国土交通省は、今冬の大雪による人的被害発生等の状況を踏まえて、高齢者の安全安心対策をはじめ、今後、拡充強化すべき分野を重点的に検討するため、有識者による「豪雪地帯における安全安心な地域づくりに関する懇談会」を設置した。
 懇談会はこれまで2回開催されており、高齢化、過疎化が進む中、国土の保全の観点を踏まえたハード面、ソフト面に渡る豪雪対策を4月末までにとりまとめる予定である。
 懇談会の委員及び第1回、第2回懇談会の議事要旨は、次のとおりである。

1 懇談会の委員構成(五十音順・敬称略)
座長 大西  隆 東京大学先端科学技術研究センター教授
上村 靖司 長岡技術科学大学講師
小澤紀美子 東京学芸大学教授
酒井  孝 社団法人雪センター理事長
佐藤 篤司 防災科学技術研究所長岡雪氷防災研究所長
清水浩志郎 秋田大学名誉教授
内藤万砂文 長岡赤十字病院救命救急センター長
沼野 夏生 東北工業大学教授
(地方公共団体)
五十嵐忠悦 秋田県横手市長
佐々木誠造 青森県青森市長
森  民夫 新潟県長岡市長

2 議事要旨
第1回 懇談会 (平成18年1月26日)

まちなかでは雪下ろしをしようにも雪の捨て場がないが、雪対策として消雪道路や流雪溝などは雪の総量を減らす手段として大変有効である。歩道も含めた消融雪の工夫を図るなどハード面の進歩や新技術の開発、普及が望まれる。

流雪溝に雪を捨てる担い手が高齢化しており、施設を活かす人が減っている。また、雪を流す時間帯も限られているため、作業の担い手がさらに限定されている。

1人暮らしのお年寄りの住宅が雪に埋もれているような状態のところもあり、きめ細かな対応が必要となっている。

市民との協働による雪の処理はまだ数が少なく、今後、より連携を図るべきである。

S56年豪雪などの過去の豪雪と比較して状況が違うのは、雪下ろしなどの作業中の事故で高齢者の割合が高くなっている点、雪崩による被害が減っている点、高齢化や高齢世帯の増加とコミュニティの崩壊が進んでいる点、ライフスタイルの変化がある点、家庭用除雪機による事故がある点などが挙げられる。

雪の問題は日常の問題と災害の境目がはっきりしないが、コンパクトなまちづくり、歩いて移動できるまちづくり、雪国らしいまちづくりが必要である。

今回の豪雪は20年ぶりであり、この間に人も社会も雪に対して弱くなっている。

高齢者については、都市部は公助が多いが中山間は自助が多いなど、都市部と地方部では高齢者の状況が違っており、データの整理が必要である。

今冬の特徴は、短い期間に連続して多くの量の雪が降ったこと、降雪が広範囲に及び、大雪に対する不慣れがあること、過疎高齢化が進んでいることが挙げられる。

S56年豪雪当時との違いでは、疾患によるものが増えている点が挙げられる。防災と福祉の境目の問題もあり、福祉側からのアプローチが必要である。地域でどう支えるのか、あるいは広域的に支援いただくのかということもあるが、超高齢化の先取りをしていく問題が雪という切り口のなかで一気に吹き出していると言える。

ボランティアは地域の中でわき上がってきているが、ボランティアの受け皿や地域にコーディネーターがいない。また、スキルのない方の活用検討が必要であるとともに、日頃からの広域的な交流の中での理解が必要であり、仕組み作りが必要である。

豪雪はだいたい1週間前には予測が出来る場合もあるため、事が起こってから対応するのではなく、準備を早めに始めるために先手を打つ仕組みづくりが必要である。

2004年度に新潟県では雪で倒壊した住家のうち2/3が山古志村と小千谷市で仮設住宅に入っている方々のものである。放っておけば住宅はつぶれてしまうので、一旦離れたら戻れなくなるという危機感を持っている。

季節移住と集落移転については、雪の量により住宅を放っておけるところと、そうでないところで状況が異なる。東北や北陸などの具体的な事例分析が必要である。

山間地集落への道路では除雪費用がまかなえず、孤立や、離村の選択をせまられている。過疎地ゆえ、予算投入が難しいと言う意見があるが、山村住民は我が国の山地を荒廃から守っている。この観点から援助の意味は大きく、広く交通安全における援助を進めるべきである。

今後、この問題については自然、社会条件などによる整理や過去との比較もしつつ整理する必要がある。また、例え季節移住や集落再編が進んでも、高齢者世帯が雪の処理をする際の問題は残るわけであり、直接的にどうやって救うかという点についてボランティアの活用も含めて考えなければならない。また、これまでのいろいろな取組みの効果を整理し、もう少し方向を見定めた議論をする必要がある。
第2回 懇談会 (平成18年3月1日)

過疎化、高齢化に問題の原点がある。高齢者はそこに安定して住みたいという希望を持っており、それを支える仕組み、例えばもっと雪に強い集合住宅を作ることをプライバシー確保を含めてやるべきである。地域づくりのベースになるのは道路交通の安全安心である。それから住宅であり、今の所に住むのかどうか等を考えることが必要である。

豪雪地帯のとりわけ中山間地域の住み方を長い目でどう考えるか、集落から離れたくないという当面の問題をどう考えるかで対策が変わる。

孤立集落には高齢者がたくさんいるが、その場所からなかなか離れないだろうと考える。その暮らしは快適であり、その環境の中で暮らしていて大変元気である。それらに対し、どういう形で対策を行うかが課題である。50歳を過ぎると柔軟性が全くなくなり屋根から落ちたら怪我になることが多く、40歳代とは全く違う。

中山間地域の高齢者が住み慣れた場所に住み続けたいというのは当然の願いであり、何が一番必要かと考えると、冬をいかに過ごすかである。冬期居住は本腰を入れて考えなければならない課題である。

ボランティアの雪処理だが、山間地域では近い将来広域支援に頼らざるを得ない状況になる可能性がある。ボランティアとの交流を通して課題を解決することを今まで以上に考えていかなければならない。ミスマッチの問題が挙げられるが、日頃から、ボランティアのスキルを向上させ認定していくようなシステムも考えられる。地域をコーディネートする人達が雪処理のコーディネーターとして活躍するようなことが出来ればマッチングが可能になってくると考えられる。

道路に関して著しく問題になっているのは事故の問題、走行不能の問題だと思う。ノーマルタイヤの問題や、後からどんどん入ってくる車が問題を大きくすることなどがある。

建物については、耐雪強度の再点検ということも考えなければならない。落雪事故もかなりあり、落雪させない建物の研究をきちんとしていくべきで、ビルなどの落雪防止ネットとか柵とかあるが、指針を出しながら安全の確保をすることが必要である。

冬期居住は条件が成り立つならオプションとして考えるべきである。山古志の復興を  考える上では、将来リタイアして田舎に住みたいという人もいるので、中山間地域の中にも集合住宅の考え方があってもいい。単身世帯のケアもしやすくなり、農業もでき、山の暮らし、生業、生き甲斐を奪わず、なおかつ安心な暮らし、福祉の部分でも今までよりレベルの高い暮らしを目指す。雪処理に関してもフリーにしてあげるような夢のあるプランを出せないかと思っている。

除雪に対し広域支援をしたいという声が大きいにもかかわらず、安全確保ができないことから受け皿が少ない。大雪になってから人を頼もうと思っても無理であり、未経験の人を入れても現実には無理。中越地震被災地の周辺地域は地震で防災意識が高まっており、NPO組織の芽が出ている。これらとタイアップしながら、除雪士認定、コーディネーター養成などに向けて日頃の交流の中でスキルアップをすることが、具体的で即効性のある対策だと考えられる。

雪が少ない地域も地域防災力が落ちている。まちはどうあるべきか、雪国の暮らしはどうあるべきかということが大事になっている。地域で雪について学ばなければならない。地域の大人も子どもも雪について学ぶ「学雪」が必要である。そこから雪とどうつきあうかが出てくる。子どもの頃からの土壌づくりが必要である。

村が消えて行くまでの対処療法では困る。長く住んで行くための方策をきちんと考えるべきである。

若い人の要求する生活水準はどんどん上がっており、根本的に雪下ろしをしなくてよい環境、除雪の雪捨てに苦労しなくてよい環境などをどのように作るかという観点で施策を考える必要がある。抜本的にやるとかなりお金がかかると思うが、基盤整備により生活の要求水準の高い人も住める環境づくりをある程度用意する必要がある。中山間地帯をどのように評価するかというのは国土施策とも絡むことだと考える。

集合住宅のあり方を、こういう豪雪の時にもう少し上手に考えて、交通ネットも情報ネットも作りやすい形でやる必要がある。これからは道路交通の安全安心はベースとして継続的にやりつつ、新たにやっていくのは住宅対策であると考えられる。例えば、馬蹄形の集合住宅などプライバシー、コミュニティ、医療、情報にも配慮したものが考えられる。

お年寄りは先祖伝来の土地に住み続けたい。都会の人で中山間地域で農業体験をしたい人など、新しく入ってくる人なら集合住宅に馴染むと考えられるので対象をきちんと考えなければならない。

ボランティアは一方向の施しではなく、むしろ理想的には双方向的なものでないといけない。その地域の人達にとっては時間的な差のある相互扶助である。地域外の人にとっては過酷な条件の中で生活の知恵を発揮しながら生きている人達との交流がある。オープンな関係を地域外の人達と作ることにより、発展するものであり、新しく住みたくなる人も出てくる。住み続ける地域からむしろ住み継いでいけるような地域を作っていくことを考えていく必要がある。

今ある集落を集合住宅にするのは無理があるが、これから再構築する集落がモデルとなり、その暮らしがみんなからみて良いものならば全国に少しずつ広がるかもしれない。新しい価値観を与えて集落再生を考えるひとつの事例として集合住宅という形の復興もあり得るのではないか。

住宅というのは文化である。集合住宅に住みたいという人も中にはいるだろうし、いろんな文化があり、いろんなメニューを用意することが大事なことである。今住んでいるお年寄りをきちんとそこに住み続けさせるということも大事であるとともに、基盤整備に繋がるような抜本的な提案が必要である。

ボランティアだけではなく、公務員同士、例えば自治体職員、消防、警察、自衛隊など危機管理の根本にある機関の日頃からの連携が必要であり、その辺も入れておく必要がある。具体的なユーザーは多様な価値観をもっているので、少しでも防災力が高まる豊富なメニューを用意することが必要である。また、今年のような大雪に効を奏するような対策的メニューに用意することが必要である。


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