平成13年度森林・林業白書
  
〜〜〜〜 林 野 庁 〜〜〜〜

   

     
 政府は、4月23日平成13年度森林・林業白書を閣議了解し、国会に提出した。
 今回の白書は、昨年6月に抜本改正された森林・林業基本法に基づく第1回目の白書である。
   
 今回の白書のポイントは、次のとおり。

1)

なぜ「森林」が重要なのかを社会科学面、自然科学面から説きおこし、言及している。特に、地球温暖化防止が大きな課題となっている現在、温室効果ガスである大気中の二酸化炭素の吸収源としての森林の役割や、その整備の重要性、二酸化炭素の排出抑制に資する木材利用の推進について様々な角度から記述している。

2)

また、これまでの林業白書において分析のなかった比較文化論的分析を行い、我が国で育まれてきた「森林文化」、「木の文化」に視点を当てている。その上で、今後、持続可能な社会を構築していくために、「森林文化」、「木の文化」に内在する考え方を見つめ直し、社会全体で健全な森林を将来の世代に引き継いていくことが重要であると訴えている。

3)

さらに、物質循環のメカニズムの中で生み出される再生可能な資材等の地域資源を有効に利用するなど、持続可能な社会を創造する上で、将来、モデルとなりうる山村について新たに一章を設け、その活性化について記述している。(別記に記載)
 白書の概要は、次のとおりである。

   


【平成13年度森林・林業白書の概要】

I 森林と国民との新たな関係の創造に向けて
  
1 森林の歴史
・原始の地球の大気は、二酸化炭素が支配的。光合成を行い酸素を放出する生物の登場により、大気中の酸素濃度が上昇。
・4億年前、海から陸上に進出した植物は、進化しながら森林を形成。
・森林は、大気中の二酸化炭素の吸収、貯蔵に貢献し、今日の大気中の二酸化炭素濃度は、わずか0.03%に低下。また、森林に覆われることで陸地は湿潤な気候となり、人類をはじめ生物が棲みやすい環境に変化。森林は、人類にとって母なる存在。

2 文明社会と森林
・シュメール(メソポタミア)文明は、豊かな森林から流れ出たチグリス・ユーフラテス川沿いの肥沃な土地に発生。文明の発達に伴い、森林の再生能力を超える木材利用が繰り返され、文明も衰退。(人類最古の文字で綴られた叙事詩「ギルガメシュ」にも、レバノンスギの森林を征服し、伐採する様子が描写)
・ギリシア文明、黄河文明、ローマ帝国においても、文明は森林を消費しながら発展し、これを駆逐することによって衰退。現代文明も、森林を消費しながら繁栄。
(西欧人の意識:森林を切り拓き、耕すことがカルチャー(=文化))
・現在も世界の森林は、毎年、我が国の国土の3分の1に相当する面積が減少。

3 我が国における森林と人間とのかかわり
・国土の約7割という先進国の中でも高い森林率を維持しているのは、気候や地形といった自然条件に加え、先人たちが木材を有効に利用しながら、森林を守り、再生させる努力を重ねてきた結果(「森林文化」、「木の文化」の形成)。
 縄文時代:用途に応じて、樹種による、木材の性質の違いを知り、的確な使い分け。循環型の集落が形成され、1,500年もの間継続(山内丸山遺跡)。
 飛鳥時代:寺院、宮殿の建築で森林が荒廃し、676年に初の伐採禁止令を発出。
 中世近世:入会林では、森林利用を農民が自主的に制限する「山仕法」が誕生。
 明治以降:保安林制度、国有林の保護林制度の創設。国民的な緑化運動の展開。

4 森林と国民との新たな関係
・高度経済成長以降、森林は縁遠い存在となり、木材(国産材)に接する機会も減少。→ 森林を守り育ててきた林業は停滞し、その活動の場である山村は衰退。
・森林は光合成により有機物を生産し、物質の循環メカニズムを形成。また、地球温暖化を防止する観点から、二酸化炭素を吸収、貯蔵する機能に対する期待が増加。積極的な木材利用も、木材中の炭素を貯蔵し続けるという意味で有効。
・物質の循環メカニズムを活かし、持続可能な社会を構築するためには、我が国ではぐくまれてきた「森林文化」、「木の文化」を見つめ直し、森林を適切に整備、保全しながら、これを通じて供給される国産材を適切に利用することが重要。
・このような森林と共生していく社会を構築し、森林のもたらす恩恵を享受できるようにするため、社会全体で健全な森林を将来の世代に引き継いていくことが重要。

  

II 森林の多面的機能の持続的な発揮に向けた整備と保全
  
1 森林・林業をめぐる国際的な動向
・持続可能な森林経営の推進に向け、国連をはじめ様々な場で議論が展開。また、認証・ラベリングが国際的に進展。違法伐採問題についても、国際的な場で議論が展開。
・二酸化炭素吸収量は、現状程度の水準での森林整備の場合、3.9%を大きく下回るおそれ。
 このため、森林・林業基本計画に基づく森林整備等を計画的に強力に推進。

2 森林の多面的な機能と森林資源の現状
・日本学術会議が、森林の多面的機能の評価について答申。森林の機能のうち、貨幣評価が可能な一部の機能について、70兆円の評価額が示され、森林の重要性が認識。
・森林を重視すべき機能に応じて、「水土保全林」、「森林と人との共生林」、「資源の循環利用林」に区分し、森林施業を計画的に推進。

3 多面的機能の発揮に向けた森林の整備と保全
・緊急間伐5ヵ年対策により、平成12年度の民有林間伐面積は、従来水準の約1.5倍。
・完全学校週5日制の導入を踏まえ、森林・林業体験の受け入れに対する要請は更に増加。このため、森林・林業体験の機会と場を確保・提供する体制づくりを推進。

4 持続可能な森林経営の推進に向けた我が国の貢献
・我が国は、技術協力、資金協力等の二国間協力や国際機関を通じた協力、NGO等が行う海外植林への技術支援等を実施。
  

III 林業の健全な発展を目指して
  
1 林業経営をめぐる動き
・我が国の人工林資源は、造成を機軸とするものから、森林を健全な状態に保ちながら持続的に利用していく段階に移行。
・スギ立木の実質価格は、昭和48年をピークに一貫して下落(平成13年:7,047円/m3ピーク時の31%の水準)、林家林業所得は26万円まで減少(平成12年度)。
・過去40年間で、会社勤めを主業とする林家が小規模層を中心に増加(5%→43%)。
 このような動きが、林業従事世帯員数の減少と不在村林家の増加に拍車。
・林家の高齢化や不在村化の進展から、森林施業や経営を十分に実施できない林家が増加する傾向にあり、施業や経営の放棄された森林の増加が危倶。このため、林家に代わって施業や経営を効率的に実施できる意欲ある林家や林業事業体の役割を重視。
・なましいたけに関しては、平成13年4月から11月までセーフガード暫定措置を発動。今後は、同年12月の中国との合意に基づく農産物貿易協議会を通じた秩序ある貿易と国内生産流通体制の確立を推進。

2 林業労働をめぐる動き
・林業就業者は、減少、高齢化が進む中で、20代の増加数が拡大する動き。
・新規就業者の4人に1人は、UIターン者であり、ライフスタイルの多様化に伴い、都市からの参入を含めた広範なものへと変化。
・政府の総合雇用対策の一環として、森林整備を通じた雇用・就業機会の創出に向けた取組を実施。

  

IV 木材の供給と利用の確保

1 世界の木材貿易と日本
・中国は、近年の経済成長に伴う木材需要の増大から、平成10年には我が国の輸入額を上回って、世界第2位。今後、我が国の木材輸入にも影響を及ぼす可能性。
・輸入急増の欧州材は、国産材の40倍のエネルギーをかけて輸送。木材輸入は、利便性等経済的視点だけでなく、環境負荷や我が国の森林の活用という視点も必要。

2 人と環境に優しい木材利用の促進
・木材の利用は、環境負荷の小さい経済社会の構築と国内の森林を健全に維持していく上で重要。また、快適な生活環境を創造するためにも木材の利用が必要。
・鉄筋コンクリート造等非木造建築物の3階建て以下のものを木造化することによる炭素固定増加量と炭素排出低減量の合計は、我が国の年間炭素排出量の約2%に相当。
・製材工場残材、林地残対等の5割が未利用。これは、東京都と埼玉県の2都県の世帯(800万世帯)の暖房用エネルギー消費量に相当。未利用資源の有効利用や化石燃料代替の観点から、木質バイオマスエネルギー利用の新たな対応も重要。

3 需要者二一ズに対応した木材の供給
・国産材需要確保のため、コスト低減、品質・性能の明確な製品供給、ロット拡大等に迅速に対応するほか、顔の見える木材での家づくり等も重要。
・木材関連業者の団地的な取組で大手住宅メーカーの需要に対応する事例も出現。

  

V 森林と人との新たな関係を発信する山村
  
1 山村をめぐる現状と意識の変化
・昭和40年以降、全国の人口の3割増加に対し、山村人口は3割減少。集落機能を維持できない山村が増加。山村の魅力を見い出す都市住民を受け入れることも重要。

2 山村の活性化への取組
・木材をはじめ、木質バイオマスや風力、水力等の自然エネルギー等の山村の豊富な資源を活用した産業を育成するなど、地産地消が課題。また、UJIターン者の受け入れや子供たちの「生きる力」をはぐくむ場の提供を期待。
・自然共生型の生活様式を創り上げ、循環型の社会システムを創造していく上で、山村がモデルとなる可能性を有しており、山村の活性化を進めていくことが全体の利益。

  

VI 国有林野事業における改革の推進
  
1 新たな基本法の下での国有林野事業
・優れた自然環境を維持・保存するため、保護林間を連結してネットワークを形成し、野生生物の移動経路を確保する「緑の回廊」を設定。また、地球温暖化防止のため、森林土木工事における木材利用や国有林野内の自然エネルギー資源の利用を推進。
・伝統的木造建築物のある地域の国有林野において、修復資材を供給する森林を設定。

2 改革の推進
・事業実施の民間委託により平成12年度の委託割合は、8割から9割程度。
・財政の健全化に向け、新規借入金を70億円減少。

    

【別 記】

  
V 森林と人との新たな関係を発信する山村
  
(3)21世紀における新しい地域のあり方を示す場としての山村
 山村は、林業や木材産業をはじめ様々な産業活動やそこに住む人々の日常的な活動を通じ、林産物や農産物の安定的な供給に寄与するだけでなく、安全な国土の形成、きれいな水や空気の提供、美しい自然景観の保全等による潤いと安らぎのある空間の提供、さらには山村特有の伝統文化の維持にも貢献している。また、近年では、森林環境教育や山村生活等の様々な体験活動の場や芸術、文化活動等の創作活動の場としての山村に対する国民の期待が広がりをみせている。さらに、野生動植物の生息・生育の場の保全、森林のもつ二酸化炭素の吸収源・貯蔵庫としての機能の適切な発揮等山村に期待される役割は多様化・高度化している。
 こうした役割は、都市住民の安全で健康的な生活を支える上でも極めて重要であり、この点について都市住民等の理解を深めていく必要がある。その上で、今後の山村の活性化を考えた場合、従来のように山村住民の視点だけから考えるのではなく、山村に魅力を感じる山村以外の人たちと開放的な交流を通じて新たな価値観を見出し、これを反映した地域づくりを進めていくことが必要と考えられる。
 この場合、山村は都市を、都市は山村を守り支える互恵的な関係にあるという視点から、都市住民と山村住民が対等の立場に立って相互のきずなを深め、共生・対流することにより、双方の住民にとって有益となる新たな関係を構築することが必要となっている。今後、都市を含めた社会全体で、持続可能な社会システムを構築していくことが大きな課題となっている中で、山村は豊かな自然に恵まれており、自然との密接なかかわりから生産される農林産物をはじめ地域資源を有効に多段階に活用し、最後には土に返していくような大きな循環型の社会を形成していく素地をもっている。自然環境に必要以上に負荷を与えない自然共生型の生活様式をつくり上げ、物質循環のメカニズムの中で生み出される再生産可能な資材を有効に利用する社会システムを創造していく上で、山村の将来モデルとなりうる可能性をもっており、このような観点から、山村と都市が一体となって山村の活性化に取り組んでいくことが山村と都市双方の利益につながるものと考えられる。

 

   

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