを 6km 先まで移動させる作業に当たった。自衛隊員は15人でクマの攻撃から身を守るため、防弾チョッキを着用し、銃器による駆除は実施しないこととしている。

11月17日、環境省は4月から10月のクマによる人身事故件数は176件、被害者数は196 人となり、記録のある 2006年以降の同期比で最悪だったと発表した。10月末までの死者は12人で、11月に入ってからも 秋田県湯沢市で 1人が亡くなる事故があった。

 

3 米の需給は緩和見通しだが、価格は上昇

11月12日、農林水産省は国が保有する政府備蓄米の在庫量が32万トンになるとの見通しを公表した。これまでの見通しから2万5000トン上方修正した。 同省は随意契約で最大7万5000トンの備蓄米を加工向けに放出する方針を掲げ ていたが、募集を締め切った10月末時点で、申し込み量は5万トンにとどまった。

11月10日、米穀機構が発表した10月の米の景況調査では、向こう 3ヶ月の米価見通し指数が前月比 18 ポイント減の39に急落し、基準の50を大きく下回った。

一方、11月18日 農林水産省は、令和 7年産米の10月の相対取引価格が前月比 163円高の3万7058円(60km・税込み)になり過去最高値を更新したと発表した。前年同月比では6割(13,238円)高であり、概算金や買取価格の上昇が影響した。相対取引価格は JA や商系集荷業者と卸売業者との取引価格で、米の代表的な指標価格である。取引数量は前月比2倍の約34万トンだった。

こうした動向を受けて米価は下がっておらず、11月28日農林水産省は、11月17日から23日にスーパーで販売された米の平均価格( 5 キロ・税込み)が前週比 52 円高の4312円だったと公表した。銘柄米は同4円高の4546円、ブレンド米は同130円高の3778円だった。

 

4対中水産物輸出を再開するも事実上停止、他の地域へは緑茶が伸長

中国政府は、東京電力福島第一原発の多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)

海洋放出を受けて日本産水産物の輸入を全面的に禁止していたが、本年 6月に福島・東京など10都県を除く37都道府県の水産物の輸入再開を発表した。これを受けて、11月5日に第1便 として北海道産の冷凍ホタテ 6トンが船で 中国に向けて出荷された。

しかし中国政府は、日本産水産物の輸入を事実上停止した。農林水産省によると、中国政府から放射線検査に不足があるとの伝達があったとのことである。

中国外務省の記者会見によれば、水産物の輸入を止めた理由に関して、日本側が約束した技術資料を提出できていないと説明するとともに、高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁に触れて、「中国国民の強烈な怒りを引き起こした」とし、「たとえ日本産水産物が中国に輸出されても、現状では市場が存在しない」と述べている。

一方11月5日に農林水産省が公表した直近 9ヶ月の農林水産物・食品の輸出額によると、9月の農林水産物・食品の輸出額は前年同期比 16%増の1463億円となり、特に緑茶が同2.1倍の73億9600万円に伸びた。主力の米国向けは、2倍に 伸長。カフェなど業務向けの抹茶需要が好調だった。欧州や東南アジア向けも同様の理由で伸びた。緑茶の輸出額を1月から9月で見ると、同81%増の増の454億 2100万円と過去最高を更新した。

11月 13日、米国は大統領令に基づき、一部品目を相互関税の対象外とした。 11月19日農林水産省は、米国が相互関税の対象外とした農畜産物の詳細として、牛肉・緑茶・生鮮トマト・タケノコ・乾燥シイタケ・オレンジ・コーヒー・香辛料、一部の味噌・豆製品・ナッツ・果実、食品・植物の調整品を示した。

 

5 農林業センサスで 農家は25%減少、作付け延べ面積も過去最小

11月28日、農林水産省は令和7年農林業センサス( 概数値・ 2月1日現在)の調査結果を発表した。主な仕事が農業である「基幹的農業従事者」が102万1000人と 5年前の前回調査から 34万2000人(25.1% )減少した。減少率は前回を上回り、比較可能な1985年以降で過去最大となった。

農業者の平均年齢は 67.6歳で、比較可能な1995年以降初めて低下に転じた。 農業経営体は 24万7000(23%) 減少して、82万8000 経営体となり、初めて 100万を下回った。法人をはじめとした団体経営体は1000(2.9%)増えて3万9000経営体となった。

またセンサスとは別に、農林水産省による令和6年の農作物の作付け延べ面積の調査結果が公表され、作付け延べ面積は386万1000ヘクタールとデータのある1955年以降で過去最小となった。

 

6 その他

(1) 鈴木農相石川の被災地を視察

11月1日、」鈴木憲和農林水産大臣は、能登半島地震とその後の豪雨で被災した石川県輪島市を訪れ、復興状況を視察した。白米千枚田愛好会や JAのとにも訪問し、関係者からの要請を聞くとともに、意見交換を行った。

 

(2)新潟で鳥インフルエンザの疑い、今季3例目

11月3日、新潟県は胎内市の採卵鶏農場で抗病原性鳥インフルエンザを疑う事例が確認されたと発表した。新潟県は同日、知事を本部長する対策本部会議を開き、今後の防疫対策を確認した。

今季、国内農場では10月22日に北海道白老町で初発し、11月2日には 北海道恵庭市で2例目の発生が確認されている。

 

(3) 瀬戸内海でカキが大量死

11月における水産庁の聞き取りによると、水揚げした養殖カキのうち死滅していた割合は、広島県中東部と広島湾南部の海域では6割から9割に上った。 愛媛県の一部海域と香川県は5割から9割で、岡山県も例年よりも多かった。 一般に養殖カキが死ぬ割合は3割から5割とされる。瀬戸内海以外の産地では目立った死滅は確認されていない。

全国の養殖カキの生産量は2023年令和5年は14万9000トンだった。都道府県別では、広島が8万9000トンと60%を占める。大量死の要因の一つは瀬戸内海の温暖化と見られており、そこに海水の塩分濃度の上昇と餌不足が追い打ちをかけた模様である。

 

(4)ウナギ全種の規制案、大差で否決

ウズベキスタンのサマルカンドで12月5日まで開かれたワシントン条約 (CITES)第20回締約国会議では、11月27日 午前の第1委員会で、欧州連合 (EU)とパナマの連名で提出された日本ウナギを含むウナギ属全種を国際取引規制が必要な付属書Ⅱへ掲載する提案について、審議・投票が行われ、賛成 35、反対 100(棄権 8)の大差で否決された。

EUとパナマはすでに付属書Ⅱに掲載済みの欧州ウナギの違法取引に対する取り締まりをより実効性のあるものとするため、類似種としてウナギ属全種を国際取引規制の対象にすべきだと主張していたのに対し、日本は科学的根拠を欠くとして反対していた。