2002年は国際山岳年

第2回地球サミットが開催

  
 本年は、「2002国際山岳年」として世界各国において山岳を守る運動が展開されている。山岳年のスローガンは、「We are all mountain people(私たち皆が山の人々)」となっている。1992年のリオ地球サミットで採択されたアジェンダ21第13章(いわゆる「山岳章」)『脆弱な生態系の管理:持続可能な山岳開発』には「山岳は水、エネルギー、さまざまな生物体系の重要な源であるが、山々は永劫ではない。地球温暖化にさらされて、もろくなっている山々を、山を愛する人間達の力で守ろう」との宣言が盛り込まれている。この山岳章を踏まえて98年秋の国連総会において地球サミット10周年にあたる2002年を記念して「2002国際山岳年」とすることが決定された。これに基づき、山々と山麓住民の文化を守る目的で各国で国内委員会が組織されてきた。
 我が国では、昨年11月、登山家の田部井淳子氏を委員長として日本委員会が発足した。日本委員会では、地理、森林、民俗学などの学術の世界と日本山岳協会、日本山岳会など登山界を代表する組織が知恵を出し合って山々の明日を考えよう、と行動を起こしたことの意義は大変大きい。
 また、本年2月には国際山岳年の活動の一環として東京において、山岳生態系の保全に関する国際連合大学国際シンポジウムが開催され、国際山岳年2002東京宣言が採択された。
 一方、1992年6月ブラジル・リオデジャネイロで開催されたリオ地球サミット「環境と開発に関する国際会議」は、地球環境問題と開発問題を取り上げた史上最大の国際会議であり、また京都議定書の前身である気候変動枠組み条約が締結された会合であったが、あれから10年経ち、国連は、今年8月26日から南アフリカ・ヨハネスブルグで再度、「地球サミット(WSSD、リオプラス10サミット)」を開催する。
 今回のサミットは、現時点までに百カ国以上の政府首脳を含む5000人の政府関係者と50000人の非政府関係者など約65000人が参加する国連史上最大のサミットになる見通しである。このサミットは、リオプラス10サミットを期限として京都議定書を発効させ、地球環境問題と開発問題の大きな達成として、この場で発効を祝いたいという意向で進められてきた。しかし、地球サミットはお祝いのためだけではなく、まだ果たされていないリオの公約を10年の区切りを期に見直し、新たな南北間の誓いを立てることにより、地球温暖化と他の地球環境問題と開発問題の対策を進めることの政治的意思を確認することが目的であることも強調されており、世界の山村・山岳の地球環境と開発を如何に進めるのか、山村の役割を如何に評価するのか、注目すべき事項が提起される。

  
国際山岳年2002東京宣言
  
 我々、2002年2月1日東京で開催された、山岳生態系の保全に関する国際連合大学国際シンポジウムの参加者は、

1.

西暦2002年を国際山岳年と定め、持続可能な山岳開発の必要性を世界に訴えた、国際連合総会決議A/RES/53/24に対し、感謝の意を表し、

2.

アジェンダ21の第13章に明記されているように、山岳は独特な自然や人的資源を内包した脆弱な生態系を構成しているということを認識し、

3.

鉱山資源開発、土壌浸食、観光開発などの人的圧力は山岳の環境、殊に山岳地域に固有で希少な野生動植物に悪影響を与え続け、また鉱山資源を枯渇させていることに留意し、

4.

さらに気候変動は、人間の消費や農業に必要な淡水資源の供給量及ぴ水質に影響し、山岳地元住民が往々にして不利な立場に立たされるような異なる利害関係者間の競争を激化させ、山岳住民を潜在的により脆弱たらしめるなど、高地及び低地の環境・社会に深刻な影響を与えうることを懸念し、

5.

山岳地域に居住する人々のうち約5億人(世界の山岳住民の8割)は貧困線以下のレベルで生活していることにも注目し、

6.

山岳の環境管理には、自然環境を保全する一方で、山岳住民の供給するサービスに対する補償を含む持続的な収入源を確保していくなど、全体的視野をもったアプローチが必要であることを認識し、

7.

山岳の自然・社会システムに関する科学的研究、(適切な)自然資源の管理、山岳環境のモニタリングは環境保全と開発の目的に即した持続可能な開発を進める上で必要不可欠であることを確認し、

8.

(その点で)山岳住民、殊に女性は重要な利害関係者であり、往々にして山岳環境の持続可能な開発を確実にし、山岳資源の利用と管理に従事する真の山岳管理者であることを意識し、

9.

また山岳住民は、グローバリゼーションに向かう世界の中で維持され且つ発展すべき重要な文化的多様性を守っているということも意識し、

10.

学者・研究者と、マスメディアから主に情報を得る一般市民の間では、山岳に関する知識や認識において大きな溝があることを認め、

11.

また山岳とその影響下にある地域には、よく一般に考えられているように貧しい人々だけが生活のために依存しているのではなく、実は世界の都市人口のかなり大きな割合が頼っており、後者の資源消費は山岳資源の利用と管理に多大な影響を及ぼしているということを意識し、

12.

そして殊に開発途上国の、人間の居住地と自然環境を含む山岳地域は、その特殊な地理的特異性のために、武力闘争など深刻かつ悪化の一途を辿っている物理的暴力、破壊を非常に被りやすいということを認識し、
 
 ここに以下のことを宣言する。

13.

山岳住民の置かれた現状をよりよく把握し、不足している情報、二一ズそして開発の制約要因を特定し、彼らがより持続可能な開発に向かってゆく手助けとなるように、国際連合大学は山岳住民との活動をこれからも継続していく。

14.

山岳の環境保全や持続的資源利用の分野の研究とモニタリングは、あらゆる努力をもって支援されるべきである。

15.

山岳住民の疎外を食い止めるために、山岳に住むあらゆるレベル・階層の人々及び伝統的に山岳資源に依存して生活してきた少数民族をターゲットとした能力育成や教育活動が強化されなければならない。

16.

文化的多様性は、山岳地域の社会的、経済的疲弊及び環境劣化に対抗する上で強力な武器となりうるものであり、維持され且つ発展させられるべきものである。

17.

(生物圏保護区の場合のように)山岳地域でも環境保全と持続可能な開発のための包括的・学際的な管理手法が適用されるべきである。

18.

マスメディアと連携し、また研究者と開発プロジェクト実施者との間で、より協調した活動を推進することにより、適切かつ正確な情報を一般市民に提供していくよう、より一層の努力がなされるべきである。

19.

高地・低地間の相互作用に関するさらなる研究及びモニタリングを通じて、山岳問題の都市的側面にも、より注意を向けるべきである。

20.

自立した形での持続可能な開発を推進するために、山岳地域の貧しい地元住民、殊に女性の社会的権限強化が支援されるべきである。

21.

学者・研究者及び政策決定者たちは、武力闘争やその結果生じる山岳生態系や人々の生活への被害の問題に、より真剣に取り組むべきである。

22.

そして、例えばホットスポットを特定し、持続可能な山岳開発の上での様々な問題や状況に応用できるような成功例を作る、或いは見出していくなど、山岳問題に対する新しいアプローチの可能性を探っていくべきである。
 
ゆえに、我々は、山岳研究者、山岳住民、政策・意思決定者、開発プロジェクト実施者そして一般市民の間の連携と協調した活動を目指して、国際連合大学(UNU)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連食糧農業機関(FAO)、国連環境計画(UNEP)、国連開発計画(UNDP)及びその他関連した国際機関、政府機関そして非政府機関に対し、山岳に関する研究、モニタリング、能力育成、山岳生態系の保全、そして文化的多様性の維持を推進していくことを、ここに勧告する。

  
【アジェンダ21、第13章序章】
 

1.

山岳は水、エネルギー、さまざまな生物体系の重要な源である。また山岳は鉱物、林産物、農産物などの重要資源の源でもあり、レクリエーションの場でもある。複雑で相互に関連している地球上の生態系を代表するものとして、山岳環境は地球の存続にとって不可欠なものである。しかし山岳生態系は急速に変化している。加速度的な土壌侵食や地滑り、急激な動植物生息地の減少及び遺伝子の喪失の危機にさらされている。人間社会の側においても、山岳住民の貧困や地方固有の知識・文化の喪失の問題が顕在化している。地球の大部分の山岳地方で環境劣化が起こっている。それゆえに、山岳資源の適切な管理と山岳住民の社会経済発展が早急に求められている。

2.

地球人口の約10%が山岳資源に依存している。水をこの山岳資源に含めるとさらに多くの人口が山岳資源に依存している。山岳は多様な生態系と絶滅の危機にさらされている種の宝庫でもある。

3.

本章には二つのプログラム分野が含まれており、全世界の山岳における脆弱な生態系に関する問題を検討している。
 A.山岳の生態系と持続可能な開発に関する知識の集積と強化
 B.総合的な河川流域開発及び代替的生計手段の機会の促進

    

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