「山村振興上の諸問題に関する検討会
・公益機能第2分科会」を開催

    

 連盟は、さる7月27日に公益機能第2分科会を開催した。分科会には、担当主査である中井連盟副会長(岐阜県高根村長)、黒澤会長代行、横溝副会長及び岐阜県河合村松井靖典村長、及び国土庁山村豪雪地帯振興課・守田課長が出席した。
 また、講師として林野庁治山課・大西満信総括課長補佐が出席。
公益機能第2分科会は、中井主査の挨拶に続き、林野庁大西総括課長補佐からは、「治山行政に関わる諸施策の現況について」、また、中井主査並びに松井村長から「岐阜県下における平成11年9月の豪雨災害とその対策」について報告が行われ、その後、討論が行われた。

    

【中井主査挨拶要旨】
 振興山村の諸問題について分科会を設けて検討しており、この分科会では公益機能、特に森林、農地が担っている機能について、豪雨災害の実態等を見ながら検討したい。
 特に昨年、岐阜県北部、飛騨地域で集中豪雨等により大きな災害を被り、人命も奪われる等々ありましたので、私の希望で岐阜県河合村の松井村長にご出席をいただき、現地の災害の状況、村のそれに対応する財政上の問題等々につきお聞きいただければ、極めて意義深いのではなかろうか、このように考えております。大西総括課長補佐にもよろしくお願いします。

    

【林野庁大西総括課長補佐からの説明】
〔治山行政に関わる諸施策の現況について〕
1.治山事業は、治山治水緊急措置法により策定された治山事業七ヶ年計画に基づき、緊急かつ計画的に実施する。
その目的は、森林の維持造成を通じて国民の生命・財産の保全、水源のかん養・生活環境の保全・形成等を図ることにある。

(1)治山事業の定義
 治山事業は、治山治水緊急措置法に基づき、森林法第41条に規定する「保安施設事業」と地すべり等防止法第2条第4項に規定する「地すべり防止工事に関する事業」の2つからなり、国が施行するもの及び都道府県又は都道府県知事が施行し、かつ、これに要する費用の一部を国が負担し、又は補助するものを云う。

(2)治山事業の実施機構
 地すべり防止工事は、林野庁が行うもの、農林水産省構造改善局が行うもの及び建設省河川局砂防部が行うものに区分されている。

林野庁部分……………保安林又は森林に関わる部分
構造改善局部分………農地に関わる地すべり。
建設省部分……………上記以外の部分

〈林野庁が行う治山事業の実施機構〉
林野庁[ 直轄事業一一森林管理局(署)………………………国有林直轄治山事業
一一治山センター………民有林直轄治山事業
補助事業一一都道府県一一林業事務所等…………民有林補助治山事業

(3)民有林治山災害復旧事業は、山林施設災害復旧事業と山林施設災害関連事業の二事業からなっている。

ア 山林施設災害復旧事業

 台風、集中豪雨等により被災した林地荒廃防止施設及び地すべり防止施設を復旧又は復元する事業で、直轄と補助に分かれている。

イ 山林施設災害関連事業

 治山施設等災害関連事業補助、災害関連緊急治山等事業の2つがある。
・治山施設等災害関連事業補助は、施設が壊れ、残った施設では十分な効果がない場合に、壊れた施設の復旧とあわせて残った施設を直す事業である。
・災害関連緊急治山等事業は、治山と砂防、地すべり、急傾斜等で、山が崩壊した場合において、その下流に人家等があり危険な場合に緊急に行う事業である。
なお、この他、林地崩壊対策事業補助があるが、これは市町村が実施主体となって、上記の災害関連緊急治山等事業が採択基準の関係から実施出来ない小規模なものについて行う事業である。


2.保安林制度は、水源のかん養、災害の防備、生活環境の保全・形成などの公共目的を達成するため、これらの機能を発揮させる必要のある森林を保安林として指定する制度である。現在、全国の保安林の指定面積は、880万haで森林全体の35%を占めている。(森林面積2,500万ha)

(1)森林法の第25条第1項において1号~11号を規定し、さらにその中を保安林の指定の目的別に17種類に区分している。

(2)主な保安林の種類
○1号  水源かん養保安林……636万ha(68%)
○2号  土砂流出防備保安林……209万ha(22%)
○10号 保健保安林……62万ha(7%)

(3)保安林の指定・解除の権限
○1号〜3号の水源かん養保安林、土砂流出防備保安林及び土砂崩壊防備保安林(通称流域保全の保安林)のうち重要流域保安林(1級河川に絡む流域、2都道府県にまたがる流域)は………農林水産大臣
○重要流域以外は………都道府県知事
 4号〜11号までの保安林は、都道府県知事の自治事務となっており、都道府県知事の 権限
○8号以下の魚つき保安林、航行目標保安林、保健保安林及び風致保安林は、災害と関わりがないため治山事業の対象外である。
 なお、保安林はそれぞれ兼種指定を行い、同一の森林を2種類以上の保安林に指定することが可能で、保健保安林と土砂流出防備保安林の双方の指定がある場合は、土砂流出防備の目的で事業を実施できる。
○保安林は、権利の制限が森林所有者に及ぶために詳細に目的が定められている。

 最近、自然保護のための保安林指定という自然保護団体の主張があるが、この目的の保安林制度はない。また、指定の解除は、指定の理由が消滅したとき又は公益上の理由により必要が生じたときとなっているが、一旦保安林に指定するとなかなか解除しない。基本的には保全するために指定しているものであるから、よほどの理由がないと解除しないというのが林野庁の今のスタンスである。
 特に10号の保健保安林と11号の風致保安林については、環境庁長官との協議を要し、さらに中央森林審議会に諮問し解除と云うことであり、現実には、解除はきわめて少い。

○保安林指定による行為制限
・指定地業要件 ――――立木伐採制限(知事)
――――伐採跡地への植栽の義務
――――土地の形質変更等の規制(知事)
・監督処分
・罰  則

・伐採跡地への植採の義務(保安林に指定するときに、この山は切ったら植えなさい、植えなくとも自然に更新できるような山はそれはそれでいいと、森林所有者に指示する).
・土地の形質の変更の規制(保安林の中の地面に手を加える場合は、都道府県知事の許可が必要)

○保安林機能の強化

――――保安施設事業の実施
――――国による民有保安林の買い入れ等
――――施業を実施すべき保安林の特定及び森林所有者等への勧告
――――緑資源公団による水源林造成事業の実施

○優遇措置

  損失補償… 立木代金の補償として、基本的に30%の伐採まで認めているので、残り70%分の立木代金を補償
損失補償は、昨年までは保安林の指定・解除の権限が全て国にあったため、国が100%直接支払を実施。
12年度から、4号以下は機関委任事務から自治事務になったことから都道府県知事が損失補償を行って、国が2分の1を補助する仕組みとなった。
その他の措置…… 税制の特例(固定資産税の無税、相続税の減免措置)
保安林の中で造林事業を実施する場合の補助金の嵩上げの特例、農林漁業金融公庫の融資の特例という優遇措置が設けられている。

○保安林指定・解除の申請者

・直接の利害関係者(その森林があることによって利益を受ける人、開発されたら害を受ける人)
直接の利害関係者の認定は、具体的な事例で調べる、例えば東京都の居住者が群馬県の水を飲んでいるから群馬県の森林を水源かん養保安林に指定してくれ、これは直接の利害関係者にはならない。
・直接関係のある地方公共団体の長(市町村長、知事)

    

【中井主査(連盟副会長・岐阜県高根村長)からの報告】

○(中井主査)ありがとうございました。治山事業と保安林制度を中心としてお話をいただきました。この保安林制度と云うのは大変古く、明治時代からあるわけですね。
森林法が制定されたときから保安林という制度が出来たわけです。
 それでは次に昨年秋の台風16号等による災害について話を進めたいと思います。最初に私から報告します。平成11年秋に岐阜県を襲った台風16号等による災害は、県下に伊勢湾台風襲来時を上回る過去最大の被害をもたらしました。
 今回の災害の特徴は、山林の針葉樹等が間伐されずに放置され、保水力のない森林に短時間に100mmを越す記録的な豪雨が降った結果、大量の流木が土石流に乗って下流に押し寄せ、橋梁の上流でせき止められたことにより、河川が氾濫し、民家、道路、田畑等に甚大な被害をもたらしました。この災害を教訓として、岐阜県では流木災害監視地域を設定し林地崩壊の発生を低減させる森林地業を重点的に実施する体制整備に努めています。
なお、森林を護るための保安林制度については、現況でみてこの指定・運用が制度本来の趣旨に即して行われているのかどうか、よく検討することが必要なところがあるのではないか。国有林についてもその問題があり、保安林的なものが伐採されることがないようにしなければならないと思います。
 保安林制度はよいのだが、現場がうまくいっていないところが少なくない。
例えば飛騨地域には多いんです。これは昔は免税措置というのが大きな力を持っていまして、当時、農山村は経済基盤が弱いものですから、何でも保安林にすることが村会議員の政治力だという時代がありまして、必ずしも保安林の趣旨に合わないところも保安林になっています。
 これは一朝一夕に出来た問題では無いわけですから、簡単ではありませんが、一つの課題として、今後、保安林機能という面からの見直しといいますか、そういうような方向を打ち出していただくことが極めて大切ではないかと思います。
 一方、上流の国有林では、大規模な皆伐、甚だしいところでは国立公園の中まで皆伐しだということが過去の高度成長時代にありました。
 例えば、一例はダムの問題です。昭和46年にダムが完成したのですが、その後、ダムの汚濁の問題等々がありまして、漁業組合はじめとして訴訟問題が起きた。
 原因は乱伐、山に保水性がないからストレートに土砂が流れ、水が濁る。そこでいろいろな設備、施設を作ったのですが、20年以上経過した現在はほとんどそういう問題が起きていない。それは天然更新がなされた結果です。
 保安林制度そのものはいいんですけど、現場で機能していないところがある。
 すぐ答えを出すには難しい問題ですが、検討をしていくことが必要です。
それから、公的機関の造林した森林で、私の村では皆伐をして保水性を低下させた。植栽した場合でも元に戻るまでには20年はかかる。そこで私は混交林にすべきだと云っているわけです。

    

【岐阜県河合村・松井村長からの報告】

○(河合村長)平成12年9月14日から15日にかけて飛騨地域等を襲った集中豪雨により、河合村では河川の氾濫、山崩れ、家屋の全壊、農地の流出などが生じ、本村の予算の数年分に当たる200億円の被害を受けると云う大災害が発生しました。この災害で山の下部を重点に植えた杉が全部流され、V字型の渓流がU字型になった。森林の面からみると、針葉樹を植えるため伐採された広葉樹の根が腐りはじめ、他方、人口植栽木が育ってよく根を張るに至っていないときに生じた災害であります。災害時に治山・砂防の対応が早かったことには感謝しております。
 過去に一斉に伐って植えたところで手入れが不十分であったところが大きな被害を受けた。最上流部の国有林地域で土石流が生じ、流木がタテに流れ狭い下流域に集中し大きな被害を与えた。このような大規模な山地災害に対処するため、次のような事柄を行政の立場からも検討して頂きたいと考えております。
 I  今回のような大災害が発生した場合には、村の職員はライフライン及び住民の安全確保、緊急の仮復旧だけで対応が精一杯であり、補助をお願いする災害復旧への対応がどうしても後手にまわってしまうのが実態であります。異常な大災害が発生した場合には、各種復旧事業担当者による総合窓口の設置など窓口の一本化と専門スタッフによる助言チームの設置など支援体制の整備をお願いしたい。
 II  災害は原形復旧が原則であり、改良は通常の補助事業又は災害関連事業で対応することになっているが、異常な大災害で地形が従前と大きく異なってしまった場合には、原形復旧のみでは少量の雨で再度被災する可能性が高いので、災害関連を含めた柔軟な対応がなされるようお願いしたい。
 III  山間地域は、地形が急峻・複雑で土質等も変化に富み、雨の降り方も地域により大きく異なる。このため復旧工法も地域により向き不向きがあり一定の基準のみで判断することは不合理を生ずる可能性がある。このため災害復旧の工法等の選定に当たっては、地域の裁量できる範囲を拡大して頂くことをお願いしたい。
 IV 今回の災害で河川本川や砂防ダム建設地の流倒木の処理は終わっているが、支流上流部の流倒木は放置した状況にあり、今後の出水による再被害が懸念されている。これは放置流倒木への補助制度がないことが大きな要因であり、この種の財政措置・補助制度などの支援をお願いしたい。
 V 大規模災害の場合、年度内工期で完成することが困難なことが多く会計年度を越えての予算制度の弾力的運用をお願いしたい。また、雨量計等の設置密度を上げるなど観測体制の整備・強化をお願いしたい。

【討  論】

続いて討議を行ったが、主な発言内容は次の通りであった。
○平成11年8月14日には私のところでも集中豪雨があり、ものすごい土石流災害が発生しているが、それは森林の皆伐面積の広い流域の沢の土石流出で被害が出ている。保安林と云うことだけで固定的に指定するよりも「木を伐る」と云う行為を規制すべきであり、広い範囲で伐採することがないようにする必要がある。
○保安林制度をもう少しきめ細かく、流域単位、一筆単位に運用してもらいたいと思う。
○地域内に国有林の外、不在村地主の持つ広大な森林があり、これらの地域の森林管理についても適切な行政対応が出来るようにすべきではないか。
○林道ができたと云ってどんどん伐っていたら大変なことが起こる。択伐のような形でやってゆくのがよい。
○伐採後20年くらいの間に伐採木の根が腐る。この間に集中豪雨があると大きな被害が発生する。今回の災害で一番被害の少なかったのは20年、30年前に炭を焼いていた山、薪をつくっていた山であり、これは安全であった。
○間伐をしたら残存木は、伏期を10年間くらい延長して欲しい。
(文責:全国山村振興連盟事務局)


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