3.市町村合併と今後の広域行政への取り組み
(1) 市町村合併の条件
 関連調査をみると、市町村合併に際しては「情報提供等による合併気運の醸成」、「交通・輸送条件整備等による地域間格差の是正」、「広域行政施策等による一体感の醸成」、「財政支援措置等による財政基盤の強化」等の条件整備の必要性が指摘されている。だが、このような条件整備には長期的な対応が不可欠であり、また国や地方自治体の最近の財政事情からみて、財政基盤の充実・強化はより困難な課題である。したがって、行財政基盤の弱小な「全部山村」町村にとっては、当面、自主的な市町村合併は具体化しにくい施策といえる。
(2) 「全部山村」と市町村合併
 アンケート調査や類似調査では、合併によって「コミュニティー(山村)が崩壊する」との懸念がかなり強くみられる。小規模町村ほど、合併による地域社会崩壊への懸念は強くなる。そして、このような危惧を示す一方で、国土・自然環境の保全、水資源の涵養、災害防止、食料の確保等の「山村の果たす公益的機能・役割」といった今日的評価を強調し、「全部山村(集落)」の存続を訴えている。そして、地方分権論を前提とした大規模市町村合併が、このような視点を軽視したものであることに強い懸念と反発を示している。
 したがって、上記の条件整備上の課題をも考慮すると、今日の市町村合併論において「全部山村」市町村の合意を得ることはかなり難しい。その結果は、当面の広域行政の進め方として「合併は進めない」(回答率62.6%)が多数意見となってアンケート結果にあらわれている。「合併を進める」は、僅か11.3%に過ぎない少数意見となっている。
(3) 今後の広域行政への取り組み
 今後の広域行政の進め方としては、「現行政区域のまま、各種広域行政施策・事業を活用する」が大方の「全部山村」市町村の意見である。つまり、今後の「全部山村」市町村の行財政運営は、当面、現行政区域には手を着けずに行政機能を統合する「市町村連合」を主要な行政手法として展開していくのが望ましい。だが、広域行政機構の強化等抜本的な解決を要する課題も少なくない。「広域連合」といった新しい制度への取り組みも、有効な選択肢の一つである。さらに、広域行政運営の重要な前提条件となる財政基盤の強化については、「全部山村」の公益的機能を維持・支援するための新たな財源確保の検討等も必要である。
 将来の「全部山村」の広域行政から、「合併」といった視点を必ずしも排除するわけではない。だが、現状では、少なくとも地方分権を前提とした大規模合併には安易にくみするべきでない。



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