林政審議会が「新たな林政の展開方向」
をとりまとめ谷農林水産大臣に報告

   

林野庁は、平成12年10月11日第96回林政審議会を開催し、「新たな林政の展開方向」をとりまとめ、同日、谷農林水産大臣に報告した。
 林野庁は、これまで林業基本法の見直しも視野に入れて政策の具体化に向けた検討を進めてきたが、林政審議会ではこれらの検討経過等を聴取するとともに、参考人からの意見聴取も行いつつ今後の林政の展開方向をまとめたものである。
 この中では、従来の施策から新たな施策への転換の必要性について、(1)従来の木材生産を主体としたものから、将来にわたり森林の多様な機能を持続的に発揮できる森林整備を目指すものに転換、(2)森林所有者を中心とした林業経営の考え方を改め、山林所有者か否かにかかわらず林業経営に意欲のある者が森林の管理・経営を担当する、(3)木材産業と林業が一体となって売れる国産材づくりに向けた取り組みを推進する、(4)森林の管理や林業の振興には、山村の活性化が不可欠であり、このためには農業政策や関係省庁の政策と連携した山村振興を推進するなどを通して大きく施策の転換を図ろうとしていることが注目される。報告書の概要は次の通りである。
   

林政審議会報告(新たな林政の展開方向)の概要

平成12年10月

1はじめに

 森林・林業・木材産業に関する新たな基本政策の構築に資するよう、林政の具体的な展開方向について検討し、とりまとめ。今後、早急に施策を具体化することを要望。特に、林業基本法については速やかにこれを見直すとともに、関係する政策全般を国民の視点に立って再構築すべき。

   

2情勢の変化を踏まえた新たな林政の確立

(1)これまでの林政の考え方
これまでの林政は、旺盛な木材需要を背景に、林業総生産を増大させることを目標として多岐にわたる施策を実施。森林の公益的機能は副次的に発揮
されるという認識。

(2)森林・林業・木材をめぐる情勢の変化
森林に対する国民の要請は、国土の保全、水資源のかん養等はもとより、保健・文化・教育的利用、地球温暖化の防止等にまで多様化・高度化。
・木材価格の低迷、林業生産コストの増大等により林業の採算性が悪化し、人工林を中心に管理が適正に行われない森林が増加するおそれ。
建築物での製材品に対する要求は、品質・性能が明確な資材に大きく変化。このような中で国産財のシェアーは低下の一途。
・林業就業者の約8割が居住する山村地域は、人口の減少、高齢化の進行等により、地域の活力が低下し、このままでは林業生産活動の継続が困難になるばかりでなく、森林の管理も十分に行われなくなるおそれ

(3)新たな林政への転換の必要性
・政策の主たる目的を木材生産を主体としたものから、将来にわたり森林の多様な機能を持続的に発揮できる森林整備を目指すものに転換
・森林所有者を中心とした従来の林業経営の考え方を改め、森林所有者かどうかにかかわらず林業経営意欲を有する者が森林所有者からの受託等により森林の管理や経営を担当。
木材産業を林業と一体となって国産材の利用推進に重要な役割を果たす産業であると位置付け、売れる国産財づくりに向けた取組を促進
・森林の管理や林業の振興には山村の活性化が不可欠であるという考え方に立って、農業政策や関係省庁の政策と連携しながら山村の振興を推進

(4)数値目標の設定
木材自給率の設定については、新たな林政の指針としては必ずしも適当とは言えないが、数値目標を設定することは重要。このため、森林の適正な管理の観点から、森林・林業の実態も踏まえつつ、「森林の多様な機能の持続的な発揮を図る」という新たな林政の考え方を表象する目標の設定を検討。

   

3新たな林政の具体的方向

(1)多様な機能の発揮のための森林の適切な管理の推進
・多様な機能の持続的発揮を図るとともに、森林資源の持続的利用を推進する観点から森林計画制度を見直し。最も重視すべき機能に応じて森林をゾーニングし、ゾーン毎に最もふさわしい森林の整備を推進。
・健全な森林の育成に不可欠な間伐等の施業を確実に実施するとともに、従来の皆伐一新植を主体とする画一的な施業を見直し、多様な施業を導入
経営意欲を失った森林所有者の施業・経営を安定的・効率的に施業・経営を行える者に集約化。この場合、市町村長によるあっせん等地方公共団体が関与する仕組みを設ける必要。
・身近な自然として生活環境の保全、森林とのふれあいの場を提供する里山林等の保全・整備・利用を推進

(2)森林を適正に管理するためのシステムの整備
森林所有者には森林を適切に管理する責務があることを明確にするとともに、保育・間伐等が必要な森林や伐採跡地の放置等により公益上の支障が生じるおそれがある場合に対応できるよう、勧告、是正措置等を充実強化
・国民的な理解と支援による森林整備を推進するため、ボランティア活動等を支援するとともに、環境税や地方自治体における法定升目的税に関する検討状況等も踏まえつつ、社会的コスト負担のあり方を検討。

(3)森林の管理と森林資源の持続的利用を担う林業・木材産業の振興
・継続的な林業生産活動を通じて地域全体での森林の適切な管理と森林資源の持続的利用の推進を図るため、林家、森林組合、素材生産業者等の中から、安定的・効率的に施業・経営を実施できる者を育成。また、林業税制の改善についても検討
 森林組合については、地域による森林管理を責任をもって行う主体として位置づけるなど、森林組合のあり方を検討
・多様な就業ルートを通じた幅広い人材の確保を図るとともに、今後の森林整備に必要な知識・技術を備えた人材を育成し定着させることが重要。
・育林、素材生産段階におけるコストを削減し、地域の森林の整備を効率的に行うため、林道、作業道等の整備、機械化を推進
・特用林産物については、良質で安全な商品の供給、需要の拡大、低コスト安定供給体制の整備及び新商品・新技術の開発を推進。
・木材産業については、乾燥材供給体制の早期整備、高次加工化を推進。また、加工コストの低減、新製品の開発・生産等に向けて経営革新を進めるとともに設備廃棄等を促進することを通じて、木材産業の再編整備を推進
住宅分野や公共部門等における地域材利用を強力に推進。また、木材のガス化、液化等によるバイオマスエネルギーとしての利用等木質資源の多角的利用のための技術開発と普及を推進
・外材と対抗しうる国産財生産地域を育成するため、林道等の整備の重点化と木材の加工・流通施設の整備・合理化をより一層一体的・重点的に行う仕組みを検討

(4)公的関与による森林の適正な管理
・公益的機能の確保の観点から森林の適正な管理が必要な場合に、保安林の機能確保のための治山事業による森林整備を実施するとともに、立地条件に応じた緑資源公団、林業公社による森林整備を実施

(5)国有林野事業の抜本的改革の推進
・国有林野を名実ともに「国民の森林」とする、という基本的な考え方に即して、引き続き抜本的改革を積極的に推進

(6)山村地域の活性化
・山村地域の活性化を図るため、就業機会の創設・確保、定住条件の整備、都市と山村の交流を促進
・森林の適切な管理を通じ森林の多様な機能の発揮を図る観点から、地域が行う森林の管理行為に対する施策など、森林管理のための地域による取組を推進するための措置の内容について検討

    

4新たな林政の効果的な実施のための行政手法

(1)政策の視点
・政策の主たる目的が木材生産から森林の多様な機能の発揮へと転換されることに伴い、政策手法も見直す必要
・財政措置について、効率的・重点的に運用
・国民の理解を得ながら施策の目的を達成するため、国民への広報、政策の透明性を確保するとともに、施策に国民の声を反映させる手続を組み込むべき
国と地方の役割分担を明確にする必要
・国際規律又は国際的なルールの形成に当たっては、国際規律等の動向を踏まえ、その整合性に留意しづつ、国内政策を立案

(2)関係者の取組
・全体的な政策の基本方向及び関係者が取り組むべき具体的課題を明らかにするほか、一定期間ごとに取組の進捗状況を検証。

(3)政策のプログラム化と定期的な見直し
・政策課題について、今後概ね3〜5年間の政策を具体化するためのプログラムを策定・公表。また、プログラムに基づき、個別の政策について、費用対効果等の評価を行いつつ着実に実施。
5年程度ごとに総点検と評価を行い、不断に検証評価


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