平成11年7月に制定された食料・農業・農村基本法に基づき、食料・農業・農村に関し、政府が中長期的に取り組むべき方針として「食料・農業・農村基本計画」が定められていますが、情勢変化等を踏まえ、概ね5年ごとに変更することとされています。
 このため、平成21年1月27日から、食料・農業・ 農村政策審議会及びその下に設けられた企画部会において基本計画の見直しの検討が行われてきましたが、平成22年3月29日の食料・農業・農村政策審議会で新たな食料・農業・農村基本計画が答申され、平成22年3月30日に閣議決定されました。
 そのうち、「全体の構成(目次)」、「まえがき」及び「農村の振興に関する施策(第3の3)」を紹介します。

全体の構成(まえがき)

まえがき

第1 食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針
1.食料、農業及び農村をめぐる状況を踏まえた政策的な対応方向

(1)

再生産可能な経営を確保する政策への転換

(2)

多様な用途・需要に対応して生産拡大と付加価値を高める取組を後押しする政策  への転換

(3)

意欲ある多様な農業者を育成・確保する政策への転換

(4)

優良農地の確保と有効活用を実現し得る政策の確立

(5)

活力ある農山漁村の再生に向けた施策の総合化

(6)

安心を実感できる食生活の実現に向けた政策の確立
2.新たな潮流に対応した可能性の追求

(1)

世界経済における新興国の台頭

(2)

気候変動をはじめとする地球環境問題の進行

(3)

国境を越えた移動の拡大と様々な不安要因の発生

(4)

我が国経済の回復に向けた模索

(5)

人々の価値観・ライフスタイルの多様化
3.政策改革の視点

(1)

効果的・効率的で分かりやすい施策の展開

(2)

施策対象者が主体性と創意工夫を発揮する施策の展開

(3)

国民の理解と具体的行動を促す施策の展開
4.新たな理念に基づく食料・農業・農村政策の一体的展開

(1)

戸別所得補償制度の導入

(2)

「品質」、「安全・安心」といった消費者ニーズに適った生産体制への転換

(3)

6次産業化による活力ある農山漁村の再生

第2 食料自給率の目標
1.食料自給率目標の考え方
2.食料自給率向上に向けた取組

第3 食料、農業及び農村に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策
1.食料の安定供給の確保に関する施策

(1)

食の安全と消費者の信頼の確保
@ 食品の安全性の向上
A フードチェーンにおける取組の拡大
 ア 生産段階における取組
 イ 製造段階における取組
 ウ 輸入に関する取組
 エ 流通段階における取組
B 食品に対する消費者の信頼の確保

(2)

国産農産物を軸とした食と農の結び付きの強化
@ 国民との結び付きの強化
A 地産地消の推進

(3)

食品産業の持続的な発展と新たな展開
@ フードチェーンにおける連携した取組の推進
A 国内市場の活性化
B 海外展開による事業基盤の強化

(4)

総合的な食料安全保障の確立
@ 生産資材の確保等生産面における不安要因への対応
A 流通・消費面における不安要因への対応
B 国際的な食料の供給不安要因への対応
 ア 国際食料需給・価格動向分析
 イ 国際協力の推進
 ウ 海外農業投資の支援

(5)

輸入国としての食料安定供給の重要性を踏まえた国際交渉への対応
2.農業の持続的発展に関する施策

(1)

戸別所得補償制度の創設と生産・経営関係施策の再整理
@ 戸別所得補償のモデル対策と米の需給調整
 ア 水田におけるモデル対策の実施
 イ 米の需給調整の推進
A 戸別所得補償制度の本格実施
B 生産・経営関係施策の再整理

(2)

農業・農村の6次産業化等による所得の増大
@ 生産・加工・販売の一体化
A 産地の戦略的取組の推進
B 収益性の高い部門の育成・強化
C 農林水産物・食品の総合的な輸出促進
D 農業生産資材費の縮減

(3)

意欲ある多様な農業者による農業経営の推進
@ 意欲ある多様な農業者による農業経営の育成・確保
 ア 家族農業経営の育成・確保
 イ 集落営農の育成・確保
 ウ 法人経営の育成・確保
A 人材の育成・確保等
 ア 新たな人材の育成・確保
 イ 農村を支える女性への支援と高齢農業者の活動の促進
B 作業を受託する組織の育成・確保
C 意欲ある多様な農業者による農業経営の特性に応じた資金調達の円滑化

(4)

優良農地の確保と有効利用の促進
@ 計画的な土地利用の推進と転用規制の厳格化
A 意欲ある多様な農業者への農地集積の推進
B 耕作放棄地対策の推進
C 農地情報の利活用の推進

(5)

農業災害による損失の補てん

(6)

農作業安全対策の推進

(7)

農業生産力強化に向けた農業生産基盤整備の抜本見直し
@ 国民の食料を支える基本インフラの戦略的な保全管理
A 地域の裁量を活かした制度の推進
B 食料自給率の向上等に資する農業生産基盤整備の推進

(8)

持続可能な農業生産を支える取組の推進
3.農村の振興に関する施策

(1)

農業・農村の6次産業化
@ 「地域資源」を活用した「産業」の創造
A バイオマスを基軸とする新たな産業の振興
B 農村における再生可能エネルギーの生産・利用の推進

(2)

都市と農村の交流等
@ 新たな交流需要の創造
A 人材の確保・育成、都市と農村の協働
B 教育、医療・介護の場としての農山漁村の活用

(3)

都市及びその周辺の地域における農業の振興

(4)

集落機能の維持と地域資源・環境の保全
@ 農村コミュニティの維持・再生
A 中山間地域等直接支払制度
B 農地・水・環境保全向上対策
C 鳥獣被害対策の推進
D 快適で安全・安心な農村の暮らしの実現

(5)

農山漁村活性化ビジョンの策定
4.食料・農業・農村に横断的に関係する施策

(1)

技術・環境政策等の総合的な推進
@ 革新的な技術開発の推進
A 研究開発から普及・産業化までの一貫支援
B 地球環境問題への貢献
 ア 地球温暖化対策への貢献
 イ 循環型社会形成への貢献
 ウ 生物多様性保全への貢献
C 知的財産の保護・活用

(2)

「農」を支える多様な連携軸の構築
@ 食と農の結び付きに関する情報発信の強化と既存施策の重点化
A 関係者のマッチング等の充実と人材の確保
B 連携軸の取組に関する国民理解の促進と具体的行動の喚起
5.団体の再編整備等に関する施策

第4 食料、農業及び農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために
  必要な事項

(1)

官民一体となった施策の総合的な推進
@ 国、地方をはじめとする関係者の適切な役割分担
A 効果的・効率的な施策の推進体制の整備

(2)

国民視点に立った政策決定プロセスの実現
@ 国民の声の把握
A 科学的・客観的な分析
B 施策の進捗管理と政策評価の適切な活用

(3)

財政措置の効率的かつ重点的な運用

まえがき

 21世紀の農政の基本指針である食料・農業・農村基本法(以下「基本法」という。)が平成11年7月に制定されてから10年が経過した。この間、基本法が掲げた基本理念を具体化するため、食料・農業・農村基本計画(以下「基本計画」という。)が2度にわたり策定され、これに基づき、食料・農業・農村政策が推進されてきた。
 消費者や食品産業のニーズが多様化する中、基本計画に基づいた様々な取組によって、
新鮮な農産物や多彩で高品質な食品が手頃な価格で食卓に並ぶようになった。また、こうした消費者のニーズに応えようとする農業者、食品産業事業者の努力も徐々に広がりをみせる中で、先進的な経営を行い、他産業を上回る所得を得る農業者も現れている。また、四季に彩られた我が国の農産物や旬を重視する我が国の食文化を再評価する動きもある。

 他方、農業・農村は、総じて農業所得の大幅な減少、担い手不足の深刻化、非効率な農地利用、農山漁村の活力の低下といった厳しい状況に直面しており、これまでの農政がこのような流れを変えることができなかった事実は重く受け止めなければならない。
 過去40年余り続けてきた米の生産調整は、結果として農業者の間に不公平感を生み、麦や大豆等への生産転換も円滑に進まない状況をもたらしている。また、国内農業は消費者や食品産業のニーズに十分に対応できておらず、食料自給率は低迷したままとなっており、平成20年度の供給熱量ベースの食料自給率は41%にとどまっている。この間、多くの先進国では、農業を重要な産業と位置付け、その振興に努めてきた結果、食料自給率が向上した。平成15年の供給熱量ベースの食料自給率は、米国では128%、英国では70%となっている。

 途上国では、人口増加や経済発展に伴って、資源や食料の消費が増え続けている。ま
た、米国等を中心にバイオ燃料の増産が進むなど、農産物の用途も多様化しており、農産物の国際的な需要は今後更に高まることが予想される。地球全体では、環境問題が深刻化し、農地の減少が進む中、食料輸出国は輸出規制を導入し、途上国の貧しい人々を中心に飢餓や暴動が深刻化している。こうした状況にもかかわらず、世界最大の食料純輸入国である我が国は、「経済力さえあれば自由に食料が輸入できる」という考え方から脱し切れていない。
 四方を海に囲まれた島々から構成される狭い国土条件の下で、1億2千万人を超える国民を養う必要がある我が国においては、国民に対する国家の最も基本的な責務として、食料の安定供給を将来にわたって確保していかなければならない。

 我が国は、これまでの農政の反省に立ち、今こそ食料・農業・農村政策を日本の国家戦略の一つとして位置付け、大幅な政策の転換を図らなければならない。我が国の農業・農村には、こうした情勢の変化に対応し、大きな役割を果たすことができる十分な潜在力がある。国内の農地を最大限に活用し、そこで生産された安全で質の高い農産物や、それらを原料とした加工品等として大きな付加価値を付けて販売することができれば、食料自給率の向上だけでなく、世界的な食料事情の安定化と国際的な市場の拡大につながる。
 また、地域に豊富に存在する未利用資源を用いて、日本の農業や食品産業が培ってきた付加価値を高める生産技術や、バイオマスや環境等の先進技術を活用すれば、農村を新たな成長産業の育成の場として雇用と所得を生み出すとともに、環境面でも温室効果ガスの排出抑制等に積極的な役割を果たすことが可能となる。

 さらに、農業・農村の活性化は、良質な水・空気を生み、多様な生物を育む。また、水源のかん養、美しい景観・伝統文化の継承、国土保全への貢献は、人が人らしく生きることを助け、子どもが自然に親しみ、豊かな人間性を育む土壌になる。我が国経済社会が成熟化し、人々の価値観・ライフスタイルが多様化している中で、農村で農業が営まれることにより発揮される多面的機能の恩恵は、都市部に住む人々を含め、すべての国民が広く享受しており、こうした価値に思いを致す必要がある。
 他方、我が国は、国土の約7割が山林という急峻で狭い国土条件の下、外国と比べて農業の効率化に一定の限界がある。その制約の中で、安価な輸入農産物の国内市場への浸透や需要を上回る生産等により農産物価格が低迷し、農業所得の減少要因となっており、特に中山間地域等の条件不利地域は、厳しい状況にさらされている。こうした状況は、個々の農業者の努力のみでは克服し難いものであり、これらを現状のまま放置すれば、食料自給率の向上や多面的機能の発揮が脅かされ、国民全体が不利益を被るおそれがある。

 このような農業・農村が有する固有の価値は、お金で買うことのできないものであり、
農業・農村を国家の基盤として将来の世代に確実に継承していかなければならない。一
方、その実現には、国民一人一人が国産農産物に込められた農業・農村の価値を適正に評価し、健全な食生活を実践するなどの行動が欠かせない要素となる。また、こうした国民の理解と行動に支えられることにより、農業者、食品産業事業者は、質の高い食料を合理的な価格で供給する努力を続けることができ、そのことが地域社会を再生させていく力となる。
 今後の政策展開に当たっては、以上のような考え方を政策理念に位置付け、このような国民各層の主体的な継続性のある取組を後押しし、将来にわたって、消費者と国民が豊かな食と環境の恩恵を受け、また、農業者や食品産業事業者が誇りと希望を持って生産活動にいそしむことができる「国民全体で農業・農村を支える社会」の創造を目指すことが必要である。
 政府は、こうした視点に立って、既存の思考や手法の問題点を強い決意で改善していくこととする。そして、意欲ある者の創意工夫を引き出し、農業・農村の秘める力が最大限に発揮され、国民が将来に向けて明るい展望を描くことができるよう、戸別所得補償制度の導入、消費者が求める「品質」と「安全・安心」といったニーズに適った生産体制への転換、6次産業化による活力ある農山漁村の再生を基本に、各般の施策を一体的に推進する政策体系に農政を大転換させ、「食」と「地域」の早急な再生を図っていくものとする。

 食料・農業・農村に関する施策は、国民生活や我が国の経済社会のあり方と深く結び付いている。このため、政府は、本基本計画を、農業を通じて国民の命と健康を守り、さらには我が国の経済、環境、伝統文化等を含めた国民の生活を豊かなものとするための指針として位置付けた上で、各般の施策を関係府省の連携の下で総合的かつ計画的に推進していく必要がある。
 なお、本基本計画は、食料・農業・農村に関する各種施策の基本となるという性格を踏まえ、今後10年程度を見通して定めるものとするが、食料・農業・農村をめぐる情勢の変化及び施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね5年ごとに見直し、所要の変更を行うこととする。

3.農村の振興に関する施策

 我が国の農村は、意欲ある多様な農業者が営農にいそしむことで、地域経済の活力を支えつつ、地域の環境や伝統文化の保全に貢献する一方、都市部に対しては、食料を安定的に供給することはもちろん、青壮年の労働力の提供や経済不況時における雇用の受け皿としての役割も担うなど、多面的な機能を備えている。こうした多面的機能は、国民全体が享受するものであることから、農業・農村を支える取組は、都市を含む国民全体に安心をもたらすものと考えられる。このような認識の下、農村の有する機能を今後とも十分に発揮していくためには、国と地方の適切な役割分担の下、農業・農村の6次産業化により農村経済の活性化を進めつつ、これらの地域が抱える不利な農業生産条件を補正し、生活条件の整備を含めた集落機能の維持と生態系や景観を含む農村環境の保全等を支援していくことが必要であり、これらの施策を、現場で効果が実感されるものとなるよう再構築する。

(1)農業・農村の6次産業化
 農業者による生産・加工・販売の一体化や、農業と第2次・第3次産業の融合等に より、農山漁村に由来する農林水産物、バイオマスや農山漁村の風景、そこに住む人 の経験・知恵に至るあらゆる「資源」と、食品産業、観光産業、IT産業等の「産業」 とを結び付け、地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を促す農業・農村の6次産業 化を推進する。
 これらの取組により、新たな付加価値を地域内で創出し、雇用と所得を確保すると ともに、若者や子どもも農山漁村に定住できる地域社会を構築する。
@ 「地域資源」を活用した「産業」の創造
 農林水産業・農山漁村に由来する農林水産物、副産物等の地域資源を最大限活用するため、農林水産業を軸とした地場産業を活性化するとともに、技術革新や農商工連携等を通じ、様々な資源活用の可能性を追求する。その際、潜在的な需要を開拓して新たな素材や新商品を開発するとともに、他産業における革新的な活用方法の創出と新たなビジネスモデルの創造を推進する。特に、「緑と水の環境技術革命」として、素材・エネルギー・医薬品等の分野で先端技術を活用した新産業の創出を図ることとし、このための戦略を策定するとともに、これに基づいて各種施策を展開する。また、地域資源を活用した産業の創出に携わる人材を育成する取組を推進する。
 こうした取組を通じ、農林水産業・農山漁村に関連する資源を活用した産業を新たな成長産業とすることにより、6兆円規模の新産業を農山漁村地域に創出することを目指す。
A バイオマスを基軸とする新たな産業の振興
 農村地域に豊富に存在する稲わら、せん定枝等の未利用資源、食品残さ等の廃棄物といったバイオマスを活用して、エネルギーやプラスチック等の様々な製品を生産する地域拠点の整備を進め、そのためのビジネスモデルの構築を行うとともに、これらの取組に必要とされる技術の開発・実証等に取り組む。また、生産されたバイオマス 製品を石油代替資源として積極的に地域で利活用する取組を推進する。
B 農村における再生可能エネルギーの生産・利用の推進
 農村には、バイオマスの他にも、いまだ十分な活用が図られていない太陽光、水力、風力等の再生可能エネルギーが豊富に存在している。このため、これらの生産拡大と地域における利用の促進を図り、農業者の経営安定・発展につなげるなど、農村地域において新たな利益を生むシステムを育成する。このため、関係府省の連携を図りつつ、地域における再生可能エネルギー供給施設の整備やスマートグリッドの構築を促進するとともに、再生可能エネルギー電源の利用を促進するための一定の方法による全量固定価格買取制度の創設等、農村における再生可能エネルギーの生産・利用の拡大に向けた技術的・制度的な環境整備を推進する。

(2)都市と農村の交流等
@ 新たな交流需要の創造
 訪日外国人や、観光・行楽部門の消費が多い高齢者等、農村への旅行者として十分に開拓されていないターゲットに対して積極的にアプローチし、新たな交流需要を創出することが必要である。このため、「訪日外国人3000万人プログラム」との連携や、多様な主体の連携による都市と農村の共生・対流の推進に加え、体験コンテンツの開発など観光関係者と農村地域が連携して行う取組を促進する。
A 人材の確保・育成、都市と農村の協働
 農村が人材不足等の構造的な問題を抱える一方で、都市においては農村に関心を持つ者が多く存在することに着目し、都市と農村地域をつなぎ、都市部の人材等を  活用する取組を推進する。
 また、都市部のNPO、企業、大学等多様な主体との協働により、それらの者が持つ新たな視点、手法で農村の地域資源の発掘・活用を推進する。
B 教育、医療・介護の場としての農山漁村の活用
 農山漁村における安らぎ、癒しの機能や、農作業等の体験を通じた教育的効果、心身機能の回復・向上や健康の維持・増進等、農林水産業・農山漁村が有する教育、保健・休養等の多面的機能に注目し、都市と農山漁村、関係府省が連携して、農山漁村を教育、医療・介護の場として活用するための施策を推進する。その際、これらの機能の効果を調査・検証し、具体的な施策の実施につなげる。
 また、子どもを農山漁村に宿泊・滞在させるとともに、農林水産業等の体験を行わせ、当該地域の人々との交流を深めるなどの取組も重要である。こうした取組については、農山漁村への経済効果のほか、子どもの生きる力を育むなど、教育的な効果を得られていることを踏まえ、関係府省で連携し、受入体制の整備等を促進する。

(3)都市及びその周辺の地域における農業の振興
 新鮮で安全な農産物の都市住民への供給、身近な農業体験の場の提供、災害に備えたオープンスペースの確保、ヒートアイランド現象の緩和、心安らぐ緑地空間の提供といった都市農業の機能や効果が十分発揮できるよう、これらの機能・効果への都市 住民の理解を促進しつつ、都市農業を守り、持続可能な振興を図るための取組を推進する。このため、これまでの都市農地の保全や都市農業の振興に関連する制度の見直しを検討するとともに、市民農園や農産物直売所等の整備、都市住民のニーズを踏まえた市民農園・体験農園等における農業体験や交流活動の促進等、都市農業振興のための取組を推進する。

(4)集落機能の維持と地域資源・環境の保全
 農村では、人口減少や高齢化の進行等により、集落機能が低下し、農村コミュニティが失われつつある。特に、過疎化が著しい中山間地域等では、地域資源の保全管理上の問題が深刻化している。この現状を放置すれば、共同作業等を前提として成り立ってきた農業生産が維持できなくなるだけでなく、農業を支えてきた集落住民の生活に支障を来すとともに、農地や山林の荒廃による国土保全上の問題も深刻化する。さらには、食料の安定供給機能やその他の多面的機能の発揮にも悪影響を及ぼすことになる。
 このような状況にかんがみ、農村の集落機能の維持に加え、都市住民も恩恵を受けてきた多面的機能の維持、また、地域資源・環境の保全を進める観点から、以下の取組を推進する。
@ 農村コミュニティの維持・再生
 農村コミュニティの維持・再生を図るため、各地で地域主体の様々な取組が行われている。その中には、生活支援、地域資源の活用や環境保全の取組等もみられるところであり、農村の有する多面的機能を維持する上でも、これら地域主体の取組を拡大することが求められている。このため、国と地方の役割分担も踏まえた上で、こうした取組を政府と地域が一体となって拡大するための対応方策を検討する。
A 中山間地域等直接支払制度
 中山間地域等は、流域の上流部に位置すること等から、水源かん養、雨水の一時的な貯留、土砂崩壊防止等の国土保全上の多面的機能を発揮し、これによって、下流部の都市住民を含む多くの国民の生命・財産と豊かな暮らしが守られている。しかしながら、中山間地域等では、高齢化が進行する中で、平地に比べ自然的・経済的・社会的条件が不利であることから、農業者の減少、耕作放棄地の増加等により、災害の発生頻度が高まるなど、多面的機能が低下し、国民全体にとって大きな経済損失が生じることが懸念されている。
 こうした状況を踏まえ、農業生産条件の不利を補正するための中山間地域等直接  支払制度を引き続き実施することにより、耕作放棄地の発生防止と解消を図り多面的機能を確保する。その際、高齢化の進行を踏まえ、高齢者へのサポート体制や集落間の連携等安定的な受け皿を作ることにより、農業生産活動の維持を図っていく。なお、本直接支払制度については、戸別所得補償制度の検討と併せて、現行の予算措置を法律上の措置とすることを含め、今後の施策のあり方を検討する。
 また、意欲ある多様な農業者の育成・確保や生産性の向上等を推進するなどにより、中山間地域等における自律的かつ安定的な農業生産活動を促進する。
B 農地・水・環境保全向上対策
 農地・水・環境保全向上対策は、農地、農業用水等の資源や環境の適切な保全管理等を促進することを目的として、「地域ぐるみでの効果の高い共同活動」と「農業者ぐるみでの先進的な営農活動」に対する支援策として実施されているものである。平成22年度には、本対策についての中間評価を実施し、共同活動の強化や環境保全型農業の推進等を図る観点から、これまでの実績や現場の意見も踏まえ、効果と課題を明確化する。
 その上で、中山間地域等直接支払制度や、環境保全機能の維持・向上に関する直接的な助成手法(例えば「環境支払」)のあり方も含め、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全等の多面的機能の維持の観点から、今後の施策のあり方について検討する。
C 鳥獣被害対策の推進
 鳥獣被害については、中山間地域を中心に深刻化・広域化している状況にあり、これに対応した効果的な対策が求められている。従来の施策においては、「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」に基づき、市町村により被害防止計画が作成され、地域一体で取り組む体制づくりと計画に即した取組が推進されてきたところである。今後は、被害の深刻化・広域化に対応し、これまでの取組に加えて、広域的で横断的な連携強化についても対策を充実し、鳥獣被害の軽減を図る。
 また、捕獲した鳥獣については、食肉利用等の幅広い活用方策を検討して有効活用を促進するとともに、地域における対策の指導者や捕獲の担い手の育成・確保を図る。
D 快適で安全・安心な農村の暮らしの実現
 豪雨、地震、地すべり等自然災害が増大する状況等を踏まえ、快適で安全・安心な農村生活を実現するため、地域の創意工夫を活かしながら、集落基盤の計画的な整備や、ハード・ソフト施策一体となった災害に強い農村づくりを、関係府省が連携して推進する。また、水田生態系や里地里山の保全を重視した農村環境の保全の取組を推進する。

(5)農山漁村活性化ビジョンの策定
 農山漁村の6次産業化をはじめ、その再生・活性化に向けた地域の主体的な取組を促進し、その効果的な展開を期するため、関係府省の連携の下、「農山漁村活性化ビジョン」を新たに策定する。農山漁村活性化ビジョンでは、農山漁村の将来像・目標を明確化し、国と地方との役割分担による活性化施策の推進方向を提示する。また、この将来像を目指して、関係府省が連携して関連施策に取り組む仕組みを構築する。

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