鳥獣被害防止特別措置法の一部を改正する法律が平成24年3月27日に国会で可決成立し、3月31日に公布された。
 この法律の成立までの経過及び法律の概要は次のとおりとなっている。
 この法律改正を踏まえて、市町村、都道府県において鳥獣被害防止対策に向けての取り組みを一層強化することが期待されるとともに、国においてさらに鳥獣被害防止対策の充実強化が図ることを期待したい。

1.成立までの経過

(1)法律案の国会提出までの経過

 当連盟は、自由民主党に新たに設置された鳥獣捕獲緊急対策議員連盟(会長:武部勤衆議院議員)に対し、会員から寄せられた意見を取りまとめた「鳥獣被害防止対策に関する提言・要望」を平成23年4月に開催された会合に提出し、要請を行った。
 同議員連盟において、関係方面からの意見を聴取し、検討がなされた結果、「鳥獣被害防止特別措置法等の一部を改正する法律案」がとりまとめられた。その法案が平成23年8月26日に鶴保庸介参議院議員外2名から参議院に提出された。

(2)国会における経過
 国会においては、この提出法案をベースに各党間で協議が行われた結果、草案がまとまり、平成24年3月22日の参議院農林水産委員会において「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律の一部を改正する法律案」として農林水産委員長から提出することが決定され、3月23日の参議院本会議において可決された。  
 ついで、3月27日の衆議院農林水産委員会及び衆議院本会議において可決成立し、3月31日に公布された。

2.法律の要旨
 この法律は、鳥獣による農林水産業・農山漁村への被害が深刻化する一方で、鳥獣の駆除の担い手である狩猟者の減少・高齢化が進んでいる現状に鑑み、市町村が行う被害防止施策のみによっては被害を十分に防止することが困難である場合における市町村長による都道府県知事に対する要請、農林水産業等に係る被害の原因となっている鳥獣の捕獲等に関わる人材の確保等に関する規定の整備を行うことにより、鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止に関する施策の効果的な推進に資することを目的とするものであり、その主な内容は次のとおりとなっている。

一 被害防止計画において定める事項等
  被害防止計画において定める事項として、対象鳥獣による住民の生命等に係る被害
 が生じ、又は生じるおそれがある場合の対処に関する事項を加えることとする。
  また、鳥獣被害対策実施隊員の職務として、市町村長の指示を受け、農林水産業等
 に係る被害の原因となっている鳥獣の捕獲等で住民の生命等に係被害を防止するため
 緊急に行う必要があるものに従事することを明記することとする。
二 都道府県知事に対する要請等
  市町村長は、市町村が行う被害防止施策のみによっては被害を十分に防止すること
 が困難であると認めるときは、都道府県知事に対して必要な措置を講ずるよう要請する
 ことができるとともに、要請を受けた都道府県知事は、必要な調査を行い、その調査の
 結果に基づき特定鳥獣保護管理計画の作成等の措置等を講ずるよう努めることとす
 る。
三 財政上の措置等
  国及び都道府県が講ずる財政上の措置として、対象鳥獣の捕獲等に要する費用に対
 する補助その他被害防止施策の実施に要する費用に対する補助を明記することとす
 る。
  また、国及び地方公共団体は、被害防止施策を講ずるために必要な予算の確保に努
 めるほか、都道府県は、狩猟税の収入につき課税目的を踏まえた適切かつ効果的な活
 用に配意することとする。
四 捕獲した対象鳥獣の食品としての利用等
  捕獲した鳥獣を無駄にせず、国産の貴重な食材として有効活用を図ることを通じ、新
 たな特産物や産業の掘り起こしなどにつなげるため、国及び地方公共団体が講ずる措
 置として、食品としての利用等を図るため必要な施設の整備充実、食品としての利用に
 係る技術の普及、加工品の流通の円滑化等を明記することとする。
五 捕獲等に関わる人材の確保に資するための措置
  国及び地方公共団体は、農林水産業等に係る被害の原因となっている鳥獣の捕獲等
 に関わる人材の確保に資するため、狩猟免許及び猟銃所持許可等を受けようとする者
 の利便の増進に係る措置を講ずるよう努めるとともに、当該捕獲等への貢献に対する
 報償金の交付、射撃場の整備等の措置を講ずるよう努めることとする。
六 猟銃の操作及び射撃の技能に関する講習に係る特例
  鳥獣被害対策実施隊員については当分の間、それ以外の被害防止計画に基づく対象
 鳥獣の捕獲等に従事する者については平成26年12月3日までの間に、銃砲刀剣類
 所持等取締法の猟銃所持許可の更新等の申請をした場合には、同法の技能講習に係
 る規定の適用を除外することとする。
七 施行期日
  この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日
 から施行することとする。ただし、六については、公布の日から起算して六月を超えな
 い範囲内において政令で定める日から施行することとする。

3.法律の内容
 追加され、あるいは修正された条文は、次のとおりとなっている。

 (1)地方公共団体の役割の条文を追加する


 (地方公共団体の役割)
第二条の二 市町村は、その区域内における鳥獣による農林水産業等に係る被害の状
 況等に応じ、第四条第一項に規定する被害防止計画の作成及びこれに基づく被害防止
 施策(鳥獣による農林水産業等に係る被害を防止するための施策をいう。以下同じ。)
 の実施その他の必要な措置を適切に講ずるよう努めるものとする。
2 都道府県は、その区域内における鳥獣による農林水産業等に係る被害の状況、市町
 村の被害防止施策の実施の状況等を踏まえ、この法律に基づく措置その他の鳥獣によ
 る農林水産業等に係る被害を防止するため必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 (2)市町村の被害防止計画に定める事項を追加する


 (被害防止計画)
第四条
2 被害防止計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 五の二 対象鳥獣による住民の生命、身体又は財産に係る被害が生じ、又は生じるお
 それがある場合の対処に関する事項

 (3)協議会に関する条文を追加する

 (協議会)
第四条の二 市町村は、単独で又は共同して、被害防止計画の作成及び変更に関する
 協議並びに被害防止計画の実施に係る連絡調整を行うための協議会(以下「協議会」と
 いう。)を組織することができる。
2 協議会は、市町村のほか、農林漁業団体、被害防止施策の実施に携わる者及び地域
 住民並びに学識経験者その他の市町村が必要と認める者をもって構成する。
3 前二項に定めるもののほか、協議会の運営に関し必要な事項は、協議会が定める。

 (4)都道府県知事に対する要請等に関する条文を追加する

 (都道府県知事に対する要請等)
第七条の二 市町村長は、当該市町村が行う被害防止計画に基づく被害防止施策のみ
 によっては対象鳥獣による当該市町村の区域内における農林水産業等に係る被害を十
 分に防止することが困難であると認めるときは、都道府県知事に対し、必要な措置を講
 ずるよう要請することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による要請があったときは、速やかに必要な調査を行
 い、その結果必要があると認めるときは、特定鳥獣保護管理計画の作成若しくは変更
 又はその実施その他の当該都道府県の区域内における鳥獣による農林水産業等に係
 る被害を防止するため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

 (5)財政上の措置に関する条文に補助に関するものを追加する

 (財政上の措置)
第八条 国及び都道府県は、市町村が行う被害防止計画に基づく被害防止施策が円滑
 に実施されるよう、対象鳥獣の捕獲等に要する費用に対する補助その他当該被害防止
 施策の実施に要する費用に対する補助、地方交付税制度の拡充その他の必要な財政
 上の措置を講ずるものとする。

 (6)鳥獣被害対策実施隊員の職務を追加する

 (鳥獣被害対策実施隊の設置等)
第九条
4 第二項に規定する鳥獣被害対策実施隊員は、被害防止計画に基づく被害防止施策の
 実施に従事するほか、市町村長の指示を受け、農林水産業等に係る被害の原因となっ
 ている鳥獣の捕獲等で住民の生命、身体又は財産に係る被害を防止するため緊急に
 行う必要があるものに従事する。

 (7)捕獲した鳥獣の食品としての利用等を図るための施策を明記する

 (捕獲等をした対象鳥獣の適正な処理及び食品としての利用等)
第十条 国及び地方公共団体は、被害防止計画に基づき捕獲等をした対象鳥獣の適正
 な処理及び食品としての利用等その有効な利用を図るため、必要な施設の整備充実、
 環境に悪影響を及ぼすおそれのない処理方法その他適切な処理方法についての指
 導、有効な利用方法の開発、食品としての利用に係る技術の普及、加工品の流通の円
 滑化その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (8)市町村長に対する報告、勧告等の条文を追加する

 (報告、勧告等)
第十条の二 農林水産大臣又は都道府県知事は、市町村長に対し、当該市町村におけ
 る被害防止施策の実施等に関し必要があると認めるときは、報告を求め、又は必要な
 勧告、助言若しくは援助をすることができる。

 (9)個体数の調査研究に関する条項を追加する

 (被害の状況、鳥獣の生息状況等の調査)
第十三条  
2 国及び地方公共団体は、前項の規定による調査の結果を踏まえ、農林水産業等に係
 る被害の原因となっている鳥獣に関し、その生息環境等を考慮しつつ適正と認められる
 個体数についての調査研究を行うものとする。

 (10)捕獲に関わる人材の確保に資する措置に関する条文を充実する


 (農林水産業等に係る被害の原因となっている鳥獣の捕獲等に関わる人材の確保に資するための措置)
第十六条 国及び地方公共団体は、農林水産業等に係る被害の原因となっている鳥獣
 の捕獲等に従事する者の当該捕獲等に従事するため必要な手続に係る負担の軽減に
 資するため、これらの手続の迅速化、狩猟免許及び猟銃の所持の許可並びにそれらの
 更新を受けようとする者の利便の増進に係る措置その他のこれらの手続についての必
 要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 前項に定めるもののほか、国及び地方公共団体は、農林水産業等に係る被害の原因
 となっている鳥獣の捕獲等に関わる人材の確保に資するため、当該捕獲等への貢献に
 対する報償金の交付、射撃場の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとす
 る。

 (11)必要な予算の確保等に関する条文を追加する

 (必要な予算の確保等)
第十六条の二 国及び地方公共団体は、被害防止施策(第十条及び第十三条から前条
 までの措置を含む。)を講ずるために必要な予算の確保に努めるものとする。
2 都道府県は、前項の規定により必要な予算を確保するに当たっては、狩猟税の収入
 につき、その課税の目的を踏まえた適切かつ効果的な活用に配意するものとする。

 (12)猟銃の操作及び射撃の技能に関する講習に係る特例の規定を追加する


 鳥獣被害対策実施隊員については当分の間、それ以外の被害防止計画に基づく対象鳥獣の捕獲等に従事する者については平成26年12月3日までの間に、銃砲刀剣類所持等取締法の猟銃所持許可の更新等の申請をした場合には、同法の技能講習に係る規定の適用を除外することを内容とする条文を附則第3条(特定鳥獣被害実施隊員等に係る猟銃の操作及び射撃の技能に関する講習に係る特例)として規定する。

(13)施行期日
 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第三条の改正規定は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

4.国会における決議
 
 この法律の可決に際し、衆参の農林水産委員会において次の決議が採択されている。

(1)参議院農林水産委員会(平成24年3月22日)

   鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する決議

 政府は、鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律の一部を改正する法律の施行に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。

 鳥獣による農林水産業等に係る被害を一層効果的に防止するため、鳥獣被害対策
 実施隊の設置を促進するとともに、鳥獣保護事業計画等に基づく捕獲隊その他の狩猟
 者の鳥獣被害対策実施隊への移行・加入を促進すること。
 猟銃の操作及び射撃の技能向上・安全確保を図るため、各都道府県における射撃
 場の整備・拡充を促進すること。また、鳥獣の捕獲に従事する者の育成及び技術の向
 上を図るため、必要な施策を検討すること。
 鳥獣の生息状況及び生息環境等に関する調査を徹底することにより、鳥獣の個体
 数等の正確な把握に努めるとともに、その調査結果を被害防止対策に活用できるよう
 にすること。
 シカ・イノシシ等の鳥獣について、周囲の安全を確保した上で、夜間に駆除できる仕
 組みを更に検討すること。
 猟銃等の所持許可の運用について、厳に国民の安全の確保や危害の防止等に留意
 しつつ、実態に即した見直しを検討すること。

右決議する。

(2)衆議院農林水産委員会における決議(平成24年3月27日)

鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律
の一部を改正する法律案に対する附帯決議

 政府は、本法の施行に当たり、左記事項の実現に万全を期すべきである。

 鳥獣による農林水産業等に係る被害を一層効果的に防止するため、鳥獣被害対策
 実施隊の設置を促進するとともに、鳥獣保護事業計画等に基づく捕獲隊その他の狩猟
 者の鳥獣被害対策実施隊への移行・加入を促進すること。
 猟銃の操作及び射撃の技能向上・安全確保を図るため、各都道府県における射撃場
 の整備・拡充を促進すること。また、鳥獣の捕獲に従事する者の育成及び技術の向上を
 図るため、必要な施策を検討すること。
 鳥獣の生息状況及び生息環境等に関する調査を徹底することにより、鳥獣の個体数
 等の正確な把握に努めるとともに、その調査結果を被害防止対策に活用できるようにす
 ること。
 シカ・イノシシ等の鳥獣について、周囲の安全を確保した上で、夜間に駆除できる仕組
 みを更に検討すること。
 猟銃等の所持許可の運用について、厳に国民の安全の確保や危害の防止等に留意
 しつつ、実態に即した見直しを検討すること。

  右決議する。



《前へ》《次へ》