森林の公益的機能の評価額を公表

− 林 野 庁 

   

 林野庁は、この度、平成3年に評価した森林の公益的機能の評価額を見直し、新たな評価額を、試算して公表した。今回の見直しでは、新たに水質の浄化や二酸化炭素吸収などに対する、評価を加えるなどを行った。これによると評価額は、年間約75兆円となり平成3年時点の評価額39兆円の1.9倍となっている。
以下、公表された全文は次のとおりである。

     

森林の公益的概能の評価額について

 森林は、木材の生産のみならず、水源のかん養、土砂流出の防止、二酸化炭素吸収など、様々な公益的機能を有しています。これらの機能は、普段の私たちの生活でははっきり、認識できない面もあり、その価値を実感することはなかなか難しいものです。
 林野庁においては、豊かな森林を国民全体で守り育て、次代に多様な森林を残せるよう、森林の持つ公益的機能について国民の皆さんにわかりやすく示すことを目的として、森林の公益的機能の価値の評価を実施してきており、昭和47年に年間12兆8,200億円、平成3年時点に換算すると年間約39兆2,000億円とする試算結果を公表してきました。
 今般、この森林の持つ公益的機能の価値を一定の前提に基づき評価し直すこととし、学識経験者の意見を聴きながら、評価項目の追加や、算出方法の改善、算出に用いるデータの修正等を行うなど見直し作業を進めてきました。
 その結果、我が国の森林の公益的機能の現時点における価値を試算すると、新たに水質の浄化や二酸化炭素吸収などに対する評価を加えることなどにより、総額で概ね75兆円となりました。
 なお、森林は、貨幣価値で評価した今回の機能以外に、貨幣換算できないかけがえのない重要な機能(例えば遺伝子資源の保全、良好な景観の形成、気象の緩和など)を有しています。今後とも森林の持つ公益的機能について、その機能の解明と適切な定量的評価に引き続き努めていくこととしています。

     

1 森林の公益的機能の評価額(年間)

機能の種類

評 価 額

備  考
水源かん養機能 降水の貯留
8兆7,400億円
洪水の防止
5兆5,700億円
水質の浄化
12兆8,l00億円
計27兆1,200億円
森林の土壌が、降水を貯留し、河川へ流れ込む水の量を平準化して洪水、渇水を防ぎ、さらにその過程で水質を浄化する役割
土砂流出防止機能 28兆2,600億円 森林の下層植生や落葉落枝が地表の浸食を抑制する役割
土砂崩壊防止機能 8兆4,400億円 森林が根系を張り巡らすことによって土砂の崩壊を防ぐ役割
保健休養機能 2兆2,500億円 森林が人にやすらぎを与え、余暇を過ごす場として果たしている役割
野生鳥獣保護機能 3兆7,800億円 森林が果たしている野生鳥獣の生息の場としての役割
大気保全機能 二酸化炭素吸収
1兆2,400億円
酸素供給
3兆9,000億円
計5兆1,400億円
森林がその成長の過程で二酸化炭素を吸収し、酸素を供給している役割

合  計
74兆9,900億円     

    

2 評価手法
(1)全国の森林を対象に、様々な機能を評価する観点から、基本的に代替法を用いて評価。
(2)代替法は、ある環境サービスを、それと同程度のサービスを提供する財の価格で代替して評価する手法である。

3 貨幣評価しなかった森林の持つ公益的機能(主なもの)
(1)遺伝子資源の保全
(2)気象緩和
(3)風害・雪害・なだれ・落石などの防止
(4)騒音の防止
(5)魚類の生息環境の保全など

4 算出根拠
(1)水源かん養機能
〈1〉流域貯留機能
森林地帯への降水量から樹冠による遮断、樹木による蒸発散を差し引き、全国の流域貯留量を約1,864億m3と算定。これを流量当たりに割り戻し(1,864億m3/(365日86,400秒/日)=5,912m3/s)たうえで、開発流量当たり利水ダム年間減価償却費及び維持費1,478.6百万円/(m3/s)を乗じて評価。
〈2〉洪水防止機能
森林によって、豪雨時のピーク流量が軽減されることを評価。合理式における森林と裸地との流出率の差を0.3とし、森林による流量調節量を110万7,121m3/sと算定。これに洪水調節量当たり治水ダム年間減価償却費及び維持費5.03百万円/(m3/s)を乗じて評価。
〈3〉水質浄化機能
森林が、雨水中の不純物の吸着等により水質を改善し、利用可能な水として河川等に流出する機能を評価。「流域貯留機能」で算定した1,864億m3に、雨水利用施設の減価償却費及び維持費(68.73円/m3)を乗じて評価。
(2)土砂流出防止機能
表面侵食土砂量から・森林によって抑止されている流出土砂量を5,161百万m3と推定し、これを防止するための堰堤建設費(5,475円/m3)を乗じて評価。
(3)土砂崩壊防止機能
有林地と無林地との崩壊面積の差(1.15ha/km2)から、森林による崩壊軽減面積を推定し、これに山腹工事費(87.58百方円/ha)を乗じて評価。
(4)保健休養機能
森林レクリエーションに投入されている費用をもって評価。(財)日本観光協会による調査をもとに、レクリエーション消費額に、旅先での行動で「自然の風景を見る」と回答した者の割合及び自然を構成する地目のうちの森林の割合(0.79)を乗じて評価。
(5)野生鳥獣保護機能
野生鳥獣の保護、遺伝子資源の保全、魚類の生息環境の保全などの森林のもつ生物多様性保全機能のうち、野生鳥獣保護機能について、森林性鳥類の餌代で評価。日本における森林性鳥類(留鳥+夏鳥)の生息数を約1億5,000万羽と推定し、動物園で飼育した場合の年間の餌代を乗じて評価。
(6)大気保全機能
〈1〉二酸化炭素吸収
樹木内に固定される炭素の量から二酸化炭素収支を算定し(年間吸収量的9,700万t)、これに火力発電所における二酸化炭素回収コストを乗じて評価。
〈2〉酸素供給
樹木内に固定される炭素の量から酸素収支を算定(年間供給量的7,000万t)し、これに酸素製造価格(タンクローリー液体酸素取引価格)を乗じて評価。
※大気中の酸素は長い年月をかけて大気中に約20%存在し安定していますが、森林の果たしている役割の一つとしては重要で国民にもわかりやすいものであることから、貨幣評価を実施。

 
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