《平成11年度戦略的経営組織化推進事業》
山村第三セクター研修会(東京大会)開催される
〈国土庁〉
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国土庁では、平成11年度の戦略的経営組織化推進事業の一環として山村第三セクター研修会(東京大会)を去る2月3日、4日の両日東京都千代田区霞ヶ関の通商産業省別館9階会議室において開催した。
研修会には、国土庁をはじめ第三セクターを指導したアドバイザー、自治体等の第三セクター担当者等関係者約40名が出席した。
研修会は、東日本国際大学経済学部の大川教授がコーディネーター役となり、平成11年度の戦略的経営組織化推進事業のアドバイザーとしてこの1年間各地の山村第三セクターを指導されてきた学識経験者等の先生方から、第三セクターについての理論や現場の課題等について順次プレゼンテーションが行われ、その都度、質疑、討論が行われた。
第1日目のテーマは、「地域振興と第三セクター」と題して、プレゼンテーションが行われた。
高崎経済大学の吉田教授は、観光、旅館業、農産加工業は一般的に競争が激しくリスクが大きいこと、森林・農用地の管理は経営的に成り立ちにくいことを念頭に置く必要があることを指摘した。特に第三セクターが赤字解消のための事業の多角化を進めた場合、かえって経営を悪化させ、結果的に地域の活性化に役立たなくなるケースが多い。通年雇用を確保するため、多角化を進める場合もあるが、労働の質が全く異なるものを組み合わせた場合、労務管理ができなくなる。従来型の山村活性化は、都市と同じように施設整備に重点がおかれてきたが、今後は既存の施設、人材を活用し、ソフト的なところを重点課題とすべきだ。
岩手大学の岡田教授は、森林・林業と三セクの関係について、経営の視点からはどうしても厳しい評価になるため、今後山村の三セクに対して地域振興や循環型社会創造などの新たな、そしてより長期的な視点からの評価が必要であることを指摘。
森林・林業は、公共財、準公共財であり三セクによる管理が適している。純民間ではなかなか成り立たない。国民の森林の重要性に対する理解は育ちつつあり、徐々にではあるが優秀な人材が三セクに集まっている。新たな交流・連携が生じ、種々のヒント、ノウハウ情報が蓄積されつつある。三セクがもたらした様々な面への影響が未来型社会への変革の基盤となり、地域が徐々に変わっていくことが望まれる。
地域計画研究所代表取締役の井原氏は、農山村地域の三セクは極めて公共性の強い機能を持ち、地域の活性化に寄与する組織として(1)非営利民間組織(2)第2の行政(3)国民的財産を保全し維持すると言う3つの役割を持つべきであり、住民、行政、民間3者のコーディネーターとしての役割を果たしていかなければならないという三セクによる地域づくりへの貢献について述べた。その中で、三セクは、常に地域における住民、行政、民間の3者に対してニュートラルな地位にあって、いずれの者にも偏らないことが望ましい。財政的には行政に頼るところが大きいが、それにより行政の力が大きくなることは、極力排除する仕組みを考えるべきである。また、三セクの収益は、公共公益的に還元していくべきである。
熊本大学の徳野教授は、今後の農山村の展望について、これまでの時代背景と照らし合わせながら説明された。20世紀においては、人口の増加=地域発展という考え方が支配的であったが、今後は農山村のみならず全国で人口が減少していく現実を見据えるべきである。人口減少=社会衰退という短絡的発想を転換させ、小人口でも地域がいきいきできるような新しい農山村デザインを構築していくことが重要であると述べた。例えば、土着→移動→定住の生活構造変化、集落内生活VS集落外生活(土着型生活様式VS流動型生活様式)、等々。
第2日目のテーマは、「山村第三セクターの経営問題」と題して、福島大学の守友教授は、まちづくり、むらづくりの新しい考え方を、三セク論の中にどう組み込むべきか。地方都市でありながら伝統的産業とハイテク産業まで調和した発展を見ている金沢市、松山市の地域内発型産業の発展経緯を分析し、三セクの役割や今後の可能性を論じた。その中では、内発的発展力のある地域は、外来型の大規模工業開発を行ってきた地域より一人あたりの再処分所得が高く、独自の伝統産業と伝統的な街並みが残り、アメニティが保存された都市美を誇っている。また、この地域の内発的発展力は、ハイテク技術の積極的な導入、地域固有のネットワークの形成にもつながっている。このような内発的発展力に対し、山村三セクが貢献するためには、まず、立ち上げ時の計画の妥当性、経営方針、経営計画、経営組織、経営分析の検討などをしっかり行うことの重要性を指摘した。
福田農場ワイナリー代表取締役の福田氏は、熊本県水俣市においてワイン製造・販売をはじめ地域特産品の加工販売を行い成功をおさめており、その秘訣を実体験に基づき話された。経営のあり方はまず小さなことに集中することが大切で、うまく経営が回れば徐々にその輪を拡大していけばよい。良い企画には人がついてくるものであり、足元にある利をしっかり見極めることが大切であることを指摘した。また、海・川・山の関係を一本の木に例えると幹・根・土であり、自然をこよなく愛し、これを守ることを自らの信念として経営を行い、町おこしに携わることが大切であると述べた。
横浜新都市交通株式会社常務取締役の宮木氏は、大都市における三セクの経営管理の責任者の立場から、自治体の在り方、三セクの経営の在り方について論じられた。
それぞれの立場をマイホームの建設に見立て、三セクでは、市町村は施主、三セクは施工者である。施主は、(1)マイナスの投資(補助を含む)はしない、良い計画を立てる(2)計画の実行は外部からの圧力に惑わされず、施工者にまかせることが重要。
一方、施工者は、如何に低コストで良質な資材を持って施工するか自覚し進める。即ち、三セクは、基本的に公共性の高い事業を行い、利潤を追求するだけが目的ではないが、自治体からの補助、支援の範囲(三セクの受益者が認められる範囲)をしっかりと捉え、かつコンセンサスを得て常に健全な経営に努めなければならない。
東日本国際大学の大川教授は、コーディネーター役を努めた立場から、全体のまとめも含めて山村第三セクターと行政との在り方を中心に次のとおり整理された。
1.地域経営計画の策定
山村第三セクターの位置づけ、目的の明確化、双方の役割分担の明確化と合意、第三セクター方式に対する合意形成
2.議会との関係
商法上の議決権(株主権の行使)、地方自治法上の監督権等(監督権の行使)、特別の監査組織の必要性
3.自治体との関係
役場内関連部署の統括連携、自治体と三セクとの実務的連携組織の必要性
4.公有財産と公物管理
普通財産の三セクヘの貸付、交換、譲渡、出資目的化、管理受託者としての三セク(条例が必要)、管理委託の一部を三セクヘ業務委託(私法上の契約)
5.経営との関係
(1)財務コントロールとして官庁会計からの脱皮、経営効率の常時把握、実効ある監査体制の整備等
(2)人事・管理としてインセンティヴがある給与体系(役場とは仕事が違う)、民間的勤務 時間体制の導入
(3)管理組織として効率的な組織の必要性(行政組織をモデルにしない)、組織・配置人 員の極小化(1人で2,3役の仕事を受け持つのは当り前)
(4)財政補助として財政負担の明確化と合意形成、委託料の適正化、適正な使用料の設定(維持管理費と減価償却費)
(5)人材として経営陣は民間人又は民間経営センスのある人材を登用、首長以外の経営陣(モラルハザードの回避)
【アドバイザー】
井原満明 株式会社地域計画研究所代表取締役
大川信行 東日本国際大学経済学部教授
岡田秀二 岩手大学農学部教授
徳野貞雄 熊本大学文学部教授
福田興次 株式会社福田農場ワイナリー代表取締役
藤原 洋 株式会社シーズ総合政策研究所代表取締役所長
宮木康夫 横浜新都市交通株式会社常務取締役
守友裕一 福島大学経済学部教授
吉田俊幸 高崎経済大学地域政策学部教授
(五十音順、敬称略)
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