第1058号(令和元年6月15日発行)
全国山村振興連盟事務局長 實重重実
若者の田園回帰志向が強まっていると言われてから、既に長い期間が経過しましたが、近年では「地域おこし協力隊」など行政による政策的な支援によってそうした傾向に広がりが出てきているように思われます。
総務省が2009年度に始めた「地域おこし協力隊」は、若者と市町村をマッチングし、若者に一定のミッションを与えて毎月一定の金銭的給付をします。
参加者は2009年に89人だったものが、2018年度には5,354人に達しました。総務省は過疎地域だけでなく空洞化の進む都市部にも対象地域を拡大することにしました。また、従来のように長期間地域に住むというのではなく、その期間を2泊3日以上とする「おためし地域おこし協力隊」という制度も今年度から始めました。
一方、全国山村振興連盟の友好団体であるNPO法人「地球緑化センター」では、1994年度から独自に「緑のふるさと協力隊」という事業を行って、若者と市町村をマッチングしています。こちらは若者が約1年間にわたって地域のお手伝いをしながら農山村に住んでみるというものです。
「地域おこし協力隊」や「緑のふるさと協力隊」のほかに、独自の移住対策に力をいれている市町村も多く、先般訪問した群馬県上野村では、住民の実に20%が外部からの移住者だとのことでした。
上野村では林業会社に就職した3人の若者が間伐をする様子を見学したのですが、10メ-トルもある樹木を見事に切り倒し、高性能機械を運転しながら樹木を空中で一回転して次の機械に運びます。そこで次の高性能機械が樹皮を剥ぎ落とし、更に別の機械が次々とカットしていきます。
その見事なスピードと連携の円滑さは、見ている者たちに感嘆の声を上げさせるほど「かっこ良かった」のでした。
農山村の仕事には、自然と一体となったこうした美しさや豊かさがあります。総務省が行った過疎地域に関する最近のアンケート結果を見ると、「条件が合えば」という人まで含めれば、20代の若者の実に38%もの人が「農山村に移住してみたい」と回答しています。
昨年10月に訪問した新潟県村上市の高根地区では、神奈川県出身の若い女性がゲストハウスを営んでいました。高根地区は山深い奥地にあるのですが、インターネット上でフェイスブックを通してたくさんの友達を作り、その人たちが訪ねて来てくれるのだそうです。農家民宿もありましたが、やはりインターネットを通じて呼びかけているとのことでした。その女性は、「40代以下でネットが使える人でなければ、宿泊施設の運営は厳しい」と言われていました。
今後はITの発達による在宅勤務や、AIによる自動運転などを駆使したMaaS(移動のサービス化)などがどんどん出てきます。そうした中で若者の田園回帰志向も更に拡大していくものと考えられます。
こうした潮流を受けて、これからの10年は、それぞれの山村地域が若者にとって魅力的な地域となっていくことができるかどうか、まさに正念場を迎えていると言えるのではないでしょうか。