地産地消については、食料自給率の向上に向け重点的に取り組むべき事項として、「食料・農業・農村基本計画」に位置付け、その全国展開等を積極的に推進することとされている。そのためには、国、地方公共団体、農業者・農業者団体等が相互に協力しながら適切な役割分担の下に主体的に取り組むことが必要となっている。 このような状況を踏まえ、農林水産省においては、地産地消の推進施策をとりまとめた毎年度の「地産地消推進行動計画」の策定や地産地消の今後の推進方向について、有識者からの助言を得つつ検討を行うため「地産地消推進検討会」(座長:永木正和筑波大学大学院教授。委員13名)を平成17年5月から開催しているが、8月に中間とりまとめが行われ公表された。その概要は次のとおりとなっている。 |
1.はじめに | |
・ | 消費者の農産物に対する安全安心志向の高まりや生産者の販売の多様化の取組が進む中で、消費者と生産者を結び付ける「地産地消」への期待が高まってきている。 本年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画(以下「新たな基本計画」)においても、地産地消は食料自給率の向上に向け重点的に取り組むべき事項としてその全国展開等を積極的に推進することとされている。 このため、地産地消に取り組む農業者などの有識者による「地産地消推進検討会」を開催し、地産地消の現状と課題について議論するとともに、今後の推進方向について検 討を行った。以下は、その検討内容が速やかに今後の施策に反映されるよう、中間的に とりまとめたものである。 |
2.地産地消の意味 | |||||||||||||||||||||||
(1) |
地産地消の位置付け | ||||||||||||||||||||||
地産地消は、もともと、地域で生産されたものをその地域で消費することを意味する言葉である。新たな基本計画では、単に地域で生産されたものを地域で消費するだけでなく、地域の消費者のニーズに合ったものを地域で生産するという側面も加え、「地域の消費者ニーズに即応した農業生産と、生産された農産物を地域で消費しようとする活動を通じて、農業者と消費者を結び付ける取組であり、これにより、消費者が、生産者と『顔が見え、話ができる』関係で地域の農産物・食品を購入する機会を提供するとともに、地域の農業と関連産業の活性化を図る」と位置付けている。 産地からの距離は、輸送コストや鮮度の面、また、地場農産物としてアピールする商品力や、子どもが農業や農産物に親近感を感じる教育力、さらには地域内の物質循環といった観点から見て、近ければ近いほど有利である。消費者と産地の物理的距離の短さは、両者の心理的な距離の短さにもなり、対面コミュニケーション効果もあって、消費者の「地場農産物」への愛着心や安心感が深まる。それが地場農産物の消費を拡大し、ひいては地元の農業を応援することになる。高齢者を含めて地元農業者の営農意欲を高めさせ、農地の荒廃や捨て作りを防ぐ。結局、地場農業を活性化させ、日本型食生活や食文化が守られ、食料自給率を高めることになる。 しかし、距離に関係なく、コミュニケーションを伴う農産物の行き来を地産地消ととらえることも可能である。 また、地産地消は、地域で自発的に盛り上がりをみせてきた活動で、教育や文化の面も含んだ多様な側面を有しており、固定的、画一的なものではなく、柔軟性・多様性をもった地域の創意工夫を活かしたものとなることが必要である。 地産地消の主な取組としては直売所や量販店での地場農産物の販売、学校給食、福祉施設、観光施設、外食・中食、加工関係での地場農産物の利用などが挙げられる。 |
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(2) |
地産地消の展開の経緯 | ||||||||||||||||||||||
地産地消は、近くでとれたものを食べる事を基本とした考え方である。かつては農村地域では在来品種や伝統野菜の生産を行うなど伝統的に地域でとれたものを地域で食することが当然であり、戦後も高度成長期以前は身近なものを食することが一般的であった。 ところがその後高度成長期になって広域大量流通システムが成立した。これは、
この広域大量流通により、例えば首都圏に供給するだいこんの産地についてみると、関東一円から外延的に拡大していき、現在は、東北や北海道からの入荷が季節によっては、9割を占めるといった状況となっている。 また、高度成長期に日本の食生活が洋風化し、高度化する中にあって、広域大量流通は、
しかしながら、広域大量流通は消費地や消費者といった消費する場と、食品を生産する場との間の距離を拡大することになり、次のような結果をもたらすことになった。
さらに、消費者からは食と農との距離を縮めたい、生産者と顔の見える関係をつくりたいという要求が高まってきている。 これは、
こうした動きは世界的な潮流にもなっておりイタリアのスローフードをはじめ、アメリカのCSA(Community Supported Agriculture )や、韓国の身土不二などの運動が見られる。 我が国においても、地産地消は、新鮮で安心な農産物を得られる等のメリットにより、各地でその取組が草の根的に盛り上がっている。 しかしながら、1億2千万人を超える国民に食料を安定供給する必要があるとの観点に立てば、その、すべてを地場産の農産物により供給することは困難である。 したがって、地産地消の活動は地場の消費者・実需者ニーズに応えるものとして、地場の生産技術条件や市場条件に見合った可能な方法で経験を積み重ねながら段階的に広げていくことが重要と考えられる。 その場合、地産地消の概念は、必ずしも狭い地域に限定する必要はない。できるだけ近くのものを優先するのが原則ではあるが、周年販売や品目・品質上の品揃えを考えると、産地の地域的な範囲は柔軟な広がりをもって考えた方がよい。最終的には我が国の全域すなわち国産農産物の全体までも射程に置くことの出来る概念だと考えられる。 したがって、国産品を優先的に消費することを通じて、食料自給率の向上にもつながっていく考え方である。このような視点に立って、行政においては、強いニーズがある地産地消を広げていくため、特に、取組が円滑に進められるようにするため、支援を行うべきである。 |
3.地産地消の現状 | |||||||||||||||||||||||||||
(1) |
統計分析 | ||||||||||||||||||||||||||
農産物直売所については、その正確な設置数の把握は難しいが、これまでの任意な全国調査等からは、10,000ヶ所以上の設置数があると考えられる。 また、農林水産省統計部が実施した「平成16年度農産物地産地消等実態調査」(以下「実態調査」という)によれば、市町村(第3セクターを含む)又は農協が設置主体である産地直売所について実態が明らかとなっており、これらの産地直売所は全国に2,982ヶ所存在し、うち、回答のあった2,374産地直売所における平成15年度の年間販売総額(1産地直売所当たり平均)は7,462万円であり、このうち、地場農産物(当該市町村、隣接市町村で栽培された農産物)は63.8%を占めている。 加工については、実態調査では農家(法人)、農家以外の農業事業体又は農協が設置主体である農産加工場1,686ヶ所が調査対象となっており、うち、回答のあった1,107農産加工場における平成15年度の年間仕入額(1農産加工場当たり平均)は1億3,091万円であり、このうち地場農産物の仕入額は1億409万円で、仕入額の79.5%を占めている。 学校給食については、完全給食を実施する単独調理方式の公立の小・中学校及び共同調理場のうち1,636ヶ所を対象として実態調査が実施されたが、地場農産物の使用状況は「恒常的に使用している」が76.6%で「使用していない」(14.0%)を大幅に上回っている。なお、文部科学省が平成14・15年度に実施したサンプル調査によれば、公立の学校給食実施校における地場産物の使用割合は食品数ベースで平成14年度は20%、平成15年度は21%となっている。 また、実態調査によれば3年前と比較した地場農産物の取扱量は,「増えた」と答えたものが、産地直売所で61.7%、農産加工場で37.9%、小・中学校で56.0%となっており、3年後の地場農産物の取扱量の増減意向については,「増やしたい」と答えたものが、産地直売所で80.5%、農産加工場で66.7%、小・中学校で76.4%となっている。 こうした調査の結果にも現れているとおり、地場農産物の利用割合は次第に拡大してきており、今後についても地場農産物の利用を拡大していく意欲が強いといった傾向にあることがうかがわれる。 ただし、統計的には現れてきてないものの、統計数字の裏側に地産地消事業所の新設と廃業が同時に繰り返されていることを看過してはならない。地域の消費者に支えられる観点での将来への戦略的展望と段階的な発展計画、その下での堅実な経営管理と積極展開が求められる。安易な事業化は失敗を招く。 |
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(2) |
地産地消のメリット・デメリット | ||||||||||||||||||||||||||
地産地消により、消費者、生産者双方に以下のようなメリットが生じると考えられる。 まず、消費者については、
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(3) |
諸外国の地産地消 | ||||||||||||||||||||||||||
食文化の伝承や農村環境の保全などのニーズの高まりを背景に、海外においても地産地消の様々な活動が展開されている。 イタリアでは「スローフード運動」が展開されている。これは、現代人の食生活を見直す運動であり、@郷土料理や質の高い食品を守る、A小規模な生産者を守る、B子供・消費者全体に味の教育を進めるといったテーマを掲げて、各地に残る食文化を尊重し将来に伝えていく運動を実践している。 韓国では「食べ物に宿る風土と人体に宿る風土が一致すればするほど体によい、体と土とは一体だ」という「身土不二」の運動が展開されている。韓国の農協中央会、農業団体が中心になって、国産農産物愛用運動のスローガンとして使用されており、国産品の優先的な購入を推進するための活動として進められている。 米国では「地域が支える農業」の頭文字をとったCSA( Community Supported Agriculture)が進められている。地域の家族農業を応援し、農村環境を保全しながら地域社会を維持しようとする運動であり地域ごとに消費者と農家が結び付いて作付前にその年1年分の農産物の代金の一部を前払いで支払って購入する活動を中心に展開されており、1,000以上の地域で取り組まれている。 |
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(4) |
地産地消の類型化 | ||||||||||||||||||||||||||
地産地消の活動としては、従来、農産物の直売所が代表的なものと捉えられてきているが、実際には各地で様々な創意工夫がなされて盛り上がっており、地場農産物の加工、学校給食、外食産業や観光関係での地場農産物の利用など、その活動内容は多彩である。このように、地域によって差があるが、ここでは多様な活動を理解し、整理するための一助として類型化を試みる。 地産地消の活動内容を分類するに当たって、@距離の遠近という基準とAコミュニケーションの程度の濃淡程度という基準によって類型化を試みると、一般に距離が近いほどコミュニケーションの程度も濃くなる傾向が見られる。しかしながら、中には無人直売所にみられるように距離が近くてもコミュニケーションが薄いものもあるなど一定ではない。 こうした考え方に基づいて類型化してみると次のようになる。 |
![]() |
また、活動内容、活動主体、活動範囲によっても類型化が可能である。 活動内容は、販売普及活動と交流活動に区分され、さらに、販売普及活動は、販売物流活動と情報活動に区分される。(前頁「地産地消活動」) これらの活動内容は、さらに、活動の主体により、生産者、実需者、消費者、行政に、また、活動の範囲により市町村内、市町村とその周辺地域内、県内、県域を越えた地方ブロックに細分化される。 |
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(5) |
活動内容ごとの現状 | |
以上により類型化した地産地消のそれぞれの活動内容について、現状を事例を挙げつつ見ていくと次のとおりである。 | ||
@ |
直売所 | |
直売所の運営主体は農協、農協の組合員(女性部、青年部等)、第3セクター、任意団体等様々であり、運営方法も様々である。 例えば、JAがファーマーズマーケットを開設し、登録農家からの農産物の出荷を受け販売する事例、女性の生産者100名だけで自主的に運営し、地場農産物とともに、加工して付加価値販売している事例、エコファーマーとして大部分の生産物(野菜)をJAの運営する直売所や量販店に出荷するとともに、一部学校給食にも提供している事例、JAが直売所で地場農産物を販売するとともに消費者等への産直方式による販売も実施している事例などが見られる。 |
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A |
量販店等 | |
量販店等における地産地消の活動として、インショップや販売コーナーを設置しての地場農産物の販売が行われている。その運営主体は量販店、地元JA、
任意の生産者グループ等のいずれかであるが、いずれにおいても生産者の参加・協力が不可欠である。 例えば、量販店U社では、各店舗で地元JA、地元市場から仕入れた地場産の野菜を販売しており、近隣農家による直接販売コーナーの設置、個人名の表示、JAフェア(農家、JAによる消費者に対する直接PR・販売活動)の開催等を実施している。 |
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B |
学校給食 | |
学校給食において地場農産物を使用する地産地消の活動は増加傾向にあり,また、今後さらに取扱い量を増やす意欲が高まっている。 例えば、埼玉県の学校給食会では県内産の米、麦、大豆、野菜、果樹、約40品目を取扱い、県内の小・中学校に提供するとともに、地場農産物についての学校用教材や保護者向けのパンフレットを作成し、普及活動も実施している。 |
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C |
福祉施設 | |
福祉施設における活動としては、病院や老人ホーム等での食事に地場農産物を利用している例がみられる。 例えば、山口県のJA厚生連・N病院は病院食に地場農産物を使った料理を出している。食材は地元JA、県などの協力により地元市場から入手している。 |
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D |
観光 | |
観光における地産地消は、地域独自の食材や食文化を提供・紹介することで,
観光地としての価値を高めるような活動が進められている。 例えば、群馬県の温泉では、地元の農業後継者グループと旅館組合が協力して、宿泊者を対象とした地場農産物の直売会、農業体験用農園の整備と収穫体験等を実施するとともに、旅館独自の取組として地場農産物を食材として積極的に活用している。 |
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E |
外食・中食 | |
外食事業や中食事業においても、農産物の安定供給の確保や、消費者ニーズに応える観点から、地場農産物を使用した活動が進められている。 例えば、外食事業者のR社は、新鮮で高品質な野菜を安定的に調達するため、キャベツを全量国産とし、全国12産地で年間5,000トンを契約栽培するとともに、使用するキャベツの産地をホームページで紹介している。 |
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F | 加工関係 | |
加工関係においても、地域の独自性にこだわった、地場農産物を使用した様々な活動が進められている。 例えば、JAさが東部女性部の加工グループは、地元の特産品を使った加工品アスパラさしみこんにゃくとトマトさしみこんにゃくを開発し販売している。 |
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G |
情報活動 | |
行政機関が中心となって、地場農産物をさらに普及させるための情報提供、広報活動等が進められている。 具体的には、行政機関により、地産地消に関するシンポジウムや消費者団体等との意見交換会の開催、PRパンフレットを作成・配布、キャッチフレーズ・マスコットキャラクターの制定等の活動が実施されている。 また、食育活動の一環として地産地消に取り組む例もある。 福井県小浜市では幼児向けの料理教室キッズ・キッチンを実施している。この取組は、地場産の野菜や旬をクイズなどで理解させ、子ども達だけで地場産の食材を利用した料理を作らせるものである。子ども達の地場産の食材への興味が高まり、そのような食材を提供してくれる地元の農業の大切さを理解する。家に帰って家族友達に地場産食材のすばらしさを広める役割を担ってくれるなど、子どもをターゲットにした活動である。 |
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H |
交流活動 | |
交流活動は、行政が主体となって展開される例が多く見られ、地場農産物をキーワードとした活動が展開されている。 具体的には、行政機関が生産者と実需者との情報交換会や、生産者と消費者との情報交換会・試食会、伝統的な食材加工や調理の講習会等を実施している例が多い。 |
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I |
その他の多様な活動 | |
その他の取組としては、例えば、市民農園やオーナー制度あるいは学童の体験学習などのように上記@からHの各種の活動の複合的な形態であったり、又は一部重なるものもある。 | ||
(6) |
国、県等による取組の現状 | |
@ |
農林水産省 | |
農林水産省は、地産地消推進行動計画を決定し、これに基づき、地域における地産地消の実践的な計画策定を促すとともに、交流活動や地産農産物の普及活動等、農業者団体や食品産業等関係者による自主的な活動を促進している。 具体的には、強い農業づくり交付金において、地産地消を進めるための協議会の開催、行動計画の策定、調査の実施、実証・試験の実施、技術の普及、啓発活動や生産施設、加工施設、流通販売施設の整備に対して助成しているほか、交流拠点・体験交流空間の整備、食に関する様々な体験や、学校給食における地場産を主体とした利用の促進等地産地消の推進活動への支援を実施している。 また、地産地消の優良事例情報のHPへの掲載等の情報提供を実施している。 |
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A |
文部科学省 | |
学校給食の食材として地域の産物を活用することは、食事内容を多様化させることができ、また、児童生徒が地域の産業や文化に関心を持ったり、地域において農業等に従事している方々に対する感謝の気持ちや地域との触れ合いを実感するなど教育的効果があることなどから、文部科学省では、学校給食指導の手引きや通知において、郷土食や地場産物の導入について工夫するよう都道府県教育委員会等を指導している。 また、児童生徒用の食生活学習教材の中においても、地域の産物や郷土料理等を取り上げて各学校等に配布するなど、各種の施策を通じて学校給食における地産地消の推進を図っている。 |
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B |
地方農政局(農林水産省) | |
地方農政局においては、管内の各都道府県と連携した推進体制づくり、地産地消に関するシンポジウムや消費者団体等との意見交換会の開催、地産地消の優良事例情報のHPへの掲載、PRパンフレットの作成・配布、地産地消の優良事例の農政局長表彰、シンボルマークの作成等の推進活動を実施している。 | ||
C |
都道府県 | |
都道府県においては、既に30余県において地産地消に関する計画や基本方針などが定められている。これに基づき、キャッチフレーズやマスコットキャラクターの制定、地産地消に関する情報誌やメールマガジンの発行、地域固有の農産物の認証、「地産地消の日」の制定といった情報活動や、地場農産物を応援する、ファンクラブの設置や生産者と実需者との情報交換会の実施などの交流活動を実施している。 |
4.地産地消の課題 | ||
地産地消に関する地域や行政の様々な活動内容とその現状を見てきたが、こうした中から今後地産地消を展開するに当たって、以下のような課題が挙げられている。 | ||
(1) |
活動内容ごとの課題 | |
@ | 直売所 | |
実態調査によれば、直売所の抱えている課題として「地場農産物の品目数、数量(参加農家)の確保(77.4%)」が最も多く挙げられており、その他「購入者の伸び悩み(42.7%)」、「産地直売所及び関連施設の整備・拡充(32.6%)」などが挙げられている。 また「地産地消」の農産物、加工品の「地産」の範囲をどこまでと考えるのか、地場産との表示をどのように行えば良いかといった地産地消の定義や範囲に対する不安や、直売所等での野菜販売において、農業への理解不足により、消費者から「虫食い」「大根の黒ずみ」「キュウリの曲がり」等について、クレームが生じたといった事例もあった。 |
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A | 量販店等 | |
量販店等においては、地場農産物の供給の安定や継続が課題となっており、年間を通じた地場農産物の確保が課題として挙げられている。また、野菜は季節により地元での生産が無い場合がある。 | ||
B | 学校給食・福祉施設 | |
実態調査によれば学校給食の抱える課題としては半数以上の小・中学校で「量が揃わない(63.5%)」、「地場農産物の種類が少ない(52.8%)
」 が挙がっており、その他「規格等が不揃いなため調理員の負担が大きくなる(37.9%)」、「価格が高い(26.4% )」が課題として挙げられている。 また、地産地消の推進のためには、学校給食との連携が必要である一方、学校給食における食育の推進のためには、JAを含む生産者、流通業者、栄養士、学校給食関係者など多様な立場の人の横の連携、文部科学省・厚生労働省との連携が必要である。さらに、施設の老朽化への対応や新たな食材に対応するための調理・加工用施設の設置が必要である。 なお、福祉施設についても学校給食と同様に量が揃わない、規格が不揃い等の課題は同様にあると考えられる。 |
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C |
観光 | |
旅行においては、地場産の食材の料理を食べ、地元の人とコミュニケーションを旅の楽しみにしている。このため、地場の食材を使った料理を出すことが最高のもてなしなのであり、多くがそのように努力している。しかし、地場流通に対応した流通経費節減の工夫ができていないため、必ずしも安価なものものではない上に供給が一定しておらず、地場農産物のみで食材をそろえることができない場合があるので、観光においては地場農産物の安定供給が課題となっている。 | ||
D |
外食・中食 | |
外食・中食においても安定供給が課題となっている。 外食産業においては、地域に密着した外食事業者が店の個性を強調するために地場農産物を積極的に利用するケース、大手の外食事業者が消費者の安全志向、鮮度志向に対応するため、各産地の農業者との連携を行うケースがみられるが、いずれのケースでも食材の安定供給の確保が大きな課題となっている。 このような外食産業者における原材料の確保のため、契約栽培等に取り組んでいるものが多いが、台風等の気象の変化による生産量の変動に対応できるような取組が必要となっている。また、市場価格が高騰した時に、契約が履行されないなどの問題も発生しており、安定した契約関係の構築が重要となっている。 |
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E |
加工関係 | |
実態調査によれば、加工関係が抱えている課題としては、農産加工場の約6割が「新たな販路の開拓(58.4% )」を挙げており、このほか「付加価値の高い地場加工品の商品開発(48.8%)」、「加工経費の削減(47.3 % )」が挙げられている。 | ||
F |
情報活動 | |
情報活動は直接的な地場農産物の売買が無い取組であることもあり、経済的効果がすぐに目に見えないものを関係者や組織内部で理解してもらうことが必要であるといった課題が挙げられている。活動方式や主たる顧客によって相違するが、どのような方法で、どのような情報を提供するのが効果的であるかを検討する必要がある。 | ||
G |
交流活動 | |
生産者と消費者の交流活動は相互の理解を深めることを目的としている。双方の理解が十分でなく、生産者はもっと食べ物の効果をアピールする必要があると考えられ、交流活動をさらに進める必要がある。 | ||
(2) |
生産者、消費者・実需者、行政における課題 | |
地産地消の類型別に見てきた課題を生産者、消費者・実需者、行政といった活動主体ごとに整理してみると以下のようになる。 | ||
@ |
生産者 | |
生産者サイドの課題としては、以下の事項が挙げられる。 | ||
ア |
地産地消の活動により、消費者に支持される・消費者ニーズを反映した産地づくり・農産物生産に変わるべく、意識の変革、そして行動に努めなければならない。そのためには、まず地場の消費者・実需者とのマッチングを図らなければならず、情報交換の場を設けることが必要である。 | |
イ |
特に直売方式の場合は、@直売所の立地場所、A集荷圏と参加農家、B商圏と顧客層がもっとも重要であろう。事業開始後の課題は直売所の運営管理ノウハウである。いずれも事業主体に蓄積が少ない。事業立ち上げまでの留意事項、立ち上げ後の運営ノウハウを示すマニュアル等が必要である。 | |
ウ |
参加農家の確保・育成及び地場農産物の品目数、数量の確保を図る必要がある。 | |
エ |
事業開始後、一定の後必ず販売額の伸び悩みに直面する。絶えず販路拡大、顧客層の拡大への創意工夫と努力が必要がある。 | |
オ |
農家個人や組織が直接販売を手がけることが多い地産地消は、大量流通・販売には馴染まない側面が多々あるが、むしろそれを顧客取り込みの戦略にする発想は重要である。既存の大規模小売業の販売方式を踏襲してしまっては、地産地消の個性が埋没してしまう。しかし、物流の効率化、商品管理、品質管理、在庫管理、販売促進、財務管理、決済システム、トレーサビリティ等の最新ノウハウを積極的に導入してゆく必要がある。 | |
A |
消費者・実需者 | |
消費者・実需者サイドの課題としては、以下の事項が挙げられる。 | ||
ア |
地場農産物の種類が少なく出荷量、出荷農産物の規格等が揃わない。また、年間を通じた安定的な地場農産物の確保を図る必要がある | |
イ |
どのような地場農産物があるのか、どこで地場農産物が入手できるか分からないので、関連情報の収集・紹介を進めるべきである | |
ウ |
流通経費がかからないといっても、必ずしも安価なものではない | |
エ |
営利企業として営業をしていく上で、地産地消に取り組むメリットがあることが重要である | |
B |
行政 | |
行政サイドの課題としては、以下の事項が挙げられる。 | ||
ア |
地産地消の普及啓発が十分でなく、地産地消活動を推奨すべきである | |
イ | 地産地消を幅広くとらえ、地域の創意工夫、独自性を活かすべきである | |
ウ |
関係省庁との連携が必要である | |
エ |
行政内部にも、予算、人員、時間などの問題から、すぐに経済的な効果の見えない地産地消の取組に消極的な場合もあるので、長期的、ならびに間接的な効果を含めて、それらを事例で示す工夫が必要である | |
オ |
行政は、問題があったときにそれをそのまま助けるのではなく、地域が自分たちで解決していくのをサポートすることが重要である。全国事例から「Q&A集」を作成するのも一策である。 |
5.地産地消の今後の推進方策 | |
地産地消に関する現状と諸般の課題を踏まえると、今後、行政として推進すべき方向は以下のとおりと考えられる。 | |
(1) |
地産地消の運動としての推進 |
現状では消費者と生産者の相互理解が必ずしも十分でないことから、生活スタイルや食生活が大きく変化したことを踏まえて消費者と生産者が相互に理解を深め、信頼関係が構築できるようコミュニケーションを強化していく必要がある。また、生産者は地元の消費者に支持されるものを作ることが必要であり、消費を増やすという点では、消費者に対する農業、農産物(食べ方、旬、栄養・機能性等)についての普及啓発等一層の地産地消の普及啓発を進めていく必要がある。とりわけ、食に関する知識や健全な食生活への関心が高まっている中で、本年7月に「食育基本法」が施行されたことを踏まえ、食育の取組と連携して地産地消の推進を図る必要がある。 また、地産地消を幅広く推進する観点から、地域における地産地消の実践的な計画の策定の促進を引き続き進める必要があり、本年度中に全国の600地域で地産地消推進計画の策定を目標として推進する。 一方、地産地消の取組は直ちに効果が発生するものではなく「続けること」が大切であり、地場農産物をはじめとする国産農産物を選んでもらえるよう、根気よく、運動として継続的に進める必要がある。また、わかりやすいモデルケースを作ることも重要である。 さらに、自給自足的な地産地消だけではなく、価値観が多様化する現在にふさわしい形で地産地消を広げていくことが必要であり、地産地消を幅広く、弾力的に捉えて推進する必要がある。 |
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(2) |
情報・ノウハウの提供(優良事例の収集・提供等) |
地産地消の事例を整理してみると、いろいろなかたちでどのような展開があり得るのか、どのような方向性があるのか、地域が取り組む際に非常にヒントになるので、優良事例の収集・提供をさらに進める必要がある。 | |
(3) |
関連施設等環境整備の支援 |
直売施設や交流施設等の地産地消に関連する施設の整備などの支援が必要であり、また、学校給食での地場農産物の利用を進めるためには、不揃いな規格の野菜でも対応可能な調理設備や国産小麦など新たな食材に対応するための機械施設の導入も有効である。 | |
(4) |
生産と消費のマッチングを図るための情報交換の場づくり等 |
新しい顧客の掘り起こしということが大きな観点として必要であり、従来的な経済システムの中にがっちり組み込むのとはまた別な考え方も必要である。また、ニーズの合致する生産者と消費者・実需者が結び付き合う関係づくりの中に地産地消があると考えられる。さらに、個人や事業者が単独で地産地消の取組を行うことは簡単ではなく、特に地場農産物を利用する側からは安定した供給が課題であり、需要と供給のギャップを埋めていくことに留意する必要がある。このため、ITを利用したマッチングや関係者のネットワークづくりなど生産者と消費者・実需者のニーズを合致させる機会として「情報交換の場づくり」や「顔が見え、話ができる関係づくり」が重要である。 | |
(5) |
人材育成(リーダーやコーディネーターの育成・確保) |
地産地消の推進には、その中心となる使命感を持ったリーダーやコーディネーターの育成が必要であり、また、地産地消を担う幅広い人材・後継者の育成が必要である。 | |
(6) |
学校給食における地産地消の推進 |
食に関する知識や健全な食生活への関心が高まる中で「食育基本法」が施行されており、こうした状況を踏まえ、地産地消を進めていく上で、また、地域の食文化の保持や味覚の発達等の観点からも食育の取組との連携が重要であり、文部科学省や栄養士会等の学校給食関係者と連携して、学校給食の中で地産地消を推進する方策を検討する必要がある。 また、地域における学校給食等での地場農産物の利用促進は、関係する組織、団体等が一緒の話し合いのテーブルに着くことによって問題点が明らかになり、解決策が見えてくる。 地産地消は生産者と消費者・実需者のコミュニケーションを伴った活動であり意志疎通を十分図る必要があることから、関係者が一体となって推進する必要がある。 |
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(7) |
観光業等における地産地消の推進 |
旅館などの観光業等においても国産農産物の利用を含む地産地消を推進するため関係業界や関係省庁と協議しつつ推進方策を検討する必要がある。 |
6.むすび | |
・ | 本中間とりまとめは、地産地消推進検討会での今後の地産地消の推進方向の議論を現時点でとりまとめたものであり、国における地産地消関連施策の企画立案に速やかに反映されることが望まれる。 また、学校給食における地産地消の推進や旅館など観光関係者による地場農産物をはじめとする国産農産物の利用の推進については、今後とも引き続き、さらに検討を深めていく必要がある。 地産地消の取組は、各地域の創意工夫を活かして多種多様に展開されており、この推進のためには、地域で実施されている優良事例をさらに収集・分析するとともに、引き続き、より効果的な推進方策の検討を行っていく必要があると思われる。我が国においては、大量生産・遠距離輸送技術の発展に伴って大量消費社会へと移行し、効率かつ安定的な農産物流通システムが構築された。その一方、生産者と消費者の関係は疎遠となった。また、2000年以降食品をめぐる事件や事故が頻発し、消費者の食品や農産物への不信と不安が高まった。そしてその裏返しとして、消費者の食品と農産物への安全・安心志向が強まっている。 このような状況の中で、直接の交流・対話を通じて「食」と「農」の原点を見つめ直す地産地消が全国各地で展開されている。この流れが一時のブームで終わることのないよう、逆に今の状況を糸口にして、消費者や生産者に対して地産地消のニーズを創り出していくことが必要と考えられる。 こうした地産地消の運動を国民的な大きなうねりとし、生産者が消費者や実需者のニーズを的確に把握してそれに沿った生産を行うようになるとともに、消費者が農業や農産物への理解と関心を高め、地場農産物をはじめとする国産農産物を選択する機会が増えることにより、食料自給率の向上に寄与することを目指す。 |