農林水産省においては、平成20年7月に、有識者による耕作放棄地対策研究会(座長:三野徹 京都大学名誉教授)を設置し、耕作放棄地の再生・利用の推進について議論を進めてきたが、このほど、同研究会より「中間とりまとめ」として提言がとりまとめられた。その概要は次のとおりとなっている。

耕作放棄地対策研究会中間とりまとめ
〜耕作放棄地の再生・利用に向けて〜
要      旨

T 研究会の目的
 農地は農業資源として有効に利用されなければならないものであるとの認識の下、農地の確保と有効利用のための制度・実態両面の検討事項のうち、特に耕作放棄地の再生・利用の取組をより一層推進する観点から、耕作放棄地を誰が利用し何に活用するのか、その際の課題は何か、解消の取組に係る有効な仕掛け方は如何なるものか等を整理するとともに、新しい発想やヒントをとりまとめ、耕作放棄地解消に取り組む機運を全国的に高めることについて検討

U 耕作放棄地を取り巻く現状
1.耕作放棄地の発生とこれまでの対策

耕作放棄地の面積は、1975 年以降、農林業センサスにより5年おきに把握されており、その推移をみると、85 年までは約13 万ヘクタールで横這いであったものの、これ以降増加し、05 年には38.6 万ヘクタール

耕作放棄地は、農業生産にとって最も基礎的な資源である農地の確保・有効利用による食料供給力確保の支障となっているほか、農業の有する多面的機能の低下、地域住民の生活環境や、都市住民との交流等に対する悪影響といった観点からも、その発生防止と解消を図ることが喫緊の課題

これまで、耕作放棄地の農業上の利用の増進を図るための所有者等への指導等法的措置を体系化する農業経営基盤強化促進法の改正、中山間地域等直接支払制度や農地・水・環境保全向上対策による耕作放棄地の発生防止のほか、担い手等への農地利用集積や新規参入の促進、基盤整備や鳥獣被害防止による生産性向上等を推進
2.食料供給力強化の観点からみた耕作放棄地対策

小麦、とうもろこし、大豆の国際価格は2006年秋頃より、また米の国際価格は07年秋頃より高騰し、それぞれ08年に入って史上最高値を更新。輸出国による輸出規制の動きもあり、我が国の食料供給力を強化することの重要性が改めて認識

我が国のカロリーベースの食料自給率は、先進国中最低の40%前後に低迷。最も基礎的な生産基盤である農地については、1961 年の609 万ヘクタールをピークに、転用、潰廃等により一貫して減少傾向にあり、07 年では465万ヘクタール

国際的な食料事情が不安定化する中で、国民への食料の安定供給を図っていくためには、限りある農地の確保とその最大限の有効利用を推進することが不可欠であり、食料供給力の強化の観点から、農業上重要な農用地区域を中心として耕作放棄地の再生・利用を追求することが必要

V 耕作放棄地全体調査、解消計画の策定

耕作放棄地の状況については、農林業センサス(農家等の調査客体が調査票に自ら記帳する属人調査)により農業地域類型別、農家・土地持ち非農家別の面積が把握されている。また、農業資源調査では、市町村が属地調査により把握した農用地区域内の耕作放棄地面積を集計しており、07 年結果は12.5 万ヘクタール

しかしながら、解消対策を講ずる上で必要な耕作放棄地の所在・地域区分、荒廃の程度、即ち農業上の利用が可能なのか非農業的利用を検討せざるを得ないのか等の基礎情報は正確には把握できていない

このため、国と地方が一体となって、本年中に状況を把握し、その上でそれぞれの状況に応じた対策を講じていくとの考えから、農林水産省は、全体調査の実施、農地・非農地の振り分け、解消計画の策定を市町村等に要請

本調査においては、耕作放棄地の状況を把握し、個々の土地について以下のとおり区分
@ 人力・農業用機械で草刈り等(刈払、抜根、耕起、整地、土壌改良等)を行うことにより、直ちに耕作することが可能な土地
A 草刈り等では直ちに耕作することはできないが、基盤整備を実施して農業利用すべき土地
B 森林・原野化している等、農地に復元して利用することが不可能な土地

上記調査により@、Aに区分された耕作放棄地は、今後の解消の取組の対象となるものであり、市町村・農業委員会・農地保有合理化法人・JA・土地改良区等において、個々の耕作放棄地の農業上の利用の分類や方向性を話し合った上で、市町村において「解消計画」を策定

W 耕作放棄地対策に必要な検討事項
1.地域の課題と取組

耕作放棄地解消には多くの課題・困難があるため、現状では、解消の取組は全国に普遍的に展開するには至っていない。地元関係者の意見や地域主体の取組事例から、取組の重要なポイントは「多様な主体の参画・協働による合意形成」「導入作物の検討・販路の確保」「土地条件の整備」

2.耕作放棄地対策の推進本格化に向けて検討すべき事項
(1)多様な主体の参画・協働による合意形成

地域において所有者の意向把握、耕作者の確保等の再生・利用に向けた話し合いや、関係者の役割分担や負担調整等の合意形成に中心的な役割を果たす「取組主体」は、

都道府県、市町村(商工、観光等の他部局を含む。)、農業委員会、農地保有合理化法人、JA、土地改良区等の農業関係団体

中山間地域等直接支払制度の協定集落や農地・水・環境保全向上対策の活動組織等の農業者等団体

担い手その他の周辺農業者

地域住民、NPO法人、都市住民

集落支援員 等

復旧後の耕作放棄地の「利用主体」となる耕作者(利用者)は、

担い手その他の周辺農業者、特定法人、新規就農者・定年帰農者、集落組織等

放牧地・草地として利用する畜産農家等

都市農村交流や市民サービス等の観点から市民農園や教育ファーム等を開設・運営する市町村、NPO法人、都市的地域の農業者

景観作物や緑肥の植栽等を行う農業者、集落組織、地域住民等

農地の保全管理を行う集落組織、地域住民 等

これらの主体が、地域の実情に応じた適切な構成でネットワークを構成し、各主体の役割分担・協働(各々の強みの発揮と相互の補完)により、耕作放棄地の再生・利用に向けて、

所有者の態様(農家、土地持ち非農家等)に応じた参画・役割分担

利用者の確保とそのバックアップ

導入作物の検討、販路確保、地産地消に係る消費者との連携

土地条件の回復等(営農可能な状態への回復に加え、必要に応じ、用排水施設、農道等の基盤整備や鳥獣被害防止施設の整備)
等について地域ぐるみで取り組んでいくことが重要

取組事例にみられる多様な主体の発意・創意工夫、各主体間の情報共有・協働取組を全国各地へ展開させるべく、地域における合意形成・計画策定に基づく取組を促進する方策を検討する必要

なお、近年、新規就農・定年帰農を促進するための支援が充実されるとともに、農地のあっせんという観点からの農地情報の収集・発信システムの構築が進められており、都市住民等が耕作放棄地の利用主体として参画する取組を促進するべく、耕作放棄地に関する情報を含め、システムで公開する内容の充実を図っていく必要

以上のほか、農地の有効利用に向けた取組に当たり障害となっている不在地主の意向の確認、これを踏まえた農地の所有者からの委任・代理等の方式による面的集積、受け手が確保されるまでの一定期間の保全管理等に対する支援を検討する必要
(2)導入作物の検討・販路の確保

導入作物の検討や販路の確保は、耕作放棄地再生利用の極めて重要な要素であり、食料供給力の強化の観点から、耕作放棄地の再生・利用を促進・確保するため、

米粉・飼料用米や麦、大豆等の生産拡大への支援、

地産地消やまちおこし等の観点からの地域ぐるみの振興作物選定を促しつつ、資機材等の初期投資や導入作物の適性確認等を一定期間支援すること
等について検討する必要
(3)土地条件の整備

耕作放棄地は、放棄されていた期間の経過年数に応じて雑草や灌木が繁茂し、また、土壌が劣化し、さらには廃棄物の不法投棄等もなされる場合が多いため、その再生利用に向けては、営農可能な状態に回復することが必須であるが、そのための費用や労力の負担が耕作放棄地再生・利用のネック

また、基盤整備が実施されていないことや鳥獣被害が耕作放棄地の発生要因の一つとなっている場合には、営農可能な状態に回復する活動だけではなく、生産基盤や鳥獣被害防止施設の整備も必要となるため、地域の実情に応じた支援が必要

この他、耕作放棄地の用途として、放牧地・草地、市民農園等が考えられ、耕作放棄地を営農可能な状態に回復する活動の支援とともに、用途に応じた条件整備の支援策を講ずることについても検討する必要
(4)施策の総合化

耕作放棄地再生・利用の取組を加速させるためには、国と地方の役割分担を明確にし、また、多様な主体の参画とその合意形成の下で取組を推進する体制を地域に構築することを前提として、
@ 再生に必要な調査、所有者と耕作者との間の調整、関係者の役割分担や負担調整等の合意形成活動
A 耕作放棄地を営農可能な状態に回復するための活動
B 導入作物の選定、販路確保の活動
C 再生した農地での営農のための資機材に係る初期投資や導入作物の絞り込み・適性確認等、営農の定着のための活動
@ その他必要に応じて実施する用排水施設、鳥獣被害防止施設、加工施設・直売所、牧柵、市民農園・教育ファーム等の整備
について、総合的・包括的なメニューから必要に応じて自由に選択し機動  的に実施し得る支援策を、
E 食料自給率の向上に資する米粉・飼料用米や麦、大豆等の生産拡大に対する支援
F 農地の所有者からの委任・代理等の方式による面的集積、受け手が確保されるまでの一定期間の農地の保全管理等に対する支援
とともに、総合的な政策として推進することを検討する必要

X 耕作放棄地解消運動の展開

本研究会における検討結果を踏まえた地域の取組を支援する施策の展開、手引き書の作成、地域の取組に係る優良事例のとりまとめ

地域の農業関係者のみならず、地域住民、都市住民に対しても、耕作放棄地解消の必要性・取組み方針等を情報発信するとともに、NPO、企業等による農村協働活動の促進を図る方策を検討し、多様な主体による取組の気運を醸成していく必要

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