全国山村振興連盟メールマガジンNO124
2021.5.7
全国山村振興連盟事務局
○ 2021年4月の農林水産行政
2021年4月の農林水産行政の動向は、以下のとおりでした。
1 原発処理水の海洋放出を決定
4月13日関係閣僚会議(廃炉・汚染水・処理水対策等関係閣僚等会議)において、東京電力福島第一原子力発電所のトリチウムを含む処理水(ALPS処理水)を海洋放出することとし、基本方針を決定した。これに先立つ4月7日、菅総理は全漁連岸宏会長と会談し、岸会長からは「反対の立場はいささかも変わらない」と意見を述べていた。
処理水は国の基準の約40分の1に薄め、今後2年程度準備した上で海洋放出を開始することとなった。閣僚会議では 6年以上にわたって検討してきた有識者会合の検討結果を踏まえ、①被害を最大限抑制するための処分方法・モニタリング、②経済対策を含めた具体的な風評被害対策、③国内外への丁寧な情報発信につき、関係省庁で具体的に検討することとした。また政府は、風評被害などが生じた場合、東電が損害を賠償するよう指導することとなっている。これを受けて、政府は「基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚会議」を設置し、4月16日 第1回の会議を開催した。
2コロナ禍の影響は続く。緊急事態宣言の発令で Go to eat は一時停止
新型コロナウイルスの蔓延による外出自粛・外食の時短営業・イベント自粛 等により、外食用のつまもの類・メロン・花き等の売り上げが2割以上減少していることをはじめ、甚大な影響が生じている。緊急事態宣言の3度目の発令に伴い食料・農林水産物の需要の減少、価格の低下等影響は大きいものと見込まれる。農林水産省では、「高収益作物次期作支援交付金」や需要拡大対策等の措置を講じており、「補正予算・予算の支援策を実施していきたい」としている。
Go to eat事業については、4月26日 奈良県で食事券の追加販売を開始しようとしたところ、医療関係者から疑念の声が上がり、4月27日一時停止することとなった。農林水産省ではかねてから「地域の感染状況を踏まえた慎重な対応」を要請しており、奈良県に対しては27日朝改めて電話して慎重な対応を要請していた。
3 豚熱がワクチン接種済み地域で拡大、鳥インフルエンザは収束傾向
豚熱(CSF)については、 2018年9月に26年ぶりに我が国で発生した後、発生が続き、3月31に奈良県奈良市で12県63例目が発生。続いて4月2日群馬県前橋市、4月14日に三重県津市、4月17日には栃木県那須塩原市の2つの養豚場で発生した。3月31日からの18日間で 5事例が発生しており、また豚熱発生県のうち群馬・山形・三重・和歌山・奈良・栃木の6県はワクチン接種済みの地域である。このため、「ワクチン接種をしたからといって感染しないわけではない」として、①家畜衛生管理基準を遵守し、農場へのウィルスの侵入を防止するよう呼びかけるとともに、②野生イノシシ対策(捕獲・サーベイランス・経口ワクチンの散布)を強化することとしている。
一方、鳥インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザ)については、20年11月5日香川県三笠市での発生を皮切りに今季は過去最大の発生となり、18県52事例で987万羽の殺処分を行った。こうした中で4月17日には、防疫措置後必要な期間を経過したとして、すべての地域で移動制限の解除が行われた。しかしフランスやハンガリーで4月に発生していることもあり、農林水産省は渡り鳥の季節が終わる5月連休までは警戒を続けるよう呼びかけた。
また、農相は担当者会議において、「家畜防疫指針・飼養衛生管理基準の見直しの検討をしたい」と述べた。また、鳥インフルエンザで52事例中39地域、 豚熱で9事例6地域において自衛隊の災害派遣要請があったことを踏まえ、防衛省からは、都道府県の防疫体制の充実改善について要望が出されている。
4 改正種苗法に基づき海外持ち出し禁止1975品種を公表
先の臨時国会で成立した改正種苗法の4月施行に伴い、登録品種の海外持ち出しを禁止することが追加登録により可能になった。4月9日公表されたのは 1975品種で、これらは国・県・公的機関が開発した登録品種の9割を占める。具体的な品種としては、ぶどうの「シャインマスカット」、北海道の米「ゆめぴりか」、青森県の米「青天の霹靂」、新潟県の米「新之助」、石川県のぶどう「ルビーロマン」、福岡県のいちご「あまおう」、愛媛県の柑橘「紅マドンナ」などを含む。
9月30日まで応募を受け付け、民間種苗会社の品種を含め順次追加していきたいとしている。既に登録された品種も条件を追加することができ、海外持ち出しに開発者の承諾を要することとなる。違反した場合には罰金のほか、流通の差止め・損害賠償が法定されている。
また、4月1日改正種苗法の施行に合わせ事務次官通達が発出され、臨時国会での付帯決議を踏まえ、①都道府県が品種開発、種子の生産供給体制の整備を行うこと、②種子生産の拡大に必要な知見を維持すること、③民間事業者に提供しつつ実態を踏まえ必要な措置を講じること等とされている。これは主要農産物種子法の廃止に伴って、都道府県が米・麦・大豆等の種子生産から手を引くのではないかとの生産者の懸念・不安を踏まえたものである。
5 農林水産物・食品輸出閣僚会議で1200産地を指定
4月1日、農林水産物・食品輸出閣僚会議(農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議)が開催され、2030年の5兆円輸出目標を目指し、①速やかに実行する事項と②令和3年夏までに方向を決定し実行する事項が報告された。また、昨年27 重点品目ごとに国別の輸出目標を定めたのに加え、今般輸出向けの生産を行う約1200の産地を指定した。
菅総理からは、①品目ごとの団体を組織化し販売をサポートすること、②リスクを減少するためのセーフティネットを作ること、③コールドチェーンや販売ルートを拡大するため、海外に展開する法人を支援することにつき、検討することが指示された。これを受けて、農林水産省をはじめとする関係各省では既存の制度の見直しを含め検討することとしている。
6 その他
(1)2020年農林業センサスで農業就業者が48万人減少
5年に1度全国的に調査されている「農林業センサス」の2020年版が3月27日公表された。2020年2月1日現在の統計である。農業就業者は5年前の208万人から166万人へと48万人もの大幅な減少となっており、これは高齢化によるリタイアが主な原因となっているものとされる。
内訳を見ると、①基幹的農業従事者(主な仕事が農業) 136.3万人(39.4万人減)、②雇用者(農業法人などの常雇い)15.7万人(6.3万人の減)、③役員・構成員(農業法人に150日以上従事)8.1万人(2.3万人減)。②の雇用者が減少したのは2005年からの同内容の調査開始以来初めてのことであり、これは雇用側の高齢リタイヤが影響しているものとみられる。
このような情勢にあって新規就農者を飛躍的に拡大することが課題となっており、また新規就農者の定着も重要であることから、抜本的なテコ入れをすることとし、農林水産省に「新規就農に関する検討会」を設けることとされた。5月中旬から半月に1回程度、関係者からヒアリングを行い、夏の概算要求に反映したいとしている。
(2) サンマの漁獲枠を4割削減
サンマの漁獲量が過去最低となっている中で、2021年度の漁獲枠は、当初20年度と同様の26.4万トンとしていたものの、国際合意を踏まえて4割減とすることとされた。これは本年2月北太平洋漁業委員会(NPFC)で日・中・台湾等8カ国 により「21年度の漁獲上限を全体で前年比4割減の33万3750トンに減らすこと」に合意されたことを受けたものである。
4月26日、農林水産省は水産政策審議会に2021度の漁獲の総量を4割減の15.5万トンとすることと諮問し答申を受けた。サンマ漁獲量の減少は、①水温・海流の変化による漁場の沖合化とともに、②外国漁船の影響が指摘されている。
(3) 温暖化ガス46%削減目標で農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定へ
4月22日開催された地球温暖化対策本部において、2030年に温暖化効果ガスの発生を2013年度から46%削減することを目指すことが決定された。目標達成に向けて関係省庁は具体的な対策の検討を加速するよう総理から指示があった。
農林水産省では 農林水産業に革新技術を加えた「みどりの食料システム戦略」を検討中であるが、5月には策定したいとしている。
(4)事業系の食品ロスが 11%減少
農林水産省の調査によると食品ロスの全体量は600万トンとなり、前年に比べ12万トンの減少(2%の減)となった。このうち事業系食品ロスは324万トンであり、前年に比べ 4万トンの減少であるが、2017年に比べると11%の減少 となっている。
新型コロナウィルスによる食品ロスへの影響については、「なし」と答えた事業者は57%、「ロスが減少した」と答えた事業者が26%、「ロスが増加した」と答えた事業者が9% となっている。外食産業では、66%が減少したと答えた。農林水産省は、食品ロスについて2030年までに半減させることを目標としている。