政府は、6月6日「平成17年度食料・農業・農村白書」を閣議決定し、国会に提出した。山村振興に関連した部分の概要は次のとおりとなっている。 ・ |
はじめに 。 |
一基本認識一 |
(少子高齢化・人ロ減少の転換期を迎える我が国の経済社会構造) |
我が国は少子高齢化が進行し、平成17年に初めて人口が減少するとともに、これまで経済社会の中核を担ってきたいわゆる団塊世代の大量の定年退職を間近に控えるなど、社会経済上、大きな転換期を迎えている。こうした変化のもとで、持続可能で活力ある地域経済社会の実現に向けて、人的資源、財やサービス、資金等の効率的・効果的な活用と循環の枠組みづくりの取組をあらゆる分野で加速することが課題となっている。 ・ |
(食料・農業・農村をめぐる国際情勢の変化) |
我が国の食料・農業・農村をめぐる最近の国際情勢をみると、WTO農業交渉におけるモダリティの確立に向けた取組やアジア諸国等とのEPA/FTAの締結など、グローバル化が一層進展している。その一方で、世界的な原油価格の高騰や水資源の枯渇、地球温暖化の進行等に伴う気象災害等の多発、食料需要の増大と多様化等がみられる。こうした国際情勢の変化のもとで、今後、国際社会における資源や財・サービスの効率的・効果的な移動や取引と、地域や国の段階における持続可能な経済社会の構築との調和を図ることが大きな課題となっている。 ・ |
(国民生活における食料・農業・農村の役割) |
我が国の農業・農村は、農業生産や農地・農業用水等の資源の保全等を通じて、国民生活に不可欠な食料を安定的に供給し、国土や自然環境の保全、いやしの場の提供、文化の伝承等の様々な機能を発揮してきている。このように農業・農村は、林業や水産業、山村や漁村とともに、国民の「健康」や「安全」、充実した日常生活を支えることを通じて、国民生活の基礎となっている。さらに、農業、食品産業、農業資材関連産業等で構成される食料産業は、我が国GDPの1割を占めており、地域経済を支える重要な役割を担っている。転換期を迎えている我が国において、持続可能な地域経済社会を構築していくうえで、食料・農業・農村の持続的発展が大きな鍵となる。 ・ |
(基本計画に基づく農政改革の取組の加速化) |
食料・農業・農村については、「食料・農業・農村基本法」(11年)において、その振興等の基本方向が定められ、これに基づき、各般の施策が展開されてきた。しかしながら、最近の内外の情勢変化に加え、食の安全の問題、食料自給率の低迷、農業の構造改革の立遅れ、さらには農村地域の活力低下や地域資源の保全管理の支障等様々な未解決の問題をかかえている。こうした課題に対応して、新たな「食料・農業・農村基本計画」が17年3月に策定されるとともに、基本計画に基づく施策の計画的な推進を図るために施策推進の具体的手順や日程等を明らかにした工程表が策定された。 17年度は、この工程表等を踏まえつつ、主要施策にかかる具体的な取組が積極的に推進されている。特に、17年10月には、経営所得安定対策等大綱が決定され、従来のすべての農業者を対象とする品目別の価格対策から担い手を対象とする「品目横断的経営安定対策」への転換が行われることとなった。このことは、戦後農政を大きく転換するものであり、さらに、この対策とともに地域振興政策としての「農地・水・環境保全向上対策(仮称)」の導入等が行われることとなった。現在、これらの政策改革とともに、農政改革推進本部の設置、食育、地産地消の推進、食料自給率の向上、担い手の育成・確保、地域自らの創意・工夫に基づく様々な資源の活用等の取組が、国、地方公共団体はもとより、農業者や農業団体、食品産業事業者、消費者団体等が幅広く参画して進められている。さらに、WTO農業交渉においては、2006年中のドーハ・ラウンド終結に向け、交渉が行われている。 ・ |
(国民の理解と支持を得て推進する農政改革) |
食料・農業・農村に関する施策は、国民生活に深くかかわっていることから、地域の実情や現場の取組を積極的に施策に反映しつつ、国民の理解と支持を得ながら推進することが重要である。特に、現在のような大きな転換期に当たって、これまでの既成の概念や取組にとらわれず、国民の立場に立って、今日、真に求められる施策や取組は何であるかを十分に見極めて、思い切った改革を推進する必要がある。 改革に当たっては、基本計画で示された基本的な視点とあわせて、国民と農業・農村との関係をより強固なものとして構築していくために、「消費者あっての生産者」、「日本の農業あっての国民の健康、安全と満足」という双方向の観点を重視することが重要である。そのうえで、農政改革に携わり、参画するすべての人たちがそれぞれの分野で最善を尽くす姿勢で行動していくことが求められている。 ・ |
第T章 望ましい食生活の実現と食料の安定供給システムの確立 (略) |
第U章 地域農業の構造改革と国産の強みを活かした生産も展開 (略) |
第V章 農村の地域資源の保全・活用と活力ある農村の創造 |
第1節 農業集落の動向 | |
(1)農業集落の変化 | |
@ |
農業集落は、農業生産面にとどまらず、伝統文化の継承、地域住民の相互扶助等、様々な役割を担ってきているが、農家戸数の減少や都市化に伴う混住化の進行等により大きく変貌。 |
A |
離農や農家の点在化等により、農家戸数が9戸以下の小規模な集落で、集落の活動の機能が失われる割合が高い。 農村地域では、高齢化が急速に進んでおり、特に地方圏の町村部の老年人口(65歳以上)の割合は24.7%(17年)。 |
(2)農業集落の活動の現状 | |
@ |
農業集落のコミュニティ活動の一環である寄り合いについて、年間の開催回数は、農家戸数規模の小さな集落ほど少なくなる傾向にあり、集落の農家戸数規模によりコミュニティ活動の状況に違い。 |
A |
農業集落の生産調整活動(田畑輪換、ブロックローテーション等)は、寄り合い回数が少ない集落ほど取組割合が低下。農地が減少した農業集落において、その主たる要因が耕作放棄地である割合は、農家戸数規模が小さな集落ほど上昇。 |
B |
過疎化、高齢化、耕作放棄地の増大等により、特に中山間地域では野生鳥獣による農作物被害が深刻化。侵入防止柵等の設置や、放牧等の土地利用等を組み合わせた防除体系の確立が必要。 |
第2節 農村の地域資源の現状と課題 | |
(1)農村の多様な資源の現状と多面的機能 | |
@ |
農村には、農地・農業用水、多様な動植物、農村景観等多様な地域資源が存在。特に、農地・農業用水等は、食料の安定供給の確保や多面的機能の発揮に不可欠な社会共通資本。 |
A |
農業の有する多面的な機能の効果は、国民全体が享受し得るが、農業生産活動や集落機能の低下等により、多面的機能の発揮に支障を生じる事態が懸念。今後、地域での具体的取組を通じて、その役割や重要性の理解を求めることが重要。 |
(2)農村資源の保全管理の動向と課題 | |
@ |
農道、農業用用排水路の維持管理は、農家戸数規模の小さい集落ほど、農家のみで維持管理を行う割合が低下するとともに、集落が維持管理を行わない割合が上昇。 また、総戸数規模が大きい集落ほど、全戸出役により維持管理を行う割合が低下。 |
A |
共同作業の内容は、地域ごとに異なるが、例えば水田では、農業用用排水路の泥上げ、草刈りやごみの除去等が中心。 |
B |
農家戸数規模の小さい集落ほど、共同作業の実施割合が低下するとともに、1回当たりの作業時間が増加。 |
C |
農業集落の6割が景観保全・景観形成活動に取り組んでおり、その割合は上昇傾向。また、自然動植物の保護は、環境保全に対する意識の高まり等を反映して、地域では様々な取組の動き。 |
D |
農地・農業用水等の維持管理の共同作業にっいての農家の負担感が高まり。担い手農家は、作業内容等に応じて地域住民をはじめ多様な主体の参画を期待。こうした状況のもと一般市民の9割は何らかの対策の必要性を認識。 |
E |
集落の構造変化等により担い手だけでは困難な維持保全を多様な主体が参画して取り組む仕組みの構築と、農業者による環境負荷軽減の取組を地域的な広がりをもって促進する施策の構築が必要。 |
F |
経営所得安定対策等大綱において、農地・農業用水等の良好な保全と質的向上を図るため、地域ぐるみで効果の高い共同活動と、農業者ぐるみでの先進的な営農活動を総合的かつ一体的に実施する活動を支援する「農地・水・環境保全向上対策(仮称)」の導入を決定。19年度からの導入に向けて施策の普及啓発、推進体制の整備の促進が必要。 |
(3)バイオマスの利活用の促進 | |
@ |
持続可能な循環型社会の形成や化石資源に過度に依存しない経済社会を構築していくうえで、バイオマスや風力等の地域資源の利活用は重要な課題。 |
A |
バイオマスの総合的な利活用を図るため、食品廃棄物等の肥飼料化、バイオマスタウン構想、バイオマスプラスチック等の取組を推進。また、国内外で、化石資源に代替するエネルギーとして、バイオエタノール、バイオディーゼル燃料等の利活用・実証の取組を推進。 |
B |
バイオマス等の地域資源の利活用の推進を図るためには、地域特性に応じたシステムの構築、取組体制の整備等が課題。また、バイオマスは、農業生産活動を通じて産出されるものが多く、農業の振興は、ひいては地球温暖化の防止等に貢献。 |
C |
バイオマスの利活用をめぐる課題とこれまでの対策・施策の評価等を踏まえ、平成18年3月に新たな「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定。総合戦略では、バイオマス由来輸送用燃料の利用促進、バイオマスタウン構築の加速化、人材支援等による海外との連携等を図ることとされており、今後、国、地方公共団体、大学、環境NPO等が一体となった取組の推進が重要。 |
第3節 活力ある農村の創造 | |
(1)地域資源を活用した農村経済の活性化 | |
ア |
地域資源の活用と創意・工夫による地域活性化 |
@ |
農業と食品産業等が連携した食料産業クラスター等の取組が各地で進展。今後、関連産業や異業種も加わった新製品の開発や、地域ブランドの育成等を図るためには、関係当事者間の情報交換の促進が課題であり、農業と他産業の間を橋渡しする者の役割が重要。 |
A |
市町村は、地域活性化を図るためには、リーダーとなる人材の育成・確保が大切と認識。地域活性化活動には、市町村、第3セクター等の様々な団体・組織が取り組んでおり、住民の参加意識も高まる傾向。 |
B |
地域経済の活性化に結び付く可能性のある農村の自然や景観、農産物等の資源を、地域自らの主体性と工夫により活用していくことで、地域にも経済的な波及効果。 |
C |
地域活性化のために活動する女性や高齢者が中心の組織は、それぞれ全集落の6割、7割で設置されており、中核的な役割を発揮。今後、農村女性の社会や起業活動の参画促進に向けた、地域の理解・協力や様々な環境整備等が重要。 また、高齢者に対して、地域の取りまとめ、伝統文化の継承、経済活動など幅広い分野での役割の発揮を期待。 |
イ |
地域活性化を支える社会生活基盤の整備 |
汚水処理施設や情報通信基盤等の社会生活基盤の整備は、都市と農村の間の「人・もの・情報」のやり取りを活発化させる共生・対流の取組を進めるうえでも重要。 | |
(2)都市と農村の共生・対流の一層の促進 | |
ア |
我が国の人ロ動態の変化と農村地域 |
@ |
今後、地方圏では、人口減少や生産年齢人口割合の低下が続く見通し。 一方、近年、中高年層の出生県へのUターンが増加のきざし。 |
A |
都市住民は20歳以上の4割が「ふるさと暮らし」を志向。また、都市住民が都市と農村の双方を行き来しながら生活する二地域居住に対する関心に高まり。 |
B |
今後、地域の人々が快適に生活できる環境の整備とともに、国民の期待やニーズにこたえる魅力ある農村環境の整備が必要。 |
イ |
都市農業の果たす役割 (略) |
むすび 。 |
本年度の報告の作成の基本的視点は、少子高齢化・人口減少局面への移行や、WTO農業交渉など国内外の情勢を踏まえつつ、基本計画に基づき推進されている農政改革について、初年度(平成17年度)の主要施策の取組状況と課題を整理、分析することにある。特に、基本計画では、施策の推進に当たり、新たに工程管理の考え方が導入されており、これらの取組状況と課題を明らかにすることは、農政改革を加速する観点からも重要である。 これらの分析を通じて明らかになった最近の情勢変化や問題点、課題を整理すると以下のとおりである。 ・ |
(望ましい食生活の実現と食料の安定供給システムの確立) |
食料分野では、食の安全に対する国民の信頼が揺らいでいる。また、我が国の食の現状をみると、栄養のかたよりや食習慣の乱れ、食と農の距離の拡大、特定国に依存する農産物輸入、横ばい傾向が続く食料自給率、フードシステムの高コスト構造等の問題をかかえている。 これらの問題に対しては、食の安全確保、食育、地産地消及び食料自給率の向上、フードシステムの改革、食と農の連携等にかかわる施策等に基づく取組が、国、地方公共団体、関係者等により推進されており、取組の気運の高まりや実績が得られつつある。 特に、食の安全については、今後、新たなリスクに対応するためにも、科学的原則及び食品安全基準に基づいたリスク管理が課題となっている。同時に、消費者の信頼確保のための取組も重要である。 食は、生存に必要な熱量や栄養素の摂取にとどまらず、健康や医療、地域独自の文化等と深くかかわっており、国民が充実した社会生活を送るうえでの基礎となるものである。 今後は、現場段階における取組の一層の浸透を図り、健全な食生活の実践、食料自給率の向上やフードシステム全体のコスト削減等について、より一層具体的な成果を得ることが重要である。 さらに、WTO農業交渉等の国際交渉については、「守るところは守り、譲るところは譲る、攻めるところは攻める」との観点に立ち、世界最大の食料純輸入国として積極的に交渉に貢献し、我が国の主張が最大限反映されるよう、全力で取り組んでいる。 今後、交渉に積極的に取り組むとともに、国際規律の強化等の動きにも対応し得るよう、力強い食料産業構造の構築、国境措置に過度に依存しない政策体系に基づく実効性のある取組の推進等が重要である。 ・ |
(地域農業の構造改革と国産の強みを活かした生産の推進) |
農業分野では、昭和一けた世代のリタイアや構造改革の立遅れ、耕作放棄地の増加、農業生産に伴う環境負荷の増大への懸念、生産性や品質の向上の遅れ等の問題をかかえている。これらの問題に対しては、基本計画に沿って新たな施策の構築や具体的取組が推進されている。担い手対策としては、「品目横断的経営安定対策」の具体的仕組みが決定されたことを踏まえ、集落座談会や説明会等を通じて、担い手の育成・確保の運動が全国各地で展開されている。また、環境保全を重視した農業生産への転換を目指した「農業環境規範」の実践等が進められている。さらに、「米政策改革推進対策」等個別品目対策の再編、見直し等が進められている。 今後の農業生産の方向としては、「良いものをつくり、供給する」という意識改革を徹底したうえで、消費者や実需者のニーズ等に対して、国産の具体的な強みを明確化し、その強みを一層強化することを通じて、きめ細かく対応することが重要である。 具体的には、食品の安全確保、地域ブランド化、知的財産権の保護・活用、革新的な技術の開発・普及、高付加価値化、品質等を重視した農産物輸出等に対して、「攻め」の姿勢で取り組むことであり、地域では様々な取組の動きがみられる。 今後は、これら新たな対策の意義や内容・効果、具体的な取組の方法や事例等を現場にわかりやすく伝えて、農業者や地域の取組を広げ、その実効性を確保・向上させていくことが重要である。 ・ |
(農村の地域資源の保全・活用と活力ある農村の創造) |
農村分野では、農業集落によって担われてきた地域資源の保全管理が困難になるとともに、人口の減少や地域経済の停滞に伴い地域の活力が低下している。このため、農業生産活動に伴って発揮される食料の安定供給や国土の保全、自然環境の保全、伝統や文化の継承等多面的機能の維持・発揮にも支障が生じる事態が懸念されている。 これらの問題に対しては、地域振興政策である「農地・水・環境保全向上対策(仮称)」の導入に向けた取組、都市と農村の交流活動やグリーン・ツーリズム等共生・対流の取組、地域の関連産業の連携の取組、バイオマスの総合的な利活用の取組等の推進が図られている。また、最近では、健康や福祉に着目した取組、団塊世代も含めた中高年層のふるさと暮らしに対するニーズの高まりや出生県へUターンする動き等、従来にはない取組や動きもみられる。 農村地域は、少子高齢化・人口の減少が進行しており、我が国全体が迎えている社会経済の転換期の動きが既に現れているともいえる。したがって、国民共通の財産である農村地域が、持続可能な地域経済社会として存立していく基盤を確立することは、我が国全体の経済社会の再構築という観点からみても、きわめて重要な課題である。 この課題の解決に向けては、地域でみられる新たな動きや取組を促しつつ、人材や組織、第一次産業から第三次産業までの様々な産業の資源、景観や文化等の有形・無形の地域資源を創意・工夫をもとに地域で結び付け、連関させることによって、地域の内外とのかかわりをもちながら、経済社会活動として循環する仕組みを構築することが重要である。 ・ |
(国民の食・健康・安全の確保と農業・農村の振興の双方向の関係の構築) |
これまでの情勢変化や問題点、課題の整理を通じて明らかになったように、基本計画に基づく農政改革の初年度の動向をみると、主要施策の具体的な仕組みの構築や再編・見直し、現場へのこれら施策の周知・普及、地域での具体的な取組の推進等が積極的に図られている。その一方で、食料・農業・農村をめぐる情勢は変化の速度を速めており、取組に基づく具体的成果を国民に一層わかりやすい形で示していくことができるように、農業者、食品産業事業者、消費者、関係機関等が連携し、チームワークを発揮しながら取組を加速することが重要である。その場合、国民の日常生活の基礎となる食・健康・安全の確保と農業・農村の振興・活性化という課題に対して、国民と農業・農村双方の強固な協力、補完関係を築きあげることにより取り組むことが重要である。 本報告が、食料・農業・農村の実態や課題、主要施策の取組状況、現場での様々な取組についての国民の理解と関心を高めるとともに、国民と農業・農村の強固な関係の構築に向け、その役割の一端を担うことを切に願うものである。 |