新潟県糸魚川市のまちづくり 市長 米田 徹

米田 徹 新潟県糸魚川市長
(一) 糸魚川市の概要

糸魚川市は、海と山しかないところです。
海岸線は51kmあり、新潟県の海岸線の約10分の1です。背後地の山は北アルプスに属し、2,000m級の山が7つあります。非常に風光明媚ではありますが、平場は猫の額ほど、林野面積は約9割を占めています。
北陸新幹線が平成27年3月に開通して交通事情は大きく変わり、新潟県庁へは電車で約2時間30分かかりますが、新幹線の開通により隣の富山県庁へ約30分、石川県庁へ約50分、長野県庁へ約30分、東京都庁へも2時間強で行けるようになりました。

(二)地域振興への取組み

平成17年3月に1市2町が合併しました。合併に際し、新市建設計画等いろんな計画を立てて進めていくわけですが、なかなか一体となって動くことができないとう悩みはどこでもお持ちだと思います。当市でも「親不知」は世界一だ、「ヒスイ」は日本一だ、「蟹」がおいしいのはここだ、とそれぞれの地域が競っていました。
それぞれの自分達の地域の自然を生かした地域振興といっても一枚岩になれない。それぞれ頑張っているけれども方向がバラバラでベクトルが自分の好きな方向に向いている。なんとか、まとまって同じ目標に向かって行く、一体感を持って進めて行くのがまちづくりの基本ではないかと模索していたところ、「世界ジオパーク」という活動を知りました。「ジオパーク」をベースにして方向がそろうと大きな力と流れになり、愛着と誇りを持った地域の一体性が形成されることになります。これを核として地域振興を進めていくことにし、現在取り組んでいます。

(三) ジオパーク

ジオパークとは「丸ごと学習する場所」です。大地(地形・地質)だけでなく、動植物、歴史・文化も含めてジオパーク活動に属します。大地、恵まれた自然資源があり、そこに動植物が生息し、人間が住むということでジオパークは成り立ちます。人の住んでいないところはジオパークになれません。ジオパークの要素は、恵まれた自然資源の保護・保全、教育・防災、地域振興という3点が肝です。
なぜ教育かというと、貴重な自然資源を保護するには、誰のためにするのか、誰がそれを破壊するのか、やはり人でありますので、そこに住んでいる人が愛着と誇りを持ってもらえるよう教育の中でしっかり教えていく必要があります。
そこに人がいなくなれば破壊されるわけですので、やはりそこに人が住むことが大切になります。そこに人が住むには、自然資源を生かした生業により生活ができるようにすることが大切になります。人に恵みを味わい、食べてもらって生活を成り立たたせていくことが大切です。
また、そこに住んでいる人がそこの特徴をしっかりと伝えていくことも大切です。愛着と誇りを持つものが育てていくものです。
ジオパークにはそういう要素があります。
糸魚川ジオパークは平成21年(2009年)に世界ジオパークに認定されましたが、4年に一度の再認定審査があります。ゴールになっていなくていいのですが、自分で作った目的に向かって進んでいるか、ということが問われます。4年に一度の再認定審査を繰り返していくのは大変なことです。行政も4年に一度の審査を受けていますが、まちづくりには必要なことだと思っています。
日本ジオパーク委員会は平成20年(2008年に)に発足し、その時はジオパークは7地域でしたが、平成30年9月現在で44地域、関係市町村数では約150となっています。その中で、世界ジオパークに認定されているのは糸魚川を含め9地域です。世界では学者が推進していますが、日本では地方自治体がボトムアップして進めているのが特徴です。

(四)糸魚川ジオパークの特徴

糸魚川ジオパークの特徴は、フォッサマグナの西端の断層である糸魚川ー静岡構造線が市内を通っていることです。フォッサマグナは日本列島の形成に係わりがあります。
日本列島はユーラシア大陸から分裂して形成されたものですが、その過程で列島の中央部が落ち込んで南北に分かれる形になり、その後そこに火山と海底の隆起により新しい地層ができました。その大きな溝がフォッサマグナと称されるもので、その西端が糸魚川ー静岡構造線です。糸魚川―静岡構造線を境にして、西側を西南日本、東側を東北日本といいますが、西側と東側では全然地質が違います。西側は4~3億年前の地層(中生代・古代)、東側は1,600万年前くらいの地層(新生代。フォッサマグナの地層)です。西側には「ヒスイ」があります。糸魚川の自然は多種多様です。
地質や文化・歴史を感じることができるジオサイトは24あり、商品開発も行っています。

(五)ジオパークの保護・保全

ヒスイは国石に選定されています。ヒスイは人が張り付いて監視しています。
青梅海岸ジオサイトの田海ヶ池には、池の中から湧き出るきれいな水のおかげで48種類ものトンボが生息しています。市民と力を借りてトンボの天敵であるブラックバスの駆除を実施しています。

(六)ジオパークの教育・研究

0歳から18歳までの子ども一貫教育方針の中に糸魚川ジオ学を入れてもらいました。
自然の恵みから親しんでいただき、交流人口の増加につなげていきたいということで色んな手立てをしています。

(七)ジオツアー

マイコ三平ツアーを実施しています。ここは大変危険なカルスト地形でありまして以前大学の探検隊が遭難した場所でもあります。閉鎖していたのですが、限られた時期、限られた人員だけは対応するということで案内しています。年10回、20名づつで実施していますが、いつも満杯状態で今年だめなら来年ということで好評です。

(八)農林水産業との関わり

サザエファーム(さざえ獲り体験)を実施しています。
また、海洋高校の皆さんが鮭がタマゴを取った後は捨てられいるのを、資源が大切だということで魚醤を作ったところ好評で、香港、マレーシア等世界各国での商談に対応しています。この高校の評価も上がって、市外からも入学しています。

(九)結び

自分達の資源を大事にするという気持ちが高まっています。ジオパーク活動をしながらいろんなところに波及し、一体感を持って、愛着と誇りを持った市民がしっかり育っていると思いますし、今後とも努力していきたいと思っています

(世羅町資料)
H30itoigawa