近年、中山間地域等において、野生鳥獣による農林水産業への被害が深刻となっており、今般、山村振興法等において、鳥獣害に対する配慮規定が設けられた。
 このため、農林水産省は、最近の鳥獣による農林水産業被害や対策の取組み状況と課題を再整理するとともに、それを踏まえた効果的・効率的な鳥獣害の対策に係る今後の推進方策を検討するため、「鳥獣による農林水産業被害対策に関する検討会」(座長:羽山日本獣医畜産大学医学部助教授。委員16人。専門委員7人。)を平成17年4月から開催してきた。 5回にわたる審議を経て取りまとめられた報告書が、8月18日に公表された。
 この報告書の概要は、次のとおりとなっている。

まえがき
 近年、野生鳥獣による農林水産業被害は、過疎化、高齢化の進展等による耕作放棄地の増加や集落コミュニティの崩壊等に伴い、全国的に中山間地域を中心に深刻化しており、平成15年度の農作物被害金額は約200億円に上っている。
 このような状況の中、平成17年3月末に改正された山村振興法及び半島振興法において、国及び地方公共団体の鳥獣による被害防止に関する取組みについて配慮規定が新たに設けられるなど、行政に対する要請も強くなっており、各地域が自ら行う積極的な取組みを含め、被害防止対策を強化していくことが喫緊の課題となっている。
 被害防止対策を進めていく上で、生態系を保護・管理する側からのアプローチと農林水産業を振興する側からのアプローチがあるが、本検討会においては、後者の視点に立って、専門家をはじめ各方面からの関係者の参画を得て、効果的・効率的な被害防止のための推進方策について検討を進めた。なお、環境省の野生鳥獣保護管理検討会において、平成16年12月に鳥獣保護及び狩猟の在り方全般についての検討報告が行われている。
 また、本検討会については、平成17年4月から、専門委員会2回を含め、5回にわたり開催し、専門家や現場で実際に被害防止対策にあたられている方の意見と併せてアンケート調査や客観的な資料等に基づき、野生鳥獣による被害の現状及び被害防止対策に係る具体的な取組み状況と課題を総合的に検証することにより、問題意識の共有化を図りつつ、今後の鳥獣害対策の充実強化に向けた具体的な対応方向を提示することに努めた。

1 被害の現状と要因

(1)

被害の概況

@

農作物被害
 各都道府県を通じた野生鳥獣による農作物被害報告結果に基づけば、平成15年度の被害面積は約13万haとなっており、獣類による被害は横ばいで推移しているが、鳥類による被害は減少していることから、全体としては減少傾向で推移している。
 また、平成15年度の被害金額は約200億円となっており、農業総産出額の0.2%を占めている。被害金額の推移については、近年横ばい傾向にあり、うち獣類が約120億円と約6割を占め、鳥類が約80億円と約4割を占めている。
 被害金額を加害鳥獣の種類別に見ると、獣類ではイノシシ、シカ、サルの順で被害が大きく、鳥類ではカラス、スズメ、ヒヨドリの順で被害が大きくなっている。
 特に、イノシシ、シカ、サルによる被害が、獣類被害の約9割を、また、鳥獣害全体では5割強を占めており、農業者の営農意欲低下等を通じ耕作放棄地の増加等をもたらし、これが更なる鳥獣害を招くという悪循環にあり、被害額として数字に現れた以上の影響を地域に及ぼすなど、中山間地域を中心に全国的にその被害が深刻化している。
 なお、当該被害状況については、各市町村等が農業者等からの申告や聞き取り等により把握できた数値をまとめたものであり、必ずしも全ての被害が網羅されているとは限らないことに留意する必要がある。

A

森林被害
 各都道府県を通じた野生鳥獣による森林被害報告結果に基づけば、平成15年度の森林被害面積は約7,300haで、被害形態としては、シカ、カモシカによる幼齢木の食害、シカ、クマによる樹皮剥ぎ被害などが多くなっている。
 近年の被害面積は7,000〜9,000haで推移しており、主な加害獣種別では、シカ、カモシカ、クマの順で被害が大きく、うちシカによる被害が全体の約6割を占めている。

B

水産業被害
 日本野鳥の会の調査(2002年)に基づけば、近年、カワウの生息域が拡大し、生息数が増加しており、平成14年度には、ねぐらが41都道府県で160か所、そのうち、コロニー(カワウが繁殖する集団営巣地)が27都道府県で64か所確認されており、約6万羽が生息していると推定されている。これに伴い、放流アユをはじめとした川魚の食害等が拡大している。

(2)

主要獣種別の被害状況とその要因

@

獣種別被害の状況と最近の傾向
イノシシ
 平成15年度の農作物被害総額は約50億円(42都府県から被害報告)で、特に西日本において被害が大きく、作物別に見ると、水稲(全体の44%)、果樹(同21%)、野菜(同15%)の順で被害が大きい状況にある。
 また、森林や耕作放棄地周辺の農地で被害が大きい状況にあるが、生息数、分布域とも北上する方向で拡大傾向にあり、被害金額が少なくこれまで十分な対策が取られていない東日本で被害の拡大が懸念されている。
 一方で、これまでイノシシの生息が確認されていなかった瀬戸内海や九州沿岸等の島嶼部においても、近年被害が発生している。
シカ
 平成15年度の農作物被害総額は約40億円(37都道府県から被害報告)で、東北及び北陸の一部を除く多くの都道府県で被害が認められ、特に北海道におけるエゾシカによる被害はシカによる被害金額の約7割、被害面積の約9割を占めている。被害金額を作物別に見ると、飼料作物(全体の37%)、水稲(同16%)、野菜(同14%)の順で被害が大きくなっている。
 また、平成15年度の森林被害面積は約4,500ha(37都道府県から被害報告)で、北海道をはじめ、多くの都道府県で被害が認められており、鳥獣による森林被害全体の約6割を占めている。被害については、特に、森林に接した林縁部の農地や県境周辺の森林で集中して発生している。
サル
 平成15年度の農作物被害総額は約15億円(43都府県から被害報告)で、近畿、甲信越地方を中心に、北海道と一部の県を除いて全国的に被害が発生している。作物別に見ると、果樹(全体の42%)、野菜(同34%)、水稲(同9%)の順で被害が大きい状況にある。
 また、森林に接した林縁部の農地で被害が集中して発生する状況にあるが、近年では、北海道を除き全国的に、分布域、被害地域とも拡大する傾向にある。

A

獣種別被害拡大の要因
専門家によると、被害拡大の要因として以下の点が挙げられている。
共通要因
イノシシ、シカ、サルに共通した要因としては、

我が国においては、野生鳥獣を科学的な知見に基づき的確に管理するという思想の下での制度、仕組みが近年まで整備されていなかったこと

昭和30年代から40年代にかけて、大規模な森林から他用途への開発や天然林の人工林化などにより、生息環境が大きく変化したこと

農山村地域において過疎化や高齢化等に伴い、里山等における人間の活動が低下するとともに、餌場や隠れ家となる耕作放棄地が増加していることにより、里が野生鳥獣にとって身近で魅力ある場所になっていること

少雪化や暖冬傾向により生息適地が拡大するとともに、農作物など高栄養な餌の摂取も加わり、個体数の増加率が向上(繁殖率の向上、生殖年齢の低下や幼獣の死亡率の低下等)し、分布が拡大していること

狩猟者の減少や高齢化に伴い、地域によっては狩猟による捕獲圧(サルは除く)が低下していること 等。
獣種別要因

ア)

イノシシ
共通要因に加えて、イノシシについては、

産子数は平均4〜5頭で、シカ、サルに比して繁殖力が極めて高いこと

近年、一部地域では、イノブタの野生化が指摘されていること 等。

イ)

シカ
共通要因に加えて、シカについては、

昭和40年代までの大規模な森林開発による植生の変化が豊富な餌をもたらし、個体数が増加したこと等を背景として、昭和50年代以降全国的に生息分布が1.7倍に拡大したこと 等。

ウ)

サル
共通要因に加えて、サルについては、

昭和30年代以降、観光目的の餌付け等により人馴れが進んだこと 等。
なお、獣種別にみた各種被害防止対策とその効果については、別表の通りである。

2 被害防止対策の現状と課題
 野生鳥獣による被害防止対策は、野生鳥獣との共生を前提とした「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に基づく適正な保護と管理という枠組みの下で、捕獲による「個体数調整」と野生鳥獣を引き寄せない取組みや侵入防止柵の設置などの「防護」を組み合わせて対応することが基本である。こうした観点に立って、都道府県による特定鳥獣保護管理計画の策定と的確な実施等を通じて、効果的・効率的な防護対策と併せて、適正な個体数調整を総合的に推進することが重要となっている。
 また、被害防止対策の実効を上げるためには、各地域で地方公共団体や関係団体と地域住民が主体的かつ一体となって取り組むことが重要であり、国としては、このような地域における取組みを積極的に推進、支援する役割を担っている。

(1)

農林業従事者の取組み
 中山間地域を中心に、過疎化、高齢化の進展等により、里山林の利用の低下や耕作放棄地の増加が見られる中で、イノシシ、シカ、サルによる被害が深刻化しており、収穫目前の農作物や主伐を目前にした壮齢木等の被害によって、農林業従事者の経営意欲や被害防止対策への意識の低下等をもたらしている。
 被害発生の要因の一つとして、収穫残さや収穫しない果実等の放置、秋起こしの不徹底による遅れ穂の発生や雑草の繁茂など、日常のちょっとした営農管理上の不注意が結果的に野生鳥獣の餌場を作り誘引している場合や、耕作放棄地が野生鳥獣の餌場や隠れ家となっている場合が存在するが、これらに対する農業者の認識は必ずしも十分とは言えない状況にある。その背景として、被害防止のために取組むべき事項についての情報不足や、被害防止対策については行政や猟友会に任せればよいとの意識が一部に存在することが挙げられる。
 また、農林業従事者が自らあるいは市町村等の助成を受けて、トタン柵やネット柵、あるいは電気柵等の侵入防止柵を設置している取組みは多く見られるが、成果が上がっていないケースとして、個人を単位とした「点」的な対応にとどまっており集落等地域を挙げた組織的な対応が不十分な事例や、侵入防止柵の設置後の管理が不十分であるために、例えば、電気柵では雑草がからみついて通電していないなどによりその効果を発揮していない事例も見られる状況にある。
 こうした一方で、多くの農林業従事者は、有効な被害防止のための技術や補助事業等の支援措置に関する情報の提供を求めている状況にある。

(2)

市町村段階での取組み

@

関係者間の連携体制の整備
 野生鳥獣による被害防止対策を計画的、効率的に実施していくためには、市町村を中心に、都道府県関係機関、猟友会、JA、森林組合、農業共済組合、集落代表等の関係者が一体となって、講ずべき対策の内容を協議し、役割分担と連携を図りながら取り組んでいくことが重要となっている。平成17年5月に一定の被害が発生している市町村を対象に行ったアンケート調査(以下、「市町村アンケート」という。)によれば、市町村段階で、関係者間の連携や対策協議等を行うための体制を整備している市町村の割合は約7割となっており、今後、これら連携体制における取組みの質的な充実と併せて、体制が整備されていない残りの市町村においても連携体制の整備を急ぐことが求められる。

A

市町村の取組み内容
 現場において、持続的で実効ある被害防止対策を行っていくためには、農林業従事者等地域住民一人ひとりが被害の発生あるいは拡大の要因を理解することと併せて、被害防止に向けた取組みを自ら実践していくことが重要となっている。しかしながら、市町村アンケートによれば、市町村が実施している取組みとして、猟友会への委託等を通じた捕獲活動や侵入防止柵の設置等については、積極的に行われているものの、農林業従事者等地域住民に対する被害防止に向けた啓発活動や集落等を単位とした自衛体制の整備、あるいは被害防止のための技術等に関する研修会の開催などの取組みは少ない状況にあり、今後、こうした取組みの強化が期待される。
なお、一部の市町村では、住民からの緊急の有害鳥獣の駆除要請に対応するといった観点から、職員への狩猟免許の取得促進に関する取組みを実施している事例も見られる。

B

鳥獣害担当部署等の設置
 現場において被害防止対策を実践していくためには、各市町村において、適時・適切な対応を行うための窓口を設置したり、被害防止対策に係る一定の知識・技術を有する担当職員を育成、配置することが重要となっている。しかしながら、市町村アンケートにおいて、市町村段階での人材の育成やその配置について見ると、鳥獣害対策担当の部署を設置したり、担当の人材を配置している市町村の割合は、約12%にとどまっている状況にあり、今後、市町村における体制の強化が求められる。

C

被害状況等の把握
 各地域において、効果的・効率的な被害防止対策を講じるためには、例えば、集落単位やほ場ごとの被害発生時期や頻度、被害を及ぼしている個体(群)の行動範囲や移動経路等に関するできるだけ詳細な情報をリアルタイムで把握することが望まれているが、現時点においては、農林業従事者等からの申告や聞き取りにより被害の概況を把握する段階にとどまっている。

D

適正な個体数調整のための捕獲の取組み
 地域における個体数調整のための捕獲の取組みについて見ると、狩猟期間においては狩猟者登録を行った猟友会会員が狩猟活動を行い、その他の期間においては、有害鳥獣捕獲や特定鳥獣保護管理計画に基づく個体数調整として市町村等が猟友会に委託する形で実施している場合が多い。
 その一方で、捕獲活動の主体である猟友会は、近年、高齢化や会員数の減少が進行していることもあり、一部の地域では、有害鳥獣捕獲を継続的に行う観点から、農林業従事者等が自ら網・わな猟免許を取得し、猟友会とは別に捕獲組織を構成して活動を行う事例が見られるようになってきている。
 捕獲の実績について見ると、平成14年度には、全国で、狩猟によってイノシシ14万6千頭、シカ9万5千頭が、有害鳥獣捕獲及び個体数調整によってイノシシ7万7千頭、シカ5万3千頭、サル1万2千頭が捕獲されている。有害鳥獣捕獲等による捕獲獣のほとんどは、現地で埋設等によって処分されている状況にあるが、中国四国、九州や北海道などの一部の地域においては、地域資源として、捕獲したイノシシやシカの肉等を加工・販売する事例がわずかではあるが出てきている。

(3)

都道府県段階での取組み

@

適正な個体数調整の推進
 科学的・計画的な野生鳥獣の保護管理を推進するための制度として、平成11年に創設された特定鳥獣保護管理計画制度がある。特定鳥獣保護管理計画については、地域的に著しく増加している鳥獣種等について、都道府県が個体数管理の目標や被害防止対策の具体的な方法等を定めることとされており、平成17年6月末現在、39道府県で65計画が策定されている。
 しかし、各地域において被害が深刻化しているイノシシ、シカ、サルについての同計画の策定状況についてみると、シカについては28道府県で策定が進んでいるものの、イノシシについては9県、サルについては11県にとどまっており、また、策定地域についても、イノシシは西日本に、サルは東日本に偏りが見られ、被害の多い県であっても必ずしも計画が策定されていない状況となっている(獣種別に被害金額の多い上位10県のうち、イノシシでは4県、シカでは9道府県、サルでは4県で策定)
 保護管理計画の策定が進んでいない理由としては、平成17年5月に全ての都道府県を対象に行ったアンケート調査(以下、「都道府県アンケート」という。)によると、「予算の確保が困難」、「個体数密度の把握等調査手法が確立されていない」、「調査人員の確保ができない」等が挙げられている。また、同計画の運営上の課題としては、「市町村における捕獲等の体制が不十分」、「捕獲数等についての市町村間の調整が困難」、「捕獲個体の処分が困難」等が挙げられている。
 また、一方で、保護管理計画は各都道府県が策定主体であることから、同一個体群による被害が県境を越えて発生している場合において、関係する都府県が行う生息数の把握、個体数調整の目標数の設定や防護対策に関する方針の作成等に当たって、十分な連携や調整が図られていないために、効果的な被害防止につながっていないという課題も生じている。
 なお、カワウについては、広域的な保護管理指針の下で関係都府県が保護管理計画を策定すべく、関東ブロックにおいて広域協議会が発足し、中部・近畿ブロックにおいて準備を進めており、環境部局、水産部局及び河川部局の連携の下で検討が進められている。

A

関係者間の連携体制の整備
 都道府県は、特定鳥獣保護管理計画の策定とこれに基づく計画的な被害防止対策の推進や市町村段階の取組み等に対して積極的に支援を行う立場にあるが、これらを推進する上で、環境部局と農林業部局との連携、行政、普及組織及び試験場間の連携、あるいは市町村や関係団体との連絡調整を円滑に行うための体制を確保することが重要となっている。都道府県アンケートによると、関係者間の連携や対策協議等を行うための体制を整備している都道府県の割合は約8割となっており、今後、これら連携体制における取組みの質的な充実と併せて、連携体制が確保されていない都道府県においては、体制整備を急ぐことが求められる。

B

都道府県の取組み内容
 都道府県アンケートによれば、野生鳥獣の生息域や生息数の調査、普及啓発活動、研修会やシンポジウムの開催については多くの都道府県で取り組まれている。
 一方、都道府県による市町村や農業団体等への支援の内容としては、侵入防止柵等の整備や捕獲のための報奨金、猟友会への委託経費に対する助成が多くなっているが、啓発活動や農林業従事者等を対象とした研修会の開催等を事業メニューに取り入れている都道府県は少ない状況であり、今後、こうした面での市町村等の取組みに対する都道府県の支援強化が期待される。

C

鳥獣害担当部署等の設置
 各都道府県とも、環境部局、農林業部局それぞれにおいて、鳥獣害を担当する部署と担当職員を置いて対応を行っているが、各部局における体制や部局間の連携状況等については、各都道府県においてばらつきが見られる。
 一方で、一部には、野生鳥獣の保護・管理と被害防止対策を一体的かつ効果的に行う観点から、環境部局と農林業部局の職員を合わせて鳥獣対策の部署を新たに設置する県も出てきている。
 また、現場に対する被害防止対策に係る指導を円滑に行うためには、専門的な知識、技術を有する指導者の役割が期待されるが、都道府県アンケートによれば、こうした被害防止対策に係る担当の指導員を育成・配置している都道府県の割合は、約2割強にとどまっている。担当指導員を置いている都道府県の多くは、県職員を充てているが、一部の県では、さらに現場レベルの指導者を、市町村職員やJA等の団体職員、猟友会会員等に委託することにより配置している事例も見られる。
 こうした中で、普及指導センターの役割について見ると、普及指導センターが被害防止対策に対する取組みを実施しているとする都道府県の割合は約6割となっており、その取組み内容は、地域協議会への参画・助言、研修会や対策協議会の開催、被害防止施設の整備・管理の指導等、都道府県、普及指導センターごとに取組み状況に濃淡が生じている。
 また、鳥獣害を担当する普及指導員の配置については、約4割の都道府県が他業務との兼務という形態で配置しているとしており、残りの約6割の都道府県においては鳥獣害を担当する普及指導員が配置されていない状況にある。

D

試験研究に関する取組み
 野生鳥獣による被害は、地域の自然・社会条件のほか、土地利用、作物の栽培状況等によって異なることから、現場の指導者をサポートしつつ、地域の被害の実態に応じた的確な技術対策を確立するためには、各都道府県の試験場における試験研究の取組みが重要となっている。都道府県からの報告によれば、多くの都道府県で、各地域において被害の大きい鳥獣を対象として試験研究を行っている状況にあるが、環境、林業担当の試験場が中心となって取り組んでいる場合が多く、農業担当の試験場の研究体制については、一部の県を除いて、総体的に弱い状況となっている。
 また、カワウによる水産業被害については、一部の都県において水産担当の試験場において取組みがなされている状況にある。

(4)

関係団体における取組み
 農林水産業関係団体は、地方公共団体と連携しつつ、組合員等の被害防止の取組みを積極的に支援する等、地域における被害防止対策を主導的に推進していく役割を期待されている。

@

農業協同組合(JA)
 平成17年5月にJAを対象に行ったアンケート調査によれば、JAの多くが、捕獲奨励金や猟友会への委託経費、侵入防止柵の設置に対する補助等の取組みを実施しているが、組合員への啓発活動や研修会の開催等の取組みは弱い状況にある。
 また、鳥獣害対策担当の部署や職員を置いているJAの割合は1割弱にとどまっている。一方で、一部には、受験料等への助成により職員の狩猟免許取得を積極的に促進しているJAも見られる。

A

森林組合
 平成17年5月に森林組合を対象に行ったアンケート調査によれば、森林組合の多くが、侵入防止柵設置等への補助の取組みを実施しているが、JAに比べて、捕獲奨励金や猟友会への委託経費への補助等の取組みは少ない状況にある。
 また、大部分の森林組合は担当の部署や職員を設置しておらず、狩猟免許所有者がいる組合の割合も約1/4にとどまっている状況にある。

B

農業共済組合
 平成17年4月に農業共済組合を対象に行った調査によれば、鳥獣害に対する農業共済金の支払額が増加傾向にあり、被害防止対策として侵入防止柵等の設置や助成、捕獲奨励金や猟友会への活動助成等の取組みを実施している農業共済組合が増加している状況にある。
 特に、イノシシ被害の多い西日本では、農業共済組合連合会が被害対策協議会を組織し、広域的な意見交換等を実施している。
 また、農業共済組合連合会及び農業共済組合は、職員の狩猟免許取得促進に向けた取組みを推進しており、免許取得者が増加している。

C

漁業協同組合
 全国内水面漁業協同組合連合会が平成16年に行ったアンケートによれば、カワウの被害のある21都府県の組合においては、組合自らの活動として、組合員による漁場巡回や花火・爆音等を用いた追い払い、かかしや防鳥ネットの設置等を実施するとともに、猟友会への駆除の委託等も行っているが、各河川の状況に応じ、保護すべき魚種と時期の絞り込み等、集中して対策を行う必要がある。
 また、都道府県が実施しているカワウの生息状況調査等への協力も行っている。

(5)

国としての取組み

@

連絡協議体制の整備
 野生鳥獣の保護・管理と農林水産業被害の防止対策を適切に進める観点から、環境省と農林水産省を中心に、平成4年に「野生鳥獣の保護及び管理に関する関係省庁連絡会議」を設置している。農林水産省内においても、関係部局が連携して農林水産業被害の防止対策を推進するため、平成8年に省内連絡会議を設置している。
 また、地域ブロック段階でも、地方農政局と自然保護事務所が中心となって、都府県、研究機関等からなる連絡会議を順次設置してきている。今後、各段階における連絡体制の下で、活動内容の充実を図っていくことが求められている。

A

現場指導に当たる人材育成に向けた支援
 農林水産省においては、平成11年度から、農作物の被害防止のための技術や対策に関する知識レベルを向上させる観点から、都道府県・市町村の農業部局やJA・農業共済団体等の実務担当者を対象とした研修会を開催している。これに加え、平成16年度からは、現場における農作物被害防止のための技術指導を的確に行うことを可能となるよう、中核となる普及指導員を対象とした研修を実施している。
 また、地域ブロック段階においても、地方農政局が、各都道府県とも連携を取りつつ地域における農作物被害防止対策に係る指導者を幅広く育成する観点から、都道府県や市町村、JA、農業共済団体等の実務担当者のほか、猟友会会員等を対象とした研修会を開催している。
 なお、環境省においては、平成10年度から、鳥獣の保護・管理に係る技術者を養成する観点から、都道府県の実務担当者等を対象に現地研修を開催し、特定鳥獣保護管理計画を策定するために、鳥獣の生態に応じた効果的な保護・管理技術等に関する講習等を実施している。
 今後一層、一定レベルの専門知識と技術を有する現場指導者の育成に向け、研修内容の充実・高度化を進めていくことが課題となっている。

B

地域の被害防止体制の整備等に対する支援
 農林水産省では、地域における被害防止対策を支援する観点から、各種補助事業において被害防止の取組みに係る具体的な計画の策定、研修会の開催、被害防止体制の整備等のソフト面での支援と併せ、各種補助事業において電気柵やネット柵、追い払い機器の整備等のハード面の支援及びカワウについても漁業者による防護や捕獲等への支援を実施してきている。
 また、平成17年度からは、地域におけるより弾力的な鳥獣害防止対策が可能となるよう、農林水産省の既存の非公共事業を統合・大括り化し、交付金制度へ切り替えたところである。
 なお、環境省では、特定鳥獣保護管理計画の策定を推進するため、主要な鳥獣別の技術マニュアルを策定するとともに、同計画を策定するための技術、知識の習得を目的として、都道府県職員等に対し、研修を実施している。

C

研究開発の体制と取組み
 農林水産省においては、鳥獣害防止対策に関する試験研究を、農林水産研究の重点を効率的かつ効果的に推進するための施策のあり方を提示する「農林水産研究基本計画」(平成17年3月30日農林水産技術会議決定)の「農林水産研究の重点目標」において、「野生鳥獣等による被害発生予察と生息地の総合的管理による効果的な被害低減・防止技術の開発」として積極的に位置づけるとともに、(独)森林総合研究所では、全国6か所においてシカ、サルを中心に被害防止のための試験研究を行っており、(独)農業・生物系特定産業技術研究機構では、近畿中国四国農業研究センターにおいてイノシシについて、中央農業総合研究センターにおいてヒヨドリ等鳥類についての被害防止のための試験研究を行っている。
 研究の内容については、プロジェクト研究等において、イノシシ、シカ、サルを中心に行動特性等に基づく農地・森林管理技術を含む効果的な防護技術に係る研究開発を実施しており、これまでの成果として、GPS・GISによる鳥獣の行動域・被害分布把握手法や侵入防止効果の高い防護柵を開発している。この他に、放牧などの緩衝域を設定することの有効性についての研究も継続中である。カワウについても、食害防止技術やカワウに補食されにくいアユの放流手法等に係る研究開発を実施している。
 地域における被害防止対策を支援するために、より効果的・効率的な被害防止技術の開発等を進め、その成果を現場へ迅速に普及させていくことが求められている。
 なお、環境省においては、平成15年度から、特定鳥獣保護管理計画の円滑な実施に資する観点から、効果的なモニタリング手法の開発等を実施してきている。

3 今後の取組み強化の方向について
 野生鳥獣による被害防止対策を進めるに当たっては、野生鳥獣との共生を前提としつつ、「個体数調整」と「防護」を組み合わせた持続的な対策を実施していくことが重要である。
 こうした対策を実施するに当たっては、各地域において地域住民が主体となった取組みを充実させることが重要であり、都道府県、市町村や関係団体は役割分担と連携を図りながら、これらの取組みを的確に支援、推進することが必要である。
 その際、山村地域や半島地域等においては、振興計画に鳥獣による被害防止に向けた対策を盛り込み、これに基づいて被害防止対策を着実に実施していくことが求められる。
 また、被害防止対策を実効あるものとするためには個体数調整を的確に行っていくことが極めて重要であることから、都道府県は、特定鳥獣保護管理計画の適切な策定等を通じ、被害の軽減に向けた総合的な取組みを計画的に推進することが求められる。
 国の役割としては、特定鳥獣保護管理計画の策定や各種振興計画における被害防止対策に係る取組みの推進、関連制度の弾力的な運用と併せ、技術開発、情報提供をはじめ各地域の取組みを推進するための各種支援を行っていくことが求められる。
 さらに、被害防止対策を効果的・効率的に行っていくためには、野生鳥獣を保護・管理する立場の環境部局と農林水産業を振興する立場の農林水産部局が一体となって対応していくことが重要である。
 以上、各々の段階で役割分担を明確にし、関係者が連携を図りつつ、責任を果たしていくことが重要との基本的な認識の下、以下の点を中心に、野生鳥獣による農林業の被害防止対策の充実・強化に向けた取組みを進めていくことが必要である。
 なお、カワウについては、現在、一部の地域で、都府県の水産部局及び環境部局並びに、漁業者、環境団体が参画する広域協議会が発足しており、具体的な広域対策の議論が行われているので、以下においては、農林業の被害防止対策を中心に記述する。

(1)

各段階における連携体制等の充実
 被害防止対策の充実・強化に当たっては、国(中央)、ブロック、都道府県、市町村等の各段階において、関係機関・団体が一層連携を進めるとともに各段階を通じた連携を密にして被害状況の把握と被害防止対策の充実に努めていくことが重要である。
 その際、野生鳥獣による被害の問題は、一部地域や農林水産分野だけにとどまる問題ではなく国全体の課題として捉え取り組むべきものであることから、関係各府省間の連携体制を強化していくことが必要である。
 また、農林業被害に係る鳥獣害対策の担当部署が明確になっていない、あるいは担当職員が配置されていない、また、関係機関・団体による連携体制が整備されていない都道府県、市町村等においては、早急な体制整備が必要である。
 その際、農林業部局と環境部局の職員を合わせて鳥獣対策の部署を新たに設置している県の例も参考にしつつ、農林業部局と環境部局との連携を密にする連絡体制等を確立することも必要である。

(2)

特定鳥獣保護管理計画の的確な実施
 被害防止対策の実効性を上げるためには、各都道府県において、計画的な個体数調整と防護対策を可能とする特定鳥獣保護管理計画の策定を推進し、これに基づき的確に対策を実施することが極めて重要である。特に、イノシシ及びサルを中心に、今後の都道府県における計画策定等に資する観点から、地域個体群ごとの個体数密度等を的確に把握する手法の開発や高度化を図ることも期待されている。
 また、計画の策定と計画に基づくモニタリングの実施に当たっては、環境部局が中心となって対応するが、被害現場の実情に即した効果的・効率的な対策をとっていくためには農林業部局が積極的に参画し協力することも求められている。
 さらに、個体数調整の目標を着実に達成するため、都道府県は、各市町村毎の個体数調整目標の設定や進捗状況の把握に努めるとともに、市町村間の連携体制を構築することが必要である。
 なお、被害対象獣の個体群の生息域が複数の都道府県域にまたがる場合も生じていることから、こうした場合には関係都道府県が共同で保護管理計画を策定し、密接な連絡調整の下で対策を実施する等の取組みが必要である。

(3)

技術指導者の育成と活動の展開
 有害鳥獣の種類や被害の程度等に基づき、地域条件に応じた被害防止対策を的確に行っていくためには、都道府県や市町村担当者等の知識等の向上と併せ、被害地域の相談役ともなる専門的な知識・技術を有する技術指導者の育成等を進めていくことが必要である。
 技術指導者の育成に当たっては、農林業に係る被害防止対策についての専門知識や技術を有する人材の育成と併せて、野生鳥獣の生態・行動特性や保護管理についての専門知識や技術を有する人材やサル等の捕獲方法に係る指導者の育成が重要である。
 前者については、農作物等の被害を防止する観点から、農林業部局が中心となって育成を進めることが必要であり、現場における技術指導者としては、地域のコーディネーター的な役割も期待されており、都道府県において、普及指導員をはじめ、JA営農指導員、森林組合職員、農業共済団体職員等の積極的な活用を検討することが必要である。また、被害防止対策に関する技術指導者等の育成のために、国や都道府県において研修体制の整備や研修内容の充実を図るとともに、一定の知識、技術水準を確保するための基本的な研修カリキュラムの検討・作成を進めることも必要である。
 後者については、環境部局が中心となって育成を進めることが必要であり、環境省においては、野生鳥獣の生態・行動特性を効果的な管理技術の習得等を目的とした研修を実施してきている。
 また、現場での技術指導の実効性を上げるため、実際の指導に当たっては、農林業被害防止対策の技術指導者と野生鳥獣の生態・行動特性や保護管理に関する専門家とがチームを編成して対応することが望ましい。
 なお、国においては、こうした技術指導者に対する技術面での支援を行う観点から、研究者等専門家の登録を進め、地域からの要請に応じて紹介する取組みが期待される。

(4)

生態行動等に基づく総合的な被害防止対策の確立

@

試験研究体制の充実と成果の迅速な移転
 有害鳥獣の生態や行動特性に基づく効果的・効率的な被害防止対策技術を確立するためには、農林業分野と環境分野との連携や国の試験研究独立行政法人と都道府県の試験場との連携強化を含め、試験研究体制の充実が重要である。
 その際、近年、農学系で野生動物学等を専攻する学生数も増加していることから、試験研究機関は、インターンシップ制度や長期研修の受け入れ等を通じて大学との連携強化を進めることも必要である。
 また、実証普及を通じて、これまでの研究成果を現場へ迅速に移転する取組みやこれを支える低コストで実用的な対策という視点を重視した研究開発の推進が必要である。

A

総合的な被害防止技術体系の組立てと広域的な被害防止対策の推進
 被害防止対策の実効性を上げるためには、個別の対症療法的な対応ではなく、有害鳥獣の生態・行動特性や行動範囲に基づく個体数調整と土地利用・森林管理を含む防護に係る技術を総合的に組み合わせた被害防止技術体系を、最新の研究開発成果を活かしつつ、各地域の実情に合わせて構築することが必要である。
 また、野生鳥獣による被害の状況に応じ、県域をまたがる地区で、農林水産業分野と環境分野との連携を含め、関係機関が連携し広域的な被害防止対策に取り組むことも必要である。
 なお、被害防止対策を進めるに当たって、農地と森林が接した箇所については、鳥獣被害防止施設の一体的な整備手法、維持管理費を含めたトータルコスト低減等を検討することも必要である。
 野生鳥獣の被害防止対策を進めるに当たっては、侵入防止柵の設置等により農地や森林への侵入を防止するだけでなく、積極的な追い払い活動を行うことが有効である。その際には、単に追い払うだけでなく、野生鳥獣の生息動向及び農地や森林の管理の実情を十分に見極めつつ、地域における森林所有者等関係者のコンセンサスを得て、野生鳥獣の生息適地に誘導していくことが必要である。

B

被害発生状況等の適時把握
 効果的・効率的な被害防止対策を実施するためには、地域における被害の発生状況を正確かつ迅速に把握することが重要であるが、現時点では、地域全体としての被害概況や野生鳥獣の捕獲頭数は把握できるものの、集落単位やほ場ごとの被害の内容や野生鳥獣の出没・捕獲状況などを迅速に把握することは困難な状況にある。このため、GPS(全地球測位システム)やGIS(地理情報システム)等の新技術を活用し、被害を及ぼす個体(群)の行動範囲、移動経路や被害の発生状況等の関連情報を適時に把握するとともに、インターネット等を通じて幅広く提供することにより被害防止対策に有効に活用できるシステムをモデル的に構築することも必要である。

C

野生鳥獣の生息環境の整備
 森林の整備をするに当たっては、野生鳥獣の生息環境にも配慮し、人工林の保育・間伐等の施業を推進するとともに、複層林や針広混交林、広葉樹林の整備及び保全を推進することが必要である。

(5)

現場に対する各種情報提供のための情報センター機能の構築
 現場における取組みを支援するため、国や都道府県等は、最近の研究開発成果を含む効果的な被害防止技術や適切な営農管理手法、具体的な取組み事例、活用できる助成措置、受講できる研修会等の案内や研究・行政の窓口等鳥獣害対策に係る各種情報に関するデータベースを構築し、これらの情報を、インターネット等を活用し、分かりやすく適時に提供できるよう取り組むことが必要である。
 併せて、都道府県、市町村、農林業関係団体は、侵入防止柵の設置などハード面での取組みにとどまらず、農林業従事者をはじめとする地域住民等に対するパンフレットの作成・配布や研修会の開催等を通じて、普及啓発活動を積極的に展開することが必要である。

(6)

地域の農林業従事者等の自衛体制の整備

@

地域の農林業従事者等による取組みの促進
 被害防止対策の効果を上げるためには、農林業従事者等は、ほ場や集落を野生鳥獣の餌場としないよう、収穫残さを放置しない等の営農管理の徹底に取り組むとともに、侵入防止柵がその機能を発揮するための点検管理に日常的に取り組むことが必要である。
 特に、被害発生初期の対応が重要であり、人馴れや作物への依存を生じさせないような取組みを行うことが必要である。
 また、市町村等が、集落が一体となって取り組む体制の構築を進めることが必要であり、国や都道府県等も、農林業従事者等が地域ぐるみで取り組むべき事項をわかりやすく示したマニュアルを作成することが必要である。

A

捕獲等の担い手の育成
 被害を及ぼす野生鳥獣の個体数調整を的確に行うためには、適切な捕獲の実施が重要である。
 現在、捕獲活動の主体となっている猟友会については、構成員の減少や高齢化が進行していることから、市町村等は、今後の捕獲活動の担い手を確保していくため、猟友会との連携の下、農林業従事者等地域住民や関係団体による有害鳥獣の捕獲を目的とした自衛組織を新たに育成していくことが必要である。
 また、狩猟免許については、構造改革特区の特例措置として、網又はわなを選定しての狩猟免許の取得が容認されている。都道府県、市町村等は、構造改革特区の活用を図り、わな猟免許の取得を促進することも重要である。

B

地域間等の協力、連携体制の構築
 地域によっては、過疎化や高齢化等により、農林業従事者等による取組みや自衛のための組織編成が困難な地域も存在することから、地域間で協力・連携を行う仕組み等を検討することが必要である。また、都市と農村の交流の視点に立って、都市住民を含めたNPO等の積極的な協力を求めていくことも必要である。

(7)

捕獲鳥獣の地域資源としての有効活用の促進
 被害防止対策は、野生鳥獣との共生を前提にしつつ持続的に実施することが必要なことから、市町村やJA等農業関係団体は、イノシシ等捕獲した有害鳥獣を地域資源として捉えて、安全性の確保にも配慮しつつ、肉等の加工、販売等を通じて地域の活性化につなげていく取組みが必要である。
 その際、地産地消や地域特産物の販売を通した地域の活性化の観点から、消費者ニーズを踏まえた付加価値の高い加工商品の開発を進めるとともに、販売に当たっては、効果的なPRを行いつつ、インターネット販売等の多様なチャネルを活用することも必要である。こうした取組みを持続的に実施することが可能となるよう、実施に当たっては、捕獲活動と加工・販売を一体的かつ安定的に実施する体制を構築していくことも必要である。
 また、サルの追い上げ等へのNPO等の積極的な協力を求めるため、野生鳥獣の存在を、グリーンツーリズム等を推進する上での地域資源として積極的に位置づけるという視点も重要である。

(8)

農林業構造改革の推進
 各機関や農林業従事者等は、近年野生鳥獣の被害が拡大、深刻化している要因の一つとして、過疎化、高齢化等に伴う耕作放棄地の増加や里山の放置、集落コミュニティの崩壊等があり、各地域において、集落型経営体等担い手の育成、耕作放棄地の解消や適切な森林管理等農林業の構造改革を推進し、地域の農林業の維持・発展を図っていくことが、野生鳥獣による被害に係る基本的な問題解決を図る上で必要不可欠との認識を持つことが重要である。

(別表)獣種別(イノシシ、シカ、サル)の被害防止対策とその効果

  

イノシシ

シ  カ

サ  ル
個体数調整

・他の動物に比べ繁殖力が高いことから、個体数調整は極めて難しい。生息地管理や被害被止対策が一層重要。
・個体数密度を一定以下に押さえ込むためには、捕獲圧を継続的にかけ続けることが必要。
但し、イノシシ集団の個体数を抑制もしくは減少させるためには、全個体数の40〜50%以上の捕獲が必要。
・個体数を把握する有効な手法が確立されておらず、早急な研究や技術開発が必要。

・被害防止対策上、個体数調整は有効な手段であるが、集団の個体数を抑制もしくは減少させるためには、適切なモニタリングの下、適当数のメスを捕獲することが必要。
・個体数を把握する手法として、直接カウント法のほか糞粒法や糞塊法が有効であるが、糞粒法や糞塊法では、制度を上げるために糞の消失率に応じた補正が必要。

・捕獲により個体群の分裂を招く事例が報告されており、専門技術者による加害群や個体の特定、捕獲前の生息実態調査捕獲後のモニタリングが必要。
・個体数を把握する手法としては、専門技術者による直接カウントが最も有効。

物理的防御

・電気柵のほか、トタン、ワイヤーメッシュ、ネット等を用いた物理的な侵入防止柵が効果を発揮。
・電気柵では漏電防止対策を徹底する等侵入防止柵の維持管理には充分な注意が必要(シカ、サルについても同様)。
・最新の研究開発成果として、イノシシが乗り越えにくい返し付きワイヤーメッシュ柵を開発。

・農業、林業ともに、ワイヤーメッシュ、ネット等を用いた物理的な侵入防止柵が効果を発揮。但し、ネットではシカが絡んだり地際から潜り込むことに対策が必要。

電気柵が最も有効であり、その技術はほぼ確立しているが価格・維持コストを下げることが重要。
・しなる支柱とネットを利用した簡易防護柵(奈良県農業技術センターで開発された「猿落君(えんらくくん)」など)の活用も有効。
・最新の研究開発成果として、漏電対策など維持管理に手間がかからないサル用電気ネット柵を開発。

脅し・忌避剤
・一時的な効果は見られるものの、馴れが生じることら、継続的に使用せず、複数の被害防止手法を組み合わせる際に使用する等の工夫が必要(シカ、サルについても同様)。 ・林業では、シカ用忌避剤が実用化。但し、被害が通年発生している場合には、効果に限界。

    

農地・生息管理

・収穫残さの除去や耕作放棄地の整備、放任果樹の伐採などの野生獣を誘引する要素の除去は非常に有効で、即時的な効果が期待。
・長期的な対策として、放牧等による耕作放棄地の解消や忌避作物(ショウガ、トウガラシ、シソ等、獣種によって異なる。)の作付け等地域の土地利用形態の見直しなども有効。



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