平成21度森林・林業白書が4月27日の閣議を経て公表され、国会に提出された。この白書の構成は次のとおりとなっている。 |
は じ め に I章 林業の再生に向けた生産性向上の取組 IV章 林業・山村の活性化 V章 林産物需給と木材産業 |
今回は、このうち、「はじめに」及び「・章 林業・山村の活性化の2山村の活性化」の箇所を掲載します(図表は省略しています。) |
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我が国の森林のうち、約1,000万haは戦後を中心として造成されたスギ・ヒノキ等の人口林である。これらの人口林は、造林・保育による資源の造成期から間伐や主伐による資源の利用期に移行する段階にあり、資源の循環利用を通じて持続的な森林経営を確立していくことが必要となっている。 このような中、平成20(2008)年秋以降、我が国の経済が急速に悪化した。景気は、平成21(2009)年後半以降、徐々に持ち直したが、失業率が高水準で推移するなど依然として厳しい状況にある。 このため、政府は、「緊急経済対策」や「新成長戦略」により、景気の回復、雇用の創造等に取り組んでおり、この中で、森林・林業を農林水産・環境分野における成長産業の一つとして大きく位置付けている。 これを受け、農林水産省は、平成21(2009)年12月、我が国の森林・林業を再生していく指針となる「森林・林業再生プラン」を策定し、効率的かつ安定的な林業経営の基盤づくりを進めるとともに、木材の安定供給と利用に必要な体制を構築していくこととした。現場レベルにおいても、林内路網の配置、先進的な林業機械の導入、人材の育成等を一体的に計画・実施する実践的な取組が始まっている。 さらに、木材の利用面では、庁舎や学校・図書館などの公共建築物への木材利用の拡大や木質バイオマスの利用促進等の取組も進められている。 |
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(1)山村の現状と課題 | |
「山村振興法」に基づき指定される振興山村は、平成21年(2009)年4月現在で全国市町村数の4割に当たる746市町村において指定されており、その区域は国土面積の約5割、森林面積の6割を占めている。 振興山村はその面積の9割が森林に覆われており、まとまった平地が少ないなど、平野部に比べて地理的条件は厳しく、産業においても農業や林業など一次産業に依存する割合が全国平均に比べて高い。 山村における道路・上下水道・情報サービスなどの生活環境基盤は、これまで整備の進展がみられるものの、全国水準と比較すれば依然として低位である。役場や医療機関、スーパーなどの生活関連施設や学校・図書館などの教育施設についても、住居から遠くに位置しており、住民生活は不便なものとなっている。 また、山村においては、基幹産業である農林業の衰退等の影響もあり、高度経済成長期以降、若年層を中心として人口流出が著しく、過疎化とともに高齢化が急速に進んでいる。この結果、振興山村の人口は、現在では全国の3%を占めるのみであり、65歳以上の高齢者の割合も31%と全国平均の20%の1.5倍の水準となっている。 このような過疎・高齢化が更に進展すれば、山村における集落機能の低下あるいは集落そのものの消滅につながることとなる。 総務省及び国土交通省の調査によれば、過疎地域等の集落の中でも山間地の集落では、世帯数が少ない、高齢者が多い、機能低下・維持困難、消滅の可能性という問題が、平地や中間地に比べて高くなっている。 また、同調査によると、実際に消滅した集落においては、森林・林地の管理状況についてみると、64%は元住民や他集落・行政が管理している一方で、残りの36%は放置されている実態にある。 さらに、過疎地域等の集落においては、耕作放棄地の増大のほか、森林の荒廃や獣害・病虫害の発生などの問題が発生しており、地域における資源管理や国土保全活動が困難になりつつある。 このように、山村における高齢化・過疎化の進行は、適正な整備・保全が行われない森林を増加させ、ひいては森林のもつ多面的機能の発揮に影響を及ぼすことも危惧される状況となっている。 森林のもつ多面的機能を将来にわたって持続的に発揮させていくためには、森林・林業に関わる人々が山村に定住し、林業生産活動等が継続できるよう、次に述べるような山村の活性化を図ることが必要である。 |
(2)山村の活性化を目指して |
(都市と山村の共生・対流) |
過疎化・高齢化の諸課題が発生している山村社会は、一方で見方を変えれば、都市のような過密状態がなく生活空間にゆとりがあるものであるともいえる。 また、生活環境基盤が都市ほど整備されていない山村の環境は、都市部で働く現代人にとっては自給自足生活あるいは循環型社会の実践の場や、時間に追われずに生活できるスローライフの場として魅力があるものと考えられる。 さらに、山村には豊富な森林資源や水資源、美しい景観のほか、食文化をはじめとする伝統・文化、生活の知恵・技など、有形・無形の地域資源が数多く残されている。このような山村固有の資源は、都市住民が豊かな自然や伝統文化にふれあう場として、また、心身を癒す場として活用することができる。 内閣府が平成19年(2007)年に実施した「森林と生活に関する世論調査」によると緑豊かな農山村に一定期間滞在し休暇を過ごしてみたいと思う者の割合は76%であり、特に大都市を中心としてその割合は高くなっている。また、これら過ごしてみたいと回答した者に対して、森林や農山村で行いたいことを聞いたところ、森林浴により気分転換する、野鳥観察や渓流釣りなど自然とのふれあい体験をする、森や湖、農山村の家並みなど魅力的な景観を楽しむとする回答が多くみられている。 このような意識の高まりを背景として、近年、都市住民が休暇等を利用して山村に滞在し、農林業・木工体験、森林浴や山村地域の伝統文化にふれるなどの取組がみられるなど、山村の豊かな資源を活かした都市との交流が各地で実施されている。 このような都市住民のニーズにこたえて都市と山村が交流を図ることは、都市住民が健康でゆとりある生活を実現することや、山村や森林・林業等に対する理解と関心を深めることに貢献している。また、山村住民にとっても特用林産物や農産物の販売による収入機会や、宿泊施設や販売施設等への雇用により就業機会が増大するだけでなく、このような交流を通じて自らが生活する地域について再認識する良い機会ともなり得るものである。 |
(山村への定住の促進) |
山村の集落機能の維持・活性化を図るためには、このような都市と山村の共生・対流等を契機として、若者や都市住民を中心としたUJIターン者の山村への定住を促進することが重要である。このため、山村においては、生活環境施設の整備を進めるとともに、NPOや地域住民の連携による都市住民等の試験的な受入れの推進や、様々な取組の中心となる人材の育成・確保を図ることが求められる。 |
(就業機会の確保) |
山村が活力を維持していくためには、若者やUJIターン者の定住を可能とするような魅力ある就業の場を確保・創出することが重要な課題の一つである。 このため、山村地域においては、地域の基幹的産業である林業・木材産業の振興とともに、木質バイオマス等の未利用資源の活用、森林体験等の事業化など森林資源を活用した新たなビジネスの創出などを通じて、多様な就業機会の確保を図ることが必要である。 また、きのこや山菜・木炭等の特用林産物は、生産額が林業産出額の約半数を占めるなど、その生産は林家等の重要な収入源であるとともに、山村地域における貴重な就業機会として定住促進にも大きな役割を果たしていることから、その振興を図ることが重要である。 |
(山村再生支援センターの取組) |
山村の再生には、企業や大学など都市の理解と協力が大きな力となる。とりわけ、企業等が森林資源をはじめとする山村の資源を持続的に利用することは、低炭素社会の実現や山村の活性化に大きく貢献することとなる。 このような観点から、平成21(2009)年4月、林野庁補助事業の一環として、山村と企業、山村と都市とを結び、森林資源の新たな活用を目指した取組を支援する山村再生支援センターが創設された。同センターにおいては、・木質燃料の利用や間伐等の森林整備によるCO2の排出削減・吸収量のクレジット化・販売、・木質バイオマスを燃料として使用したい企業等への安定供給、・新技術の導入による未利用森林資源を活用したニュービジネスの事業化、・森林・山村の癒しの効果の教育・健康面での活用の4分野においてマッチングを行うなど、山村と都市の企業等の協働に取組を支援している。 |
事例 都市との交流を通じた森林再生 群馬県かわばむら川場村では、昭和56(1981)年に東京都世田谷区と相互協力協定を結び、以来、世田谷区民の第二のふるさととして、区民と長期的な交流を行っている。平成5(1993)年には80haの「友好の森」を設定し、ここを拠点に「やま(森林)づくり塾」など区民と村民の協働による森林の整備や保全活動を展開してきた。この活動によって荒廃の危機にあった森林の再生に一定の成果を収めたことから、今後は企業やボランティア団体の参加を得ながら、村内全域に活動を拡大し、森林の機能回復や自然景観の保全に取り組んでいくこととしている。 |
事例 下流域との連携と地域材活用 長野県根羽村(ねばむら)は、平成3(1991)年度に下流域にある愛知県安城市(あんじょうし)と「矢作川(やはぎがわ)水源の森協定」を締結し、連携して森林整備を進めるとともに、矢作川流域住民との交流、小中学生の森林環境教育、流域内企業との「森林(もり)の里親」契約等に積極的に取り組んでいる。また、地域の森林組合が、森林整備、伐採から製材加工、地域材を使用した産地直送型の住宅販売まで取り組む「トータル林業」システム を構築し、地域における収入の確保や若者の定住に貢献している。 |
事例 若者の農山村への定住 特定非営利活動法人地球緑化センターでは平成6(1994)年度から、農山村に若者を派遣し、ボランティアとして活動しながら1年間生活してもらうという「緑のふるさと協力隊」を実施している。協力隊に参加した若者たちは、植林や間伐等の森林整備活動のほか、村おこしイベントや特産品の商品開発の手伝いなど様々活動を行う。このような活動を通じて、若者たちは農山村の人々やその暮らしに魅力を発見し、活動終了後に定住する例もみられている。平成20(2008)年度までの15年間に420名が参加し、このうち4割が農山村に定住して地域活性化の新たな担い手になっている。また、平成21(2009)年度には16期目として45名の隊員が農山村に派遣されている。 |
事例 山村再生支援センターによる企業と山村のマッチング 平成21(2009)年11月、タクシー業界大手のK自動車、長野県信濃町、山村再生支援センターの間で「企業のふるさとづくり協定」が締結された。この協定に基づいてK社は、社員や家族の保養の場として信濃町の豊かな森林環境を活用することにしている。また、K社では、社員食堂で信濃町産の野菜を提供することにしているほか、この取組を契機として、信濃町での森林整備によるCO2の吸収量等を用いてカーボン・オフセットを導入できないか、検討を始めている。 |