政府は、5月26日に「平成26年度食料・農業・農村白書」を閣議決定し、公表した。そのうちから、「特集1 人口減少社会における農村の活性化」及び「第3章 地域資源を活かした農村の振興(5節 都市農業の振興を除く。)」の部分を紹介します。
 なお、白書の構成は次のようになっている。
  はじめに
  特 集
   1 人口減少社会における農村の活性化
   2 新たな食料・農業・農村基本計画
  第1章 食料の安定供給の確保に向けた取組
  第2章 強い農業の創造に向けた取組
  第3章 地域資源を活かした農村の振興
  第4章 東日本大震災からの復旧・復興

特集
1 人口減少社会における農村の活性化

 我が国の農業・農村は、人口減少や高齢化等の課題が存在する一方、成長の原動力となる潜在力を有しています。この潜在力を最大限に引き出し、農業者の所得を向上させ、農村のにぎわいを取り戻していくことが重要です。
 以下では、農村における人口及び高齢化の推移と見通し、都市に住む若者を中心とする「田園回帰」の動きのほか、全国各地での地域資源を活用した農村の活性化や地域の結びつきの強化、移住・定住の促進、新規就農者の育成に向けた取組について記述します。

(1)農村における人口減少
 我が国の人口は、平成20(2008)年をピークに減少傾向にありますが、人口集中地区を都市、それ以外を農村として、農村における人口の推移をみると、昭和40年代以降、減少傾向にあり、今後もその傾向は変わらない見通しとなっています。
 今後は、農村のみならず都市においても高齢化が進行しますが、特に農村においては、
これまで地域活動を担っていた高齢者の人口も平成37(2025)年より減少に転じる見通
しであることから、農地等の資源やコミュニティの維持が困難となることが懸念されます。
 このような中では、地域住民が主体となって地域の特性に応じた新たな農村の将来像を描き、住みよい生活環境の実現に向け、コミュニティの維持・活性化や生活関連施設の再編等の取組を推進する必要があります。

(2)「田園回帰」の動き
 農林水産省が都市住民を対象に行った調査によると、農村について、「空気がきれい」、
「住宅・土地の価格が安い」、「自然が多く安らぎが感じられる」、「子どもに自然をふれさせることができる」等の良いイメージを持っています。また、内閣府が行った調査によると、多くの都市住民が農村を子育てに適している地域と考えています。
 一方、全国の合計特殊出生率をみると、おおむね大都市を有する都道府県とその周辺で低い傾向がみられます。
 このような中、都市に住む若者を中心に、農村への関心を高め新たな生活スタイルを求めて都市と農村を人々が行き交う「田園回帰」の動きや、定年退職を契機とした農村への定住志向がみられるようになってきています。
 内閣府が平成26(2014)年度に行った調査によると、都市住民の3割が農山漁村地域に定住してみたいと答えており、その割合は平成17(2005)年度に比べて増加しています。特に、20歳代男性の農山漁村に対する関心が高いこと、60歳代以上の男性については定年退職後の居住地としてUIJターンを想定していることがうかがえます。
一方、女性については、全般では男性より低いものの、30歳代及び50歳代で比較的高い定住願望がみられます。
 また、特定非営利活動法人ふるさと回帰支援センターによると、同法人が開催するふるさと回帰フェアや移住セミナー、相談会等への参加者数、電話等による問合せ数が増加傾向にあり、地方で暮らしたいと考えている都市住民が多くなっていることがうかがえます。
 このような中、農村においては、地域住民自らの力で、地域資源の有効活用や地域の結びつきの強化、新規就農者の育成、移住・定住の促進等により、コミュニティの維持や活性化に取り組み、人口減少や高齢化に伴う問題の解決を図る地域が増加しています。

(3)地域資源を活かした農村の活性化

 農村の活性化とその持続的な発展のためには、多様な地域資源の有効活用により地域の潜在力を最大限に発揮し、産業の育成や雇用の確保、所得の増大を図ることが重要です。
 このため、女性や外部人材等の視点や能力を活かし、地域資源を活用した新たな観光資源や商品の開発、情報の発信等により、新たな地域づくりや地域間交流に取り組む事例が展開されています。

地域に根ざした資源を活用した農村活性化の取組
〜株式会社四万十ドラマ(高知県四万十町)〜

 株式会社四万十ドラマは、最後の清流と言われる四万十川中流域に広がる高知県四万十町(しまんとちょう)西部に位置する旧十和村(とおわそん)にあります。地域産品の販路開拓を目的とした商社である同社は、平成6(1994)年に第3セクターとして設立されましたが、地元のヒノキの端材、茶、紅茶、米を使ったオリジナル商品の開発・販売により売上げが増加したため、平成17(2005)年、市から自社の株を買い取り、地域住民に購入してもらうことで、住民の会社となりました。平成19(2007)年からは、道の駅「四万十とおわ」の運営を行っています。
 同社社長の畦地履正(あぜちりしょう)さんは、「四万十川に負担をかけないものづくり」を目指し、「ローカル・ローテク・ローインパクト」をコンセプトに、地域資源の生産現場でもある四万十川を保全しつつ活用し、そこから生み出された商品の販売や情報発信を通じて地域の交流人口等の増加を促すことで、環境・産業・ネットワークを循環させるソーシャルビジネスを展開しています。
 コンセプトを具体化するための商品開発に当たっては、地域のデザイナーと連携し、デザインの力を積極的に活用しています。デザイナーが、パッケージデザインだけでなく商品の企画から販売手法の提案まで携わることにより、商品コンセプトの明確化を図っています。
 具体的には、地域に根ざした資源を再発掘し、かつて特産であった栗を使用して全工程が手作業の加工品を製造するとともに、環境、素材、地域の考え方を情報発信する販売戦略により高付加価値化しています。このほか、茶や米等についても同様の考え方で商品化しています。また、近所に住む主婦が考案した古新聞を利用した新聞バッグを商品化するとともに、バッグそのものだけではなく、作成方法も商品として販売しており、環境に優しいバッグとして海外でも好評を得ています。
 これらの商品は、同社が管理する道の駅で販売するほか、通信販売で全国各地へ販売しています。道の駅へは、「ここにしかない」魅力を目当てに、平成19(2007)年の開設以来110万人を超える人々が訪れています。さらに、同社の活動や、四万十町の豊かな自然に魅力を感じ、県外から移住してきた若者も多く、近年、結婚や出産が増加しています。
 このような取組により四万十町の魅力発信が進む一方、1次産業の現場は高齢化が進ん
でおり、2次、3次産業への素材供給が追いついていない状況にあります。
 このため、同社では、1次産業がしっかりしなければ6次産業化は成り立たないとの認識から、1次産業の本格再生を促し、地域特産物の生産現場の強化と、それらの加工、販売による高付加価値化を図るため、1 次産業が価値の中心になる「とおわモデル」を打ち出しました。まずは栗で成功モデルをつくり、茶、米、ゆず、しいたけ等の他の品目への拡大を図ることとしています。栗の生産拡大に当たっては、他県産地の先端栽培技
術の導入により1粒当たりの大きさ拡大を図るほか、新植による生産量増加に取り組んでいます。
 このほか、同モデルでは、これらの四万十町十和地域の事業者と同社が、人やモノ、資金を共有して事業を行う新会社の設立を進めています。繁忙期が短いなどの理由により、通年雇用が困難な複数の事業者の仕事を掛け持ちしてもらい、安定的な雇用につなげることにより、高齢化や後継者不足等の中山間地域の厳しさが克服され、産業の担い手確保につながることが期待されます。

【道の駅「四万十とおわ」に商品を出荷する生産者のお話】
 清流「栗庵」の池田照子(いけだてるこ)こ さんは、30年ほど前から、近所の女性7人で栗の加工品の製造・販売を行っています。現在は、販売を道の駅へ委託しており、栗ようかんや栗きんとんを製造し、出荷しています。地元で採れた栗を使用し、一つひとつ手作業で作られた栗きんとんは、年間約2万個製造されており、リピーターが多く、清流「栗庵」の主力商品となっています。
 同じく町内で、農薬・化学肥料を使わずに「ちゃんと種が取れる野菜をつくること」にこだわって露地野菜70種類を栽培する桐島畑の桐島正一(きりしましょういち)さんは、生産したしょうがを、ジンジャーシロップ等に加工し、道の駅へ出荷しています。また、田舎でのビジネス展開に向けた人材育成事業等を行う一般社団法人いなかパイプと連携し、インターンシップ等を受け入れているほか、地元に若者を呼び込むために栽培指導等も行っています。

地域資源を活用した女性農家による地域活性化の取組
〜森智子さん(愛媛県今治市)〜

 愛媛県今治市いまばりしの山間地域、玉川町たまがわちょうで生まれ育った森智子もりともここ さんは、平成14(2002)年に地元で就農し、ブルーベリーやマコモタケ等の栽培を開始しました。平成17(2005)年に株式会社森のともだち農園を立ち上げ、地元農家・食品会社等と連携しながら、ブルーベリーの商品開発や自ら作成したマコモタケのキャラクターを使った販売促進に取り組みました。販売に当たっては、地域でその時々にできた季節のものをセットにしてインターネット販売するなど地域全体の活性化に寄与するよう工夫を続けています。
 また、今治市で年間約100万人の来客があるJAおちいまばりの直売所「さいさいきて屋」に併設されている調理施設において、子供向け・大人向けの料理教室を企画し、農家に伝わる料理等の地元農産物のおいしい食べ方を広めることで、地産地消の普及及び地域農業の活性化を目指しています。
 さらに、子供たちの地域を大切にする気持ちを育むため、農園近くに流れる沢やれんがのかまどを利用した自然体験を長年企画しており、実際に、参加した子供たちが成長して、地域の夏祭りのボランティアに参加するなどの成果もみられます。
 森さんは、町を良くすることは、結局自分たちが良くなることであると考え、また、自分の生まれたこの町が大好きで、ここでずっと暮らしていきたいという思いから、このような取組を行っています。そして、ブルーベリーやマコモタケを通じて地域の自然の豊かさ、地域の人の魅力を伝えていくことにやりがいを感じています。今後も、地域への愛情を育みつつ、地域活性化に取り組み続けていきたいとしています。

(4)地域の結びつきを強化する取組
 農村では、人口減少や高齢化により、住民の相互扶助的な活動が難しくなっている集落が増加しているほか、多くの市町村において、事務事業の見直しや組織の合理化等により職員数が減少し、地域のニーズへのきめ細かな対応に支障が生じることが懸念されています。
 このような中、住みやすい生活環境を実現するため、地域の営農組織による6次産業化
や住民の生活支援サービスへの取組、地域住民の出資会社による商店経営や商品開発等への取組等、地域の結びつきを強化して住民の暮らしを支え、地域の持続的な発展を目指す活動が展開されています。

農業生産と高齢者支援事業による地域の維持・活性化の取組
〜有限会社グリーンワーク(島根県出雲市)〜

 島根県出雲市佐田町いずもしさだちょうは、同市中心地から南西30kmにある、山間地の稲作農業地域です。
当初、地域には2つの営農組合がありましたが、オペレーターの高齢化や増え続ける委託
希望者に対応できなくなったため、平成14(2002)年に2つの営農組合が合併し、さら
に、平成15(2003)年、地域で必要とされる農外事業にも取り組むため、農事組合法人
ではなく有限会社グリーンワークとして法人化しました。現在、同社は出資者が32人で、
水稲を中心とした農業経営とともに、高齢者の外出支援等の農外事業に取り組んでいます。
 農業部門としては、水稲約20haを直営しているほか、刈取り等の作業を受託しています。環境保全に配慮した米生産を行い、食味の評価が高く、大部分を相対で販売しています。また、平成17(2005)年から羊の放牧事業を開始し、畦畔(けいはん)斜面の除草に役立てています。羊1頭で1反(10a)の除草が可能で、取組当初は3頭でしたが、42頭まで繁殖し、地域の子供たちの教育にも活用されています。
 農外部門としては、地域の高齢者等が住み慣れた地元で安心して暮らせるよう高齢者外出支援事業に取り組んでいます。これは、出雲市内への通院や買物等のための送迎サービスで、車を所有していない65歳以上の高齢者を対象としています。サービスの利用は月1回までですが、1回当たり1千円程度の料金となっており、地域で喜ばれる事業となっています。
 また、高齢者配食サービス事業では、出雲市からの委託を受けて、自身で食事を作れず要介護認定を受けている高齢者向けに専門業者が作った弁当を、年間を通して毎日2回配達しています。併せて安否確認も行っており、地域の高齢者に必要不可欠な事業となっています。
 農閑期の冬期には、町内にある農協の給油所が忙しくなることから、灯油の配達業務を受託しています。さらに、除草のために羊を導入したことから、羊毛の有効利用を目的として「メリーさんの会」を立ち上げ、社員家族の女性約10人が独立採算で毛を刈って洗い、ベスト、マフラー、靴下、手袋等の手編み製品の製造・販売を行っています。
このような経営の多角化により年間を通して安定した収益を確保し、農業部門と農外部
門合わせて、Iターン者2人を含む6人の年間雇用を実現しています。
 今後も引き続き、農業経営とともに農外事業についても、「地域のために、地域とともに」をモットーに、次世代を育成しながら、地域で求められる取組を継続していきたいとしています。

住民主体の「住民の会社」による地域の維持・活性化の取組
〜株式会社大宮産業(高知県四万十市)〜

 高知県四万十市しまんとし大宮おおみや地区は、同市の中心街から約50kmにある山間地域です。同地区では、平成17(2005)年に地域で唯一日用品やガソリン等を販売していた農協の出張所が廃止されることとなりました。最寄りの給油所でさえ県境を越えて16kmも離れている状況であり、高齢化が進む同地区住民の生活を守るため、周辺地域の住民108人が株主となり、平成18(2006)年5月、「住民の会社」として株式会社大宮産業を設立し、出張所の建物及びガソリン等の購買事業を引き継ぎました。
 同社では、地域住民の要望をできるだけ品揃えに反映するとともに、高齢者世帯への週2回の宅配サービスや感謝祭等のイベントの実施による地域のにぎわいづくり等、地域の実情に応じた経営を行っており、設立以降黒字経営を継続しています。また、地域で採れる減農薬栽培米を「大宮米」としてブランド化する取組を行っており、四万十市内の病院や近隣のデイサービス施設へ販売するほか、地区外への販路拡大にも力を入れています。
 また、平成25(2013)年、高知県が推進する地域活動の拠点の一つとして、大宮集落
活動センター「みやの里」を開設しました。
 同センターでは、世帯主、高齢者、女性、若者等の意見を集約するとともに、農林部会や生活福祉部会等の6つの部会を設け、住民からの意見を基に活動を進め、特産品の開発、里山環境保全に取り組むほか、田植体験等の交流事業や、各地の大学の教員や学生による地域研究のための宿泊研修の受入れ等も行っています。
 同社代表取締役の竹葉傳(たけばつたえ)さんは、今後も「いつまでも誰もが安心して暮らせる大宮」を目指し、地域一体となった取組を進めていきたいとしています。

(5)移住・定住の促進と新規就農者の育成に向けた取組
 地域農業の担い手の高齢化や後継者不足が進行する中、農業及び関連地域産業の衰退を防ぐため、地方自治体や農協が新規就農者を育成する組織を設立し、意欲ある若者を全国から受け入れ、担い手の確保と移住・定住を促進する取組が行われています。
また、田舎暮らしを希望してUIJターンする都市住民等に空き家をあっせんし、地域社会の活力を取り戻すとともに、これら外部人材の力を活かして観光資源や特産品の開発に取り組む事例が展開されています。

定住促進と食による地域振興の取組
〜島根県邑南町〜

 島根県邑南町おおなんちょうは、広島県境に接する中山間地域であり、町の86%が山林で覆われ、高齢化率41.5%で過疎化が進む地域です。過疎化に危機感を持った町は、平成23(2011)年、「邑南町農林商工等連携ビジョン」を策定し、定住プロジェクトとして、攻めの「A級グルメ構想」と守りの「日本一の子育て村」、「徹底した移住者ケア」の取組を開始しました。
 「日本一の子育て村」については、プロジェクトに先行し、平成22(2010)年、過疎
対策事業債のソフト事業を活用し、保育料無料等の当時としては斬新な戦略を展開し始めました。現在、公立病院の産婦人科・小児科専門医の常勤による24時間365日の救急受付、第2子以降の保育料完全無料化、3世代家族の近居のための住宅建築費の助成等を実施しています。
 「徹底した移住者ケア」では、平成22(2010)年9月から定住支援コーディネーターとして常勤職員1人と、平成26(2014)年6月から定住促進支援員として公民館長等の人望が厚く地域に精通している2人を配置しています。現在の定住支援コーディネーターは自身がIターン者であり、移住者に対し、事前の集落との話合いから地域での円滑な生活の開始、移住後の仕事や生活への支援・助言を行っています。これまでに町の支援を通じて移住してきた人全員に目配りし、「住居が見付からない」、「地域のしきたりになじめない」、「相談相手がいなくて孤立している」、「希望する就職先がない」といった移住者の悩みに応え、移住当初に仕事をあっせんするだけでなく、仕事を続けられなかった場合は、異なる仕事をあっせんしています。このような徹底的な移住者のケアによって、離村を防いで定住を確保しています。
 これらの取組によって、平成24(2012)年の合計特殊出生率は2.65人となり、こ
れまでに150人の移住者を受け入れ、平成25(2013)年の人口動態は、転入による
増加が転出による減少を上回り、20人の社会増を実現しました。
 また、子育て支援によって出生率を上げても、成人後に都市部へ出て行ってしまう
人が多くいることから、人口減少対策として、町にとどまるか、一度出て行っても再び戻ってくるための魅力を備える必要がありました。このため、「邑南町農林商工等連携ビジョン」の柱の一つとして、大消費地への売り込みではなく、地元でしか味わえない特産品や体験を「A級グルメ」として地域ブランド化し、人を呼び込んで関連産業の活性化につなげることとしました。具体的には、平成23(2011)年5月、町観光協会の運営によるイタリアンレストラン「素材香房ajikura」を開店し、町内出身の料理長の三上智(みかみとも)泰(ひろ)さんを始めとして、ソムリエ、パティシエ等の特殊な技能を持つUIJターン者を誘致しました。
 また、地域おこし協力隊事業を活用し、食材づくりから料理までを一貫して行える人材を「耕すシェフ」と銘打って、A級グルメの担い手を育成しています。この取組によって、地元の人が邑南町の風景や食材のすばらしさを認識し、地域に根ざした農業や食に対して抱く愛着・誇り・自負心を生み出すこととなりました。また、起業者が連鎖的に拡大し、農家のおじいちゃん、おばあちゃんによるレストラン等、6次産業化の取組が広がってきています。地域おこし協力隊事業については、平成26(2014)年9月までに町は21人の隊員を受け入れました。「耕すシェフ」のほか、有機農業や6次産業化を目指す「アグリ女子」等、それぞれに求める役割・技能を明確化し、イメージしやすくネーミングしているため、隊員の存在意義が内外に分かりやすく発信されています。
 過疎化への危機感から斬新な子育て支援に取り組み、少しずつ成果も現れつつありますが、今後とも一層、食による地域振興と定住起業支援の取組を進めていくこととしています。

空き家を活用した移住の受入促進と地域活性化に向けた取組
〜特定非営利活動法人院内町活性化協議会(大分県宇佐市)〜

 大分県宇佐市うさしの特定非営利活動法人院内町活性化協議会は、空き家が増加し続ける状況に危機感を抱いていた地域住民により、平成20(2008)年9月に設立されました。「空き家に灯りがともれば街が変わる」という思いで、空き家の持ち主と交渉し借り手を探す活動を始め、県内外から100世帯以上が移住しています。
 同法人では、移住者を呼び込むため、移住希望者の相談から空き家の手配、受入れまでを一括して担当するとともに、土・日曜日の現地案内や体験宿泊、移住決定後の近隣挨拶への同行、地域内交流の支援等、民間組織だからこそできるきめ細かな対応を行っています。一方、移住希望者に対しては、住民登録や地域の行事への参加、家屋・山林・田畑の整備をお願いしています。
 空き家の賃貸に当たっては、所有者が遠方に居住している場合が多いため、同法人が電話で交渉を行い、空き家の放置による安全面や衛生面での問題があることや貸すことで管理人を置く効果があること、地域の活性化につながることを説明し、理解を得るとともに、家賃は1万円に設定しています。
 移住者については、定年退職者が占める割合は全体の2割に満たず、仕事を持っているか、持とうとしている現役世代がほとんどで、資格を活かした福祉施設等への勤務や有機農業への取組、農家の作業補助、工芸品の制作・販売等により生計を立てています。
 また、同法人が農事組合法人を設立し、耕作放棄地を整備して、農業を始めたい移住者に耕作してもらうほか、そう菜・菓子の加工所を設けて雇用の場を創出しています。


20年近く新規就農支援に取り組み、産地回復・若返りを実現した取組
〜公益財団法人志布志市農業公社(鹿児島県志布志市)〜

 鹿児島県志布志市しぶししでは、昭和43(1968)年からピーマンの促成栽培に取り組み、昭和47(1972)年には「野菜生産出荷安定法」に基づく指定産地となり、昭和52(1977)年には栽培面積が22.5haまで拡大しました。しかし、燃料費の高騰や高齢化・後継者不足から面積が減少し、平成2(1990)年には7.5haまで落ち込み、指定産地要件の10haを下回ったため、指定解除の危機となりました。このため、後継者育成だけでなく市外・県外から新規就農者を募集することとし、平成8(1996)年、志布志町とJAそお鹿児島の共同出資により財団法人志布志町農業公社が設立されました(市町村合併に伴い、平成19(2007)年に財団法人志布志市農業公社)。
 これまでの研修事業の積み重ねによって、平成25(2013)年には過去最大の栽培面積
を上回る23.4haとなり、全国でも主要な産地となっています。高齢化に悩んでいた同JAピーマン部会の平均年齢は48歳まで若返り、地域に子供たちも増え、地域の活性化を実現しています。平成26(2014)年9月時点で、ピーマン部会87人のうち、新規就農者は60人(69%)、特に、同公社の志布志事業所でピーマンの専門研修を受けた新規就農者は45人(52%)と過半を占めています。
 研修では、協調性を育てることを重視しており、特に1年目はビニール張り替えや植付け等の共同作業を多く設定し、社会性の向上を図っています。
 これまで18年間の研修生は96人で、このうち70人(73%)が就農しています。取組当初は、就農時のハウスの初期投資の準備資金が不足し、就農できない人がいましたが、準備資金を持っているか明確に確認すること等により、平成20(2008)年以降は研修途中の辞退や就農後の離農はありません。研修生の9割以上が非農家出身で、年齢構成は30歳代の43%、40歳代の33%が多く、20歳代や50歳代もいます。出身地別では、県外が74人(77%)、県内が22人(23%)となっています。研修に関わる予算は、おおむね、収穫したピーマンの販売収入で賄っています。
 課題としては、栽培面積が拡大することに伴い、かんがい設備が整っているまとまった土地を確保することが徐々に難しくなってきていることが挙げられます。また、研修用ハウスは老朽化しており、新築か修繕が必要となっています。今後も研修事業を継続し、栽培面積を拡大していきたいとしています。


酪農の担い手育成による基幹産業の維持と地域振興の取組
〜有限会社別海町酪農研修牧場(北海道別海町)〜

 北海道別海町べっかいちょうは、日本一の生乳生産量を誇り、酪農が基幹産業となっていますが、昭和36(1961)年に2,600戸あった酪農家数は、近年、約700戸まで減少しています。
 酪農の近代化が進み、規模拡大を志向する農家が増えつつあるものの、基本は家族経営であり、担い手の高齢化や後継者不足により廃業が進んでいることから、平成8(1996)
年、町と町内の3つの農協が出資して酪農研修牧場を設立し、担い手の育成に取り組んで
います。
 同牧場では、新規就農希望者からの相談を受け付けるとともに、新規就農フェアへの出展やセミナーへの参加により就農希望者を発掘し、新たに酪農を始めようとする意欲ある若者を全国から受け入れています。
 安全な牛乳の生産と担い手の教育・訓練のための研修システムを構築し、3年間の研修
期間中に酪農の基本的知識や実践的技術、経営能力を座学と実践牧場で習得させるとともに、研修生は家族がいる若者が中心であることから、臨時職員として採用して給与を支給するほか、研修生宿舎を完備し、牛舎内に保育室を設けるなど、安心して研修を受けるための生活支援を行っています。
 また、同町では、町立病院での産婦人科の診療を維持しており、道内における同町の出生率も高く、地域ごとに保育園を設置しているほか、小中学校への通学のためスクールバスを運行するなど、子育てを支援しています。
 研修終了後の新規就農時には、営農助成金の交付や農場リース事業等により、関係機関をあげて就農支援を行い、別海町を中心とする地域に毎年3人から5人、これまでに100
人以上の新規就農者を送り出しています。就農後も関係機関が連携して営農指導と一体的に支援を行い、新規就農者の定着と地域の振興につなげています。

(6)農村の活性化に向けた施策の推進
 我が国における急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくため、平成26(2014)年11月、「まち・ひと・しごと創生法」が国会において成立しました。今後5か年の目標や施策の基本的方向を示した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(平成26(2014)年12月27日閣議決定)に基づき、政府一体となって、まち・ひと・しごと創生に関する施策を推進することとしています。
 一方、新たな食料・農業・農村基本計画(平成27(2015)年3月31日閣議決定)にお
いて、地域コミュニティ機能の発揮等による農地等の地域資源の維持・継承や住みやすい生活環境の実現、農村における雇用の確保と所得の向上、都市と農村の交流や都市住民の移住・定住の促進等の取組を「まち・ひと・しごと創生総合戦略」等を踏まえ、関係府省の連携の下、総合的に推進することとしています。
 また、同計画と併せて、「魅力ある農山漁村づくりに向けて」(農山漁村活性化ビジョン)を策定し、都市と農山漁村を人々が行き交う「田園回帰」の実現に向けた方策を推進するとともに、地域で取り組まれる実践活動を後押しすることとしています。

コラム
「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」の選定

「ディスカバー農山漁村の宝」とは、地方が持つ魅力を「発掘」し、これらを地域活性化につなげている優良な事例を選定するものです。
 平成26(2014)年5月、内閣官房において開催された有識者懇談会において、農山漁村の有する潜在力を引き出すことにより地域の活性化や所得向上に取り組む23地区が選定されました。「強い農林水産業」、「美しく活力ある農山漁村」の実現のため、他地域の参考となる取組として全国に発信されています。


第3章 地域資源を活かした農村の振興
第1節  農業・農村の持つ多面的機能の維持・発揮

 農業の持続的な発展の基盤であり、農業の持つ多面的機能の発揮の場である農村では、人口減少や高齢化により集落機能や地域資源の維持が困難となる懸念が生じています。一方、伝統的な農業・農村の価値等が再認識され、農村の活性化に向けた動きもみられます。
 以下では、農業・農村が多面的な機能を十分に発揮できるよう講じている施策や取組について記述します。

(農業・農村の持つ多面的機能)
 農業・農村は、食料を供給する役割だけでなく、その生産活動を通じ、国土の保全、水源の涵かん養、生物多様性の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等、様々な機能を有しており、このような多面にわたる機能による効果は、地域住民を始め国民全体が享受しています。
 また、農山漁村において、農業、林業及び水産業は、それぞれの基盤である農地、森林、海域との間で相互に関係を持ちながら、水や大気、物質の循環等に貢献しつつ、多面的機能を発揮しています。
 農業・農村の持つ多面的機能について、農林水産省が農業者及び消費者を対象に行った調査によると、洪水防止や生きものに関する機能への意識が高いほか、農業者は地下水の涵養や農村景観、消費者は伝統文化に関する機能への意識が高くなっています。
 農業・農村が多面的機能を将来にわたって発揮できるよう、各種施策や取組を通じて、
農業・農村の持続的な発展に努めていくことが重要です。

(日本型直接支払の導入)
 多面的機能の維持・発揮を図るため、それを支える地域活動、農業生産活動の継続、環境保全に効果の高い営農を支援する日本型直接支払(多面的機能支払、中山間地域等直接支払、環境保全型農業直接支払)が平成26(2014)年度に創設されました。
 さらに、平成27(2015)年4月、「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」が施行され、これらの取組が法律に基づいて実施されており、国、都道府県及び市町村が相互に連携を図りながら支援が行われています。

(多面的機能支払による取組)
 多面的機能支払は、農業者等による活動組織を対象とした「農地維持支払」と地域住民を含む活動組織を対象とした「資源向上支払」で構成されています。
 農地維持支払は、水路の草刈り・泥上げ、農道の路面維持等の基礎的保全活動等を対象とし、資源向上支払は、水路、農道等の軽微な補修や植栽による景観形成等の農村環境の良好な保全といった地域資源の質的向上を図る共同活動や施設の長寿命化のための活動等を対象としています。
 これらの水路・農道等を管理する共同活動を支援し、多面的機能の発揮を促進するとともに、地域で担い手を支えることで農業の構造改革を後押ししていくこととしています。
 農地・水保全管理支払の取組組織による新制度への移行に当たっては、円滑な移行のため、申請手続の簡素化等を図り、平成27(2015)年1月末現在の取組の見込みとして、
農地維持支払は196万1千haの農用地を対象に24,890組織、資源向上支払は179万2千haの農用地を対象に21,324組織が活動に取り組んでいます。

事例
多面的機能支払を活用した地域資源の保全活動と地域の活性化
(1)混住化が進む地域における地域資源の保全管理に向けた取組

 宮崎県宮崎市(みやざきし)の島之内(しまのうち)地区は、稲作を主体に、きゅうり、トマト等の施設園芸も盛んな地域ですが、市街地に近く国道沿いに位置することから混住化が進行し、地域活動に対する意識の希薄化や農業者の高齢化により、施設の保全管理が困難となりつつありました。
 また、近隣集落において、交付金を活用して活発に共同活動が行われている状況を受けて、多面的機能支払に取り組む機運が高まったことから、地域の中心的農業者が保全活動組織の立ち上げに向けた勉強会を繰り返し開催し、地区内の農業者や自治会等に参加を呼びかけ、市の助言も得ながら、平成26(2014)年に「農地・水にししま水土里会」を設立しました。同組織では、多面的機能支払を活用し、施設周りの草刈りや植栽活動等の取組を始めています。

(2)遊休農地等の活用による地産地消と6次産業化の取組
 岡山県美咲町(みさきちょう)の境(さかい)地区は、中山間地域の棚田地帯であり、農業者の高齢化や減少に伴い、棚田の保全活動の低下や遊休農地の増大等が危惧されていたことから、平成14(2002)年に農業者や自治会、小・中学校PTA等により「境地区協議会」を設立し、平成19(2007)年度から農地・水・環境保全向上対策(平成26(2014)年度からは多面的機能支払)による草刈り等の共同活動の取組を始めました。
 また、取組の中で、遊休農地に景観作物として紅そばを作付けするとともに、収穫時期にそば祭りを開催し、地域の活性化につながっています。さらに、生産者組合がそば屋「紅そば亭」を経営し、地産地消や地場産農産物の加工販売等の取組により、年間約1万人を集客するなど、その活動を広げています。


(中山間地域等直接支払による取組)
 中山間地域等の農業生産条件の不利を補正し、農業生産活動の継続を図ることを目的に、中山間地域等直接支払を実施しています。
 仕組みとしては、対象となる農用地において農業を5年以上続けることを、集落を単位
とする協定により約束した農業者等に対して、交付金を交付する制度であり、それら協定の下で、農地の法面(のりめん)管理等による耕作放棄の防止等の農業生産活動、農用地と一体となった周辺林地の管理等の多面的機能を増進する活動を行うことができます。
 平成27(2015)年1月末現在の取組の見込みとして、全国68万7千haの農用地を対象に、28,079協定が締結されています。
 本制度は施策の評価を第三者委員会において実施しつつ、5年ごとに対策の見直しを
行っており、平成26(2014)年度は第3期対策の最終年度となりました。
 本制度の実施により、耕作放棄地の発生防止に加え、協定締結を契機として共同活動への意識の高まり等、農地の保全や集落の活性化に寄与しているほか、集落を基礎とした営農組織の育成・法人化や地場産農産物等の加工・販売、棚田等の地域資源を活かした体験交流活動の推進等、全国各地で様々な取組が行われています。
 今後、中山間地域等の集落では一層の人口減少や高齢化が進行することから、次期対策においては、女性・若者等の集落活動への参画や広域での集落協定に基づく複数集落が連携した活動体制づくり、条件が特に厳しい超急傾斜地における農業生産活動への支援を強化することとしています。

(環境保全型農業直接支払による取組)
 環境保全に効果の高い営農活動に取り組むことは、地域環境や地球環境の保全・向
上に資することから、化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組と合わせ
て、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に取り組む農業者等に対
して環境保全型農業直接支払が実施されています。
 環境保全に効果の高い営農活動として、土壌への炭素貯留を目的とした、@カバー
クロップ(緑肥)の作付けの取組、A炭素貯留効果の高い堆肥の水質保全に資する施
用の取組、生物多様性保全を目的とした、B化学肥料・農薬を使用しない有機農業が
あります。このほか、C地域の環境や農業の実態等を勘案した上で、地域を限定して
取り組むことができる地域特認取組を対象として支援しています。
 平成27(2015)年1月末現在における取組面積の見込みとして、前年度に比べて10,428ha増加し61,542haとなっており、毎年取組の拡大が図られています。

(世界農業遺産の認定地域における地域資源の保全と活用)
 国連食糧農業機関(FAO)は、近代化が進む中で失われつつある伝統的な農業・農法、
生物多様性が守られた土地利用、農村文化、土地景観等を地域システムとして一体的に維持保全し、次世代へ継承していくため、世界農業遺産(GIAHS(ジアス))を認定しています。
 我が国では、平成23(2011)年6月に新潟県佐渡市(さどし)の「トキと共生する佐渡の里山」と石川県能登(のと)地域の「能登の里山里海」、平成25(2013)年5月に静岡県掛川周辺地域の「静岡の茶草場(ちゃくさば)農法」、熊本県阿蘇(あそ)地域の「阿蘇の草原の維持と持続的農業」及び大分県国東(くにさき)半島宇佐(うさ)地域の「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」の取組が認定されています。
 認定地域においては、世界農業遺産の活用・保全計画に基づき、農業の担い手の確保や農産物のブランド化、グリーン・ツーリズム等の農業・農村振興施策を推進し、地域の価値を向上するとともに、これら地域システムを次世代に確実に継承していくことが求められます。
 なお、世界農業遺産の認定を受けるに当たっては所管官庁の承認が必要とされていることから、農林水産省では世界農業遺産(GIAHS)専門家会議を開催し、認定申請を行お
うとする地域の評価や専門的な視点からの助言を行っています。

事例
世界農業遺産認定地域における農村景観の保全と地域活性化の取組

大分県の国東(くにさき)半島宇佐(うさ)地域(豊後高田市(ぶんごたかだし)、杵築市(きつきし)、宇佐市(うさし)、国東市(くにさきし) 、姫島村(ひめしまむら)、日出町(ひじまち))は、降水量が少なく、河川も短く急勾配で、保水性が乏しい火山性土壌であることから、約1,200の小規模なため池による用水供給システムにより、水稲、原木しいたけ、シチトウイを栽培する伝統的な農業が行われてきました。また、しいたけの原木となるクヌギ林とため池群により、多様な生物が育まれ、里山の良好な環境や景観が保全されてきました。
 豊後高田市の田染小崎(たしぶおさき)地区は、中世の荘園村落の姿を現在に色濃く残す地区で、史跡や土地の形状を利用した水田が継承され、千年前から続く美しい農村景観を今にとどめています。
 また、山麓一帯にクヌギ林が広がるとともに、ため池からの用水が田越しかんがいにより水田を潤しています。
 平成11(1999)年に同地区自治会の下部組織として設立された「荘園の里推進委員会」では、中世荘園村落遺跡の保全とそれを活用した地域づくりのため、荘園領主(水田オーナー)制度や御田植祭、収穫祭、ホタル鑑賞会の開催、マルシェの出店、グリーン・ツーリズム等に取り組んできました。
 世界農業遺産認定の後押しを受け、地元食材を活用した高付加価値商品や新たな都市農村交流プランの開発等、地域資源を最大限に活用した地域の活性化に取り組んでいます。 


第2節節 鳥獣被害対策の推進
 シカやイノシシ、サル等の野生鳥獣による農業被害や自然生態系への影響が深刻化する一方、高齢化等を背景として狩猟者等の鳥獣被害防止の担い手が減少しています。
 以下では、鳥獣被害の現状や鳥獣被害対策の具体的な取組について記述します。

(鳥獣被害の現状)
 野生鳥獣による農作物被害額は、近年、年間200億円前後で推移しています。このうち、獣類によるものが8割、鳥類によるものが2割を占めており、シカとイノシシによる被害額が依然として多くなっています。
 鳥獣被害が深刻化・広域化する背景として、農山漁村の過疎化や高齢化の進行による耕作放棄地の増加、狩猟者の減少・高齢化による捕獲圧の低下、里山・森林管理の粗放化、近年の少雪傾向等に伴う野生鳥獣の生息環境の変化等が考えられます。
 また、鳥獣被害は農業者の営農意欲を低下させ、耕作放棄地を増加させる一因となっていますが、耕作放棄地の増加が更なる鳥獣被害を招くという悪循環を生じさせており、被害額として数字に表れる以上に農村の暮らしに深刻な影響を及ぼしています。
 一方、捕獲の担い手である狩猟免許所持者数は、減少傾向にあるとともに高齢化が進んでいます。このうち、わな猟免許所持者数については増加がみられますが、銃猟免許所持者数は大きく減少しています。

(鳥獣被害対策の推進)
 野生鳥獣による被害の深刻化、広域化に対応するため、農林水産省では、市町村が鳥獣被害防止特別措置法に基づく被害防止計画を作成し、鳥獣被害対策実施隊による捕獲や追い払い等の地域ぐるみの被害防止活動、侵入防止柵の整備、地域リーダーの育成、獣肉の利活用等を図る人材育成の取組を推進しています。
 被害防止計画を作成した市町村数は1,409まで増加し、鳥獣被害が認められる全市町村(約1,500)の9割に達する一方、鳥獣被害対策実施隊を設置している市町村数は939まで増加したものの、引き続き設置の促進と体制の強化が必要となっています。
 鳥獣被害は、農林水産業にとどまらず、生態系、生活環境等広い範囲に及ぶことから、環境省と農林水産省が共同で「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を取りまとめるなど、シカとイノシシの個体数及びニホンザルの加害群数を平成35(2023)年度までに半減させることを目指し、捕獲等の対策の強化を図ることとしています。
 さらに、環境省が所管する「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」の一部改正法が平成26(2014)年5月に公布され、都道府県や国が鳥獣の管理のために行う捕獲等事業の創設、鳥獣の捕獲等を行う事業者に関する認定制度の導入、網猟免許及びわな猟免許の取得年齢の引下げ等を含む「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」に改められることとなっています。
 また、今後、野生鳥獣の捕獲数も増え、捕獲鳥獣の食肉利用(ジビエ)の増加が見込まれることから、平成26(2014)年11月に厚生労働省において「野生鳥獣肉の衛生管理
に関する指針(ガイドライン)」を作成し、狩猟から消費に至るまでの各工程における安全性確保のための取組を推進することとしています。

事例
鳥獣被害対策の取組
(1)地域住民が一体となった追い払いによるサル被害の軽減

 三重県伊賀市(いがし)の阿波地域住民自治協議会は、10年ほど前から目立ち始めたサルの群れによる農作物被害や住居侵入に対応するため、平成21(2009)年から地域住民全員で山頂付近にまで徹底的に追い払うことで、サルが同地域を避けるようになりました。
 さらに、サルやシカ等の複数獣種に対応した防護柵の設置や餌場にされにくい集落づくりを実践することで被害を大幅に軽減し、被害のために耕作を諦めざるを得なかった畑で営農を再開するなど、地域の活性化に大きく貢献しました。
 サルは学習能力が高く人慣れするなどの理由から、被害軽減に成功する事例は少ないところですが、地域住民が自発的に被害防止活動の担い手となり、地域一体となった同協議会の取組は、サル被害に強い集落づくりのモデルとなり、周辺地域のみならず県内外の地域にも普及しています。

(2)実施隊の活動による捕獲の迅速化と獣肉のブランド化による地域活性化の取組
 福岡県糸島市(いとしまし)の糸島市鳥獣害防止対策協議会は、民間の鳥獣被害対策実施隊員の任命による捕獲活動の迅速化、地域ぐるみでの侵入防止柵や緩衝帯の整備等により、同市の被害額の5割を占めていたイノシシによる被害を大きく軽減しました。
 特に、地域住民からの捕獲要請に即日対応できるよう、比較的時間の融通が可能な自営業者を中心に実施隊員を任命し、活動することにより、捕獲頭数が飛躍的に増加しました。
 加えて、イノシシの品質が劣化しない輸送方法(氷冷輸送)に取り組むことで高品質な獣肉を確保し、「浮嶽(うきだけ)くじら」としてブランド化に取り組むとともに、地元の大学と連携してソーセージ等の加工品を製品化するなどの取組も進めています。
 これらの地域一体的な取組は、他の地域の模範的なモデルとして注目されています。


第3節 再生可能エネルギーの推進
 太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の再生可能エネルギー源は、永続的な利用
が可能であるとともに、発電時や熱利用時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)
をほとんど排出しないという優れた特徴を有しており、我が国の農山漁村において豊富に存在する資源です。
 以下では、これらのエネルギー資源の有効活用による農山漁村の活性化について記述します

(再生可能エネルギーの現状)
 我が国の総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は1割程度ですが、その大部分は大規模水力発電によるものです。
 平成24(2012)年7 月に、固定価格買取制度が開始され、水力を除く太陽光や風力、バイオマス等の再生可能エネルギー電気の割合は増加していますが、いまだ2.2%%にとどまります。
 平成26(2014)年4 月には、第四次エネルギー基本計画が閣議決定され、その中で再生可能エネルギーについては、平成25(2013)年から3年程度、導入を最大限加速していき、その後も積極的に推進していくこととされました。また、農山漁村再生可能エネルギー法等の積極的な活用を図り、地域の活性化に資する再生可能エネルギーの導入を推進すること等が盛り込まれました。
 このような中、平成26(2014)年9月以降、複数の電力会社が、管内で電力の安定供給に支障が生じるおそれがあることを理由として、再生可能エネルギー発電設備に対する接続申込みの回答を一時的に保留する状況となりました。
 このため、経済産業省において専門家による作業部会を設置し、各電力会社への受入可能量について、第三者の立場で、厳しく検証を進めるとともに、受入可能量の拡大方策についても検討が行われました。この結果等を踏まえ、平成27(2015)年1月、固定価格買取制度の運用見直し等が実施され、新たな出力制御ルールの導入、太陽光発電に適用される調達価格の適正化、接続枠の空押さえの防止等の措置が実施されました。この中で、水力発電や地熱発電は出力制御の対象外にされるとともに、地域に賦存する資源を有効活用するバイオマス発電については、対応困難な場合には出力制御の対象外とされた上で、電力会社に受け入れられることとなりました。

(再生可能エネルギーによる地域の活性化)
 農山漁村は、エネルギーの地域外への依存度が高い現状にありますが、農山漁村に存在する豊富な再生可能エネルギー源を地域主導で活用することで、農山漁村に新たな価値を創出し、地域内経済の循環を図るとともに、そこで発生する利益を農林漁業の発展につなげることにより、農山漁村の活性化を図ることが重要です。
 近年、農林漁業者が主体となって、再生可能エネルギー発電による利益を地域の農林漁業の活性化のために活用する取組が各地でみられるようになっており、今後、農山漁村再生可能エネルギー法も活用しながら、このような取組が広がることが期待されます。
 また、農林水産省では、地域主導で進められる取組の更なる加速化を図るため、「今後の農山漁村における再生可能エネルギー導入のあり方に関する検討会」を開催し、平成27(2015)年3月に報告書を取りまとめたところです。この中で、@地域の農林漁業者
等が自ら出資及び意思決定を行い、利益の大部分を得ることができる取組の拡大、A外部事業者のみで行われようとする事業について、計画段階から地域が関わり、農山漁村の活性化に資する取組への誘導が重要であることと、それを実現するための対応策等が提言されました。

(農山漁村における再生可能エネルギーの活用)
 水力発電には、太陽光発電や風力発電と比較すると天候による発電量の変動が少ないという利点があります。また、農業用水を貯留・流下させる農業用ダムや農業用水路等には、落差等による水力エネルギーが存在しており、これら農業水利施設と一体的に小水力発電施設の整備を図ることで、そのエネルギーを有効に活用することが可能です。
 平成26(2014)年10月現在、農業農村整備事業等により37地区で小水力発電施設が整備され、年間約1億2,000万kWhの電力量(約3万5千世帯の年間消費電力量に相当)が発電可能となっており、土地改良区等が管理する農業水利施設の維持管理費の軽減に寄与しています。また、小水力発電の導入を推進するため、発電施設の設置・運営に係る技術力向上のための支援等を行っているほか、水利権許可手続等の簡素化・迅速化も図られています。
 一方、揚水機場の屋根やファームポンドの敷地内、農業用排水路の法面(のりめん)等に太陽光パネルを設置し、当該施設の電力として利用するなど、太陽光発電への取組も各地で進められており、平成26(2014)年10月現在、農業農村整備事業等により67地区で太陽光発電施設が整備されています。
 近年、農地に支柱を立てて営農を継続しながら上部空間に太陽光パネルを設置する発電設備等の技術開発が進められていますが、下部の農地で農業生産が継続されるとともに、周辺農地の効率的な利用や農業水利施設の機能等に支障を及ぼすことがないよう、適切に取り組むことで、農家の所得向上につなげることが重要です。

(バイオマスの活用による新たな産業の創出と地域づくり)
 バイオマスとは、木質、食品廃棄物、家畜排せつ物、下水汚泥等の動植物に由来する有機性資源であり、発電、熱、燃料、素材等幅広い用途に活用できる、地域に密着した身近な資源です。また、大気中のCO2を増加させないカーボンニュートラルと呼ばれる特性により、その活用は地球温暖化対策に有効であるとともに、天候に左右される太陽光、風力に比べて安定的なエネルギー源です。
 これらのバイオマスを活用することにより、地域の産業・雇用創出、エネルギー供給の強化、循環型社会の形成に貢献するため、関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)が連携し、地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸とする、環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指すバイオマス産業都市の構築を推進しています。
 平成26(2014)年度までに22地域がバイオマス産業都市に選定されています。

事例
バイオマス産業都市の構築

 北海道鹿追町(しかおいちょう)(十勝地域)は、十勝地域に位置する畑作、酪農及び畜産を主産業とした純農村地域です。特に酪農が盛んであり、約1万8千頭の乳牛から毎年約10万tの牛乳を生産する一方、家畜排せつ物の適切処理や市街地周辺の環境改善が課題となっていました。
 このため、町では、国内最大規模の資源循環型バイオガスプラントや堆肥化施設を備えた「鹿追町環境保全センター」を整備し、平成19(2007)年10月から稼働しています。
 このバイオガスプラントでは、周辺の農家から原料である家畜排せつ物を収集し、これを発酵してバイオガスを生産しています。生産したバイオガスは発電に利用しており、電気は施設内での利用のほか、余剰分は売電しています。またバイオガスを暖房や車両の燃料として直接利用する調査・研究も行っています。
 この取組により、大量に発生する家畜排せつ物が適正に処理されるとともに、エネルギー生産や温室効果ガス排出削減にも貢献しています。また、発酵した後の消化液は悪臭が大幅に軽減された良質な有機質肥料として農家のほ場に還元され、市街地周辺の環境を改善するとともに町の生産基盤を支えています。
 さらに、平成26(2014)年には、発電時に発生する余剰熱の利活用施設を整備し、農業用ハウス(マンゴー栽培等)や高級食材であるキャビアを採卵できるチョウザメの養殖等に活用するなど、新たな産業の創出に向けた取組を開始しました。
 今後もこれらの取組を続けるとともに、町内において他のバイオガスプラントの整備も進めており、地域全体でバイオマスの更なる有効活用を目指しています。


第4節 都市と農村の共生・対流
 都市と農村の共生・対流の推進は、それぞれに住む人々がお互いの地域の魅力を分かち合い、理解を深めるために重要な取組です。
 以下では、都市と農村の多様な共生・対流の重要性、グリーン・ツーリズム、訪日外国人旅行者受入れの推進、子供の農業・農村体験、農業と医療・福祉との連携を始めとする活力ある農村の構築のための取組について記述します。

(都市と農村の共生・対流の推進)
 農業・農村は、その生産活動を通じ、生物多様性の保全、良好な景観の形成、文化の継承等、様々な役割を担っており、地域住民や農村を訪れる都市住民にゆとりや安らぎをもたらしますが、農村人口の減少や高齢化に伴い、集落機能や地域の活力の低下が進行しています。
 一方、農林水産省が消費者を対象に、今後、農業・農村とどのように関わりたいか調査を行ったところ、「地域農産物の積極的な購入等により農業・農村を応援したい」が9割、次いで「グリーン・ツーリズム等、積極的に農村を訪れたい」、「市民農園などで農作業を楽しみたい」が3割となっており、農業・農村に対する関心の高さがうかがえます。
 このため、農村の豊かな地域資源を活用して、都市と農村の共生・対流を積極的に推進するとともに、地域の活性化とコミュニティの再生を図り、農村における雇用や所得を増大させることが重要です。

(グリーン・ツーリズムの取組)
 農村において、自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型余暇活動であるグリーン・
ツーリズムは、都市住民の農業・農村への関心を高め、地域の活性化に大きな役割を果たしています。滞在の期間は、日帰りから宿泊を伴う長期的なもの、定期的・反復的なもの等様々で、全国各地で多様な地域資源を活用した農家民宿や観光農園等の取組が展開されています。
 農家民宿等のグリーン・ツーリズム施設への宿泊者数は年々増加しており、都市住民・消費者のニーズに応えるとともに、6次産業化の進展や農家所得の向上、地域の活性化等に大きく寄与しています。
 また、農林水産省と観光庁では、農村の活性化と観光立国の実現を図るため、農村の魅力と観光需要を結びつける取組(農観連携)として、グリーン・ツーリズムと他の観光の組合せによる新たな観光需要の開拓や農村が有する地域資源についての発信の強化、訪日外国人を農村に呼び込むための施策等を推進しています。

(農村における訪日外国人旅行者受入れの推進)

 近年、世界遺産の登録、日本の食文化への関心の高まり、効果的な観光プロモーションの推進に加え、短期滞在ビザの免除や緩和、為替の円安方向への推移等により、平成26(2014)年の訪日外国人旅行者数は1,341万人に達しました。さらに、「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会」の開催を追い風として、平成32(2020)年に向けた
訪日外国人旅行者数について2,000万人を目指すこととしています。
 観光庁の調査によると、訪日外国人旅行者は、伝統的な食文化体験、日本の農村の風景の見学、伝統的な町並み巡りに対する興味が高い傾向にあり、大都市だけでなく農村についても高い興味を示しています。
 また、旅行情報源で役に立ったものとして、出発前はインターネットの検索サイトが3
割、日本滞在中はインターネット(スマートフォン)が5割、インターネット(パソコン)
が3割となっています。また、訪日回数では、2回以上が半数を占めています。
 このような状況を踏まえ、外国人旅行者の農村への誘致を推進するため、美しい日本の農村景観を始めとする我が国の農村が有する地域資源、人々の暮らし、地域ならではの「食」等の魅力の提供・発信を強化するとともに、農村における受入環境の整備や農業体験プログラムの開発を進めています。

事例
農観連携による訪日外国人旅行者の農村への誘致

 「VISIT JAPAN トラベルマート2014(主催:観光庁等)」の一環で行われた海外の旅行会社等による視察旅行の九州コースに、グリーン・ツーリズム先進地域である大分県宇佐市(うさし)安心院(あじむ)地域を組み込み、農林水産省の都市農村交流事業も併せて活用することにより、地域の魅力をアピールしました。
 カナダ、ロシア、タイ、中国、韓国等10か国24人の参加者が数人ずつに分かれて、農家民宿で鶏天、だんご汁等の郷土料理を味わい、稲刈り・いも掘りや伝統工芸品づくりを体験しました。
 受入農家と参加者はお互いに身振り手振りでのやりとりとなりましたが、受入農家からは「料理をおいしそうに食べてくれてうれしかった」、参加者からは「心から楽しめて良い経験になった」、「是非旅行商品化したい」等の声が聞かれ、効果的なプロモーションとなりました。


(子供の農業・農村体験の取組)
 子供が農業を体験することや農村地域の人々との交流を深めることは、将来の農業・農村に対する国民の理解を高める上で重要です。
 このような体験を実施する取組の一つとして、農林水産省、文部科学省及び総務省が連携した「子ども農山漁村交流プロジェクト」により、子供の農山漁村における宿泊体験を推進しています。
 このプロジェクトでは、子供が農林漁家の家庭に宿泊するなどして、地域の人々との交流を行いながら、農山漁村の生活や農林漁業等を実際に体験します。体験を通じて、豊かな自然や伝統・文化に触れるとともに、食の大切さを学び、農山漁村・農林漁業への理解を深めます。
 さらに、社会規範や生活技術を身に付けるとともに、学習意欲や自立心、豊かな人間
性・社会性を育む等、様々な教育的効果のほか、地域や集落の活性化、女性や高齢者の活躍の場の提供等も期待されています。
 このプロジェクトにおいて、農林水産省は受入地域の整備に向けた総合的な支援や人材育成、体験プログラムの開発等の支援を、文部科学省は小学校等に対する活動や情報提供等の支援を、総務省は地方自治体の自主的な取組等に対しての支援を行っています。

事例
民間事業者と行政が一体となって教育旅行を受け入れる取組

 群馬県みなかみ町(まち)、かつては冬のスキー教室として首都圏を中心に多くの学校から来訪がありましたが、一年を通じて教育旅行を受け入れるため、平成20(2008)年10月、民間事業者と行政が一体となって、みなかみ町教育旅行協議会を設立しました。
同協議会は、観光協会、商工会、町、観光事業者、農家等から構成され、地域資源を活かした農業体験や自然環境学習、アウトドアスポーツ等の約60の体験プログラムを企画・実施しており、これらを担当する農家やガイド、インストラクターが約300人登録されています。
 また、体験プログラムの手配や各種調整を行うワンストップ窓口として、学校や企業から約1万人を受け入れるとともに、平成26(2014)年度に同協議会の一般社団法人化を図り(「みなかみ町体験旅行」)、旅行業の登録を受け、多様なニーズに応える受入体制を整備しています。


(農業と医療・福祉との連携)
 近年、農村における癒(いやし)や安らぎの提供、農作業を行うことによる健康の維持・増進の効果等が注目されており、特定非営利活動法人日本セルプセンターの調査によると、農業活動による精神の状況や身体の状況の改善がみられています。
 このような中、農業法人等において、障害者や高齢者、生活困窮者等が作付けや収穫等の農作業を通じて身体機能の向上や収入の確保を図るなど、農業と医療・福祉が連携した取組が全国各地で展開されています。
 また、企業が特例子会社を設立して農業分野に進出する事例も増加しており、企業は
法定雇用率の達成や社会貢献が可能となる一方、農業分野での障害者雇用の増加や地域の農業者との連携等による地域の活性化が期待されます。

事例
農業と福祉の連携による障害者雇用の取組
(1)福祉と農業をつなぐ農園カフェの取組

 青森県十和田市(とわだし)の一般社団法人日々木の森は、就労継続支援A・B型事業所として、障害を持つ人たちに就労訓練の場を提供しており、現在、26人が6人の支援員とともに農園カフェ日々木の厨房・ホールとスイーツ工房で働いています。
 スイーツ工房では、ブルーベリーやカシスを隣接する農園から購入して、ジャム、お菓子等を製造し、市内のホテル、観光施設、直売所等で販売しています。
 また、野菜ソムリエの資格を持つ立崎文江(たちざきふみえ)代表は、地元の生産者グループや個人農家から仕入れた野菜を活用したカフェでのメニュー提供及び加工品開発・販売により青森・十和田産野菜の魅力発信にも取り組んでいます。
 同法人では、福祉という枠にこだわり、閉鎖的になってしまわないように、使用して
いる野菜のほ場見学や農家との勉強会を行うなど地域とつながる取組を実施するとともに、観光協会に加盟して、市内のカフェ巡りツアー等の企画に参画しています。

(2)人の手を活かした植物工場における障害者雇用の取組
 沖縄県大宜味村(おおぎみそん)の株式会社おおぎみファームは、同村のミネラル分が豊富な湧き水を活用した県内最大級の植物工場で、ガター方式(緩傾斜をつけた水路状のベッドに培養液を流下し循環させる方法)での水耕栽培により葉野菜を生産しています。
 同県における夏場の野菜生産は暑さや台風等により減少することから、同社では、天候に左右されない植物工場で葉野菜を完全無農薬で栽培するとともに、レタス等単品を量産するのではなく高付加価値の葉野菜を多品種(15種類以上)栽培するなど、年間を通した安定供給を実現しています。
 同社は建設コンサルタント企業の特例子会社であり、自動化を避け、人の手を活かすことで、障害者の雇用の機会を増やし(正規雇用5人)、障害者の就労を積極的に支援しています。
 今後は、同工場での実証結果を基に、本業のコンサルタント業において事業提案をしていくことも視野に入れています。


(農村の活性化に向けた人材の育成)
 地域の活性化を担う人材の育成に取り組む集落等を支援するため、平成20(2008)年
度から「田舎で働き隊」事業により、農村に関心を持つ都市住民を農村に派遣しており、
平成21(2009)年度から平成24(2012)年度までに人材育成研修に参加した約900人の半数が研修終了後も地域に滞在して活躍しています。
 平成25(2013)年度からは研修期間を3年間とし、平成25(2013)年度は62人、平
成26(2014)年度には、これに56人が加わり118人の研修生が農村に派遣され活躍し
ています。
 なお、本事業については、平成27(2015)年度から地域おこし協力隊の名称に統一するとともに、募集情報を一元化して提供することによる情報入手機会の増加や、合同研
修の実施、全国サミット等を通じた隊員間の交流促進等の一体的な運用を行うことによ
り、人材の育成や定住に向けた取組を強化することとしています。



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