平成23年12月1日に開催された全国山村振興連盟通常総会において、棚野孝夫 北海道白糠町長及び岩ア憲郎 高知県大豊町長両名から事例報告が行われた。 その報告の概要と配布資料を紹介します。 T 白糠町におけるヤナギの栽培と木質資源としての利活用について 北海道白糠町長 棚野孝夫 ヤナギの栽培と木質資源としての利活用について、まず、1番目の目的ですが、1ページの1.にありますように、ヤナギの栽培と木質資源としての利活用を検討し、農林業の振興や新たな産業の創出による雇用の増大と地域の活性化を図ることを目的としています。この目的達成のため、国が推進する「再生可能エネルギー特別措置法」の仕組みを導入し、新たな地域モデルを目指すということで、本日のキーワードは「ヤナギ」です。 ヤナギの特性ですが、2ページ目をご覧下さい。ヤナギは、現在、世界で350から400種類ぐらいあるといわれています。本州の皆さんにとってはヤナギといえば「シダレヤナギ」が主であると思いますが、北海道では「オノエヤナギ」、「エゾノキヌヤナギ」これらが主力であります。 ヤナギの特徴を簡単に言いますと、まず、早生木で早く成長すること。資料の最後の現況写真、これは現在実証試験をしている最中のもので4年経過していますが、北海道では4年で3メートル前後成長します。この「王子オノエ」は特殊な成長促進をさせていますが、4年で7メートルまでに成長する優れた旺盛な成長をする樹木です。従って、ヤナギは早生木で3年から5年で利活用ができます。 次に、広葉樹であること。北海道では広葉樹であることが大きな利点になります。次に早生木であることから、CO2の吸収量が非常に多いことも特色であります。ここが大事なところで、ヤナギは何処でもまた容易に増殖ができることです。あるいは痩せた土地であっても増殖が可能である優れものです。 そういうヤナギの特性を念頭において1ページ目にお戻りご覧下さい。 2番目のここに至る経過でありますが、北海道におきましても我が町もそうなんですが、現在、1次産業の生産者がなんといっても所得が少ないことが大きな課題であって、後継者がいないのもこのことに尽きると思います。とりわけ、我々のような山村地域で、我が町も82%森林ですが、特に1次産業の中で林産業界の縮小が一番大きな悩みです。加えて従事する方々が超高齢の産業になってきています。そこで、町としても基幹産業でありますので何とかこれを打開しないといけないということで色んな取り組みをしてきましたが、循環型森づくりを目指して早生木に着目し、平成19年度からポプラ・ケヤマハンノキ・カラマツ等に施肥をし、町は酪農、畜産の地域ですので豊富な堆肥を利活用して施肥し、循環型の育樹ができないかと考えた次第です。 実はこれらの樹種は利活用ができないといわれている樹種です。一昔前まではカラマツもどうしようもない樹といわれましたが、技術の革新によって集成木として今立派に利活用ができています。そうしたことを踏まえ、3種の樹種について、最初に肥料を与える、毎年肥料与え続ける、そして今までどおり肥料を与えない、この三つのパターンで3種の樹種の成長を検証しています。今面白い成果が出てきています。 そういう検証を行ってきましたが、平成20年度から22年度にかけて、北海道開発局の調査研究事業として、「北海道に適した新たなバイオマス資源の導入促進に関する調査」が始まりました。原油が高騰し、色んなものから油をつくる検証が始まった時期でもあります。ヤナギの栽培、収穫からバイオエタノールの抽出製造や「おが粉」として農業の敷料へ活用する調査、さらに木質チップ化し燃焼させる調査を、我が町、下川町、弟子屈町とが連携して行ってきました。 検討内容は、 ・未利用資源であるヤナギを3〜5年周期で収穫する大規模栽培技術を確立し、木質 バイオマス資源として利活用すること ・「おが粉」として農業の敷料への活用、さらに農林業の肥料として活用するなど、 循環型農林業を確立すること ・地球温暖化防止のための再生可能エネルギーとして、直接燃焼による木質バイオマ スとしての可能性を検討すること 次にヤナギの利活用の方向性ということですが、図の@とAの二つあります。 一つ目は「おが粉」として利用するものです。酪農、畜産地域ですので、敷料として大量のおがくず、おが粉が必要ですが、近年住宅需要が段々減少していて、おが粉はそれらの副産物、廃棄物でありますので、減少しています。加えて、燃料が高騰しているものですから、暖房用も含めて燃焼させるという方向に利活用が出てきており、おが粉としての利用が不自由になってきており、おが粉が逼迫している状況にあります。十勝方面では「長いも」に敷く敷料も本当に不足するという現状が出てきました。ここ2〜3年、原木からおがくずを作らなければならない事態になっています。 それに関して、@の右側の表をご覧下さい。間伐材として利活用するカラマツの買取価格は以前は1m3当たり4,000円程度でしたが、現在は平均で4,500円程度になっています。これを専門におがくず化、おが粉化しますと、販売価格が約8,500円程度となり、この差額でおが粉製造の企業が成り立つという現在の状況であります。 これにヤナギを活用できないかというのが、この研究の課題でした。結果は、代替えとして立派なおが粉の利活用につながるということが分かりました。ヤナギについては原木価格が現在未定となっていますが、来年の春には実証実験を重ねていますので単価が出ると思いますが、おそらくどう考えても1m3当たり1,500円程度ではないかと思っています。おが粉の販売価格では同じく8,500円、ヤナギは敷料として使用する場合は皮と木を分離することなく、一緒におが粉の機械に入れて立派におが粉が敷料として使用できることが立証されています。従いまして、この比較をした時に、価格的にもヤナギの方が経営としても優れる。 また、なによりも大事なことは広葉樹であることです。北海道のおが粉は針葉樹なものですから堆肥化して土に戻すとヤニ分があって中々腐らない。ところが、ヤナギは広葉樹ですからとっても早く腐食するということで環境、作物にも優しいという大変大きなメリットがあります。従って、ヤナギはおが粉として立派に代用として成り立つことが実証されたというふうに思っています。 二つ目には、木質バイオマスの火力発電ということでありますが、ご承知のように、今回、国の方で法案が通りました。現在、2月に向けて買取価格、いわゆる風力、太陽光、地熱、小水力そしてこのバイオマスこの五つの買取単価が出ることになっています。 この買取価格が前提ということでありますが、これは三菱商事の現在の試算でありますが、適正な単価で買い取りが可能となった場合、74,000kWの発電所を建設した場合、およそ100億円の建設費がかかるだろう。その時に、原料としてチップ、木質を使用するわけですが、今、政府の方では、バイオマスの発電には、製紙業界とかに影響を与えないことを前提としていますから、おそらく輸入チップは使用しないということだと思います。 ヤナギに当てはめた場合、年間約41万tを必要としますが、それに必要な土地の面積は約2万haです。3年毎に収穫する場合には3倍の6万haを必要としますが、私達道東方面だけでそれらの面積は、未利用地が沢山ありますので、十分対応できると思っています。考えますと、北海道には3ケ所くらいの発電所ができると大変大きな新たな産業につながっていくのではないかというふうにも思っています。そういう可能性が出てまいりした。加えて、私共、今回改めて勉強したのですが、今、ヨーロッパ、特にイギリスとか北欧の国では完全にヤナギを使った発電施設がもう出来ているのですね。木質は全てヤナギということです。そういう実績もあるということですので、今後、このヤナギが大いに地域にとって、あるいはまた我々山村もそうでありますが、北海道にとっても意義のある資源につながっていくのではないかと思っています。いずれにしても、この未利用資源でありましたヤナギを未利用の用地が沢山あるわけですので、そこに殖やしていって、そして地域の活性化につなげていきたいと思っています。 その中で実は課題が二つあります。一つは、未利用地の中には色々ありますが、湿地でもどこでもヤナギは可能ですからそれはいいのです。耕作放棄地等の農地にヤナギを植えようとすると、これは原則駄目なんですね。しかしながら、なんとか、このヤナギというものを今回はそうではなくて作物としてみていただけないかということを、今、北海道庁を含めてこれから要請をさせていただく段取りにもなっています。そういうところが見直されていけば、このヤナギが大いに今後地域の活性化につながるものと考えています。 結びになりますが、我々今一度足元、原点を見つめ直した時に、我々、未利用資源、未利用の用地を使いながら新産業の創出に結び付け、そして山村地域の活性化につなげていく、こういう取り組みを現在進めさせていただいていることを報告させていただきました。 |