◆ はじめに 
 平成27年3月31日に、農政の中長期のビジョンとなる、新たな食料・農業・農村基本計画(以下「基本計画」という。)が閣議決定された。
 新たな基本計画は、食料・農業・農村基本法(平成11年7月制定)に基づき決定された4回目の基本計画となります。食料・農業・農村政策審議会の企画部会における17回にわたる議論、現地視察、地方意見交換会を経て、3月24日の本審議会での答申を受けて決定されたものである。




◆ 本基本計画の内容について
○ まえがき
 我が国の農業・農村においては、6次産業化や農林水産物・食品の輸出へのチャレンジ、若者を中心とした「田園回帰」といった新たな動きが広がっている一方で、農業就業者の高齢化や農地の荒廃など極めて厳しい状況に直面している。このため、関係者の発想の転換や、改革の必要性についての認識の共有が求められていることなどを述べている。
 こうした認識の下、「農林水産業・地域の活力創造プラン」等で示された施策の方向等を踏まえつつ、食料・農業・農村施策の改革を進め、若者たちが希望を持てる「強い農業」と「美しく活力ある農村」の創出を目指していくこととしている。

○ 第1 食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針
 第1では、食料・農業・農村をめぐる情勢と、主な施策の評価と課題、施策を推進するに当たっての基本的な視点を示している。
 具体的には、高齢化や人口減少、グローバル化などの観点から、情勢の変化や施策の評価と課題を整理している。その上で、現在が施策展開に当たっての大きな転換点であるとの認識に立ち、農業の構造改革や新たな需要の取り込み等を通じ、農業や食品産業の成長産業化を促進する「産業政策」と、構造改革を後押ししつつ、農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を促進する「地域政策」を車の両輪として施策の改革を推進することとしている。

○ 第2 食料自給率の目標
 食料自給率目標については、前基本計画の検証結果を踏まえ、計画期間内における実現可能性を重視し、平成37年度の目標としてカロリーベースでは現状39%から45%に、金額ベースでは現状65%から73%に引き上げる目標を設定している。
 また、我が国の食料の潜在生産能力を評価する食料自給力指標を新たに示している。これにより、我が国の食料自給力の現状や過去からの動向についての認識を共有し、食料安全保障に関する国民的議論を深めたいと考えている。







第3 食料、農業及び農村に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策
1.食料の安定供給の確保に関する施策
 食品の安全確保と、食品に対する消費者の信頼を確保するための取組を推進するとともに、食育や国産農産物の消費拡大、「和食」の保護・継承等を推進することとしている。また、食料の安定供給という重要な役割を担っている農業や食品産業が、消費者の多様なニーズへの的確な対応や国内外の新たな需要の取り込み等を通じて健全に発展するため、6次産業化、農林水産物・食品の輸出、食品産業の海外展開等の取組を促進することとしている。
 さらに、様々なリスク(我が国の食料の安定供給に影響を及ぼす可能性のある様々な要因)に対応した総合的な食料安全保障を確立するため、食料の安定供給に関するリスクの定期的な分析、評価や、不測時の具体的な対応手順の整備等を進めることとしている。

2.農業の持続的な発展に関する施策
 農業経営の法人化、新規就農の促進など担い手の育成・確保や、女性農業者が能力を最大限に発揮できる環境の整備を進める旨を明記するとともに、経営所得安定対策を着実に推進することとしている。
 また、農地中間管理機構のフル稼働による担い手への農地集積・集約化と優良農地の確保、構造改革の加速化に資する農業生産基盤の整備等を推進することとしている。
 さらに、米政策改革の着実な推進、飼料用米等の戦略作物の生産拡大とともに、畜産クラスターの構築、園芸作物の供給力の強化などに取り組むこととしている。生産・流通現場の技術革新等については、現場のニーズを踏まえた研究開発と技術移転の加速化や、規模拡大、低コスト化等を可能とするため、スマート農業の実現等に向けた取組を推進することとしている。
 また、気候変動への対応など、農業分野の環境政策についても総合的に推進することとしている。

3.農村の振興に関する施策
 近年、若者を中心に農村の魅力の再発見が進み、都市と農村を人々が行き交う「田園回帰」の流れが生まれつつあるなど、農業・農村の価値が再認識され、農村の活性化につながる動きも見られる。
 こうした変化に的確に対応しつつ、魅力ある農村づくりの取組を進めていくためには、地域の様々な経営規模の農業者や、家族農業経営や法人経営、兼業農家など経営形態等が異なる農業者、さらには地域住民や農村外の人材が、年齢や性別等にかかわりなく幅広く参画し、その有する能力等を最大限発揮していくことが重要である。
 こうした観点に立ち、中山間地域の農業・農村が果たす役割の重要性にも配慮しつつ、地域コミュニティ機能の発揮等による農地等の地域資源の維持・継承や住みやすい生活環境の実現、農村における雇用の確保と所得の向上、都市と農村の交流や都市住民の移住・定住の促進等の取組を「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(平成26年12月閣議決定)等を踏まえ、関係府省の連携の下、総合的に推進することとしている。

(1) 多面的機能支払制度の着実な推進、地域コミュニティ機能の発揮等による地域資源
  の維持・継承等

 多面的機能の発揮を促進するため、多面的機能支払制度や中山間地域等直接支払制度を着実に推進するとともに、地域コミュニティ機能を維持するため、地域の実情を踏まえつつ、生活サービス機能等を基幹集落へ集約した「小さな拠点」と周辺集落とのネットワーク化を推進することとしている。
 こうした取組を推進するに当たり、単独では生活サービスの提供や農地等の管理が困難な集落を中心に、地域住民が主体となり、農地の保全や農業・生活関連施設の再編・整備、地域資源の活用方策、それらに係る地域のあるべき土地利用の姿などを明らかにする、地域の将来ビジョンの策定を推進することとしている。
また、深刻化、広域化する鳥獣被害への対応を図ることとしている。






(2) 多様な地域資源の積極的活用による雇用と所得の創出

 地域の農産物等を活かした新たな価値の創出、バイオマスを基軸とした新たな産業の振興、再生可能エネルギーの生産・利用、農村への関連産業の導入等を通じ、農村全体の雇用の確保と所得の向上を推進することとしている。
 こうした取組を進めるに当たっては、農業者が主体となった取組に加え、多様な関係者と連携しながら行う地域ぐるみの取組を促進することにより、その相乗効果を地域全体に波及させ、地域の活性化を図ることとしている。






(3) 多様な分野との連携による都市農村交流や農村への移住・定住等
 観光、教育、福祉等と連携した都市農村交流を戦略的に推進するとともに、「お試し」的に移住できる仕組みをつくるなど交流人口の増加を移住・定住へと発展させていく取組を推進することとしている。また、都市農業の有する多様な機能の発揮に向けて、持続的な振興を図ることとしている。





4.東日本大震災からの復旧・復興に関する施策
 地震・津波災害からの復旧・復興に向け、農地や農業用施設等の着実な復旧、将来を見据えた農地の大区画化等を進めるとともに、原発事故に伴う風評被害の払拭や、輸入規制の緩和・撤廃に向けた諸外国への働きかけなどに取り組むこととしている。

5.団体の再編整備等に関する施策
 食料・農業・農村に関する団体(農協、農業委員会等)が、その機能や役割を効果的かつ効率的に発揮できるようにしていくため、事業・組織の見直しを行うこととしている。 

○ 第4 食料、農業及び農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
 国や自治体、農業者、消費者などの適切な役割分担の下、施策を総合的かつ計画的に推進するとともに、「農林水産業・地域の活力創造本部」を活用して政府一体となって施策を推進することなどを明記している。

◆ おわりに
 今後、本基本計画に基づく施策を着実に推進していくために、関係者の皆様のご理解、ご協力をお願いします。(基本計画の詳細については、農林水産省のホームページ(http://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/siryou.html)をご覧下さい。)



《前へ》《次へ》