国土交通省は、「豪雪地帯における安全安心な地域づくりに関する懇談会」を設置し、豪雪地帯の高齢化、過疎化が進む中、豪雪対策をどのように進めるべきか検討してきた。
 1月から4回開催された懇談会で取りまとめられた提言が公表された。概要は次のとおりである。

「豪雪地帯における安全安心な地域づくりに関する懇談会」の提言

はじめに
 今年の豪雪は、例年より降り始めが早く、平成17年12月から平成18年2月にかけてたびたび日本海側を中心として広域で暴風を伴った大雪となり、各地で大規模な雪害をもたらした。気象庁が積雪を観測している全国399地点のうち、12月としての最深積雪の記録を106地点で、年間の最深積雪の記録を23地点でそれぞれ更新し、3月1日に「平成18豪雪」と命名された。
 また、雪害による死者は12月から1月を中心にこれまでに151名に達しており、昭和38年(死者・行方不明者231名)、昭和56年(死者・行方不明者152名)に次いで、戦後3番目となる甚大な被害に達した。そのうち、65歳以上の高齢者が2/3を占めているのがこれまでの豪雪とは異なる大きな特徴であった。
 国土交通省では、12月27日に豪雪情報連絡室、1月6日に豪雪対策本部を本省、関係地方整備局(東北・北陸)及び地方運輸局(東北・北陸信越)に設置し、雪害対策を講ずるとともに、道府県管理道路や市町村道の除雪費の補助を緊急配分する等の措置をとった。 豪雪地帯における人口減少、高齢化は全国平均に比べて進行しており、特別豪雪地帯において特に顕著である。豪雪地帯においては、逆都市化、郊外化による中心市街地空洞化により、中山間地のみならず、市街地においても雪処理の担い手が不足する状況が生じており、この傾向は今後一層進行することが予想される。
 また、約20年間、大規模な雪害が無く、近年の少雪化の影響と若年層の流出が進む中で、地域のコミュニティ内での雪対策、雪文化の継承がなされていなかったことも、今回の被害が拡大した大きな要因と考えられる。
 以上のことを踏まえ、今後の安全安心な豪雪地帯の形成方策について、国土の保全という観点も含めハ−ド、ソフトの両面にわたる検討が必要であることから「豪雪地帯における安全安心な地域づくりに関する懇談会」を設置し、検討を進めてきた。
 豪雪地帯の安全安心な地域づくりを考える上では、このような社会経済状況の変化を踏まえて、将来の国土や地域のありようまで議論することが求められる。しかし、これについては現在、国土審議会で審議されている国土形成計画の議論に委ねることとし、本懇談会においては雪害対策の緊急性に鑑み、現在そして将来、豪雪地帯が直面する過疎化・高齢化という社会的な課題も考慮しつつ、当面の対策を中心に取りまとめることとした。
 本提言をとりまとめるにあたり、意識した対象者は主に高齢者である。しかし、高齢者の安全安心対策に重点的に取り組むことにより、高齢者のみならず、全ての人々にとって安全安心な地域づくりが進むことを期待する。また、平成18年豪雪が特異なものではなく、今後、いつ発生するのかわからないとの前提で対応していく必要がある。

T.豪雪地帯を巡る状況と課題

1.豪雪地帯の過疎化・高齢化の状況
(1)全国平均を上回る過疎化・高齢化の進行
 全国的に人口が減少局面に移行しつつあり、少子高齢化が進行する中で、面積で国土の約半分、人口で約16%を占める豪雪地帯においては、人口減少、高齢化が全国を上回るペースで進行しており、特別豪雪地帯ではその傾向が特に顕著である。
 5年毎に実施されている国勢調査の結果によると、全国の人口は平成12年まで増加を続けているものの、豪雪地帯においては昭和60年をピークに減少傾向にあり、特別豪雪地帯においては更にその傾向が顕著になっている。平成12年の年齢3区分(〜14歳、15〜64歳、65歳〜)の状況を比較すると、年少者の比率は全国、豪雪地帯、特別豪雪地帯ともほぼ同じであるが、高齢者の比率は全国で約17%であるのに対し、豪雪地帯で20%、特別豪雪地帯で24%と差がついており、そのまま生産年齢人口(15〜64歳)の構成比に逆になって現れている。この過疎化・高齢化が、雪処理の担い手の不足、地域コミュニティの崩壊、地域の支え合いの力の減少、豪雪に対する地域防災力の低下などの状況をもたらす主要な要因となっている。
 結果として平成18年豪雪による死者が高齢者を中心に発生したことは、豪雪地帯が従来から抱える過疎化・高齢化の問題が、豪雪をきっかけに、より鮮明に顕在化した結果と捉えられる。
(2)全国平均を上回る高齢世帯の割合
 平成12年の国勢調査の結果によると、豪雪地帯の高齢世帯(高齢夫婦世帯と高齢単身世帯の合計)の割合は全国平均14.2%に対して豪雪地帯14.8%とやや高く、特別豪雪地帯では16.8%と顕著になっている。推移を見ても、一貫して増加し続けている。
 一方、平均世帯人員は、昭和55年から平成12年の20年間に豪雪地帯では3.5人から2.5人に、特別豪雪地帯では3.6人から3.0人にそれぞれ減少しており、世帯単位での雪処理が次第に困難になってきていることを裏付けている。
(3)過疎地における集落消滅の危機感
 全国の過疎地域(平成11年、過疎地域活性化特別措置法に基づく)において、集落がどの地域区分に多く存在しているかを見ると、東北と北陸では山間地(それぞれ 34.0%、47.8%)が最も多く、雪処理の効率が悪く、雪崩等による孤立の可能性が高い地域に過疎集落が散在している状況がうかがえ、各集落が地形的にも厳しい条件に置かれていることが推測される。
 一方、平成16年に全国の市町村を対象に実施したアンケート調査において「集落消滅の危機感を持っている」との回答があった自治体の分布をみると、北海道内陸部、道南地方、東北地方の日本海側、中部地方の内陸部、中国地方の日本海側といった雪の多い地域と重なっている部分が多い。
 また、平成11年に国土庁が全国の過疎地の市町村を対象として実施したアンケート調査において、過去に集落再編事業等を行った事業(空間的に移転)を見ると「積雪による集落孤立化を解消するため」を背景・理由としたものが上位に位置しており、過疎化・高齢化が進行する中で、雪処理の問題が集落を維持していく上での大きな課題となっていることが推測される。

2.雪による被害と雪処理の状況
2−1 雪による被害(特に人的被害)
(1)雪による死者の状況
 平成18年豪雪においては、雪害のために全国で151人(平成18年4月17日現在)の死者が発生した。これは昭和38年(死者・行方不明者:231人)、昭和56年(死者・行方不明者:152人)に次いで戦後3番目に多い数である。雪による死者は、その年の雪の量や降り方によって変動が大きい特徴がある。死者数が100人を超えたのは、昭和59年以来、21年振りであり、特に平成に入って以降は少雪傾向が続き、30名を超えた年は、平成12年、13年、17年の3回しかなかった。なお、これらの数には交通事故による死者や雪山、スキー場における事故等による死者は含まれない。
 死者の内訳を年齢別に見ると、死者151名中、65歳以上の高齢者が約2/3(98名)を占めており、特に70歳以上の死者数が82名と多くなっている。また、経年的に見ても高齢者が被害にあう割合が増加していること、高齢者の致死率が高いことが指摘されており、高齢者に対する事故対策が重要な課題となっている。
 死者の数を発生地域別にみると、市街地が約3割、中山間地が約7割を占めており、それぞれの地域特性に応じた対策が必要と考えられるが、特に中山間地での対策が求められる。更に、死亡事故に至らないまでも雪の事故に伴う負傷者の数は死者数の10倍を超え、今冬の豪雪による人的被害の数が膨大なものにのぼっていたことがうかがえる。
(2)平成18年豪雪の雪の特徴と人的被害
 平成18年豪雪は各地の降雪状況から20年ぶりの大雪となった。気象庁が積雪を観測している全国339地点のうち、23地点で年間の最深積雪の記録を更新し、106地点で12月としての最大記録を更新した。特に12月上旬以降、1ヶ月ほどの短期間に日本海側の各地が暴風を伴った大雪に見舞われて、例年に比べて雪の降り始めが早く、記録的な積雪・低温となったことが特徴であった。このため、除雪等に対する準備不足のまま雪の時期を迎えたこと、雪の脅威に対する不安も被害を大きくした要因の一つと考えられる。
 死者の数を原因別で見ると、除雪作業中の死者が全体の3/4を占めているが、これには、以下のような要因が考えられる。

@

過疎化・高齢化のため、高齢者自らが雪処理に従事するケースが増えた。

A

記録的な大雪によって雪処理の作業量が増大し、事故に遭遇する確率が高まった。加えて、地域全体で雪処理の担い手が不足したために、普段、雪処理をしない高齢者が慣れない作業を行わざるを得なかった。

B

連日の雪処理により、疲労が蓄積した。除雪作業中に心疾患等の疾病が原因で死亡したケースも多数報告されている。

C

単独作業中の事故のため発見が遅れた。

D

例年であればそれほど屋根雪下ろしを必要としない地域でもその必要が生じ、屋根に上って慣れない雪下ろし作業に従事した。

E

例年、雪が降らない地域への降雪により、雪止めが無い屋根からの落雪氷が生じた。

F

地域によっては降雪後の気温上昇により、雪の密度が例年に比べて大きくなり、雪処理の作業の負荷を大きくした。

G

例年は屋根の雪が自然に落下する状況でも今回は12月から1月中旬までの記録的な低温によって雪質の変化があり、固まって自然に落下しなかった。この雪が後になって塊になって落下するなど、通常より危険な状況下で雪処理を行わなければならなかった。

H

地域によっては街中の雪捨て場が不足し、雪を遠くまで運搬し、高く積み上げる必要が生じ、処理に伴う負担や危険性が増加した。また、固まって落下しない雪の過大な屋根雪荷重のために、家屋倒壊に至った事故もあった。
(3)住宅の構造形式と雪処理の関係
 平成18年豪雪の雪による死者のうち、除雪作業中が3/4を占めていることを見ても、雪による事故の危険性は、個々の住宅が屋根雪下ろしを必要とするか否か、落雪による被災を避けることができる構造になっているか否かなど、住宅の構造形式と密接な関係がある。
 平成12年に国土庁が実施した家屋周辺の除排雪実態調査によると、特別豪雪地帯に位置する福島県金山町沼沢地区では、60歳以上の占める割合が77%であるものの、克雪住宅の普及が63%にまで達している結果、屋根雪下ろしの平均回数は0.7回にとどまっており、克雪住宅の普及が屋根雪下ろしの負担の軽減や危険性の低減に対し抜本的で有効な手段であることが示されている。
 このため、国土交通省は、雪処理の負担の少ない克雪住宅の普及を促進してきた。近年、特別豪雪地帯の新規着工において、克雪住宅の1つである高床式住宅が占める割合は1割程度で推移している。
 中山間地の集落においては、住宅の更新頻度が一般に低く、克雪化が進んでいない。特に高齢者世帯の住宅の場合、克雪化のための経済的負担が困難であることや、建て替え意欲が小さいため一般の世帯よりも克雪化が遅れているとの指摘がある。
(4)エネルギー・人流・物流への影響 略
2−2雪処理の担い手
(1)雪処理の担い手の形態
 屋根雪下ろしの担い手は家族で行うほか、業者に頼む、知人に頼むことが想定される。
 平成14年の山形県の調査によれば、市街地から郊外、農山村部に行くほど「自分または家族で行う」ケースが増加し、農山村部では6割以上が「自分または家族」で行っている。また、60歳以上では、全世帯に比べて「業者に頼む」、「知人に頼む」というケースが多いが、「雪が積もらない」、「住宅の構造上不要」、「集合住宅で不要」といった回答が少なくなっており、結果として農山村部を中心に、自分または家族で行っているケースが多いものと考えられる。山形県新庄市で昭和61年に行った調査では、70歳以上としても3割近くが自ら屋根雪下ろしを行っている。
(2)平成18年豪雪における雪処理の担い手不足
 平成18年豪雪においては、短期間に記録的な大雪が広範な地域で降ったことから、中山間地の集落を中心に、地域によっては屋根雪下ろしなど雪処理の需要が一斉に発生した。このため委託すべき業者が不足するなど雪処理の担い手が確保できず、支援の必要な世帯に手が回らない状況が生じた。例えば、新潟県南魚沼市では、12月の記録的な大雪のために屋根雪下ろしをする業者の人手不足が深刻化し、2週間以上、順番待ちをする状況であった。業者側も連日フル稼働し、休日返上で作業をしているものの需要に応じきれない状況があった。また、屋根雪下ろしの費用も大幅に高くなった。
 このような中、高齢者が単独で作業をせざるを得ない状況となり、事故が発生した際に発見が遅れ、死亡するなどの結果を招いた。これに対応するには、屋根雪下ろしなど雪処理に対する地域内で支え合うことはもちろんのこと、今後はより広域的に担い手を確保していくことが必要である。
(3)関係機関による雪処理の支援
 平成18年豪雪においては、多様な組織による広域的な支援が行われた。新潟県においては県からの除雪広域応援要請により、消防本部および消防団、建設業協会から派遣された方々が要援護世帯の除雪作業を実施し、広域的な支援が大きな力を発揮した。
 消防本部及び消防団については、1月9日から15日の問で、県内の12の市町から消防署員や消防団員など延べ780名が出動し、十日町市や津南町など6市町において、要援護者宅の除雪作業を実施した。また、新潟県建設業協会からは、会員の協力により、除雪機械等の提供を受けるとともに、延べ294名が派遣され、要援護世帯の屋根雪等の除雪作業を実施した。自衛隊の災害派遣は、長野県、新潟県、秋田県、北海道、群馬県、福島県の6道県から災害派遣要請があり、孤立予想世帯、高齢者世帯、緊急車両の通行確保のための除排雪等を実施した。
 豪雪に係る災害救助法の適用については、新潟県では県内の11市町、長野県では県内の8市町村に適用した。これにより、自力では除雪を行うことができない者に対する住宅の屋根雪下ろし等の救助を国と県の負担で実施した。
 なお、市町村同士の協力については、災害時の応援協定に基づき雪のない地域の役所所員が雪国の自治体に入り、公共施設や民家の除雪活動を行っている事例があった。
(4)雪処理支援のボランティア活動の状況
 平成18年豪雪では、記録的な大雪の様子が大きく報道されたことから、雪処理を行いたいとするボランティアの問い合わせが多数あった。
 新潟県が募集している除雪ボランティア「スコップ」への登録者は、県内外から、千百人を超え、前年度と比べ1.5倍となった。しかし、熟練者のボランティアが不足し、経験のないボランティアについては、現地に入っても支援にならなかったケースもあった。このため、自治体によっては受け入れを行っていないケースもあった。
 雪処理作業は、落雪・落氷などによるケガや圧死、水路等への転落後に発見が遅れることによる凍死、除雪機械等による事故のリスクがある。このため、雪処理にあたっては一定の技能を有する者が、家屋の構造や周辺の地形等(水路や池など)を熟知して行う必要がある。このような事情から、当初から受け入れをしないと決めている自治体も多数あり、また、受け入れを行っている自治体でも比較的安全な作業に従事してもらっているのが現状である。
 また、豪雪地帯の居住者に対する第三者の雪処理についてのアンケートの結果によると、高齢者世帯等の除雪支援や生活道路の除雪、歩道の除雪について7割の人が関心があり、5割の人が参加意欲もあるものの、これまで実際に参加したことのある人は、生活道路の除雪が4割、高齢者世帯等の除雪支援では2割程度と少なくなっている。

3.冬期の地域と生活空間の状況
3−1集落などの状況
(1)集落の孤立の状況
 平成18年豪雪の記録的な大雪の影響で、一般国道405号は、雪崩の発生、雪庇の形成などにより、新潟県津南町、長野県栄村において通行止めとなった。このため、一般国道405号を唯一の生活道路としていた津南町、栄村の10集落193世帯501人が孤立した。1月8日から13日の問は終日全面通行止めが継続したほか、2月14日までの長期間に渡り、時間通行規制が継続された。
 通行規制を実施しつつ、雪庇処理作業の実施(自衛隊の協力)や専門家による調査、通行車両の安全確保(警察の協力)など、道路交通確保のための対策が講じられた。
 栄村側では除雪車両の燃料が不足し、自衛隊のヘリコプターによる補給が行われた。新潟県及び長野県では持病のある高齢者を診察するため、医師を派遣した。このほか、生活道路の通行止めにより、買い物、通院、通勤、通学など住民の日常生活のあらゆる面について大きな影響が生じた。
 一方で、高齢者世帯などの中には、冬の問の食料が備蓄されているなど、雪に対する備えがなされている世帯もあり、雪国の生活の知恵の有効性も指摘されている。
 今回の豪雪では、一般国道405号以外にも雪崩や倒木の発生、またはこれらの発生の危険性などのため、通行止めが発生しており、特に過疎化・高齢化の進展している中山間地において、冬期の安定した道路交通の確保が大きな課題となっている。
(2)雪崩 略
3−2冬期歩行空間、生活空間の状況
(1)冬期歩行空間と道路交通の状況
 平成18年豪雪の記録的な大雪により、地域によっては、街中においても通学路などをはじめとして歩道の除雪の遅れや、歩道が堆雪スペースとなってしまうなどの影響で、かろうじて確保された車道を歩行者が通行することを余儀なくされた。
 例年の冬期間においても、歩道の除雪が行われない区間も多く、雪国特有のバリアが存在する。今回はその課題が一層顕著に現れたといえる。また、歩道の確保は、歩行者の安全の確保に加え、住宅周りの雪処理においても除排雪作業を安全に、速やかに行う上で重要である。
 流雪溝や融雪槽等、雪を貯めない施設が計画的に整備されている地区では歩道も確保されており、効果的に雪を減らすための施設や仕組みの導入の重要性が示されている。ただし、これらの施設は使用できる時間が限定されることや、雪処理の作業をする担い手が高齢化して運用に困難をきたしつつあるなどの問題も指摘されている。
 一方、雪国では、日常生活においても自動車が主たる移動手段となっている状況にあるが、豪雪時には除雪業者の能力にも限界があることから管理延長の長い市町村道を中心に道路交通の確保が遅れ市民生活に多大な影響が生じているうえ財政的負担も大きい。
(2)冬期生活空間の状況
 平成18年豪雪においては、地域によっては、個別世帯の屋根の雪や敷地内に降り積もった雪の一時堆積場所、更には、これらの雪を捨てるための雪捨て場が恒常的に不足する状況が発生した。関係機関の協力で河川敷や公園等に新たな堆積場所が用意されたが、運搬にかかる経済的、体力的な負担は大きなものとなった。また、秋田市では今回の大雪で住宅地の公園410箇所を初めて雪捨て場として使用したが、堆積した雪の重さにより公園のフェンスや遊具が多数破損する等の問題が発生した。
 敷地内の雪と道路の雪を町内会と市町村が協働で運搬するような、住民と行政の パートナーシップによる雪処理が行われている地域においては、他の地域と比べて雪の量が少ない状況が見受けられた。2−1(3)で示したように克雪住宅や既設住宅の克雪化による雪に強い住宅市街地や集落の形成は、雪による事故や負担の軽減を図るため、有効な手段であることが改めて示された。
 また、下水再生水や下水道施設を活用した雪対策が一部の地域で行われており、例えば、新潟県湯沢町では、下水処理場に貯水槽、送水ポンプおよび送水管を整備し、下水再生水を消雪パイプまで導水し、道路の消雪用水として活用している。また、新潟県妙高市では、公共下水道の雨水排水路に投雪口を設置し、冬期間に流雪溝としても活用している。青森市においては公共下水道の汚水渠に投雪口を設置し、下水道の管渠を雪対策に利用しているほか、札幌市では雨水調整池を冬期には融雪槽として活用している。これらの取り組みは街中の雪の総量を減らし、市街地、住宅地における地域住民の除排雪に係る負担軽減、歩行空間の確保の上で有効であることが示された。

U.豪雪地帯において実施すべき安全安心対策

1.雪に強いまちづくり・地域づくり
1−1雪に強いまちづくり
(1)雪に強いまちづくり
 高齢者の安全安心対策を考える上では、歩行空間を確保し、雪処理にともなう危険や負担を軽減するハード面の整備と道路管理者等の関係機関や地域住民との連携によるソフト面の施策を併せて推進すべきである。
 先ず、ハード面の整備に関しては、雪に強い住宅地等の形成のため、広幅員道路の整備、電線の地中化、雪捨て場の創出などの都市構造における対応や、消融雪施設、流雪溝などの施設の整備および都市内の中小河川等への消流雪用水の導入による雪の総量を減らす対応がこれまでも着実に実施されてきているものの未だ十分ではなく、一層の整備が必要である。また、雪処理などの作業において、雪捨て場の確保は不可欠であるため、住宅市街地やその近傍の空き地の利用、河川敷の利用について柔軟に進めることが必要である。ただし、堆雪時に設備の破損や廃棄物の不法投棄が発生する可能性もあるため、降雪前の事前の準備、堆雪の仕方、管理方法、利用者のマナーの徹底等について留意する必要がある。
 住民や企業等と市町村の協働による除排雪、雪処理におけるマナーの確保などを含め、円滑な雪の処理と安全安心を確保するため、住民、企業、行政などのパートナーシップ、適切な役割分担が一層必要とされており、各種の制度、相互理解、協働の構築などのソフト対策を引き続き推進する必要がある。
(2)冬期歩行空間と道路交通の確保
 雪国では、積雪によって歩行空間が狭められる、あるいは、路面の凍結によって、転倒の危険性が増すなど冬期特有のバリアが存在する。このため、駅周辺や中心市街地等で歩行者の多い地区において横断歩道周辺の雪対策、スロープの凍結対策、堆雪幅の確保、バス停周辺の雪対策等を引き続き地域の状況に即して重点的に実施すべきである。
 特に雪の多い地域においては、堆雪場所が満杯になるなど雪捨て場の不足が課題となるため、消融雪施設、流雪溝など雪の量を減らす施設の導入が有効である。新潟県長岡市では、消雪パイプを歩道に設置し、車道側に流すことで、歩道を確実に融雪する取り組みも行われているが、このような地域独自の取り組みへの支援策が望まれる。これらの施設の導入にあたっては、工場廃熱や温泉熱、下水再生水の利用など環境に配慮したエネルギーの活用やライフサイクルコストの検討なども必要である。
 また、歩道の確保は、歩行者の安全の確保に加え、住宅、建物周りの雪処理においても除排雪作業を安全に、速やかに行う上で重要である。一方、豪雪時においても、一定の道路交通を確保し、市民生活への影響を最小限にとどめるためには、事前に豪雪に備えた除雪体制を整備しておくべきであり、特に除雪業者の確保及び各道路管理者間の連携が必要である。
(3)下水道による雪対策

街中の雪の総量を減らすためには河川水、海水、温泉水等それぞれの地域で活用可能な掃流、融雪用水を確保し、積極的に流雪溝の面的整備を進めることが望ましい。 中でも下水再生水は、冬期でも10度から15度の水温を有し、水量が安定していることから、流雪用水としては河川水と比較して詰まりにくい、融雪用水として利用可能などの利点があり、下水再生水の活用により融雪用水に利用される地下水の保全にも資する。このため、雪対策における下水再生水の活用を積極的に推進していくべきである。

 また、下水道の管渠等を活用した消融雪施設、融雪槽等の整備により、雪対策を低コストで行うことが可能であり、その取り組みを推進すべきである。

 これらの対策により、街中の雪の総量を減らし、市街地・住宅地における地域住民の除排雪に係る負担軽減、歩行者空間や生活空間の確保、堆雪による交通障害の排除、効率的な排雪処理対策の実施などを図ることが可能である。このため、下水道整備の際に積雪対策を考慮した整備を行うなど下水道施設等を活用した雪対策による積雪期の安全確保を引き続き推進し、取り組みのより一層の拡大を図るべきであり、国は、これらの取り組みを積極的に支援していくべきである。

1−2雪に強い地域づくり
(1)冬期道路交通・海上交通等の確保
 中山間地は高齢者の比率が高い集落が多く、集落の孤立による地域住民の生活に与える影響は大きい。日常物資の供給、医療機会の提供など基礎的な生活条件を確保す  るとともに、関係機関等の連携による雪処理の広域的な支援を円滑に実施するため、  特に迂回路のない生命線道路について安定した冬期の道路交通の確保が喫緊の課題である。 このため、道路管理者は、道路の除雪と雪に強い道路の整備等が必要不可欠であり、著しい積雪、雪崩、吹雪、吹きだまり、視程障害等の事象に対し、除雪、スノーシェッド等の防雪施設の整備、道路の幅員を拡げ堆雪幅を確保するなどにより冬期の道路空間を確保する対策が引き続き必要である。
 また、離島地域はもとより、半島等沿岸域の、陸上輸送路が限られ、海上輸送が有効な沿岸地域においては、陸上交通のみならず、海上輸送による代替輸送を確保する等の対策を行うことも必要であり、そのために必要な施設の確保を図る必要がある。
 さらに、記録的な大雪や地域的な豪雪があった場合には、今後も一時的な孤立が発生することが予想されることから、道路管理者は、早期の道路交通の復旧のための各種対策を迅速に進めることが必要である。
(2)孤立集落対策
 孤立集落の発生時においては、適切な救助、避難、物資供給を行うことが必要とされるため、各市町村においては、周辺市町村との協力関係の構築を進めることが必要である。
 孤立の可能性のある集落においては、孤立しても住民が支え合い冬を乗り切ることができるよう、備蓄の推進等を通じ、地域防災力を強化することが必要である。雪国の安全安心な暮らしに対応し、食料品の備蓄、暖房や除雪機械のための燃料の備蓄が必要である。また、医薬品、救助用器具など、集落内で最低限の応急措置がとるための備蓄も進めておく必要がある。
 更に、孤立した集落に対して、雪上車や海上交通、ヘリコプター等による住民の救出、アクセス道路の復旧までの集落への物資供給を行うことが想定されることから、実際の救助、避難、物資供給に備えて、雪上車の配備やヘリコプターの夜間運用、災害箇所の情報収集能力の充実を図る必要がある。
(3)雪崩対策 略
1−3雪に強い集落・住宅づくり
(1)克雪住宅の普及、既存住宅の克雪化
 高齢化の進展を踏まえ、屋根雪下ろしなどの雪処理における危険と負担を軽減するため、既存住宅の克雪化を含めた克雪住宅の普及や高齢者の居住に適した集合住宅の整備を促進し、雪に強い住宅市街地の形成を進めるべきである。
 克雪住宅に対しては、これまでも国や一部の県において助成を行っており、例えば新潟県ではこれまでに1万3千件の実績がある。しかしながら、特に高齢者世帯が暮らす既存住宅の克雪化にあたっては、以下のような点から抵抗感が大きいものと考えられる。

@

 少雪年では必要性が相対的に低い

A

 業者等による屋根雪下ろし費用と比べて、初期投資、ランニングコストのトータルコストが高い

B

 世代間で住み続けることの不確実性
 このため、コスト縮減、安全性確保などの課題に対応した克雪住宅の普及促進や地域住宅交付金等の公的な支援の活用に積極的に取り組むべきである。
 例えば青森市では、屋根や敷地への融雪施設の設置等による克雪化を促進するための支援制度を設けており、年代を問わず広く利用されている。
 更に、平成18年豪雪の実状などを踏まえ、福祉施策との連携なども考慮した豪雪地帯の高齢者の安定的な住まい方について検討する必要がある。
(2)雪に強い集落の形成
 中山間地の集落については、住宅の克雪化の進んでいない集落があり、過疎化・高齢化が進む中、屋根雪下ろしなどの雪処理の担い手不足や、大雪に対する防災力の低下に対して、克雪住宅の普及や既設住宅の克雪化など雪に強い集落の形成が必要である。
 中山間地の集落においては、住宅の更新頻度が一般に低い傾向にあるものの、既存住宅の克雪化により、現状の負担や事故の危険性を減少させることは可能であり、落雪屋根への変更や融雪装置の設置などが有効であると考えられる。地域条件、気象条件など地域の状況に適合した克雪化手法の採用が肝要である。
 更に、市町村は、住み続けることを可能とする手法について、個別住宅の克雪化のみならず、雪に強いコンパクトな集合住宅の導入も含めた様々な住まい方について、高齢者や地域の住民も参加した上で、平成18年豪雪の経験を踏まえながら検討を進める必要がある。団塊の世代をはじめ、今後新たに居住することが期待される人々を呼び込むことも想定し、地域外の人々との普段からの交流により、住み継いでいけるような地域づくりを考えていくことも重要な視点である。この際には、人口減少で余剰となる各種既存公的施設の活用も検討すべきである。
(3)冬期居住施設の整備
 高齢者が安定して住み慣れた土地に住み続けるにあたって、冬期間の雪処理や生活に不安のある高齢者が冬期間だけ移住をすることも一つの選択肢として有効であり、必要に応じ高齢者の意向などを踏まえた冬期居住施設の整備を進めることも必要である。
 冬期居住施設は、入居した高齢者にとって、冬期間に積雪の中で過ごすことの生活の不安が和らげられるとともに、都市的なサービスの近傍に居住できること、医療機関などが近くになることから安心できるなどのメリットがある。冬期間の居住が利用可能な施設として生活支援ハウスなどがあるが、その数は決して多くはないことから、必要に応じて福祉施策と連携した冬期居住施設の整備を進めることが重要である。
 平成18年豪雪のように記録的な大雪により、中山間地の集落において雪処理が間に合わず、安全安心の確保が難しい場合には、冬期居住施設による対応を進める必要があるが、その導入にあたっては冬期居住に関する本人の意向が前提となり、この他、一時的に空き家になる自宅の雪処理方法、地域コミュニティの継続性など様々な面から検討をする必要がある。このため、高齢者の冬期間だけの移住については、市町村が中心となり、その地域に暮らす高齢者や地域の住民などが参加しつつ、雪のない季節から地域において十分に時間をかけて検討を進める必要がある。更に、その推進に向けて支援策を検討する必要がある。
 冬期居住施設や大雪時に一時避難所として活用できる施設について、人口減少で余剰となる各種既存公的施設の活用、夏期における有効活用などを含め、多様な視点からその可能性について検討を進めることが必要である。また、冬期において、集落内の比較的大きく安全な住宅を一部公費で借り上げ、風呂、台所、暖房等を整備し、豪雪、雪崩の危険等のある場合、集落住民の避難住宅として活用する方策も検討すべきである。
(4)屋根雪下ろしの支援
 屋根雪下ろし費用に対する国の支援については、豪雪により多大な被害を受けた地方公共団体の資金需要に対し実施されており、引き続き適切に実施する必要がある。
 また、災害援助法の適用により、短期間の異常な降雪及び積雪による住家の倒壊またはその危険性の増大などに対して自力では除雪を行うことができない者に対する屋根雪下ろしなどの救助を国と道府県の負担で実施することが可能であることから、住家の倒壊等による被害を防ぐために今後とも適切な法の適用が必要である。
1−4新技術の開発、普及
 雪に強いまちづくり、地域づくりを進めるための以下のような新技術の開発や普及を引き続き進める必要がある。

@

 流雪溝や融雪槽の整備は雪の総量を減らす有効な手段であり、一層の普及が必要である。下水の温度の高さを有効利用した流雪溝、融雪槽や、既存の下水管渠等の活用などコストを抑えた施設の整備が一部で進められており、今後、より一層の普及促進を図るため、技術開発を行う必要がある。

A

 無散水の消融雪施設に対する潜在的なニーズは高く、初期コスト、ランニングコストの低減が課題となっている。自然エネルギーの活用を試験的に着手されているものの、効率性や初期コストの点で問題があり、一層の技術開発が必要である。

B

 屋根雪処理に関する技術は、民間主導で研究開発が進められており、散水消雪方式、無散水融雪方式等、様々なタイプが商品化されている。今後は、市町村等が、地域住宅交付金を活用するなどにより、積極的に克雪住宅の普及促進に努めることが期待される。なお、人力に代わって機械設備による屋根雪下ろしも考慮の余地がある。レスキューロボットに代表される新技術の進展状況を見据えつつ、人を危険な作業から解放する技術の開発を推進する必要がある。

C

 建築物や橋梁、電線からの落雪、落氷が事故になるケースもあり、危険箇所の個別の対策とともに、新たな問題が生じないような技術の開発と対策を積極的に進める必要がある。

D

 市街地の除排雪については、豪雪時に多くの市民が関心を寄せており、更なる効率化が求められている。青森市では、主要幹線の除排雪車両へのGPS端末装着による除排雪車運行管理システム並びに除排雪作業状況のインターネット上での公開を目指す除排雪完了情報提供システムの構築を進めており、今後の普及が期待される。

E

 雪崩の発生予測技術に関しては、総合科学技術会議において科学技術振興調整費による緊急研究開発等として「2005-2006冬期豪雪による雪害対策に関する緊急調査研究」を指定した。この研究では、独立行政法人防災科学技術研究所が中心となり、精密な広域積雪深情報の収集及びこれを用いた雪崩発生予測の高精度化について検討を行い、その結果をもとに、行政を含む専門家からなる検討会において、今後の雪崩対策や融雪期の出水・土砂対策等について検討することとしており、その成果が期待される。研究の推進によって雪崩ハザードマップの精度を向上し、活用していく必要がある。

F

 基礎資料となる降雪、積雪データについては、現在、各機関が個別に計測機器を設置してデータ収集を行っているが、今後、防災、減災を目指し、地域の効率的雪対策のために冬期における気象情報、道路情報、交通情報等を一元化して、国民が利用し易い情報提供のあり方を検討すべきである。このために実施する主体組織や関連機関の連携についての検討が緊要である。

2.雪処理の担い手の確保
2−1地域コミュニティによる対応
(1)個人の対応と地域の対応
 個人の家屋および家屋周辺の雪処理については、先ずは自助の原則に基づき、個人またはその近親者の責任において行うことが求められる。
 しかしながら、大雪時には高齢者世帯などでは個人の能力を超えた量の降雪となること、さらに地域全体が大雪に見舞われることにより近隣に雪処理の担い手が見つからなかったり、後回しになったりする状況が発生する。また、今後は空き家の増加も予測されており、屋根雪の落下等による被害も想定されるが、この対策の担い手も課題となっている。
 これらの傾向は地域の過疎化・高齢化の進行が著しい中山間地においてより顕著に現れており、大雪時には地域全体として雪処理の担い手が不足する状況が発生する。この場合、平成18年豪雪時のように、高齢者が単独で危険な雪処理を行わざるを得なくなり、事故に遭う危険性が高くなることが懸念される。個人では対応が難しくなるため、自主防災組織などの地域コミュニティ、更には市町村等、行政による対応が必要となってくる。平時から大雪を想定した地域住民による体制の充実や、支援のための仕組みづくりを進めておくことが必要である。
(2)地域コミュニティによる対応
 自助の次の段階として、冬期における共助としての雪処理など、自主防災組織などの地域コミュニティによる対応が重要である。
 今後、高齢者にとっては顔の見える範囲であり、対象者に最も近いものとして、地域コミュニティによる対応の必要性がより高まるものと考えられる。また、より広い範囲からの支援、派遣などの対応や末端における受け皿の機能が期待され、これら組織の構築や充実が重要である。
 町内会が直営で行う場合、その他の既存組織が行う場合、新組織が結成される場合などが想定され、地域の状況によって対応は異なるものと思われるが、対象者の把握や人材の確保に対して、町内会や社会福祉協議会の協力・支援体制があることが望ましい。更に、除排雪業者や市町村との連携が不可欠である。
 山形県では、地区住民が協働して除排雪作業を実施している地区についてアンケート調査を行い、モデル事例をもとに地域コミュニティの連携のあり方やポイントをまとめている。この調査を通じ、自治会、民生委員、消防団といった地区内の組織の連携とともに、市町村や社会福祉協議会、ボランティア団体等外部との連携のあり方が重要であることが指摘されている。
2−2関係機関の連携
(1)地方公共団体
 地方公共団体は、地域防災を担う上で、地域と密接な関係を持ちつつ、関係機関と連携しながら地域防災を進める主体であり、豪雪においてもその役割は大きい。地域の事情に合わせた対応策を適宜、選択し、実行していくことが求められる。
 このためには、市町村は、平時から大雪によって孤立する可能性のある集落、被災リスクの高い者、要援護世帯を事前に把握しておくなど、準備をしておくことが必要である。地域によっては要援護世帯など雪処理の支援が必要な世帯に対する費用の支援、担い手の紹介などのサービスを実施しており、地域の状況に応じた支援策が望まれる。
 また、道府県は、要支援世帯について市町村からの要請をとりまとめ、必要な人員や除雪機械を把握するとともに、これに対応できる消防本部、消防団、建設業協会、関係行政機関に対して応援要請するなど、広域的な応援をする際にその役割が大きい。今後一層の役割の強化や事前準備、早期着手などが期待される。
 大雪時には周辺市町村も含めた広い範囲において雪処理の担い手が不足するため、気象の異なる地域や都市との相互理解による防災協定の締結など地域間の支援体制、協力体制の確立が一層必要となっている。
 大雪は、予報などにより事前にある程度把握できること、屋根雪下ろしなどの雪処理の作業はある程度の積雪となってから始めることなどの理由により、前もって準備することが可能である。関係機関の連携や広域的な応援などの体制づくり、準備の早めの対応が必要である。
 大雪となる過程においては、被害の広がりや社会に与える影響などが現れる前に積雪が増加し続けるなどの事態が進行する。災害であるとの認識がないと豪雪対策本部の設置がなされないという実態はあるものの、被害が出はじめてからは関係機関が多忙を極めるという状況もあり、早めに広域的な支援の準備を始めるなどの配慮をすることが必要である。豪雪対策本部などの本部体制による対応によって、指揮命令系統が明確になり通常体制より迅速かつ総合的な対応が可能となる。地域防災計画等において雪害を想定した具体的な対応策をあらかじめ立案することとあわせ、適宜、適切な体制の構築が引き続き必要である。
(2)消防本部、消防団の広域的応援
 地域の消防職員、消防団は豪雪においても、被害の予防や救助をはじめとする各種の防災活動の主要な担い手であり、今後ともその役割は大きい。豪雪による災害や災害の発生が予測される場合においても、各地域内の状況や本来業務への影響を十分考慮のうえ、スムーズに消防の広域応援体制を充実するために普段からの連携が必要である。
 なお、消防団の活動をよりやりやすくするために、各々の団員の仕事、時間の調整、身分保障、費用負担等、抜本的に検討を進める必要がある。
(3)自衛隊の災害派遣
 自衛隊の災害派遣は都道府県知事等からの災害派遣要請によってなされるが、緊急車両の通行確保のための除排雪、孤立予想世帯・高齢者世帯の除排雪に対し、迅速で確実な実施に大きな力を発揮している。自己完結型の活動が可能であるため、受け皿の負担が少なく、機動的で実効性のある活動を実施している。今後の豪雪に対しても、その活動が大いに期待される。また、今後とも災害の深刻化する過程に適切に対応して出動要請ができるような関係機関の連携強化が望まれる。
2−3雪処理の多様な担い手の活動環境の整備
(1)他地域からの担い手の受け皿の強化
 雪処理は経済的にも心理的、肉体的にも負担が重く、今冬のように多頻度の雪処理が必要な場合のみならず、例えば雪処理の担い手が少ない中山間地では、平時においても地域外からの担い手の参加が望まれる。岩手県の旧沢内村において村内の1人暮らし高齢者などの居宅の雪かきをボランティアで行う「スノーバスターズ」は、周辺町村との連絡会に登録し、村外からの参加も得て広域的に展開している。このような、雪処理熟練者による周辺地域からの支援の取り組みが各地で起こりつつある。今後はこのような即戦力となる雪処理の担い手が自主的、自発的意志のもと真に困窮している人々のために効果的に活動できるよう、組織のネットワーク化を図る等の取り組みを進めていくことが重要である。
 これまでの災害の被災地とその周辺地域では防災意識が高まっており、それらの地域において組織されている任意団体やNPOなどとタイアップしながら、コーディネーターの養成に向けた取り組みの推進が必要である。
 雪処理等の援助活動を行おうとするボランティアの申し出も増えているが、受け入れる地域側での受け皿機能が十分ではない、雪処理による負傷等の恐れがある等の理由から、実際に活動している人は少ない。受け入れ窓口機能、派遣地域や要員数の決定・振り分け、担い手の経験に応じた作業分担の決定など多様な役割を果たす「受け皿組織」を平時から準備しておく必要がある。その組織化に当たっては、市町村が主体的役割を果たし関係団体等との連携を図りつつ行うことが望ましい。また、受け入れ時の混乱を回避するため、受け入れ窓口の一本化、市町村HP等での掲出など対外的な周知措置を併せて講じることが必要である。なお、担い手を受け入れる側にとっても、心理的負い目や長時間の立ち会い等により、精神的肉体的影響が生じることにも留意が必要であり、市町村の福祉部局や社会福祉協議会等との連携により、適切な対応が併せて講じられるよう措置することも重要である。
(2)多様な担い手の活動環境の整備
 屋根雪下ろしをはじめとする雪処理は、作業自体が重労働であり経験や技術が必要であるのみならず、転落等の危険を伴うこと、心疾患等による不慮の死傷の可能性が高まること、私有財産の周辺での作業であり損傷等の事故も発生しうること等の特性がある。受け皿組織では、担い手の活動環境の整備に当たっては、労働安全衛生管理の観点も踏まえて十分配慮する必要があり、これらの周知、指導などを行うことも重要な役割である。また、作業内容に合わせた保険制度の検討も必要である。
 雪処理が持つ特性を踏まえると、外部からの雪処理の担い手としては、一定の経験を有する者からの支援を活用するのが基本である。
 しかしながら、雪処理経験に乏しいボランティアの支援の申し出が多い現状では、例えば、単独作業時の事故での発見遅れを解消するための立ち会い等はできないか、あるいは、地域の方々が雪処理を行っている問の日常生活のサポート等はできないかなど、様々な観点からこれらのボランティアが自主的、自発的意志のもとで地域のために活躍できる方策の検討を進める必要がある。受け皿組織やコーディネーターが大きな役割を果たすことが期待される。また、定期的に雪処理を体験する機会を設ける等によりスキルアップを図り、将来の実際の雪処理の担い手として活動できるよう育成することについても検討が必要である。その際は、技能度合いを適正に認定する仕組みを併せて設ける等、受け入れ側で技能に応じた役割分担を行うことが可能になるような工夫が重要である。
 地域間の相互の助け合いは一方向の施しではなく、双方向的な交流により地域の理解にも繋がることから、普段からの交流による関係作りが必要である。

3.法律に基づく計画的な対策の推進等
3−1豪雪地帯対策特別措置法に基づく計画的な対策の推進
 安全安心な豪雪地帯の形成に向けては、国土交通省のみならず多くの省庁にまたがる分野についての総合的な取り組みが求められる。
 豪雪地帯対策特別措置法(昭和37年法律第73号)に基づき主務大臣が定める豪雪地帯対策基本計画については平成11年に行われた改定が最終であり、平成18年豪雪の被害、近年や今後の社会経済情勢の変化を踏まえた計画の見直しについて検討が必要である。
 また、同法に基づく道府県豪雪地帯対策基本計画については、同法に基づく豪雪地帯が存する24道府県のうち13県で定められているにとどまっているが、国の基本計画の改定を踏まえ、道府県基本計画の策定・見直しを推進することが望ましい。
 地域における具体的取り組みは、基礎的自治体である市町村が中心となって推進すべきものである。市町村においては、長期計画、都市マスタープラン、住宅マスタープラン、雪みち計画、冬期バリアフリー計画などに加え、独自の条例や計画を策定し、克雪対策やパートナーシップを位置付けているところがある。これらは独自の克雪対策を総合的、体系的に進める有効な手段であるが、上記の国や道府県の改定基本計画も踏まえ、また、平成18年豪雪の状況や地域それぞれの状況に応じ、既存計画の改定あるいは新たな豪雪対策計画の策定等を推進すべきである。
 豪雪地帯では非豪雪地帯と比べ雪対策に係る特別の財政需要があることから、豪雪時における緊急の財政需要や上記計画に基づく対策に要する経費については、特段の配慮がなされることが望ましい。
3−2積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法
 雪が降れば道が無くなり、道路の通行は困難を極める。苦労して開いた雪道は雪崩に塞がれ、尊い人命を巻き込む。砂利道はぬかるんで車を拒否する。
 これら雪寒地域の道路交通を確保すべく、昭和31年に積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法(昭和31年法律第72号)が議員立法により成立 し、積雪寒冷地域における冬期道路交通を確保するための具体的措置として、除雪、防雪、凍雪害防止、更に除雪機械の整備が盛り込まれた。
 既に立法より50年が経ち、社会・経済の変化、地域社会の要望に応えて、除雪、防雪、凍雪害防止、除雪機械整備等を充実し、流雪溝整備、雪道ネック解消等、面的な対応を含めて、より安全安心、円滑な道路・生活空間を確保する努力が続けられてきた。
 「平成18年豪雪」を通して、一時堆雪場所、雪捨て場を始めとして道路と住宅の総合的雪処理、幹線的な市町村道や迂回路の無い生命線道路の確保、雪寒事業の各種技術のトータルコストの縮減、さらに道づくり、道つかい、官民協同の精神に基づく連携強化やネットワークづくりを含めて、幅広く弾力的な対策を推進する必要がある。
3−3豪雪対策の啓発
(1)注意喚起など情報提供の強化
 屋根雪下ろしをはじめとする雪処理には多くの危険が伴うため、これらをあらかじめ周知し、シーズンはじめの不慣れや、被害に遭わないポイント、作業中の安全対策などについて呼びかけるなど、被害を回避するための事前の注意喚起が重要である。
 大雪は予報などにより事前にある程度把握できること、屋根雪下ろしなどの雪処理の作業はある程度の積雪となってから始めることなどの理由により、前もってどのような点に注意すべきかを注意喚起することは十分に可能である。適切なタイミングで、新聞、テレビ、ラジオなどのマスメディアにより注意喚起することが必要である。大雪は年による変動、地域による変動が大きく、特に平年はそれほどの被害とならない地域においても、例年とどこが違うのか、どのような点に注意すべきかなどを分かりやすく注意喚起することが必要である。例えば、積雪時に軒下に人が立ち入らないようにテーピングしたり、水路などの開口部に目印を付けることにより、雪処理作業中の事故を未然に防ぐことが可能である。
(2)雪について学ぶ、備えの実践
 近年、少雪傾向の続いた地域においては、大雪に対する地域防災力の維持が課題となっており、大雪時に出現する様々な事象や、雪国の暮らしについて学ぶ「学雪」の必要性が高まっている。
 雪による被害を軽減する「備え」の実践が必要であり、自助、共助、公助のそれぞれを充実しつつ連携する必要があるため、雪国の住民の防災意識、地域コミュニティの防災力の向上のための国民運動の展開が必要である。このためにも、これらを支える雪に関する知識の継承や、雪や災害に関する研究者の育成等を進めるべきである。


《前へ》《次へ》