全国山村振興連盟メールマガジンNO153

全国山村振興連盟メールマガジンNO153

 

2021.12.3

 

全国山村振興連盟事務局

 

○ 2021年11月の農林水産行政

2021年11月の農林水産行政の主な動向は、以下のとおりでした。

 

1 農林水産関係の補正予算8795億円を閣議決定

政府は11月26日、一般会計歳出総額35兆9895億円にのぼる過去最大の補正予算を閣議決定した。このうち経済対策関係費は31兆5627億円にとなる。

農林水産関係は8795億円であり、主に次の項目からなっている。

  • 米需給対策 904億円。内訳は、水田リノベーション事業420億円、特別枠15万トン対策(在庫米長期保管・計画的販売支援)165億円、麦大豆団地化等 33億円、水田の畑地化等472億円、水田活用直接交付金(飼料用米への転換等)の積み増し240億円など。
  • TPP 対策などによる輸出促進・基盤の整備 3200億円。うち輸出施設整備222億円、産地生産基盤パワーアップ 310億円、畜産クラスター 617億円等、
  • スマート農業:技術開発実証49億円・機械導入 77億円・肥料コストの低減25億円、
  • みどりの食料システム戦略25億円、
  • コロナ対策:国産農林水産物等販路新規開拓 200億円 、Go to eat 601億円
  • 配合飼料価格安定制度の基金積み増し230億円、
  • 農業水利施設・ため池対策1012億円

 

2 米の需給均衡のため来年産米は更に作付転換が必要

農林水産省は11月19日、食料農業農村政策審議会食糧部会に、米の需給・価格の安定に関する基本指針を提出し、了承された。これによると本年産米の需要は、702万トンから706万トンであり、来年産米は年間10万トン程度需要量が低下し692万トン程度と見込まれる。これを踏まえた来年産米の適正生産量は 675万トン。本年産米よりも21万トン減少させる必要がある。これは水田3.9万ヘクタール、全体の3% に当たる。

本年産米についても過去最大規模の6万3000ヘクタールに及ぶ作付削減を 行ったが、来年産米の削減の上乗せが必要となることとなり、厳しい情勢が予想される。

本年産米については主食用米から飼料用米への転換が大幅に進んだものの、飼料用米は定着性が低いことから、農林水産省は、来年産においてはより定着性の高い麦・大豆・ 野菜・子実用トウモロコシ等の生産が拡大するよう助成内容を見直す方針である。

 

3 COP26で石炭火力の段階的廃止に合意できず

英国グラスゴーにおいて開催されていたCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)は 11月13日、成果文書を採択して閉幕した。最大の争点であった石炭火力については、当初案で「段階的な廃止」としていたものが、インド・中国などの反対により最終的には「段階的な削減」という表現に改められた。EU・スイス・島嶼国などは、「表現の変更に失望した」と表明した。

このほか、①2022年末までに30年目標を各国とも見直すこと、③温暖化ガスによる気温上昇を2度よりも1.5度以内に抑える努力を追求すること、④2020年までに1000億ドル(11兆円)を途上国に資金支援する約束が守られていないことは遺憾であること、などが盛り込まれた。

我が国からは首脳会合に岸田総理が参加し、農林水産関係では「みどりの食料 システム戦略」にも触れつつ、我が国の取組と貢献を訴えた。今後、グラスゴー合意を踏まえ、我が国としてどのように目標を見直していくかが重要な課題となる。

 

4 秋田・鹿児島・兵庫で鳥インフルエンザが発生

11月10日、秋田県横手市の養鶏場で今季初めての鳥インフルエンザの発生が確認された。養鶏場の採卵鶏の14万3000羽を殺処分するとともに、半径10 km 以内の養鶏場からの鶏や卵の搬出を制限した。それに引き続き13日・15日には鹿児島県出水市で2例、17日には兵庫県姫路市で1例の鳥インフルエンザが発生し、同様の防疫措置が講じられている。昨シーズンは過去最大の52件の発生がみられたが、今季は昨年に続く早い時期の発生となった。

国は関係閣僚会議を官邸で開催するとともに、農林水産省からは飼養衛生管理の徹底・発生予防と早期発見・通報について注意を喚起する通知を発した。 また秋田県に農林水産副大臣を派遣するとともに、疫学調査チームを派遣し感染経路の調査に当たった。シーズンの前には、飼養管理衛生基準等の改正や全国一斉の自己点検、畜産対策本部全国会議の開催を通じた注意喚起などを行って対策を徹底してきたところである。

 

5 軽石が沖縄・鹿児島・関東沿岸に大量に漂着

8月の小笠原諸島付近での火山噴火に伴って噴出した軽石が、沖縄県・鹿児島県の沿岸に大量に漂着し、その後軽石は黒潮とともに北上して、11月中旬には東京都伊豆諸島周辺の海岸に漂着したほか、神奈川県・千葉県の沿岸等にも一部漂着している。11月末までに鹿児島・沖縄県を中心に91の漁港に漂流・漂着が確認され、また168隻の漁船にエンジントラブルが発生しており、復旧作業が進められている。

水産庁は全国の地方公共団体に対して文書を発出し、事前にオイルフェンスの準備など被害防止対策を講ずるよう周知した。東京都は、軽石流入防止のため伊豆諸島のすべての漁港でオイルフェンスを設置した。

また北海道で大きな被害をもたらしている赤潮については、ウニ・ツブ・タコ・ナマコなどで著しく被害があり、被害額は80億円以上にのぼるものと見られる。 ウニの漁業者などが共済に未加入のため、過去に西日本のブリ・ノリ養殖で行った救済策などを踏まえて、農林水産省としても何らかの支援を実施したいとしている。

 

6その他

(1) 農林水産業・地域の活力創造本部を官邸で開催

11月18日 官邸で総理出席のもと、第31回農林水産業・地域の活力創造本部が開催された。農林水産大臣から農政の主要課題と対応方向として、①スマート農林水産業による成長、②農林水産物食品の輸出促進、③「みどりの食料システム戦略」を踏まえた農林水産業のグリーン化を挙げた。岸田総理からは、「次期通常国会に必要な法案を提出することを含め、改革の具体的方策を年内に取りまとめ、政府一体となって取り組んで欲しい」との指示があった。

農林水産省では、①スマート農業のシェアリング支援サービスなどについての規制の見直し、②輸出品目団体の認定制度、事業・施設を対象とする新たな制度資金、③地域ぐるみで環境負荷削減に取り組む産地の創出について法案を検討中であり、次期通常国会に提出したい意向である。

 

(2) 金子農相が諫早湾干拓を視察

11月20日、金子農相は、佐賀県・長崎県下に出張し、長崎県知事をはじめとする関係者や諫早湾干拓堤防の開門を求める原告らの意見を聞くとともに、干拓営農の視察を行った。佐賀県の山口知事とは出張の際には会談しなかったが、 事前の11月18日に山口知事が大臣のもとを訪れ、意見交換を行った。

 

(3) 原油価格の値上がりに対して関係閣僚会合を開催

11月12日、政府は原油価格高騰に関する関係閣僚会合を開催した。農林水産関係では施設園芸・漁業の経営に閉める燃料比割合が高いため、燃油の価格が上昇した場合に影響を緩和するため補填金制度を活用することとしており、そのための予算を経済対策の中に盛り込んだ。

例えば 9月には A 重油が 200 リットル当たり19300円と前年同期に比べ27%上昇しており、トマトの施設園芸で経費の2割弱、温州みかんで5割を占める。施設園芸セーフティネット構築事業では、農業者の団体が省エネの要件を満たしつつ、国と農業団体で1/2ずつ基金を造成しておき、価格が高騰し基準を超えた場合に、その超えた分の7割を補填する制度となっている。

 

(4) RCEPが来年1月1日に発効へ

中国・韓国・東南アジア諸国・豪州などアジア・太平洋地域の国々による貿易協定RCEP(読み:アールセップ、東アジア地域包括的経済連携)が来年1月1日に発効する運びとなった。RCEPは中国などTPP参加国以外の国を多く含む貿易協定であるため、求められる関税引下げなどが TPP のように大きくなく、また米・牛肉など重要品目については除外されており、農業への影響は特に大きくない。

一方で農産物の輸出については、中国へのホタテ貝、韓国への菓子・キャンディ・板チョコなど我が国の関心品目で関税が撤廃されることとなり、輸出が促進される環境の整備が進むことになる。中国の豚肉・鶏卵・いちごも関税が撤廃されるが、これらについては現在のところ検疫問題のため輸出することができない。