平成27年度全国山村振興連盟関東ブロック会議が、9月3日(水)〜4日(木)の2日間にわたり全国山村振興連盟長野県支部(支部長 松島貞治 泰阜村長)主催により長野県阿智村において管内の会員、支部事務局、来賓等70名が参加して開催された。
 会議は、長野県支部 上沢政裕 事務局次長の司会のもとで進められ、その概要は次のとおりとなっている。

1.あいさつ
 主催者挨拶が松島貞治 長野県支部長から、来賓挨拶が長野県下伊那地方事務所 松田光弘 副所長及び長野県町村会 伊藤喜平 副会長(下條村長)からあった。
 
2.議事
(1)情勢報告 全国山村振興連盟 岸 廣昭 常務理事兼事務局長
  山村振興関連予算・施策実現のための活動、山村振興法改正実現へ向けての活動、
 森林・山村対策懇談会の開催、実務研修会の開催等連盟の活動状況について報告が
 行われた。

(2)国の施策説明
  農林水産省、林野庁、国土交通省及び総務省から説明があった。
  @「山村振興対策について〜山村振興法の改正及び新たな支援措置等〜」
        農林水産省中山間地域振興課 杉崎浩史 課長補佐
   ○ 山村振興法の一部を改正する法律のあらまし
    「目的規定」の充実、「定義規定」の修正、「基本理念規定」の新設、「山村振興の
    目標規定」の充実、「山村振興基本方針及び山村振興計画規定」の充実、「山村振
    興計画に基づく事業の助成等規定」の新設(山村活性化支援交付金の根拠規
    定。)、「課税の特例規定」の充実、「配慮規定」に3項目新設、「有効期限規定」の
    10年延長
   ○ 山村振興法の体系及び山村振興法の改正に係る新たな支援策
    1.山村振興法の体系の概要
    2.山村振興法の改正に係る新たな支援策等について
    (1)計画制度の見直しについて(「産業振興施策促進事項の新設」)
    (2)産業振興施策促進事項策定に伴う支援措置について
      税制の特例措置(振興山村地域における工業用機械等に係る割増償却)
    (3)山村活性化のための新たなソフト支援の交付金について
      山村活性化支援交付金(新設。平成27年度予算:7.5億円)
      (参考資料「山村活性化支援交付金事業実施計画〜事例集〜」)
      振興山村・過疎地域経営改善資金(平成27年度融資枠:10億円)
      中山間地域活性化資金(平成27年度融資枠:54.6億円)

  A「林野庁の山村振興対策について」
  林野庁山村振興・緑化推進室 青木正伸 課長補佐
   ○ 林業の成長産業化
   ○ 森林資源を活用した山村振興の方向性
   ○ 地方創生交付金
    森林・林業分野で考えられる地方創生交付金の活用事例
   ○ 山村活性化支援交付金
    森林・林業分野で考えられる山村活性化支援交付金の活用事例
   ○ 森林・山村多面的機能発揮対策
    森林・山村多面的機能発揮対策の紹介
    森林・山村多面的機能発揮対策の活動事例
   ○ 森林・林業再生基盤づくり交付金

  B「国土交通省の山村振興対策について」
        国土交通省国土政策局地方振興課 藤澤貴充 課長補佐
   ○ 将来推計人口の動向
   社人研の中位推計(出生率1.35程度で推移)では、2050年では1億人、2100年には
    5千万人を割り込むまで減少。
    山間地域のモデル集落(人口1000人規模)における2050年の推計人口は、309人
    にまで減少(△69%)、高齢化率55%となる。
   ○ 小さな拠点
    小学校区など、複数の集落が散在する地域において、商店、診療所などの日常生
    活に不可欠な施設・機能や地域活動を行う場所を、歩いて動ける範囲に集め、周
    辺集落とコミュニィティバス等の交通ネットワークで結ぶことで、人々が集い、交
    流する機会が広がっていく、集落地域の再生を目指す取組。
   ○ 地方移住等に係る情報発信
   ○ 多様な主体による地域づくりについて(地域づくり活動支援体制構築事業)

  C「総務省における山村振興関連施策について」
        総務省地域力創造グループ地域振興室 木村崇史 課長補佐
   ○ 地方移住の推進
    「移住・交流情報ガーデン」の開設
    自治体による移住関連情報の提供や相談支援等への地方財政措置
     (平成27年度に創設)
   ○ 地域おこし協力隊などの外部人材の活用
    地域おこし協力隊、集落支援員、地域おこし企業人交流プログラム
   ○ 「定住自立圏構想」の推進
   ○ こども農山漁村交流プロジェクト
   ○ 過疎地域などの自立・活性化の支援
    過疎法による過疎対策、過疎地域等集落ネットワーク圏形成支援事業
    過疎地域等自立活性化推進事業、過疎地域集落再編整備事業
    過疎地域遊休施設再編整備事業
   ○ 暮らしを支える地域運営組織 等
    暮らしを支える地域運営組織に関する調査研究事業
    条件不利地域における日常生活機能確保のための実証事業
    空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく空き家対策の推進
    PPP/PFI

3.講演
「南信州を彩る伝統野菜」    講師 シニア野菜ソムリエ 久保田 淳子
 「講演者の紹介」
   野菜ソムリエとは、野菜・果物の魅力を伝えるスペシャリストで、野菜・果物の
  知識を身に付け、そのおいしさや楽しさを理解し伝えることができ、生産者の生活者の
  野菜ソムリ架け橋となる。日本野菜ソムリ野菜ソムリエ協会が認定しており、ジュニア
  野菜ソムリエ、野菜ソムリエ、シニア野菜ソムリエの3段階になっている。
   久保田講師は、南信州初のシニア野菜ソムリエで講演や商品開発、メディア出演の
  傍、伝統野菜の栽培に携わり、地域に入って地域の人と交わり、地域の想いも届け
  る。
  2014年に山形県で開催された全国伝統野菜サミットで事例発表を行った。
 「クボジュンが出会った 南信州を彩る伝統野菜』(2015年。オフィスエム)を出版。
   ○ 長野県の農業の特徴
     ● 日照時間が長い ● 昼夜の寒暖差が大きい ● 新鮮な水が豊富にある
   ○ おいしい信州フード(風土)
     長野県では、信州の豊かな風土から生まれた食べ物を「おいしい信州フード(風
     土)」と表現し、発信している。
     それには、3つの基準がある。
     ● プレミアム
       信州産の食材にこだわり、厳選基準に基づいた「プレミアム」なもの
     ● オリジナル
       長野県で開発された新品種や全国シェア上位品目などの「オリジナル」なもの
     ● ヘリティジ
       郷土料理や食文化で「ヘリティジ(伝統的・地域固有的価値)」を有するもの
   ○ 信州の伝統野菜
     地方野菜とも呼ばれ、古くから各地で栽培、利用されてきた野菜。伝統野菜の魅
    力は、・個性的な大きさや形、・味が濃く美味、・歴史やストーリー、・中山間地の地
    形や風景、・生産者、土地の人など。
     信州の伝統野菜は、平成19年に「信州伝統野菜認定制度」が創出され、長野県
    で栽培されている野菜のうち、3項目について一定の基準を満たしているものを県
    が選定している。その基準は、@ 来歴:昭和30年代以前から栽培、A 食文化:郷
    土食が伝承、B 品種特性:固有の品種特性が明確となっている。
     信州の伝統野菜は現在(平成27年2月)71種類あり、うち、22種類が南信州と
    なっている。南信州に多く残っているのは急傾斜地や奥地に集落があり、種が外に
    持ち出されずに集落ごとに守られたきてからか。
     「南信州を彩る伝統野菜」で伝えたいことは、
      ・独自の文化(食・伝統芸能など)
      ・秘境の数々
      ・独特の地形からなる彩り豊かな自然
      ・気さくで人なつこい住民
      ・桃源郷のような時の流れ
   ○ 伝統野菜の紹介
     清内路かぼちゃ、清内路黄いも、清内路きゅうり、清内路にんにく、赤根大根(以
    上、下伊那郡阿智村)、下栗いも(飯田市上村)、源助蕪菜(下伊那郡泰阜村、下伊
    那郡豊丘村)、親田辛味大根(下伊那郡下條村)、ていざなす(下伊那郡天龍村)、
    鈴ケ沢なす、鈴ケ沢うり、鈴ケ沢南蛮(以上、下伊那郡阿南町和合鈴ケ沢)、平谷
    いも(下伊那郡平谷村)などの伝統野菜についてその特徴等について説明がなさ
    れた。
   ○ 信州伝統野菜の課題
    ・一般に知られていない伝統野菜が多く、地域のブランドとして魅力ある素材が十
     分に生かしきれていない。
    ・近い将来、次々と消滅していく恐れがある。
    ・風土や歴史を大切にした生産を推進し、地域の人たちに育まれてきた味覚や文
     化をより多くの人に提供・発信することが求められている。

4.次期開催県あいさつ
 次期開催県である、茨城県常陸太田市 大久保太一市長から挨拶があった。

 翌日は、次の3個所を視察した。
   ○ 満蒙開拓平和記念館(所在地:長野県下伊那郡阿智村駒場711−10)
    満蒙開拓団として、「満州国」に送りだされた農業移民は約27万人。昭和20年8月
    9日戦場と化し、開拓団の人たちは広野を逃げ惑い、終戦後も祖国に帰ることがで
    きず、難民収容所では飢えと寒さで大勢亡くなった。(阿智郷開拓団では、団員数
    約190人のうち帰国できたのは47人。)
     日中双方に多くの犠牲者を題した「満蒙開拓」とはいったい何だったのか。この歴
    史を風化させることなく後世に伝えるため、その拠点として平成23年4月、満蒙開
    拓平和記念館が阿智村に開館された。

   ○ 根羽村森林組合(代表者:大久保憲一 根羽村長)
     根羽村は、長野県の最南端に位置し、三河地方を潤す矢作川の源流地域にあた
    り、面積は約9千ヘクタール、そのうち92%が森林で、人口は千人余り。ほぼ全戸
    が山林を保有しており、代々森林を受け継ぐことで、美しい杉林が保たれてきた。
     根羽村では、では次のような木づかい推進の取組みが行われており、根羽村森
    林組合はその太宗を担っている。
    @ 国土調査の実施森林の境界と所有者の明確化
    A 木材販売収入を目指す森林施業プランの提示
      一体いくらの利益となるのか、所有者にはっきり提示する。
     技能職員が釣竿を手にプロット調査をし、そのデータを下に施業プランを作成し、
     承諾をもらう。
    B 山にある未利用材を地域通貨に木の駅プロジェクト
      山に捨ててある未利用材を特別養護施設の薪ボイラーに燃料として活用するた
     め、村民が丸太を集める。1m3当たり4,500円として地域通貨を渡す。
    C 地域林業の実践根羽村トータル林業
      根羽村森林組合では、40年生以上のスギやヒノキを伐り出して、木の家の材料
     の生産・加工・販売が行われている。
     ・第1次産業(木材生産)
       森林林業プランナーによる集約化・提案型施業の実施。作業路網の高性能林
      業機械による低コスト作業
     ・第2次産業(木材加工)
       設計士・工務店を通じての建築情報に基づき物件毎に厳密な製造管理。
       「高温セット法」による乾燥術により安定した品質保証。
     ・第三次産業(販売・利用)
       品質の保証された地域材を直接建築現場へ配送する「邸宅管理システム」に
      よる流通コストの削減
    【地域づくりの最大の資源とは森林資源】
     ○ 森林・林業が産業として確立
      根羽村森林組合は、森林資源を活用して50人の職員が生計を立てている。
     ○ そのポイント
      ・先人の努力による充実した森林資源の存在
      ・全村民が森林所有者・組合員
      ・資源を活かす初期投資の英断(製材工場の買い取り)
      ・使いたい人と組んで使いたい商品を作る(建築士との連携)
     ○ 必要とされる地域経営センス
      ・産業成立は顧客にある顧客を満足させる品質・口コミ・安定供給体制
      ・顧客はなにを願っているのかそれが市場となる
      ・顧客の満足度第一主義 リピーターによる持続可能な地域経営
      ・企業を担う職員の意識改革 働く者の満足度を自ら高め良い仕事に結びつけ
       る
      ・儲けないないなら寝ててくれ 小木曽亮弌村長(平成3年〜23年在任)語録

    D 地域森林資源の活用       森林組合による製材工場の稼働
     信州木材認証工場の認定(平成13年)
     顔が見えて、流れのわかる邸宅別生産管理・直送システムが建築士・工務店に
     ヒットした
    E 地域材利用の工務店による住宅見学会 木の集い
     近くの山の木 根羽スギや遠山スギを使った木造住宅の現地見学会
     村独自の建築支援策により顧客を大幅に増やす(根羽スギの柱50本提供事業)
    F 流域が一体となった森林資源活用 矢作川流域圏懇談会
    G 企業による森林整備と地域交流  森林の里親制度
    H 震災対策とセカンドライフ    小さく住まう魅力的な木の住まい
    I 里山資源+山の民の志・労働力=里山の素敵な時間・里山商品
                            里山資本主義

 以上のような説明を森林組合の事務所で受けた後、次の場所を視察した。
   ○ 製材工場
     民間から森林組合が買い取り。信州木材認証工場の認定を受ける。

   ○ モデルハウス
    ・杉風(さんぷう)の家
     根羽杉の魅力を、地元建築家とのコラボレーションで具現化した、モデルハウス。
     根羽杉をふんだんにつかい、木の家に住むことを満喫できる住まい。各居室は開
     放的な吹き抜け空間でゆるやかにつながり、どこにいても家族の気配を感じるこ
     とができる。
      どこか懐かしく、日本の景色に馴染む佇まい。杉風の家は、そんな現代民家と
     呼べる住まい。根羽杉の風合いと相まって、いつまでも飽きが来ず、訪れる人を
     やさしく迎えるファサードになっている。(根羽村森林組合のHPから)

    ・小さな木の家
      コンパクトではあるが、生活に必要な住宅機能を十分にそなえ、農山村でのセカ
     ンドライフの活動拠点として、緊急の際の家などとしご活用できる。
      1階床面積:34.78u(10.5坪)/2階床面積:19.87u(6.00坪)
                          (根羽村森林組合のHPから)

   ○ 月瀬(つきぜ)の大杉
     根羽村月瀬日影平地籍にある「月瀬の大杉」は、幹廻り約14m、樹高は40.5mに
    達する。昭和19年に国の天然記念物として指定された。樹齢は約1,800有余年。
     旧月瀬神社のご神木として古来から尊崇され、江戸時代には伐採の危機もあっ
    たが、地区民の手で守られて現在に至っている。



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