平成24年度森林・林業白書が6月7日の閣議を経て公表され、国会に提出された。 この白書の構成は次のとおりとなっている。 はじめに トピックス 第T章 森林・林業の再生と国有林 第U章 東日本大震災からの復旧・復興 第V章 地球温暖化対策と森林 第W章 森林の整備・保全 第X章 林業と山村 第VI章 林産物需給と木材産業 今回は、このうち、「第X章 林業と山村」の中の2.山村の活性化を紹介します。 2.山村の活性化 山村は、林業の主要な担い手が生産活動を継続的に行いつつ生活を営む場であるが、近年では、過疎化・高齢化の進行や生活環境基盤の整備の遅れ等の問題が生じている。 以下では、山村の現状と山村の活性化に向けた取組について記述する。 (1)山村の現状 (山村での生活条件は厳しい) 「山村振興法」に基づく「振興山村」は、平成24(2012)年4月現在、全国市町村数の約4割に当たる734市町村に指定されており、国土面積の約5割、森林面積の約6割を占めている。 振興山村は、まとまった平地が少ないなど、平野部に比べて地理的条件が厳しい山間部に多く分布しており、面積の約8割が森林に覆われている。産業別就業人口をみると、全国平均に比べて、農業や林業等の第一次産業に依存する割合が高い。 平成20(2008)年に国土交通省が行った「人口減少・高齢化の進んだ集落等を対象とした日常生活に関するアンケート調査」によると、山村の住民が生活する上で困っていることや不安なことについての質問に対しては、「近くに病院がない」、「救急医療機関が遠く、搬送に時間がかかる」、「近くで食料や日用品を買えない」など、医療を中心に、生活に必要な基礎的サービスの不足を挙げる者が多い。また、「学校が遠い」など、子どもの教育面での不安を感じている者もいる。さらに、20歳代の5割が「携帯電話の電波が届かない」、29歳までの世帯主の4割以上が「将来は別の地域に移りたい」と回答するなど、若い世代で山村の生活に満足していない者が多い。 (山村では過疎化・高齢化が進行) 山村では、農林漁業の衰退等により、高度経済成長期以降、若年層を中心に人口の流出が著しく、過疎化と高齢化が急速に進んでいる。この結果、振興山村の人口は、現在では全国の3%を占めるのみで、65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は、全国平均の1.5倍に当たる31%となっている。 このような過疎化・高齢化が更に進めば、山村における集落機能の低下、あるいは集落そのものの消滅につながりかねない。 平成23(2011)年に総務省が行った「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査」によると、過疎地域等の集落の中でも、山間地の集落では、世帯数が少ない、高齢者の割合が高い、機能低下・維持困難、消滅の可能性があるなどの問題に直面する集落の割合が、平地や中間地に比べて高くなっている。 また、同調査によると、調査を行った64,954集落のうち、集落人口に占める65歳以上の割合が50%以上となった集落が約1万あり、調査を行った集落の16%を占めている。このような集落では、資源管理・生活扶助等の各集落機能の維持が困難になっている。 (過疎地域では森林の放置が増加) 平成23(2011)年に総務省が行った「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査」によると、実際に消滅した集落における森林・林地の管理状況は、これらの集落の54%では元住民や他集落・行政機関が管理しているものの、残りの46%では放置されている。また、前回の調査と比べると、森林・林地の放置割合が上昇している。さらに、過疎地域等の集落では、働き口の減少を始め、耕作放棄地の増大、獣害・病虫害の発生、林業の担い手不足による森林の荒廃等の問題が発生しており、地域における資源管理や国土保全が困難になりつつある。 このように、山村では、過疎化・高齢化により、適正な整備・保全が行われない森林が増加しており、森林の有する多面的機能の発揮に影響を及ぼすことも危惧される状態にある。特に、集落周辺の里山林など、生活圏に隣接した森林においては、藪化の進行や竹の侵入等の荒廃が顕著になりつつある。 このような森林を適切に整備・保全するためには、山村において、里山林の保全活動や広葉樹の薪等のバイオマス利用、森林体験の実践活動など、森林資源を活用した新たな地域の取組を創出することにより、山村集落の活力を高めることが重要である。 (2)山村の活性化を目指して (山村には独自の魅力あり) 山村社会は、過疎化・高齢化等の課題を抱えているが、見方を変えれば、都市のような過密状態がなく、生活空間にゆとりがある場所ともいえる。 また、山村では、生活環境基盤が都市部ほど整備されていないが、都市部で忙しく働く現代人にとっては、自給自足生活や循環型社会の実践の場として、また、時間に追われずに生活できる「スローライフ」の場として魅力があるとも考えられる。 さらに、山村には、豊富な森林資源や水資源、 美しい景観のほか、食文化を始めとする伝統・文化、生活の知恵・技等、有形・無形の地域資源が数多く残されている。このような固有資源を有する山村は、都市住民が豊かな自然や伝統文化に触れる場として、また、心身を癒す場として活用することができる(事例ー1、2)。 事例ー1 「木の博物館」を活用した山村振興の取組」 岩手県宮古市の川井地域(旧川井村)は、総面積の94%を森林が占めている。 同地域には、北上高地の最高峰で高山植物の宝庫でもある早池峰山があり、かつて は薪炭業や林業で栄えたが、現在では、過疎化・少子高齢化が進んでいる。 同地域では、平成18(2006)年に「木の博物館」を開館した。同館は、これまで育まれ た文化や生活も含めた、同地域内の森林そのものを博物館としている。同館では、 地元の森林を「水源の森」や「ハイマツ大群落」など16 の「分館」に分けて展示を行っ ている。 同館への「入館」には事前の許可が必要で、見学者には案内人が同行することとな っている。これまで、同館には、約3,000 人が訪れた。 同館の開館により、地域の魅力が高まり、科学研究や学習などのために都市から同 地域を来訪する者が増えた。 資料:一般社団法人 日本森林技術協会ホームページ「山村に生きる力ナビ」 事例ー2 伝統工芸品を活用した全日本丸太早切選手権大会 新潟県長岡市は、江戸時代からの伝統工芸品である「脇野町鋸」の産地である。 同市では、平成3(1991)年から毎年、地元で作られた二人引き鋸を使って、「全日本 丸太早切選手権大会」を開催している。 競技は、一般の部、女性の部、小学生の部に分けて行われ、2 人1組で長さ1 〜 2m の二人引き鋸を使い、太さ20 〜30pのスギ丸太を切り落とす時間で競われる。 早く切り落とすためには、二人の息を合わせて、丸太に対して直角に鋸を入れること がコツという。 平成24(2012)年8月に開催された第21回大会には、178チームの356名が参加した。 一般の部の決勝は、最大直径80p程度の丸太の末口と元口を両方切り落としたタイ ムで競われた。通常は、最後まで切り落とすことさえ大変であるが、優勝チームは11 分弱で切り落とした。 優勝したチームには、地元の特産品である米・地酒・味噌・そうめんなど1年分が贈 られた。 資料:全日本丸太早切選手権大会実行委員会事務局ホームページ「全日本丸太早切選手権大会」 平成23(2011)年に内閣府が実施した「森林と生活に関する世論調査」によると、「緑豊かな農山村に一定期間滞在し休暇を過ごしてみたいと思う」と回答した者の割合は73%であり、都市部ほどその割合が高くなる傾向にある。また、「過ごしてみたい」と回答した者に対して、森林や農山村で行いたいことを尋ねたところ、「森林浴により気分転換する」、「森や湖、農山村の家並みなど魅力的な景観を楽しむ」、「野鳥観察や渓流釣りなど自然とのふれあい体験をする」等と回答した者の割合が高かった。 (都市との交流により山村を活性化) このような意識の高まりを背景として、近年、都市住民が休暇等を利用して山村に滞在し、農林漁業・木工体験、森林浴、山村地域の伝統文化の体験等を行う「山村と都市との交流」が各地で進められている(事例ー3)。 都市住民のニーズに応えて、都市と山村が交流を図ることは、都市住民にとっては、健康でゆとりある生活の実現や、山村や森林・林業に対する理解の深化に役立っている。また、山村住民にとっては、特用林産物や農産物の販売による収入機会の増大、宿泊施設や販売施設等への雇用による就業機会の増大につながるのみならず、自らが生活する地域を再認識する絶好の機会ともなり得る。 このため、各市町村では、地域住民と都市住民が連携して、森林環境教育やアウトドアスポーツ、地元の特産品を使った商品の開発・販売などを通じた体験・交流活動を進めている。 事例ー3 企業による山村支援の活動 小売業大手のS社(東京都千代田区)は、平成24(2012)年6月に、S社の記念財団と 長野県埴科郡坂城町まちの森林所有者との3者で5年間の協定を結び、植樹、下刈、 間伐等の森林整備活動を支援するプロジェクトを開始した。 森林整備の活動は、主に地元の森林組合に委託しているが、S社の社員もボラン ティアで参加している。活動地域の選定・コーディネートや森林整備の進行管理は、 平成23(2011)年4月に東京農業大学を中心として設立された「農山村支援センター」 が支援している。森林整備活動を通じて搬出された木材は、店舗の資材や事務備品 として活用するとともに、S社の店舗でペレットや割り箸等の商品として販売することも 検討している。 同社では、今後も同様の活動を増やして行く予定である。 資料:平成24(2012)年6 月27 日付け林政ニュース: 19. (地域の林業・木材産業の振興と新たな事業の創出) 山村が活力を維持していくためには、若者やUJIターン者の定住を可能とするような、多様で魅力ある就業の場を確保・創出することが重要である。 今後は、木質バイオマスによるエネルギー供給の事業化などにより、多様な就業機会を確保することも期待されている。 このため、林野庁では、地域の基幹産業である林業・木材産業を振興するとともに、きのこや山菜、木炭等の特用林産物の生産振興を図っている。 また、農林水産省では、農林漁業者と中小企業者が有機的に連携し、それぞれの経営資源を有効に活用して新商品開発や販路開拓等を行う「農商工等連携」の取組を推進している。 平成20(2008)年7月には、「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」が施行された。同法に基づき、農林漁業者と中小企業者が作成する「農商工等連携事業計画」については、林産物関係で33件が認定されている(平成24(2012)年10月時点)。 さらに、農林水産省は、地域の第1次産業と第2次・第3次産業(加工・販売等)に係る事業の融合等により、地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を行う「6次産業化」の取組を進めている。 平成23(2011)年3月には、農林漁業者等が地域資源を活用して新事業を創出すること等により、農林水産業の振興等を図るとともに、食料自給率の向上等に寄与することを目的とする「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」が施行された。 同法に基づき、農林漁業者等が作成する「総合化事業計画」については、林産物関係で53件が認定されている(平成25(2013)年2月末時点)(事例ー4)。 平成24(2012)年8月には、「株式会社農林漁業成長産業化支援機構法」が成立し、平成25(2013)年2月には、同法に基づき、官民共同出資の「農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)」が営業を開始した。今後、同機構では、地域ファンド等による6次産業化事業体への出資等を通じて、6次産業化の取組を強化・拡大することとしている。 事例ー4 間伐材を活用した農業用ハウスの開発と販売 木材加工会社を母体とするK社(岩手県大船渡市)は、間伐の促進と木質資源の有 効活用を図るため、ボルトを締めるだけで簡易に施工できる木造屋根の施工方法であ る「トラス型工法」の特許を取得した。 同社は、平成24(2012)年5月に、間伐材を活用した「トラス型工法」による農業用ハウ ス等の開発・販売を行う「総合化事業計画」を策定して、農林水産省からの認定を受け た。 同社では、今後、同計画に即し、販売拡大のため、岩手県内沿岸地区にモデル棟を設 置することとしている。 これまで、母体とする木材加工会社では、製材のみを生産していたが、今後は、トラス 型工法による農業用ハウスを始めとする付加価値の高い製品を開発して販売する方針 である。 |