平成25年11月21日に開催された全国山村振興連盟通常総会において、杉本栄蔵 石川県中能登町長及び奥田 貢 和歌山県北山村長両名から事例報告が行われた。 その報告の概要と配布資料を紹介します。 1.杉本栄蔵 石川県中能登町長 【中能登町の概要】 中能登町は、平成17年3月に旧鳥屋町、鹿島町及び鹿西町の三町の合併により誕生した、まだ新しい町であり、現在9年目を迎えております。 位置は、石川県能登半島のほぼ中央に位置し、南は砂浜を車で走れる千里浜海岸を有する羽咋市、西は志賀原子力発電所を有する志賀町、北は和倉温泉があります七尾市、東は寒ブリで有名な富山県氷見市に隣接しており、面積は約90平方キロメートル、その内、森林は約57%を占めております。 人口は1万8千535人であり、年齢別人口では、年少人口(0歳〜14歳)は2千444人で全体の13.2%、生産年齢人口(15歳〜64歳)は1万578人で57.1%、老年人口(65歳以上)は5千513人で29.7%と、老年人口の増加、年少人口及び生産年齢人口の減少が顕著となっております。 地形は邑知地溝帯を中心に平野部が七尾市から羽咋市まで広がり、東側には国指定史跡を持つ「石動山」、西側は日本最古のおにぎりが発掘されたチャノバタケ遺跡をはじめ、国指定史跡の「雨の宮古墳群」や「川田古墳群」など史跡を多く含む、眉丈山に挟まれ、日本の原風景とも言える田園の丘陵地が広がる自然豊かなところであります。集落は、東西にのびる山林と平野部の境に細長く分布しております。 また、平成23年6月には、この中能登町を含めた4市4町に広がる「能登の里山里海」が国内初の「世界農業遺産」に認定された地域であり、伝統文化や祭礼が各地で継承されている土地でもあります。 【課題】 しかしながら、近年では、当町の基幹産業である繊維産業は、近隣諸国からの安い製品の輸入により、農業は高齢化に伴う担い手不足、耕作放棄地の増加、米価の低迷による農業所得の低下などで、農業工業ともに厳しい現状であります。 また、地方ならではの共通課題として、少子高齢化及び人口の流出があります。 これらは、将来を担う子供たちの減少に繋がるとともに、町の活力の低下に繋がり、強いては、町が衰退するバロメータの代表的なものと捉えております。 私は、中能登町の活性化及び住民の定住化の促進を図るため、この生まれ育った中能登町を元気にしたいとの思いから、県議会議員を経て、平成17年に中能登町の初代町長となり、現在3期目を担っております。 【取り組みと成果】 当町では、町の基本理念として「ふるさと ふれあい 心を育む中能登町」を掲げ、基本理念の具体化に向けて5つの将来像を柱として進めておりますが、いずれも中・長期、短期の視野に立って進めるとともに、町民の意見を聞きながら、見直しを随時行っております。 (にぎわいと活力ある町づくり) 1つ目には、「にぎわいと活力ある町づくり」であり、主に、地域産業の活性化や安心・安全で快適な住環境づくりを目指すものであります。 商業では、国道159号線沿いに、大規模商業施設が建設されたことにより、その周辺にも次々と商業施設が進出するなど、商業の集積は確実に進んでおります。 また、本年4月には、石川県を縦断する能登有料道路が「能登の里山海道」として無料化が実施されました。 2015年春には北陸新幹線金沢駅が開業、さらには、能越自動車道の一部供用など、山村地方に住む私たちには、交通網の整備は生命線であり欠かせない住環境の基礎であります。 今後は、交通網の整備をフルに活用し、中能登町にいかにして人を呼び込むのかが課題となります。 その1つの対策として、道の駅を建設しております。 今年10月11日に全国で1,014番目の道の駅「織姫の里なかのと」として認定をしていただき、町の活性化の起爆剤として大変期待をしているところであります。 外観は、地域風土に根差した、落ち着いた雰囲気で繊維の町である中能登町らしく能登上布の生地のイメージを取り入れています。 コンセプトは、地域を「織り」なす情報発信拠点として、四季を「織り」なす農産物の直売所として、「織り」ジナル(オリジナル)なサービスを提供できる、町の情報発信基地として整備をしていきたいと考えております。 駐車スペースは、大型車を含み97台となっており、道路利用者の休憩所や道路情報の提供はもちろんのこと、農産物直売所・飲食物販コーナー・地域産業の展示コーナー・イベント広場のほか、ドッグランや電気自動車にも対応したEVスタンドも設置します。さらに、町の防災拠点としての位置付けも行っております。 直売所では、町のブランド化を進める紫のキャベツやオレンジ色のカリフラワーなど「カラー野菜」を中心に販売するとともに、地元ボランティアによる地域の名勝や史跡の案内をする仕組みを整え、誘客に努めていきたいと考えております。 さらに、世界農業遺産である「能登の里山里海」も活用していきます。 広域的な連携を図るため、周りの自治体との連絡を密にし、当町を含む能登全体の観光ルートの構築などを計画しているところであります。 「中能登町だけ良ければいい」という考えでは、良くありません。 お互いの自治体がWin(ウイン)・Win(ウイン)の関係が大切であり、能登地域全体が一緒に成長していかなければ、意味がありません。 「世界農業遺産」の景観としても重要な水田を守るため、能登地区のJAが一致団結し、「能登米振興協議会」を設立し、化学肥料と化学農薬を三割以上減らすなど環境に配慮し、能登というイメージ・ブランドを大事にしながら、安全でおいしい米づくりに取り組んでいるところでございます。 (健康でいきいきと暮らせるまちづくり) 2つ目は、「健康でいきいきと暮らせるまちづくり」であります。 中能登町が誕生して以降、子ども1人につき最高50万円が支給される「出産祝い金制度」や中学生までの医療費を全額援助する「医療費無料制度」も創設し、子育て環境の充実に努めてまいりました。町の財政は大変、厳しいものではありますが、今後も継続してまいりたいと考えております。 並行して、町では宅地造成も行っております。その結果、町外からの転入者も増え、国勢調査による過去10年間の人口推移は、近隣市町では平均10.2%の減少に対し、当町は3.2%と減少が緩やかなものとなっており、世帯数においては、近隣市町で3.2%の減少に対し、当町では6.6%の増となっております。すくなからず、その成果が出ているものと考えます。 (地域の風土を活かしたまちづくり) 3つ目は、「地域の風土を活かしたまちづくり」であります。 当町には、長い間、培われてきた歴史的景観から古い伝統を誇る「能登上布」や「石動山」・「雨の宮古墳群」の国指定史跡をはじめとする数多くの史跡や伝統文化があります。 「石動山」は、中世の最盛期には360あまりの寺院があり、3千人の修行僧がいたとされ、北陸の代表的霊山として、全国に数多くの分社を有しております。 また、杉谷チャノバタケ遺跡で発掘された日本最古のおにぎりにちなみ、6月18日を「おにぎりの日」として定めております。 これらの古くから伝わる伝統文化や地域に残る貴重な文化遺産等を保護・継承し、町の顔として活用していきたいと考えております。 (強い絆を育むまちづくり) 4つ目は、「強い絆を育むまちづくり」であります。 町では、毎年、町祭「織姫夏ものがたり」を開催し、各地域から曳山の曳き出しや獅子舞の演舞が行われ、近年では、町歌や町民音頭による総踊りなど、回数を重ねるたびに町民相互の融和が図られてきたとの、実感を持っております。 町民の方たちが「合併して良かった」と思えるよう融和の輪をさらに、広げていきたいと考えております。 (学びを支えるまちづくり) 5つ目は、「学びを支えるまちづくり」であります。 昨年度まで町内には3つの中学校がありましたが、本年4月に3校の誇りと伝統と受け継ぐ、全校生徒516名の中能登中学校が開校いたしました。 しかし、立派な校舎が完成しましたが、「仏」をつくっても「魂」がなければ、意味がありません。中能登中学校では、生徒たちの学力、県内1位を目指します。 教育の先進地フィンランドでは、学校に通うことが受験や就職のために、必要なのではなく、生きるために大切なことと、国民の意識に根付いていると伺っております。 中能登町を「石川県のフィンランド」と呼ばれるような町にすることが目標であります。 そのための1つとして、平成24年度から実施している「元気はつらつ中能登教育サポーター」事業を充実させていきたいと考えております。 サポーターに委嘱する、退職教員や教職希望者の大学生らを募り、指導者のレベルを高めます。 もちろん、学力だけでなく、文武両道を目指し、駅伝やソフトテニスなど全国優勝ができるよう、部活動でも外部指導者を積極的に招いております。 現在は、中学校の統合が完了し、鹿島地区4つの小学校の統合についても進めているところであり、平成27年4月開校に向け整備を行っているところであります。 このほかにも、空き施設の活用も考えていかなければなりません。有効活用できる施設は活用し、必要のない施設は取り壊すなど、町内公共施設の統廃合についても、スピーディに対応していく必要があります。 【まとめ】 最後に、山村地域を取り巻く情勢は、大変厳しいものではありますが、そこには、「自然豊かな緑」が広がっております。 当町は、山村地域における、地方の1つの自治体であり、様々な取り組みを行っていくには、関係機関の協力なしでは、進めていくことは到底できません。 また、それら制度を運用していくには、優秀な人材が必要であり、子どもたちを育てることは、将来、町の中核となる人材育成に繋がります。 今後も、中能登町では「教育と福祉に重点をおいたまちづくり」、「誇りを持てるまちづくり」、「住んでよかったと思えるまちづくり」を進めてまいります。 |