このたび、国土交通省は、新道路整備五箇年計画(平成10年度〜平成14年度)が終期を迎えること、公共事業関係の長期計画のあり方について経済財政諮問会議において種々の議論がなされていること、社会情勢の変化等に即して道路のあり方について検討する必要があること等を背景として、3月5日社会資本整備審議会に対し「持続可能な経済・社会の構築、安全で安心できる暮らしの実現など新しい課題に対応した道路政策のあり方」を諮問した。同審議会は、同日道路分科会にその検討を付託し、道路分科会は同日その下に基本政策部会を設置して検討を進めることとし、本年7月前半を目途に中間報告をまとめることとなった。
3月5日の第1回基本政策部会では、部会長から次のような道路行政転換のための6つの方向性が示され、このことについて国民一般からの意見を求めるホームページが開設された。その後引き続きテーマごとに検討が行われている。
「基本政策部会における議論の方向についての試案」
一従来の道路行政からの転換一
■現状認識 〜道路行政転換の機会〜
戦後、国道さえも舗装されていないような劣悪な状態からスタートした日本の道路は、およそ半世紀にわたり精力的に整備が進められてきた。この間の道路行政の基本的な姿勢は、「欧米先進諸国の水準へのキャッチアップ」であり、道路の水準はきわめて不十分であるという認識のもとに「量的拡大」を至上命題としてきた。
今日の道路整備水準を見ると、多くの都市部における慢性的な交通渋滞や、年間死者数約9,000名にも達する交通事故、高速道路ネットワークの地域格差、電線や看板などによる沿道美観の欠如など、確かに不十分な部分も少なからず存在するものの、道路の量的スットクはある程度の水準にまで形成されたと言える。そのため、初期においては、道路整備を熱心に望んだ国民も、現在では、地域によってはこれを必ずしも歓迎するものとはならなくなっている。すなわち、道路ストックの増大とともに道路整備の限界効果は大きく減少したのである。加えて、バブル経済の崩壊を経て経済の低迷が続き、少子高齢化の急速な進展、地球規模の環境問題などとあいまって、道路への投資環境の大きな変化が進み、道路行政を取りまく経済社会情勢も大きな転換期にあると言わねばならない。
この際、日本の道路行政は、「一定の量的ストックは満たされた」ことを認め、これまでの「量的拡大」路線から、必要性の高いものとそうでないものとを峻別して、無駄なく投資し、あわせて既に形成されたストックを改良して質的向上を図り、有効活用する姿勢に転換すべきであると考える。
昨今、有料道路制度、道路特定財源制度、特殊法人民営化など、戦後の道路整備を支えてきたシステムや制度の改革が強く要請されているが、これは道路行政が時代の要請に十分対応できていないがために生じた利用者や国民と道路政策の間の意識のギャップに起因するとも言える。
換言すれば、現在では、既存の道路政策の存続が限界に達していることを意味しており、国民と道路行政のギャップが90年代以降急速に目立つようになってきたことを省みれば、道路行政は既に時代の変化に遅れをとっているともいえよう。
しかしながら、発想を変えれば、こうした今日の時代の変化と改革への要請は、既存の「量的拡大」路線を転換し、「新たな選別的な重点投資と、既存施設の改善と有効活用重視へ」、と政策を切り替えるまたとない機会であるとも考えられる。
近年、世に出された英国の交通白書「A New Deal for Transport: Better for Everyone」や、ドイツ交通住宅省の年次交通報告「Verkehrs
bericht 2000: モビリティーの高い未来への構想」でも、このような転換の方向が極めて明確に示されている。
道路行政は他の公共事業部門に先駆け、政策や組織、制度の面で戦後の社会資本整備をリードしてきたと言ってよい。今こそ、道路行政が再び効率的な公共事業への大転換を先導する役割を果たすことを期待したい。本部会では、現在の道路行政を取りまく情勢を、今後にわたる「道路行政転換の契機」ととらえ、従来の政策の善きものは残し、改めるべきものは改め、今後へ向けて建設的に道路行政のあり方を審議すべきと考える。
|