都市と農山漁村の共生・対流推進要綱まとまる

    

 自由民主党「都市と農山漁村の共生・対流を進める調査会」(虎島会長)は、昨年10月以降6回の検討会を開き、また、その間、ワーキンググループにおいて11回の会合を行い、4月23日「都市と農山漁村の共生・対流推進要綱」を取りまとめた。今後、関係各省との連携の下に、都市と農山漁村の共生・対流を推進する施策を展開することとした。要綱は、次のとおりである。

 

1 理 念
 
 現下の我が国社会の諸情勢に鑑みると、安心して暮らせる充実した21世紀を築いていくためには、「美しい環境に囲まれ快適に過ごせる社会」、「地方の知恵が活力と豊かさを生み出す社会」、「国民の希望するニューライフスタイル」の実現を目指すべきである。

 一方、都市住民をはじめとする多くの国民の間には、健康志向・環境意識の高まりや、ゆとり・やすらぎを求めるなどの価値観の多様化が進んできており、その結果、多くの都市住民が農山漁村を訪れたいとの意向を持ち、さらにはIターン希望者も増加するなどの新たな兆しが出てきている。

 これらを考慮すると、国民の希望するニューライフスタイルを実現する重要な要素として農山漁村での生活や活動を位置付け、都市と農山漁村の共生・対流を進め、都市と農山漁村の双方向で行き交うライフスタイル(デュアルライフ)を実現することが、我が国の将来の方向としての重要な柱になると考える。

 とりわけ、都市の人々が、学童から高齢者に至るあらゆる世代において、農山漁村と様々な形で関わりを持つことにより、
  

1)

豊かな自然とふれあい、自然人としての健康とゆとりを取り戻す

2)

人とふれあい、歴史を知り、人間としての共感を味わう

3)

食料生産の過程と苦労を知り、理解を深める

4)

農山漁村の多面的な機能、恵みを知る

5)

海との関わりを思い、その機能と不可思議さを知る
 
など、優れた日本の自然や農山漁村の人々との交歓、交流を行う中で、闊達浩然の気風を醸成することが極めて肝要である。
 また、都市と農山漁村の共生・対流を進めれば、都市と農山漁村の間で、人・もの・情報の行き来が活発化し、必ずや新たな需要や経済活動の発生を促すこととなり、我が国経済の活性化にも大きく貢献するものと確信する。

 
2 課 題
  
 都市と農山漁村の共生・対流、農山漁村での生活や活動をべ一スとしたニューライフスタイルを大きな流れとしていくためには、以下のような課題がある。

(1)
都市側
 都市側においては、1400兆円にものぼる個人金融資産がニューライフスタイルに向けた様々な支出に思い切って向けられるという状況になっていないことや、休暇取得の問題、さらには、都会育ちでふるさとを持たない世代が増加し、そもそも子供時代から農山漁村との関わりを持てなくなっていること等が大きい。
 

(2)
都市と農山漁村のつながり
 都市と農山漁村をつなぐものとして、相互の情報受発信が円滑でないこと、人的なネットワークが不足していること等がある。
 

(3)
農山漁村側
 農山漁村側においては、暮らしやすさ、過ごしやすさ、安全・安心を提供するための魅力ある受け皿が未だ不十分であること等が上げられる。

 

3 施策の展開方向
 
 上記の課題を踏まえ、以下のような施策を、関係省庁十分な連携の下、効果的に展開すべきである。
  

(1)
平成14年度から進めるもの

1)

モデル地区の形成
 共生・対流のモデルとなる地区を設定し、地域の魅力づくり、都市部NPO・自治体との連携、自立的コミュニティづくり等の取組みに対し、関係省庁が連携して支援する。なお、モデル地区の設定については、市町村の自主性を尊重するとともに、関係省庁間で調整し、早期に設定する。

2)

情報のネットワーク化
 インターネット上における農山漁村に関連する各種情報サイトのリンク網を本年夏までに早急に整備する。

3)

老人週間の盛り上げ
 関係省庁等による「老人週間キャンペーン委員会(仮称)」を設置する等全省庁を挙げて盛り上げる。
  

(2)
平成15年度以降の施策に盛り込むもの(「共生・対流に向けた10の指針」)
 都市側へのインセンティブ、都市と農山漁村の橋渡し、農山漁村の魅力の向上という三つの視点に着目し、次に掲げる10の指針及びそれに沿った施策を展開する。

1)税制改革により、資産の流動化を図り、田園・海辺型住宅等の取得を促進する。

 具体的には、田園型住宅等の取得資金に係る贈与税の特例措置の拡大等を図る。

2)全学童を対象とした1週間程度の農山漁村体験学習の正式な教育プログラム化を推進する。

 具体的には、農山漁村長期体験学習の重要性の全国的共有、財政支援の抜本的強化、修学旅行への導入の拡大等を図る。

3)全ての市町村が都市部のNPO又は自治体と関係を持つこと(1市町村1都市部NPO・自治体)を促進する。

 具体的には、市町村とNPOによる協議会の設立、自治体間連携の促進、NPO等によるコミュニティビジネスに対する支援の強化等を図る。

4)農山漁村に関する各種情報の一元化とアクセスの改善を推進する。

 具体的には、都市部での農山漁村交流情報センター機能の確立等を図る。

5)新しいグリーン・ツーリズムモデルを提案・普及する。

 具体的には、青少年期、熟年世代等ライフステージに対応したグリーン・ツーリズムモデルの提案・普及を図る。

6)農山漁村の各種資源(農地、森林、海岸、田園環境、歴史・伝統・文化、人材等)を最大限に活用する。

 具体的には、癒し効果の実証・PR、学校林の提供・整備、園芸福祉活動の普及・拡大、健康と癒しの森の整備、タラソテラピー(海洋療法)の普及・拡大、クラインガルテンや棚田・谷津田、廃校等を活用した交流拠点整備、地域食文化の見直し、国立公園のグリーンスペシャリストの雇用・育成、不法投棄の防止等を進める。

7)地球温暖化防止のための国民参加による森林づくり活動を展開する。

 具体的には、都市住民等との連携による広葉樹林等の多様な森林整備と地域材活用によるまちづくりのモデル的・重点的整備等を推進する。

8)海辺、漁村の魅力を活かした都市住民の交流空間を創出する。

 具体的には、体験学習、健康増進等のための基盤整備、海浜保全活動、UJIターン促進活動等を推進する。

9)地域づくりを担う自立的なコミュニティを形成する。

 具体的には、「わがまちづくり支援事業」の充実等地方財政措置の拡充等を図る。

10)農山漁村地域の新たな土地利用の枠組みを構築する。

 具体的には、農山漁村の魅力の大きな要素である質の高い自然環境の維持、保全、再生に向けた土地利用の確立と自由度の高い参入を阻害している部分(制度、社会)の変革に向け、法律による諸規制から市町村主体の枠組みへの移行等を検討する。

  
4 国民運動の展開
  
 都市と農山漁村の共生・対流の実現は、個々人のライフスタイルに関わるものであることから、行政のみの対応では成就し得ない。やはり、国民運動的な大きなうねりが必要であり、かつ、それは民間の自主的な取組みから生まれてくるものでなければならない。
 このため、関連する民間企業、団体等が、都市と農山漁村の共生・対流について一つの同じ認識に立ち、同じ方向を向いて、キャンペーンの実施、体験型・滞在型旅行の提供等魅力ある商品開発などの取組みを展開することが重要であり、このようなことを促す必要がある。

  
5 むすび

 都市と農山漁村の共生・対流を進めることは、単なる地域対策ではない。教育対策、健康づくり対策、高齢者対策、景気対策、さらには国民一人ひとりの自己実現の機会を提供する対策でもあり、明日のより良い日本と国民の幸せにつながる総合的な対策である。
 それ故、政・官・民が一致協力して力強い取り組みを進め、早急に現実のものにしなければならない。
 また、当調査会は、このために必要な法制度の検討を含め、更なる取組みを行うものとする。

  

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