農政改革大綱骨子

                       平成10年12月  農林水産省


T 農政改革についての基本的考え
 食料は、国民の生活に欠くことのできない基礎的な物資である。また、農業・農村は、農業生産活動を通じて、食料の供給に加え、国土・環境の保全、水資源のかん養、緑や景観の提供、地域文化の継承等の公益的・多面的な機能を発揮している。こうした食料・農業・農村が果たす役割は、国民の安全で豊かな暮らしを守り、国家社会を安定させる基盤として、21世紀においてはより−層重要な意義を持つ。
 食料供給力の低下、農村の過疎化・高齢化の進行等農業・農村をめぐる事態が厳しさを増し、また、経済社会の国際化が一層進展していくという状況に適切に対処し、来るべき21世紀においても、我が国農業・農村の持続的な発展を通じて、国民の安全で豊かな暮らしを確保していくことができるようにすることは、緊急かつ重要な国民的課題である。



U国内農業生産を基本とした食料の安定供給の確保と食料安全保障


1 国内農業生産の維持・増大
  世界の食料需給について長期的にはひっ迫する可能性もあると見込まれる中で、国民の必要とする食料を安定的に供給するとともに、不測の事態における食料安全保障を確保するため、国内農業生産を食料供給の基本に位置付け、可能な限りその維持・拡大を図っていく。このため、農業構造の変革等による生産性の向上、地域の条件や特色を活かした適地通産の推進、国内農業と消費者・食品産業との結び付きの強化等を図る。また、関係者の努力喚起及び政策推進の指針として食料自給率の目標を策定し、その達成に向け、関係者一体となった取組みを行う。
(1)生産努力目標の策定とその達成を目指した生産の展開
 主要な農産物ごとに、担い手、品質・コスト等生産面における課題を明確化した上で、課題が解決した場合に到達可能な国内生産水準を生産努力目標として策定し、この達成を目指した生産活動を、地域の条件や特色を踏まえて展開する。
 また、品目ごとの生産努力目標を達成するために必要な農地の指標(作付面積等)を明らかにする。
(2)食生活の見直しに向けた運動の展開
 国民に対し、食料消費、食料供給の状況等に関する情報を積極的に提供するとともに、食べ残し・廃棄の削減、日本型食生活の普及等食生活の見直し・改善に向けた国民的な運動を展開する。
(3)食料自給率の目標の策定
 食料を安定的に供給するとともに不測の事態における食料安全保障を確保するとの基本的考え方に立ち、かつ、以上のような生産・消費両サイドからの食料自給率向上に向けた取組みを前提として、関係者の努力喚起及び政策推進の指針としての食料自給率の目標を策定する。
2.安定的な輸入の確保と適正な備蓄の実施
 円滑で安定的な食料輸入を確保するため、食料輸出国との良好な関係を維持するとともに、世界の食料需給動向等の的確な把握を行う。
 また、食料供給が不足する事態に備え、主要食料について適正・効率的な備蓄を行う。
3.不測の事態における危機管理体制の構築
不測の事態においても最低限の食料の安定供給が確保されるよう、不測の事態における迅速な情報の収集・分析、的確な生産転換、価格監視、流通確保等を可能とする危機 管理体制を構築する。
4.食料及び鹿実に関する国際協力
 世界の食料需給の安定に資するため、開発途上国等への専門家派遣、研修員の受入れ等の技術協力や資金協力を強化・充実するとともに、食糧支援の仕組みを適切に活用する。


U 消費者の視点を重視した食料政策の構築


1 食生活における安全性・品質の確保と食品の表示・規格の改善・強化
   消費者の食における安全と安心を確保するため、輸入食品を含め食品の安全性・品質確保対策を強化するとともに、食生活についての情報提供、食教育の推進等を行う。また、消費者の適切な商品選択に資するため、食品の表示・規格制度を改善・強化する。
(1)食生活における安全性・品質と健康等の確保
@製造段階でのHACCP手法の導入促進をはじめ、生産、流通、消費各段階における食品の安全性・品質確保対策を充実・強化する。
A生産者と消費者の交流促進、食教育の充実等食生活を見つめ直す幅広い活動を展開 する。
(2)食品の表示・規格制度の改善・強化
@消費者ニーズへの対応、国際規格との整合性の確保等の観点から、原産地表示の拡充等食品の表示・規格制度を改善・強化するため、JAS法を抜本的に見直す。
A遺伝子組換え食品の表示ルールを確立し、その適正な実施を図る。
2 食品産業の経営体質の強化と食品流通の効率化
  国民への食料の供給に重要な役割を果たす食品産業について、国内農業との連携強化や経営基盤の強化等を通じた体質強化を図る。また、卸売市場の機能・体制の改善・強化等により、食品流通の効率化・活性化を図る。
(1)食品産業の経営体質の強化
@食品産業と国内農業との連携強化により、加工・業務用への国内農産物の需要拡大を図る。
A食品産業の経営体質を強化するため、技術力の向上、金融・税制上の支援措置の継続的実施等を行う。
B環境問額に積極的に対応する。
(2)卸売市場制度の改善l強化等による食品流通の効率化
@卸売市場の機能・体制を改善・強化するため、卸売市場法を見直すとともに新たな卸売市場整備基本方針を策定する。
A食品流通業の効率化・活性化のため、生産から消費までの最適な集出荷・流通システムの構築と仕入れシステムの高度化等を推進する。


W 農地・水等の生産基盤の確保・整備


1 優良農地の確保等
 農業生産にとって最も基礎的な資源である農地を良好な状態で確保するとともに、国民的な視点に立ってその有効利用を図る。また、効率的・安定的な農業経営を育成するため、担い手への農地の利用集積を促進する。このため、農地関係諸制度・事業の見直しを行う
(1)優良農地の確保・有効利用と耕作放棄の解消
 @優良農地の確保に関する国の方針を明確化する。
A市町村における農地の有効利用計画の策定など、耕作放棄の解消に向けた取組みを強化する。
B計画的な土地利用を徹底するとともに、非農業的土地需要に適切に対応する。
(2)農地の流動化の推進
@市町村ごとに農地流動化目標を策定するなど、農地の利用集積に向けた市町村の主体的な取組みを推進する。
A農地移動の下限面積要件の弾力化等の関連制度の見直しにより農地流動化を推進する。
B多様な担い手による農作業の受委託を促進する  
2 農業生産基盤の整備
 食料の安定供給の確保、農業の生産性向上等を図るため、かんかい排水施設、大区画ほ場の整備等農地・水等の農業生産基盤の整備・確保を、土地改良長期計画に基つき、地域の立地条件に即し、環境の保全に配慮しつつ推進する。併せて、国土・環境保全等の公益的機能を有する土地改良施設につき、適切な整備・更新を図るとともに、公的管理の充実を検討する。
 また、農業構造の変化、ニーズの多様化、環境への配慮の要請の高まり等の社会経済情勢の変化を踏まえ、土地改良制度を総合的に見直す。


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