全国山村振興連盟事務局長 實重重実
中谷会長からお勧めがあって、「ポツンと一軒家」という番組を見始めました。これは、皆様ご存じかと思いますが、日曜日の夜8時からテレビ朝日系で放映している番組です。山中の集落から離れてポツンと一軒だけある家に、番組のスタッフが訪ねて行くもので、日曜夜8時という競争の激しい時間帯であるにもかかわらず、20%に迫る視聴率を上げているそうです。
山中の一軒家に訪ねて行くと、そこに住む人は、先祖伝来の神社を守っている夫婦だったり、ハンググライダーが好きで自力で家を建ててしまった若者だったり、祖父が切り開いた田畑を後世に残そうと頑張っている農業者だったりします。登場するどの人にも、そこに住むようになった幼い頃からの経緯があり、伴侶や子供や孫を含むドラマがあります。スタッフが訪問するだけという番組にもかかわらず、毎回そこで生きる人々の姿を見て、人間の歴史というのはこうやって作られて行くんだなという感動を覚えます。そこがこの番組の人気の秘密なのでしょう。
そしてこの番組を多くの人々が愛好しているということの背景には、緑深い大自然の中に住むことに対する憧れがあるものと思います。もちろん山中の一軒家というのは何ごとも大変不便で、サバイバルのような生活術を身につけたり、自分で創意工夫をしていかなければ生きていけないのですが、そうした人が現実にいるということも、尊敬の念を覚えさせます。
先般4月に総務省の過疎問題懇談会が中間的整理を取りまとめたのですが、その中に、都市部から農山漁村に移住することを希望するかどうかアンケートした結果が紹介されています。(平成29年3月都市部の住民の意識調査)
この表を眺めてみると、農山漁村への移住志向が若い世代ほど顕著に高いということが分かります。
都市住民の全体としては、「移住する予定がある」(0.8%)、「いずれは移住したい」(5.4%)、「条件が合えば移住してみてもよい」(24.4%)となっていて、移住希望者は合計30.6%です。
しかし20代の若者に限ってみると、それぞれ1.3%、8.5%。28.1%となって合計が実に37.9%にも上るのです。4割近い若者に田園回帰願望があると言えそうです。30代では少し下がりますが、それでも36.3%です。
この結果は、決して単なる理想や淡い希望というだけではなくて、都市の生活もだんだんと住みにくいものとなっていることが背景にあるものと思われます。非正規雇用者が2200万人に迫る一方で、都市の生活費は住居費を始め高騰しています。東京は今も高層ビルの建設ラッシュですが、満員電車で往復何時間も揺られ、喧噪の中をくぐり抜け、高層ビルのオフィスに通勤するという生活に疲れたと感じている若者も多いのではないでしょうか。
ただ私たちとしては、移住希望者の多数派があくまでも「条件が合えば」と言っていることに注目しなければなりません。就業先・住居・交通を始めとして、買い物・医療・教育など、様々な条件があることでしょう。
従来からの行政手法に加え、AI、ICT、5Gなどの先端技術も取り入れながら、こうした条件を整え、若者にとっての魅力を作り出していくことがこれからの重要な課題だと言えるでしょう。