政府は、6月11日の閣議において「平成24年度食料・農業・農村白書」を閣議決定し、公表した。そのうちから、「第4章 地域資源を活かした農村の振興・活性化」の部分を紹介します。
なお、白書の構成は次のようになっている。
はじめに
第1章 東日本大震災からの復興〜復興の歩み〜
第2章 食料の安定確保に向けた取組
第3章 農業の持続的な発展に向けた取組
第4章 地域資源を活かした農村の振興・活性化
第4章 地域資源を活かした農村の振興・活性化
第1節 農村の現状と農村を取り巻く課題
(1)農村の現状
(農村地域の人口は減少傾向)
平成22(2010)年における我が国の人口は、1億2,806万人となっています。我が国の人口を農業地域類型別にみると、都市的地域1億77万人、平地農業地域1,260万人、中間農業地域1,086万人、山間農業地域384万人となっており、約8割は都市的地域に集中しています。
また、平成12(2000)年から平成22(2010)年までの10年間における農業地域類型別の人口の推移をみると、都市的地域は3%上昇していますが、平地農業地域は4%、中間農業地域は8%、山間農業地域は15%、それぞれ低下しています。
さらに、平成22(2010)年における農業地域類型別の人口構成を地域別にみると、東北、東山では都市的地域の人口が全体の50%程度を占めていますが、関東、近畿、沖縄では都市的地域の人口が全体の90%程度を占めています。
全国的に高齢化が進む中、山間農業地域の高齢化は顕著)
平成22(2010)年における年齢別の人口構成を農業地域類型別にみると、山間農業地域における65歳以上の人口割合(高齢化率)は35%と高く、他の農業地域に比べて高齢化が顕著に進んでいます。また、これを平成17(2005)年と比べると、全ての農業地域で65歳以上の割合が3ポイント程度上昇しています。
次に、平成17(2005)年と平成22(2010)年における農村地域の高齢化率を都道府県別にみると、平成17(2005)年では、65歳以上の割合が20%未満は3県、20〜25%未満は24都府県、25〜30%未満は20道府県で、全ての都道府県が30%未満となっていましたが、平成22(2010)年では、65歳以上の割合が20%未満は1県、20〜25%未満は11都府県、25〜30%未満は27府県、30%以上は8道県となり高齢化が進行しています。
平成22(2010)年については、特に、北海道(30%)、秋田県(32%)、高知県(32%)、愛媛県(31%)、島根県(31%)、山口県(31%)、大分県(30%)、鹿児島県(30%)等で高くなっています。
(農村地域における就業状況)
平成22(2010)年における全就業人口に占める農林漁業就業者の割合を旧市町村ごとにみると、5%以上の市町村は全体(3,231市町村)の74%(2,375市町村)を占めており、面積では我が国全体の78%を占めています。
平成22(2010)年における産業区分別の就業者数を農業地域類型別にみると、農村地域(平地農業地域、中間農業地域、山間農業地域)において就業者が多い産業区分は、「サービス業」、「製造業」、「農林漁業」、「卸売業、小売業」の順となっています。特に、農林漁業、製造業、建設業は、都市的地域に比べて農村地域における就業者の割合が高く、これらの産業は農村地域の経済や雇用において重要な位置を占めています。
このような中、平成12(2000)年から平成22(2010)年までの10年間における農業地域類型別の就業者数の増減率をみると、都市的地域に比べて、特に中山間地域(中間農業地域と山間農業地域)における建設業、製造業等の就業機会の減少率が大きくなっており、農林漁業の就業者数の減少と併せ、中山間地域における兼業機会も減少していることがうかがえます。
一方、近年、我が国の産業において大きなウエイトを占めるサービス業への就業者数の割合を農業地域類型別にみると、各種のサービス業の中でも、中山間地域における「宿泊業、飲食サービス業」、「医療、福祉」の割合は相対的に高くなっています。
例えば、近年、農村地域では、農業を軸に展開される農家民宿、観光農園、農家レストラン等の取組に加え、農業と医療、福祉が連携した新たな取組もみられるようになっています。
(農村における集落の現状)
我が国の農業集落は、農道・用排水施設、共有林の管理、農機具等の共同利用、収穫期の共同作業、農産物の共同出荷といった農業生産面のみならず、集落の寄り合いに代表される協働の取組や冠婚葬祭等、生活面にまで密接に結び付いた生産及び生活の共同体として機能してきました。しかしながら、農村地域の人口減少、高齢化の進行により、これらの機能が弱体化し、地域資源の荒廃や定住基盤の崩壊が懸念されています。
このような中、平成12(2000)年から平成22(2010)年までの農業集落の平均総戸数(非農家を含む。)と農業集落の平均農家数の変化を農業地域類型別にみると、平均総戸数については、都市部で大幅に増加しているものの、平地農業地域と中間農業地域では微増、山間農業地域では僅かながら減少しています。一方、平均農家数は全地域で減少しています。
また、総戸数(非農家を含む。)が9戸以下の小規模な集落の割合についてみると、平成12(2000)年から平成22(2010)年までの10年間で、山間農業地域で3ポイント上昇して12%に、中間農業地域でも2ポイント上昇して6%となっています。同様に、総農家数が5戸以下の集落の割合についてみると、10年間で、山間農業地域では9ポイント上昇して24%に、中間農業地域では7ポイント上昇して16%に、それぞれ上昇しています。
このことから、中山間地域の農業集落を中心に総戸数や農家数が減少し、農業集落の小規模化が進行しており、農業集落が有する共同体としての機能の低下が懸念されます。
(農業集落を取り巻く課題)
農業集落の小規模・高齢化の進展に伴い、集落における生活や農業生産活動、更には永年培われてきた農村地域の共同活動の継続が困難となってきています。
総務省が過疎地域等における集落を対象に行った調査をみると、過疎地域等における集落で発生している課題について、生活面では、「空き家の増加」、「商店・スーパー等の閉鎖」、生産面では、「働き口の減少」、「耕作放棄地の増大」、環境面では、「獣害・病虫害の発生」、「森林の荒廃」の割合が高くなっています。
このような中、現在、人が居住している集落でも、今後、集落の無住化が懸念されます。
(2)耕作放棄地の現状と解消に向けた取組
(耕作放棄地の現状)
平成22(2010)年における耕作放棄地の面積は、39万6千haであり、これを農業地域類型別にみると、いずれの地域においても、耕作放棄地面積は増加していますが、近年、その増加率は鈍化傾向にあります。
一方、平成22(2010)年における耕作放棄地面積率を農業地域類型別にみると、平成22(2010)年では、山間農業地域(15.8%)、中間農業地域(14.1%)に加え、都市的地域(13.7%)においても高くなっています。
(耕作放棄地の解消に向けた取組)
耕作放棄地の増加は、国土の保全や水源の涵養等農業の有する多面的機能の低下はもとより、病虫害・鳥獣被害の発生、農地利用集積の阻害にも結び付くおそれがあることから、その発生防止を図るとともに、耕作放棄地の解消を目指していくことが必要です。
耕作放棄地の解消に向けた取組は、その荒廃状況、権利関係、土地条件といった地域の実情に応じてきめ細かく対応していくことが重要です。
このような中、農用地区域内に農地として利用すべき荒廃農地を有する1,400市町村の9割(1,248市町村、平成24(2012)年12月現在)に設置されている耕作放棄地対策協議会(地域協議会)を実施主体として、耕作放棄地再生利用緊急対策交付金の交付を通じた荒廃農地の再生・利用に向けた取組や必要な施設の整備等に対する支援が進められています。この支援は、平成21(2009)年度から実施されており、平成23(2011)年度は466市町村で1,180haの荒廃農地の再生が図られています。
また、平成23(2011)年度からは、戸別所得補償制度の再生利用加算において、地域農業再生協議会が作成する地域の耕作放棄地の再生利用計画に従って、畑の耕作放棄地に自給率向上の効果の高い麦、大豆、そば、なたねの作付けを行い、営農を継続した場合、平地では10a当たり2万円、条件不利地域では10a当たり3万円の交付が行われています。平成23(2011)年度は、278ha(190件)に対して交付されました。
さらに、平成21(2009)年の農地法改正により、農業委員会は、毎年1回、管内にある全ての農地の利用状況を調査することとなりました。調査の結果、1年以上耕作されておらず、かつ、今後も耕作される見込みがない農地等(遊休農地)があるときは、その所有者等に対して、自ら耕作するか、誰かに貸し付けるか等を指導することとしており、新たな耕作放棄地の発生を未然に防止することが期待されています。平成23(2011)年における農業委員会による指導は、全国で21,620haを対象に139,947件の指導が行われました。
これらの取組を含めて、耕作放棄地の解消に向け、国と地方が一体となった各種取組の着実な実施により、平成23(2011)年において再生利用された荒廃農地の面積は、12,153haとなっています。
事例 荒廃農地の再生とそばの地域特産物化
沖縄県大宜味村、かつてはパインアップルの産地でしたが、パイン缶詰の輸入増大に伴う価格の低迷等による離農者の増加や農業者の高齢化・後継者不足の進行によって村内の耕作放棄地が増加していました。
平成20(2008)年に耕作放棄地の荒廃の状況等を把握する「耕作放棄地全体調査」が全国で実施されたことを契機に、村の農業委員会が中心となって、行政、農家等で組織する地域耕作放棄地協議会を立ち上げ、耕作放棄地再生利用緊急対策交付金を活用して、荒廃農地(70ha)を再生する取組を開始し、平成23(2011)年度までに21haを再生しました。
一方、沖縄県では海洋環境保全の観点から、農地から海への赤土(国頭マージ)流出を防止することが課題となっていました。
このため、大宜味村では平成20(2008)年から収穫後のさとうきび畑を全面被覆し、赤土流出を防止するための対策として、強酸性の国頭マージ土壌でも栽培可能で生育期間が短いそばを導入し、試験的な栽培を開始しました。
このような中、沖縄県内でそばの生産が珍しかったこともあり、日本一早くそばを収穫できることやそばの開花の様子が新聞等で報じられ、取組に注目が集まるようになりました。これを受け、村はそばを農家所得の向上を目的とした新規作物としてだけではなく、村おこしや観光資源にも活用し得る作物と捉え、再生した農地におけるそばの本格的な作付けを始めました。
平成22(2010)年には、村内の農家3戸によって大宜味村蕎麦生産組合が設立され、戸別所得補償制度の再生利用加算を活用して、荒廃農地を再生し、そばの生産に取り組んでいます。
沖縄では、元々和そばを食べる習慣はありませんでしたが、収穫されたそばは、村内の3つの食堂で提供され、地元だけでなく、沖縄本島中南部の人々や観光客にも好評を得ています。
大宜味村におけるそばの栽培は、沖縄県では先駆的な取組であることから、農業研究機関と連携して、今後は栽培技術の向上を図り、高品質化、ブランド化を目指すこととしています。また、将来的には、同村におけるそばの収穫期が本土の端境期に当たる1月と5月であることを活かして、本土への出荷も検討しています。
(3)鳥獣被害の現状と対策
(鳥獣被害額は減少したものの、シカによる被害額は増加)
野生鳥獣による農作物被害額は、近年、獣類の被害を中心として増加傾向で推移していましたが、平成23(2011)年度における農作物被害額は、226億円と前年度に比べて13億円(6%)減少しています。また、被害面積も、10万haと前年に比べて7千ha(6%)減少しています。
被害額の内訳をみると、獣類によるものが8割、鳥類によるものが2割を占めていますが、平成23(2011)年度の獣類による被害額をみると、イノシシによる被害額が前年度に比べて約6億円減少したのに対し、シカによる被害額が83億円で前年度と比べて5億円(7%)増加しています。
また、地域別にみると、北海道、九州、関東・東山、近畿等で大きくなっています。
このような中、農作物被害を及ぼす野生獣類であるシカ、イノシシについては、近年、捕獲数が増加傾向で推移しており、特に有害鳥獣捕獲等による捕獲が大きく増加しています。
一方、捕獲の担い手である狩猟者数をみると、平成2(1990)年度における狩猟免許所持者数は29万人でしたが、その数は年々減少し、平成21(2009)年度においては18万6千人となっています。また、狩猟者のうち、60歳以上の割合は、平成2(1990)年度の20%から平成21(2009)年度には61%まで上昇しており、狩猟者の高齢化が進んでいます。
鳥獣被害が増加する背景としては、農山漁村の過疎化や高齢化が進行し、耕作放棄地が増加したことや、里山等における住民の活動が減少したこと等が挙げられます。また、狩猟者の減少・高齢化に伴い、狩猟による捕獲圧が低下したことや、里山、森林管理の粗放化等により、野生鳥獣の生息環境が変化したこと等が考えられます。
鳥獣被害は農業者の営農意欲を低下させるなどにより、耕作放棄地を増加させる一因となっていますが、耕作放棄地の増加が更なる鳥獣被害を招くという悪循環を生じさせており、被害額として数字に表れる以上に農村の暮らしに深刻な影響を及ぼしています。
このため、総合的な鳥獣被害防止対策等への取組により、鳥獣被害の軽減を図ることが重要です。
(鳥獣被害を防止するための新たな仕組み)
鳥獣による被害防止対策を効果的に推進するため、平成24(2012)年3月に鳥獣被害防止特別措置法が改正されました。これにより、市町村長は、自らが行う被害防止施策のみでは対象鳥獣による被害を十分に防止することが困難であると認める場合は、都道府県知事に対して必要な措置を講ずるよう要請することが可能となったほか、対象鳥獣の捕獲等を始めとする被害防止施策の実施に要する費用に対して、国等が財政上の措置を講ずることが明記されました。
また、一定要件を満たす@鳥獣被害対策実施隊員、A平成26(2014)年12月3日までに鳥獣被害対策実施隊員になることが見込まれる捕獲従事者については、銃刀法に基づく猟銃の所持許可の更新等における技能講習を免除すること等の規定が追加されました。
(鳥獣被害対策の取組状況)
鳥獣被害の深刻化・広域化に対応する観点から、鳥獣被害防止特別措置法に基づく被害防止計画を市町村が作成し、地域ぐるみで鳥獣被害対策に向けた取組が推進されています。被害防止に取り組む市町村数は着実に増加しており、平成24(2012年4月における計画作成市町村数は1,195まで増加しており、鳥獣被害が認められる全市町村(約1,500)の8割程度となっています。
各市町村は、被害防止計画に基づき、捕獲、侵入防止、環境整備を組み合わせた総合的な対策を実施しています。具体的には、鳥獣被害対策実施隊等による鳥獣捕獲や追い払いを始めとした地域ぐるみの被害防止活動や侵入防止柵の整備、地域リーダーの育成、被害防止や獣肉の利活用等にかかる人材育成に取り組んでいます。
また、鳥獣被害防止の技術開発として、効果的な捕獲技術の開発、鳥獣被害の少ない営農管理手法の研究や鳥獣の侵入経路遮断技術の開発も進めているほか、GIS(地理情報システム)を用いて被害の発生し易い場所の絞込みを行ったり、GPS(衛星利用測位システム)首輪による獣類の行動範囲・パターンの把握等による鳥獣対策の構築も検討されています。このほか、都道府県域を越える複数の市町村が連携して行う広域的な鳥獣被害対策への取組もみられます。
このような中、被害防止対策に積極的に参加し、鳥獣の捕獲等を適正かつ効果的に行うことができる者として鳥獣被害対策実施隊の活躍が期待されています。しかしながら、鳥獣被害対策実施隊を設置している市町村数は521(平成24(2012)年10月末現在)と、被害防止計画を作成している全市町村の5割弱にとどまっており、今後、その増加が求められています。
事例 地方公共団体による鳥獣被害対策の取組
高知県香美市では、平成13(2001)年頃からシカによる農作物の被害が出始めました。さらに、植林による自然林の減少やシカによる自然林の樹皮剥ぎによる立ち枯れの増加等により森林環境が悪化し、他の獣類(イノシシ等)による被害も増加してきました。
このため、香美市は、平成17(2005)年からシカの捕獲報償金の支払いを開始し、現在では、サル、イノシシ等へも支払範囲を広げています。また、狩猟者を育成するため、事前講習費や免許取得(第一種銃猟免許のみ)に係る経費の助成、射撃技術の向上を目指した射撃講習会等も行っています。現在、香美市では登録された221人の狩猟者により、獣類の捕獲圧を年々強めており、例えば、シカは年間1,700頭程度捕獲しています。また、平成24(2012)年度からは地域ぐるみで捕獲圧を高めるモデル事業を実施しています。
一方、防護による対策も進めており、防護柵の設置に当たり、必要な資材に対して一定割合の補助を行っています。しかしながら、防護柵や電気柵を設置しても維持管理が不適切で効果が現れていない地区もあるため、講習会等による啓発や先進事例の紹介により個々の農家意識を高めて、柵の設置から維持管理まで、他人任せにならないよう、集落ぐるみの取組を指導しています。
また、鳥獣被害には県境がないことから、平成19(2007)年、隣接する徳島県那賀町と連携し「阿佐地域鳥獣被害防止広域対策協議会」を設立し、共同で研修会を実施する中、それぞれの取組についての情報交換を行っています。獣害対策では、それぞれが独自の対策を実施している状況でしたが、研修会等を通じてお互いの取組方針や施策を理解し合う中、対策も捕獲と防護を組み合わせた総合的なものにシフトしています。
事例 集落共通意識で農地を守る鳥獣被害総合防止対策
佐賀県太良町伊福区は中山間地域が大半を占める山合いの地域です。
伊福区では、従来よりイノシシ等による農作物の被害が発生していましたが、平成12(2000)年頃より、その被害が山間部から集落のある平坦地にも広がってきたため、個々の農家が行う被害対策から地区が一体となった対策に住民の意識転換を図り、平成13(2001)年度、中山間地域総合整備事業により鳥獣侵入防止柵を地区内の水田全域(11.4km)に設置し、住民が主体となって鳥獣侵入防止柵の適正管理に取り組むこととしました。
また、中山間地域等直接支払制度を活用し、地区内に獣害対策担当者を設置し、狩猟免許登録経費、箱罠の餌代、罠修理費等の経費を支出するほか、地区で5人の狩猟免許保有者を育成し、捕獲体制を構築しました。
佐賀県からイノシシ被害対策モデル集落に指定された平成19(2007)年度からは、地区内の被害状況を把握するために被害マップを作成するとともに、イノシシ等の隠れ家となる竹林の伐採や餌となる収穫残さの適切な処理等に取り組んでいます。
これらの取組に加えて、耕作放棄地に飼料作物を作付けし、牛を放牧することにより、イノシシ等と農地の間に緩衝帯を設置するとともに、鳥獣侵入防止柵を適正に管理するための点検会の開催や点検結果の全戸回覧等による適正管理の周知徹底を図っています。さらに、狩猟免許保有者を中心に罠による捕獲を強化したほか、捕獲技術向上のための研修会の開催や箱罠の改良にも取り組んでいます。
このような中、「自分たちの農地は自分たちで守り、イノシシは自分たちで捕獲する」という共通意識が定着し、住民が主体的に鳥獣被害対策に取り組んだ結果、伊福区では農業共済の対象となるような被害はなくなっています。
一方、伊福区以外の地区でも、鳥獣被害対策に対する考え方が変わってきており、各地区の住民が主体となったイノシシの捕獲等がみられるようになりました。この結果、太良町内における有害鳥獣の捕獲頭数は年々増加し、被害額は減少傾向となっています。
(捕獲した鳥獣を地域資源として活用)
鳥獣被害を防止するとともに、捕獲した鳥獣を地域資源として収益に転換していくため、捕獲した鳥獣を食材として有効利用することが重要です。
しかしながら、野生鳥獣の肉は、一般的になじみが薄いため、食材として活用するためには、レストラン、旅館、ホテル等に広く需要を開拓していく必要があります。さらに、捕獲の際に個体を傷付けない高い技術が必要であるほか、捕獲後の放血、解体後の冷凍・冷蔵方法といった捕獲後の処理が品質に大きく影響するなどの課題もあります。
このため、農林水産省では、@捕獲した鳥獣の加工処理施設の整備、A捕獲した鳥獣を用いた商品の開発、販売・流通の経路の確立等の取組を支援するほか、食肉利用の取組を全国的に推進する観点から、衛生管理・品質確保等に係るマニュアルの作成・配布や技術研修等を実施しています。
このような中、食肉加工品やレシピの開発等、獣類を地域資源として活用する取組が全国各地で行われています。また、親しみやすい商品名の工夫やジビエ(狩猟鳥獣肉)料理としての活用等を通じて認知度の向上に向けた取組も行われています。
事例 鳥獣被害対策を収益に転換する取組
愛知県名古屋市のNPO法人ボランタリーネイバーズ(平成13(2001)年設立)は、鳥獣被害対策に取り組む集落や団体に対して、捕獲したイノシシやシカ等を地域資源として有効に活用するための支援を行っています。
同法人は、イノシシ等の肉をジビエ料理の食材としてレストラン等に供給するための販路開拓やイノシシ等の皮を工芸品の材料として活用するための商品開発等を行うことにより、鳥獣被害対策に取り組む集落等とレストランや皮革加工業者等をつなぐ役割を担っています。
これまで、捕獲されたイノシシ等は埋設処分されることがほとんどでしたが、新たな販路開拓や商品開発を行うことにより、捕獲したイノシシ等が商品となり、ビジネスや地域の活性化に発展する転機となるものです。
一方、イノシシ等を活用したジビエ料理や工芸品等は一般の消費者にとってなじみが薄いことから、同法人は県内の高級ホテルのシェフによる料理コンテストやジビエ料理を提供するレストランを巡るスタンプラリーの実施、マラソン大会等各種イベントにおけるPR活動、一般消費者向けの料理教室の開催、レシピの開発等を積極的に実施しています。
これらの取組の結果、同法人の活動は、新聞やテレビに取り上げられる機会が多くなり、ジビエ料理等の認知度が向上してきました。今後は、ジビエ料理の普及に対応した食材の安定的供給や地産地消の拡大に努めていく考えです。
愛知県
第2節 農業・農村の持つ他面的機能の発揮
(1)農業・農村の持つ多面的機能
(農業・農村の持つ多面的機能の十分な発揮が必要)
農業・農村は、食料を供給する役割だけでなく、その生産活動を通じ、国土の保全、水源の涵養、生物多様性の保全、良好な景観の形成、文化の継承等、様々な役割を有しており、その役割による効果は、地域住民を始め国民全体が享受しています。
また、農山漁村地域において、農業、林業及び水産業は、それぞれの基盤である農地、森林、海域の間で相互に関係を持ちながら、水や大気、物質の循環等に貢献しつつ、様々な多面的機能を発揮しています。
このため、農業・農村がこれらの多面的機能を十分に発揮できるよう、各種施策や取組を通じて、その持続的な発展に努めていくことが重要です。
(農業・農村の多面的機能発揮に向けた取組)
農地は、農業が営まれることにより、様々な機能を発揮します。畦畔に囲まれている水田や水を吸収しやすい畑の土壌は、雨水を一時的に貯留し、時間をかけて徐々に下流に流すことによって洪水の発生を防止・軽減させるという特徴を有しています)。
また、水田等に利用されるかんがい用水や雨水の多くは地下に浸透し、下流域の地下水を涵養しています。このような地下水の涵養機能により、下流地域では地下水を生活用水や工業用水として活用することができます。
さらに、水田に張られた水は、雨や風から土壌を守り、侵食を防ぐ働きがあるほか、畑地の作物は被覆効果を発揮するなど、下流域への土壌の流出を防ぐ働きがあります。
農村地域は、農業が営まれることにより、大地に育った作物と農家の家屋、その周辺の水辺や里山が一体となって醸し出す独特の雰囲気を有する景観を形成しています。
埼玉県の三富新田など武蔵野にみられる地割景観 や島根県の出雲平野、富山県の砺波平野、岩手県の胆沢平野等にみられる散居景観等は、伝統的な取組等と併せて現在まで引き継がれており、地域住民からも高い評価を得ています。
また、水田や畑には多様な生物が生息しています。自然との調和を図りながら、営農が行われ、水田や畑が適切かつ持続的に管理されることにより、植物や昆虫、動物等の豊かな生態系を持つ二次的な自然が形成・維持され、多様な野生動植物の保護にも大きな役割を果たしています。
このような場は、人間が自然に深く関わることにより創出されており、農業により継続して養育されている動植物や豊かな自然に触れることを通じ、生命の尊さ、自然に対する畏敬や感謝の念など人間の感性・情操が豊かに育てられるなど、教育的な効果ももたらしています。
このほか、水田や畑の中の微生物は、家畜排せつ物や生ごみ等から作った堆肥を分解し、再び農作物が養分として吸収できるようにする有機性廃棄物処理機能を持っています。
さらに、農村地域は、都市部にはない様々な自然や生き物、歴史や文化との出会いがあります。疲れた心や体を癒やす自然空間、豊かな人間関係や新しい生きがい、楽しみを提供する暮らしがあり、レクリエーションの場の提供にも役立っています。
現在、全国各地で、水田や畑地等を活用した洪水防止機能、生物多様性保全機能、良好な景観の形成機能、保健休養機能等の多面的機能の発揮に向けた様々な取組が展開されています。
事例 多面的機能の発揮に向けた取組
○水田の貯留機能を通じて洪水防止に貢献
新潟県は、水田の貯留機能を活かし、洪水を軽減する取組(田んぼダム)を実施。具体的には、水田の排水口に落水量調整装置を設置して、大雨時に水田に雨水を貯留し、水路への流出を緩やかにすることにより、下流での急激な増水を軽減。
○転作田の活用を通じて地下水を涵養
熊本県熊本市 は、市民の水道水源の100%を地下水で賄っており、市内を流れる白川の中流域に広がる水田が熊本市を中心とする地域の地下水源となっていることから、平成16(2004)年1月に、熊本市と大津町・菊陽町・地元土地改良区等との間で協定を締結し、転作した水田に水を張る取組を実施。さらに、平成24(2012)年4月に、住民・事業者・行政等が一体となって地下水保全に取り組む「くまもと地下水財団」が発足。このような広域での地下水保全のための連携が高く評価され、平成25(2013)年3月に、国連“生命の水(Water for Life)”最優秀賞(水管理部門)を受賞。
○山林の整備を通じて清流の保全に貢献
愛知県の明治用水土地改良区は、「水を使うものは自ら水を作るべきだ」という先人の先見的発想により、明治用水の水源である矢作川上流に約525haの山林を所有し、治山
と治水が一体であるという考えのもと、清流を保つため、「水源かん養林」を育成。
○ 環境に配慮した基盤整備を通じて生物多様性の保全に貢献
岩手県奥州市 (いさわ南部地区)は、地域の水田等が持つ「農耕地環境」、屋敷林、河畔林等が持つ「緑地環境」、農業用水路、ため池等が持つ「水辺環境」の保全・再生を基本理念として国営農地再編整備事業を実施。環境に配慮した排水路の整備により、ドジョウ、アブラハヤ、トウヨシノボリ等の個体数が増加。整備前には確認されていなかったギバチ、モツゴ等の種が新たに確認されるなど、多様な魚種が生息する環境が創出。
○ 資源の再利用を通じて地域の環境保全に貢献
長野県高山村は、村内の生ごみ、きのこ農家の廃おが粉や家畜ふん尿を堆肥化し、樹園地を中心に村内農地へ還元する「資源循環型農業」を推進。非農家の増加により深刻化していた生ごみの処理問題を解決するとともに、堆肥施用等により土壌の水はけ・水持ちが向上し、ミミズ等の生物が増加することで、地力も維持増進。
また、環境に配慮したりんご栽培により、産地ブランド化を推進。
○梅園の管理を通じて良好な景観形成に貢献
愛媛県砥部町の「農事組合法人ななおれ梅組合」は、周辺の耕作放棄地を借り受け、観賞用梅等の植栽や遊歩道の整備等を通じて、耕作放棄地の解消と美しい集落づくりに努めるとともに、梅園を開放して「梅まつり」を開催するなど、良好な景観づくりを展開。
○ 落ち葉堆肥の活用を通じて野菜生産と伝統的な景観の保全に貢献
埼玉県西部の三富新田は、江戸時代に開拓され、道路側から順に屋敷林に囲まれた屋敷地、農地、平地林が配置される特徴的な地割を有する地域。300年以上前から続く平地林の落ち葉を堆肥化して活用する独特の循環型農業を実践し、さつまいも、さといも等を栽培。今日も残る三富新田の昔ながらの地割景観は地域住民からも高く評価。
○ 有機野菜の生産を通じて環境への負荷軽減に貢献
奈良県宇陀市では、地域全体で有機農業を始めとする環境保全型農業を推進しており、地域で発生する有機物を堆肥化し、積極的に農地に還元し、循環型農業を展開。耕作放棄地を積極的に利用したほうれんそう、こまつな、みずな等の有機栽培に取り組む。農薬を使用しないことにより、環境への負荷も低減。
(農業分野における生物多様性保全の推進)
農林水産省は、平成19(2007)年7月に「農林水産省生物多様性戦略」を策定し、農業・農村の多面的機能の一つである生物多様性保全を重視した農林水産業を推進してきました。その後、平成20(2008)年6月に「生物多様性基本法」が施行され、平成22(2010)年10 月に開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で「戦略計画2011-2020・愛知目標」(以下「愛知目標」という。)等の決議が採択されたことを受けて、平成24(2012)年2月に農林水産省生物多様性戦略を改定し、我が国の農林水産業、農山漁村が有する生物多様性の保全等の機能をより一層発揮することとしました。
平成24(2012)年9月には、改定された農林水産省生物多様性戦略の内容が反映された「生物多様性国家戦略2012-2020」が閣議決定され、「2020年までに、生物多様性の保全を確保した農林水産業が持続的に実施される」こと等、愛知目標の達成に向けた我が国の目標が設定されました。また、平成24(2012)年10月には生物多様性条約第11回締約国会議(COP11)が開催され、愛知目標の達成等に向けて、生物多様性に関連のある他の条約や関係機関等とも協力しながら、取組を強化していくことが合意されました。
これらの動きを踏まえ、農林水産分野における生物多様性に関する取組を引き続き推進することが重要です。
(2)地域資源・環境の保全とコミュニティの強化
(地域資源・環境の保全に向けた取組)
農地、農業用水等の資源は、食料の安定供給の確保や農業の多面的機能の発揮に不可欠な社会共通資本です。しかしながら、近年、非農家と農家の混住化、農村の高齢化等の進行により、農地等の維持・管理が困難になっています。
このため、平成19(2007)年度から、「農地・水・環境保全向上対策」により、地域住民を始めとする多様な主体の参画を得て行う、水路の草刈り・泥上げ、農道の砂利の補充等の農地・農業用水等の資源の保全管理や、農村環境の向上に資する共同活動に対する支援が行われています。
また、この共同活動と一体的に実施する営農活動(化学肥料や化学合成農薬の使用を大幅に低減する先進的な営農活動)に対して支援を行っていましたが、平成23(2011)年度からは、共同活動と一体的に実施していない活動も支援できるよう、農地・水・環境保全向上対策から切り離し「環境保全型農業直接支援対策」が創設されました。
環境保全型農業直接支援対策では、化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組と併せて、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に取り組む農業者等に対して国と地方公共団体が直接支援を行っています。対象となる営農活動には、土壌への炭素貯留等を目的に、@緑肥等を作付けする「カバークロップの作付け」の取組や、A作物の畝間や園地に麦類や牧草等を作付けする「リビングマルチ・草生栽培」の取組、生物多様性保全を目的に、B水田に飛来する渡り鳥の餌場や休息地の提供等のために冬期間の水田に水を張る「冬期湛水管理」の取組、C化学肥料・農薬を使用しない 「有機農業」の取組があります。このほか、平成24(2012)年度からは、炭素貯留効果の高い堆肥の水質保全に資する施用、バンカープランツ、江の設置等、国が地域を限定して承認する取組(地域特認取組)についても、支援対象としています。
環境保全型農業直接支援対策の取組状況をみると、平成24(2012)年度の取組面積は4万5千ha となり、平成23(2011)年度の1 万7 千haと比べて大幅に増加しました。
これを支援対象取組別にみると、有機農業が1万5千ha(34%)で最も多く、次いでカバークロップ等1万3千ha(28%)、地域特認取組9千ha(20%)、冬期湛水管理8千ha(19%)となっています。
一方、共同活動支援については「農地・水保全管理支払交付金」として、これまでの共同活動支援に加え、集落による農地周りの水路・農道等の長寿命化のための補修・更新等の活動に対する支援(以下「向上活動支援」という。)が行われています。平成24(2012)年度からは、地域からの強い継続要望を踏まえ、第2期対策(平成28(2016)年度まで)が開始されました。
共同活動の全国的な取組状況としては、平成25(2013)年1月末現在の見込みで、共同活動支援については、18,666活動組織、145万5千haにおいて取り組まれ、向上活動支援については、7,483活動組織、35万haにおいて取り組まれています。
また、中山間地域を中心に農業生産活動を維持し、多面的機能の確保を図ることを目的として、平成12(2000)年度から中山間地域等直接支払制度が実施されています。
中山間地域等直接支払制度とは、中山間地域等の農業生産条件が不利な地域において、5年以上農業を続けることを協定により約束した農業者に対して、交付金を交付する制度です。具体的には、耕作放棄の防止や水路・農道等の管理、農用地と一体となった周辺林地の管理、景観作物の作付け、魚類・昆虫類の保護等の取組を協定に位置付け、協定に参加する農業者は、これに基づき活動を行います。
平成22(2010)年度からの第3期対策(平成26(2014)年度まで)では、集落ぐるみで助け合う仕組みの取り決めに支援を行う「集団サポート型」の新設等、高齢化に配慮したより取り組みやすい制度に見直し、また、平成23(2011)年度からは、離島の平地等の条件不利地への支援を充実した上で実施しています。
本制度については、平成25(2013)年1月末現在の見込みで、全国68万2千haの農用地を対象として、27,852協定が締結されています。
(集落機能の維持等に向けた取組)
過疎化や高齢化等が進行した農山漁村においては、その地域の将来を担う人材が不足しているという問題を抱えています。このため、農山漁村地域で生活して農林漁業の生産活動を行い、農林地等の保全や集落機能の維持・補完に取り組む人材の育成や支援が求められています。
このような中、農村に関心を持つ都市部の人材の参画を得て地域の活性化等を図る取組が進められています。
平成20(2008)年度から実施されている「田舎で働き隊!」事業では、農村に関心を持つ都市住民を活用し、農村地域の活性化を図るための活動に従事する人材の育成・確保等に取り組む集落等を支援しています。
平成23(2011)年度においては、この事業に196人が参加し、126市町村において研修が行われました。この研修では、地元住民との勉強会・意見交換会、農作業の体験、ワークショップ、伝統文化や農村環境の保全など様々な取組が行われます。参加者の内訳をみると、無職(求職者)37%、正社員・正職員19%、パート・アルバイト18%、学生11%であり、年齢別にみると約4割を20歳代、約3割を30歳代が占めています。また、研修後は、196人のうち106人(54%)が受入地区に定住し、地域の課題を解決するために必要とされる役割を担い活躍しています。定住者の就労先については、農業生産法人・NPOで就農・就労する人が55%と最も多く、企業・公務員が17%、就農が17%等と続いています。
また、過疎化・高齢化の進行に伴い、集落機能の低下が懸念される地域の維持・強化を図るため、地方公共団体が都市住民を受け入れ、一定期間、農林漁業の応援、水資源保全・監視活動、住民の生活支援等の地域活動に従事してもらう「地域おこし協力隊」の取組が、平成21(2009)年度から進められています。
さらに、行政経験者や農業委員等の農業関係実務経験者等の人材を活用し、集落内の巡回による生活状況や農地・林地の状況を把握するなどのサポートを行う「集落支援員」による取組が平成20(2008)年度から進められています。
「地域おこし協力隊員」は、平成24(2012)年7月現在、4府県169市町村において473人が、「集落支援員」は、平成23(2011)年度、9府県149市町村において605人が、それぞれ設置され、集落機能の維持に必要な取組を展開しています。
平成23(2011)年度に任期を終了した「地域おこし協力隊員」に対するアンケート調査によれば、就農、就業(農業法人等の営農組織、福祉施設、森林組合従業員、自治体職員、地元企業等)等により、隊員の約7割が活動した地域に定住しており、コミュニティの維持・再生のきっかけとなっています。
第3節 地域資源を活かした農村の振興・活性化
(1)都市と農山漁村の共生・対流
(都市と農村の交流の多様な形態)
都市と農村の交流の推進は、「人・もの・情報」の行き来を活発にし、都市と農山漁村それぞれに住む人々がお互いの地域の魅力を分かち合い、理解を深めるために重要な取組です。
その形態としては、グリーン・ツーリズム(農山漁村における滞在型の余暇活動)を中心とした一時滞在型のものから、二地域居住型、定住型まで、多様なものがあります。
このような都市と農村の交流は、都市住民に「ゆとり」や「やすらぎ」のある生活をもたらすほか、郷土食・伝統文化、棚田や里山等を通じた農村地域の魅力の再発見とその活用・利用により、農村地域の活性化にも重要な役割を果たしています。
(都市住民の農村への関心の高まり)
農林水産省が都市住民を対象に行った調査によると、都市住民が持つ農村の良いイメージについては、「空気がきれい」、「住宅・土地の価格が安い」、「自然が多く安らぎが感じられる」、「子どもに自然をふれさせることができる」、「人が少なくのどかである」等の割合が高くなっています。
また、国土交通省が都市住民を対象に行った調査によると、ほぼ全ての回答者が農村地域を大切だと思っており、今後の農山漁村地域との関わりについては、約5割が「訪問・滞在」を、約3割が「居住や訪問以外」による関わりを希望しています。
このような中、集落活性化の取組により活性化している、又は、活性化が見込まれる集落に対するアンケート調査により、活性化の成果を農業地域類型別にみると、中山間地域(中間農業地域、山間農業地域)では、他の農業地域に比べて「交流人口等が増加」の占める割合が高くなっています。都市住民の農山漁村への関心が高まる中、特に、生産条件が不利な中山間地域では、都市と農村の交流により地域の活性化を図る傾向がみられます。
(グリーン・ツーリズムの取組)
農山漁村において、自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型余暇活動であるグリーン・ツーリズムは、都市住民の農業・農村への関心を高め、地域の活性化に大きな役割を果たしています。また、農村地域の特徴を活かした様々な取組が行われており、例えば、貸農園・体験農園は都市的地域に多く、観光農園は平地農業地域や中間農業地域で多く、農家民宿は山間農業地域で多く取り組まれているなどの特徴があります)。
グリーン・ツーリズムに期待するポイントについて、観光庁が消費者に対して実施したアンケート調査によると、農業等の作業体験と食事、地元の人との交流に期待する傾向が高くなっています。特に女性(都市部・地方)は、作業体験への期待が極めて高くなっています。また、都市部の男性は、地元の人との交流への期待が高くなっています。
このような中、農家民宿を行っている農業経営体は、平成17(2005)年の1,492経営体から平成22(2010)年の2,006経営体まで増加しています。また、農家民宿等のグリーン・ツーリズム施設への宿泊者数も年々増加しており、平成23(2011)年度には886万人となっています。
一方、外国人に日本の農村の魅力を発信し、日本のグリーン・ツーリズムに関心を持ってもらうことも重要です。
観光庁が行ったアンケート調査によれば、訪日外国人旅行者は、伝統的な食文化体験、日本の農山漁村の風景の見学、伝統的な町並み巡りに対する興味が高い傾向があり、大都市だけでなく農山漁村についても高い興味を示しています。-
また、訪日外国人旅行者にとっては、初訪日の際は、四季の体験、自然体験ツアー・農山漁村体験、スキー・スノーボード等の農山漁村地域における余暇活動の実施率は低いものの、次回訪日した際における体験希望が高くなっており、農山漁村を訪れる潜在的な可能性が高いと考えられます。
(定住を促進するなど農山漁村の活性化に向けた取組)
農村が人材不足等の構造的な問題を抱える一方で、都市においては農村に関心を持つ者が多く存在しています。
このような中、戸数が増加した集落を対象に行った調査をみると、戸数が増加した理由として、Uターン及びIJターンによるとした集落が44%を占めています。また、これを農業地域類型別にみると、Uターンによる世帯数の増加は平地農業地域で高く、IJターンによる世帯数の増加は山間農業地域で高くなっています。
一方、国土交通省が都市住民を対象に行った調査によると、農山漁村地域で暮らしたいが現実的には難しいと考える理由として、移住希望者では、「実現するきっかけがない」(46%)、「働く場所が少なく、自分にあう仕事が選べない」(39%)、「住居などを確保する経済的なコストが大きい」(30%)の数値が高くなっています。また、二地域居住希望者では、「住居などを確保する経済的なコストが大きい」(55%)、「働く場所が少なく、自分にあう仕事が選べない」(42%)、「都市部との交通・移動のための経済的なコストが大きい」(32%)の数値が高く、これらが移住や二地域居住に係る課題となっています。
このような中、二地域居住を前提として、年に数か月程度農村に滞在し、農業体験を行う滞在型市民農園を整備する取組や、地域への定住を促進するため、新規就農支援、空き家情報の提供、定住後の地域活動への参画に向けた体制整備、雇用の創出や起業の促進に向けた施設整備等、様々な取組が全国各地で行われています。
事例 若者の就農・定住を促進し集落を活性化する取組
福井県若狭町では、担い手不足等による遊休農地の増加・過疎化に対応するため、平成13(2001)年に地域、行政、企業((株)類設計室)の三者の協力・出資の下、「都市からの若者の就農・定住を促進し、集落を活性化する」ことを目的とする「農業生産
法人(有)かみなか農楽舎」を設立し、新規就農者の育成と定住に向けた研修事業を行っています。
(有)かみなか農楽舎では、1〜2年の研修期間において、集落代表者による農業研修、(株)類設計室による経営研修、県や町による座学(簿記、町の歴史等)等、実践的な指導から定住に向けた準備を一体的に行っています。さらに、研修生は集落住民の一員として、消防活動や運動会、草刈り、伝統行事(放生祭等)等に参加し、農村の慣習を学ぶこととなっています。
また、卒業生が町内で就農し定住する際は、集落の農業者から「親方」となる指導者が付いて就農後の農業指導や集落との橋渡し等を行うほか、町からの住宅支援等も行われます。
この結果、卒業生34人のうち20人が町内に定住し、その後も定住者の結婚等により家族が増え、卒業生とその家族は平成25(2013)年4月現在で45人となりました。このほか、卒業生は町の審議会等においても活躍しており、町政の推進に寄与しています。
(2)農業と教育・福祉・観光等との連携
(子供の農業・農村体験の取組)
子供に農業・農村体験をさせることは、農業への理解と関心や食と食生活への興味を高めるのみならず、農村地域の人々との交流を通じて、人間関係を構築する力が身につき、人間性の向上にも効果があるといわれています。
子供が農業・農村に関する体験を行う主な取組として、一定期間(例えば1週間程度)の宿泊体験活動を行う「子ども農山漁村交流プロジェクト」や、日帰り等で作付けや収穫作業等を体験する「教育ファーム」があります。
「子ども農山漁村交流プロジェクト」は、平成20(2008)年度から農林水産省、文部科学省、総務省の連携の下で取り組まれており、子供が農林漁家に宿泊することにより、農山漁村の生活や農林漁業を体験し、食の大切さを学んでいます。このプロジェクトは、平成24(2012)年度までに、43道府県141の受入モデル地域を中心とした全国の受入地域において実施されています。
また、「教育ファーム」は、自然の恩恵や食に関わる人々の様々な生活への理解を深めること等を目的として、教育機関(小・中学校、幼稚園、保育園)や農業漁業者等が主体となり開設した農場において、一連の農作業等の体験を提供する取組となっています。
農林水産省が全国市町村を対象に行った調査によると、平成22(2010)年度において、全市区町村のうち「市区町村内に教育ファームの取組をおこなっている主体がある」と答えた市区町村の割合は8割(1,384市町村)を占めています。
一方、社団法人農山漁村文化協会が作成した「教育ファーム推進事業報告書」によると、農業体験と併せて「生き物探し」を体験した小学生は、農業体験のみ実施した小学生と比べて、自然や生き物への興味・関心や観察力、自然や生き物を大切にする気持ちが高まる傾向がみられます。また、農業体験と併せて「草取り」を体験した中学生は、農業体験のみ実施した中学生と比べ、人と協力する姿勢や汗を流して働くことの大切さがより実感されており、農業体験と関連した体験を併せて行うことで、学習の効果が一層高まると考えられます。
さらに、子供を指導する生産者側も、指導回数が増すことにより、「地域が活性化する」、「農業への理解が広がる」と認識する割合が高くなるとともに、「食の安全に対する意識が高まった」、「農業に誇りを持つようになった」、「つきあいが広がった」、「コミュニティや消費者との関係を大切にするようになった」等の効果への認識が高まる傾向にあります。
このような中、農林漁家の生きがいの充実や地域の活性化を図るため、地域住民や地方公共団体、観光事業者等が連携し、修学旅行生等をターゲットとした農林漁業の体験型学習を展開したり、農林漁家の女性や高齢者が民家泊の受入先となり、生業に根ざす生活・食文化等を子供たちに伝授する取組等がみられます。
北海道の松前町ツーリズム推進協議会では、大学やNPOと連携し、農林漁業等の地域産業や伝統・文化を活かし、するめ加工体験や松前杉での木工づくり体験、北海道史の学習等の子供の教育体験プログラムを開発・整備してきました。また、地域関係者と定期的に勉強会・連絡会を開催し、地域ぐるみで子供を受入れるための体制作りを進めることにより、農林水産業を教育に活かした取組を地域全体で推進しています。
(健康や精神の安定面からみた農業・農村)
農山漁村における安らぎや癒やしの提供、農作業等の体験を通じた精神の安定や健康の維持・増進等、農山漁村・農林水産業の有する機能に対する期待が高まっています。
内閣府が全国の55歳以上の男女を対象に行った調査によると、職業別にみた退職希望年齢については、「働けるうちはいつまでも働く」と考えている人の割合は農林漁業者が最も高く72%を占めています。また、職業別にみた過去1か月の気分について、農林漁業者は、「どうにもならないくらい、気分が落ち込んでしまう」と感じる割合は17%と最も低く、「落ち着いて、穏やかな気分」をいつも感じていた割合は53%と最も高いなど、農林漁業が健康や精神の安定面に寄与している状況がうかがえます。
農林水産省が市民農園・家庭菜園の農作業実践者と非実践者とを対象として行った調査によると、現在、生きがい(喜びや楽しみ)を「十分感じている」割合は、農作業実践者(36%)は、非実践者(28%)を8ポイント上回っています。
また、地域の人たちとのつながりについては、「強い方だと思う」、「どちらかといえば強い方だと思う」割合は、農作業実践者(38%)が非実践者(22%)を16ポイント上回っています。
さらに、農作業の健康への効果については、農作業実践者の約9割が「ある」、「ややある」と回答したのに対し、非実践者は約7割にとどまっています。
このような中、農作物等に接することによる癒やし・安らぎの効果や、農作業を行うことによる健康の維持・増進の効果等に着目し、農山漁村を教育、医療・介護の場として活用する取組が広がっています。
近年では、野菜や草花等を育てることを通じて心身を癒やしていく園芸療法が心身を患う子供たち等の治療に用いられるほか、障害者や高齢者等のリハビリに活用されています。
また、福祉団体が農業活動に取り組み、作付けや収穫等の農作業を通じて収入を確保したり、入所者の身体機能の向上を図る取組も広がっています。
事例 園芸療法士として花とのふれあいの機会を提供する取組
愛媛県松前町の竹中伸枝さんは、実家が経営する「竹中園芸」でシクラメン等の花を栽培しながら、園芸療法士として活動しています。
竹中さんが園芸療法を知ったきっかけは、平成10(1998)年に農業研修でスイスを訪れた際、知的障害の子供が搾乳体験で牛とふれあい喜ぶ姿を見て、園芸でも同様の取組ができるのではないかと感じたことでした。帰国後、英国式の園芸療法を半年間学んだ後、兵庫県立淡路景観園芸学校の園芸療法課程の第一期生として1年間学び、「兵庫県園芸療法士」の資格を習得しました。
現在は、心臓病の子供とその家族を対象に、花とのふれあいを通じて楽しみや季節を感じることができる1回完結型の園芸教室等を開催しています。
園芸教室は、患者が季節を感じたり、花づくりの達成感を味わったり、何より褒めてもらうことができる場として好評を得ているほか、看病等でストレスを感じている家族のストレス解消や交流の場にもなっています。
将来は、高齢者も障害者も園芸を楽しむことができるような支援をしながら、多くの方が生涯にわたって園芸に親しむことができる環境を整えていきたいと考えています。
(農業生産法人等による医療・福祉等との連携)
社会福祉法人が農業生産法人等の農地を借り受けて、作物の栽培や販売等に取り組む活動が増加する一方、農業生産法人等が障害者に適した作業を用意して障害者の雇用を受け入れたり、高齢者の働きやすい環境を整備し、高齢者の雇用拡大と健康や生きがいの向上に結び付けようとする取組がみられます。また、農業と医療の連携した取組も全国各地で展開されています。
例えば、香川県では、農業者や農業者団体(農協)、障害者施設と協力しながら、障害者と農業者とのマッチングを実施しています。農業の人手不足に対応する形で、障害者の働く場を確保することにより、農業分野における障害者の就労を支援しています。
また、北海道滝川市の公益財団法人そらぷちキッズキャンプは、難病と戦う子供たちのための医療ケア付きキャンプ場を整備し、豊かな自然環境や基幹産業である農業を活用し、自然療法、レクリエーション療法に取り組んでいます。さらに、北海道増毛町のパプヤの里は、農業体験を通してハンディキャップを持つ人の社会復帰やストレス解消等を図るリハビリ農園を運営するとともに、医療関係者との交流を促進し、園芸療法を含む医療実習の場としても農園を活用しています。
このほか、鳥取県鳥取市の株式会社LASSICのように農業・農村の持つ癒やし・安らぎ機能を活かし、日常生活におけるストレスや強い不安、悩みを抱えた労働者を、田舎暮らしや農業体験を行う中で改善する取組もあります。
東日本大震災の被災地である宮城県南三陸町では、仮設住宅の入居者等が利用できる農園を開設し、農作業を通じた被災者の心のケアを行っています。その際、農作業の指導に当たっては農村の高齢者も活躍しています。
岩手県立高田病院では、東日本大震災による長期の仮設住宅での生活に伴い、生活不活発病や生きがい喪失によるうつ状態の発症を予防するため、仮設住宅の入居者に対して、農作業を促すことにより、心身の健康維持管理に取り組んでいます。病院が行ったアンケートの結果では、農作業に参加したことにより、生活充実感や生きる意欲の改善が図られたことが明らかになっています。
事例 農業・園芸と福祉との連携による取組
京都府京都市の「NPO法人 京の園芸福祉研究会」理事長の溝川長雄さんは、市民農園の普及や園芸福祉士の育成等を通じて、農業の持つ健康増進や癒やし機能を活用した福祉活動に取り組んでいます。
溝川さんは、平成15(2003)年に地元の園芸福祉に関わる有志を集めて同研究会を設立し、その後、平成22(2010)年には、農業体験農園「すこやかファームおとわ」(京都市山科区)を開設し、京都府内の園芸福祉士(200人程度)の活動拠点としました。
同農園は、一般市民(50人)のほか、京都市内の障害者福祉施設3団体が利用しており、各団体は週に1度、5〜10人が農作業を行っています。通常、各団体の入所(通所)者は、終日屋内で作業を行っているため、農園での作業を楽しみにしています。また、収穫し
た野菜をバザーで販売することにより、やりがいの創出にもつながっています。さらに、同農園で行われる様々な交流会や共同で行う農作業を通じて、地域住民との交流も図られています。
今後、同研究会は、園芸福祉士の育成のみならず、園芸福祉士を福祉関連施設・団体等に斡旋する活動を展開するほか、農業関係者、福祉関係者、教育関係者といった各担当分野を超えた官・民ネットワーク作りの中核となることを目指しています。
(農業と観光との連携)
農業と観光との連携による取組として、観光農園や農家レストランがあります。観光農園は、入園料や土産物の販売等による所得の増大のみならず、観光農園訪問者が周辺地域の施設へ立ち寄ること等による地域経済への波及が期待できます。また、農家レストランは、自らが生産した農作物や地域の食材を調理し、地域ならではの料理を提供することにより、農産物の高付加価値化や地域文化の提唱等が行えます。
観光農園や農家レストランを経営している農業経営体数は、平成17(2005)年から平成22(2010年)までの間に、観光農園は16%、農家レストランは51%増加しています。
これを農業地域類型別にみると、観光農園は、平地農業地域(19.6%)における増加率が大きくなっています。一方、農家レストランは、中間農業地域(63.2%)における増加率が最も大きくなっています。
また、平成22(2010)年における観光農園や農家レストランを経営している農業経営体数の割合を農業地域類型別にみると、平地農業地域と中間農業地域を合わせると、ともに65%前後を占めていますが、観光農園は農家レストランと比べて都市的地域で展開されている割合が高く、農家レストランは観光農園と比べて山間農業地域の割合が高くなっています。
観光農園や農家レストランに取り組む農業者は、収入の増大を実感している者も多く1、6次産業化による農業所得向上のための取組の一つとして、全国各地で様々な取組がみられます。
事例 農業と観光との連携による取組
広島県三次市の(有)平田観光農園は、同県中北部の中山間地域に位置しています。同社は昭和59(1984)年に設立され、果樹を主体とした観光農園を経営するとともに、ドライフルーツ、ジャム、ジュースや調味料等の加工品の製造・販売、農家レストランの経営、産地直売等、多角的な事業を展開しています。
設立当初の品目は、りんごとぶどうのみでしたが、その後、おうとう、もも、くり、いちご等の新植を進め、年間を通じて果物狩りを楽しむことができます。現在、栽培している果樹は14品目、150品種を数え、フルーツのテーマパークを形成しています。
観光農園の来園者は、日帰りの家族が多く、年間の来園者数は16万人を超えるなど、地域における観光拠点となっています。
また、同社では観光農園を経営する一方、地域の果樹農家と加工組合の組織化やドライフルーツ会社の設立に尽力するなど、地域と連携した農産物加工品の販売等を進めています。
このような取組により、同社の平田克明会長は、観光庁の観光カリスマ百選に選定され、地元の廃校を活用した農村体験塾をNPO法人で開校するなど、農業と観光との連携を通じた地域の活性化に貢献しています。
(3)再生可能エネルギーの推進と新事業の創出
ア 再生可能エネルギーの活用
(農山漁村における再生可能エネルギーの現状)
太陽光、水力、風力、バイオマス、地熱等のエネルギー資源は、発電時や熱利用時に地球温暖化の原因となるCO2 をほとんど排出しないという優れた特徴を有しており、これらの資源を変換して作られるエネルギーは「再生可能エネルギー」と呼ばれています。我が国の総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は10%程度となっていますが、その大部分は大規模水力発電によるもので、その他の太陽光、風力、バイオマス等は合計しても約1%に過ぎません。
しかしながら、再生可能エネルギーの普及は、国内エネルギー資源の拡大というエネルギー安全保障の強化、低炭素社会の創出に加え、新しいエネルギー関連産業の創出・雇用拡大等の観点からも重要です。また、平成23(2011)年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機とする新たなエネルギー供給システム構築の手段として関心が高まっています。
このような中、平成24(2012)年8月にJA全中が20歳以上の男女を対象として行った「食・農・経済」に関する意識調査では、77%が「自然エネルギーに期待している」と回答しており、特に女性の割合が高くなっています。
千葉大学倉阪研究室等の試算による平成22(2010)年度における都道府県別の再生可能エネルギー自給率((地域において再生可能エネルギーによって賄うことができる供給量)/(地域におけるエネルギー需要量))をみると、電力会社等の大規模な地熱発電所や水力発電所、風力発電所等を有している大分県(23%)、富山県(17%)、秋田県(16%)が高くなっています。これらの県のほか10%を上回る県は、青森県(13%)、長野県・鹿児島県(12%)、岩手県・島根県(11%)の5県となっており、全都道府県のうち約半数は5%未満となっています。
しかしながら、我が国の国土の広い面積を占める農山漁村には、エネルギーとして利用可能な土地、水、バイオマスといった資源が未利用のまま豊富に存在しています。このような資源を活用した再生可能エネルギーの導入は、地域における安定的な電力供給や分散型エネルギーシステムの構築に寄与するとともに、農山漁村に新たな所得を生み出し、地域活性化につながることが期待されます。
このような中、平成24(2012)年7月1日、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)がスタートし、電気事業者は、太陽光、風力、中小水力、バイオマス等の再生可能エネルギー源を活用して発電された電気を、国が定める一定期間・一定価格で買い取ることが義務付けられました。これにより、再生可能エネルギーの導入が全国で進んでいくことが期待されます。
一方、再生可能エネルギー発電を地域の活性化に効果的につなげていくためには、農山漁村が、発電に必要な土地、水、バイオマス等の資源の提供者となるにとどまらず、農林漁業を始めとする地域の産業や暮らしとどのように連携していくか、また、農林漁業者を始めとする地域の関係者が再生可能エネルギー発電にどのように関与していくかという点が重要です。
(農業用水を活用した小水力発電)
農村地域には、農業水利施設が多数存在しています。農業水利施設は、用水を安全に通水するためにエネルギーを減じる落差工や減圧バルブ等の施設を有しており、これらを利用することによって様々な場所で発電することが可能となります。
農業用水を活用した小水力発電は、土地改良施設等の操作に必要な電力を供給することにより、施設の維持管理費の軽減に寄与しています。
平成24(2012)年度末までに、農業農村整備事業により29地区で小水力発電施設が整備されており、年間約1億700万kWhの電力(約2万5千世帯の年間消費電力に相当)が発電されています。
これまでは、落差、流量の条件に恵まれ、発電出力の規模も比較的大きな地点での整備が中心となっていましたが、全国の農業水利施設には、小水力発電施設の設置が可能な地点が多数存在しています。
今後、農業用水の小水力エネルギーを最大限活用する観点から、低落差・低流量の地点での発電に取り組んでいくことが求められており、小型小水力発電機の開発や発電効率の検証の実証試験等が進められています。
事例 「ひびきの」スマートビレッジ構想に基づく小水力発電の取組
国営神流川沿岸地区は、東京都心から100km圏内に位置する農村地帯で、群馬県藤岡市、埼玉県本庄市を始めとする3市3町にまたがる4,019haの受益地では、米麦・野菜・果樹を組み合わせた複合経営が展開されています。
本地区は、一級河川利根川水系神流川から取水し地域に張り巡らされた農業用水を始め、年間日照時間が約2,000時間に及ぶ太陽光や家畜排せつ物等のバイオマス資源等の豊富な地域資源が存在しています。
本地区では、こうした地域の再生可能エネルギーを利活用し、農業・農村の振興を図るため、平成23(2011)年7月、本地域の通称である「ひびきの」を冠した「「ひびきの」スマートビレッジ構想」を有識者と地域関係者を交えた議論を踏まえて策定しました。本構想では、地域全体の農業・農業用施設に係る再生可能エネルギーの賦存量(関係市町全世帯の電力量の約2割に相当)や再生可能エネルギーによる発電可能箇所を確認するとともに、土地改良施設や農業用ハウス、植物工場、電気自動車用スタンド等の電力供給先が示されています。
本構想に基づき、小水力発電施設である「神流川沿岸発電所」が建設され、平成24(2012)年9月から運転が開始されており、その発電量(52.2万kWh/年)は、約160世帯の年間消費電力に相当します。当発電所は、平成25(2013)年度より埼玉北部土地改良区連合により管理・運営され、売電収入の充当による土地改良施設の維持・管理費の軽減に加え、災害時(停電時)の非常用電源としての活用が大いに期待されています。
今後は、関係機関と調整しつつ、小水力発電のほか、太陽光発電施設や蓄電池の設置、さらに、供給先を結び付けた電力網の構築等の検討を行い、再生可能エネルギーを基軸とする地域の活性化に取り組むこととしています。
(バイオマスを活用した取組)
バイオマスとは、動植物に由来する有機性資源(化石資源を除く)をいいますが、大気中の二酸化炭素を増加させない「カーボン・ニュートラル」と呼ばれる特性により、その活用は地球温暖化対策に有効であるとともに、地域の未利用資源の活用による地域活性化、循環型社会の形成、エネルギー供給源の多様化にも貢献できます。
バイオマスは、家畜排せつ物、下水汚泥、食品廃棄物等の廃棄物系、稲わら、間伐材等の未利用系、ソルガム等の資源作物、藻類等、多種多様なものがあり、発電や熱利用のほか、液体燃料や化学品の原料、素材等として幅広い用途に活用されています。
一方、多くのバイオマスは「広く薄く」存在しているため、その活用に当たっては経済性の向上が重要です。
バイオマスを有効に活用するためには、活用に適した熱、ガス、燃料、化学品等に変換する必要がありますが、そのための技術も直接燃焼等の既に実用化されているものから、ガス化・再合成等、研究・実証段階にあるものまで様々です。
現在、木質、食品廃棄物、下水汚泥、家畜排せつ物といったバイオマスを、直接燃焼、固体燃料化し利用する技術が実用化されており、地域のバイオマスの特質を活かした取組が全国各地で行われています。
(バイオマス活用の新たな取組)
地域資源を活用した自立・分散型のエネルギー供給体制の強化が重要な課題となっています。地域資源であるバイオマスは、太陽光や風力に比べて出力が安定しており、また、地域産業創出や地域活性化、循環型社会形成等に貢献していますが、石油等の化石燃料と比べて価格競争力が劣位にあります。
このため、平成24(2012)年7月に施行された固定価格買取制度(FIT制度)等も活用した投資家や事業者の参入を促し、需要の創出・拡大に向けた取組を通じたコスト低減と安定供給体制の確立等が重要です。
また、広く浅く存在するバイオマスを効率的・安定的かつ低コストで確保することも重要な課題です。特に、広域に存在するバイオマスの確保は、民間事業者の取組だけでは限界があり、収集・運搬システムの構築等における行政の支援や、多様なバイオマスの混合利用・組合せ等による原料の安定的確保が重要です。
このような状況を踏まえ、地域のバイオマスを活用した事業化・産業化を推進し、地域における産業創出と自立・分散型エネルギー供給体制の強化を実現していくための指針として、平成24(2012)年9月に「バイオマス事業化戦略」が策定されました。この戦略では、多種多様なバイオマス利用技術の到達レベルを横断的に評価し、これに基づく技術とバイオマスの選択と集中等により、バイオマスを活用した事業化を重点的に推進していくこととしています。また、関係府省が連携し、地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸とした環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指すバイオマス産業都市の構築を推進していくこととしています。
事例 バイオガスプラントを活用した乳用牛ふん尿のエネルギー利用
北海道士幌町は、畑作と酪農、畜産(肉用牛)を中心とした農業地帯であり、酪農では施設内を牛が自由に移動できるフリーストール方式の牛舎を早くから導入して搾乳・飼料給与の省力化を推進し、規模拡大を図ってきました。
一方、牛ふん尿の堆肥化に多大な労力を要するとともに、臭気等の問題が大きな課題となっていました。
このため、士幌町では、平成15(2003)年度に3戸の酪農家の協力を得て個別型バイオガスプラント実証施設を整備し、ふん尿処理に当たっての課題を検討してきました。この結果、バイオガスプラントにより、ふん尿処理の省力化、悪臭の大幅な低減が図られること、副産物であるメタン発酵後の消化液は肥料効果が高く、自ら利用するほかに、近隣の耕種農家でも利用され、化学肥料の削減によるコスト低減につながることが明らかとなりました。一方、施設の維持管理費が高く、余剰電力の売電収入(RPS法)も少ないことから、採算が合わず普及に向けた課題も明らかとなりました。
このような中、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故を背景に、再生可能エネルギーの導入の重要性が高まったことに加え、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が平成24(2012)年7月からスタートすることになり、平成23(2011)年6月に士幌町は、JA士幌町、商工会の3団体で「士幌町再生エネルギー利用推進協議会」を設置し、バイオガスプラントの普及等による再生可能エネルギーの利用拡大に向けた検討を開始しました。同協議会では、既存のバイオガスプラントにおける課題を踏まえ、構造がシンプルで低コストの新たなモデルが提案されました。このモデルでは、冬期のバイオガス発生量の低下に対応するため、発酵槽を高気密・高断熱構造とし、発電の廃熱による温水を発酵槽の保温に利用するほか、搾乳設備の洗浄や畜舎の暖房にも利用するよう計画しました。
このモデルに基づく新たなバイオガスプラントの建設が町内の酪農家4戸で進められ、平成24(2012)年度末に完成、平成25(2013)年春より稼働し、既存の3基のバイオガスプラントと合わせて、町内の乳用牛のふん尿の15%を処理し、一般家庭換算で400戸分(同町の農家数に相当)の電力(5,500kWh/日)を供給することとしています。
バイオガス発電は24時間安定した電力供給が可能であり、気象条件に左右される太陽光や風力発電を補完する再生可能エネルギーとして有効です。このため、新たなバイオガスプラントでは、バイオガス発生量の周年安定化技術、酪農経営における廃熱の利用、発電コスト等の検証を持続的に行うことにより、バイオガスプラントの普及促進を図ることとしています。
事例 生ごみバイオガス発電と低コスト・高付加価値農産物の生産・販売
新潟県村上市にある(株)開成では、平成24(2012)年に地元温泉街の旅館や地方自治体と連携し、生ごみを分別収集し、下水汚泥と混合してバイオガスを製造する「瀬波バイオマスエネルギープラント」を設置し、同年9月にメタン発酵ガス発電として国内第1号となる固定価格買取制度の認定を受け、東北電力に売電しています。簡易なバイオガス発電施設と運営ノウハウの確立等により、5年程度の投資回収を目指しています。
また、発電時の余熱を使用した温室での南国フルーツ栽培や、発酵残さを液肥利用した稲の栽培等も行っています。栽培する南国フルーツについては、耐寒性の品種改良と高収量の栽培技術の確立に取り組んだ結果、パッションフルーツで1年3作、糖度1.5倍を実現するとともに、その品質が評価され、銀座の高級果物専門店等で販売されています。
今後、農業者がリードする地域資源循環型のバイオマス活用のビジネスモデルとして普及していくこととしています。
事例 イネを原料としたバイオエタノールの地域エネルギー循環モデルづくり
全国農業協同組合連合会は、新潟県において、地域の協力を得ながら、原料イネの生産からバイオエタノールの製造、バイオエタノール混合ガソリンの販売・利用及び発酵残さの飼料・肥料利用の全てを一貫して県内で行う地域エネルギー循環の取組を行っています。
具体的には、@地域の水田の有効活用の観点から、産地資金を活用し農家の協力を得て転作作物として多収穫稲を栽培し、バイオエタノールを製造、A全農新潟石油基地でバイオエタノール混合ガソリンを製造し、県内の農協系ガソリンスタンドで「グリーンガソリン」として販売(バイオエタノール利用分はCO2 排出削減量認証制度を活用しクレジット化)、B副産物の発酵残さは、液体飼料・肥料として地域の養豚農家や肥料工場に販売され、液体飼料で肥育した豚肉は、食味が良いなどブランド化して販売、C籾殻はガス化し、エタノール製造施設の熱源として利用等により、地域循環型のバイオマス利用を行っています。
(風力・太陽光を活用した取組)
このほか、風力や太陽光に由来する再生可能エネルギーを地域活性化に活用する取組が各地で進められています。
高知県梼原町では、平成11(1999)年に「梼原町エネルギービジョン」を策定し、風力発電を開始しました。町では、売電収入を町の基金に積み立てて、太陽光発電の普及や森林の保全等に活用するほか、小水力発電等の利用を進め、自然エネルギーを有効に活用した町づくりに取り組んでいます。
また、北海道浜中町のJA浜中町では、これまでも景観保全のための植林や家畜排せつ物処理施設の整備、野生動物との共生等、環境保全に係る取組を行ってきました。平成22(2010)年には太陽光発電施設を酪農家105戸に導入し、自然環境と調和した地域で生産された農産物をエコ・ブランドとして付加価値を高める取組を進めています。
このように、再生可能エネルギー発電と農林漁業を結び付けた先駆的な事例が存在する一方で、このような取組は全国的にみれば、まだまだ点的なものにとどまっています。
農林漁業者を始めとする地域主導の再生可能エネルギー供給を拡大し、地域の農林漁業の発展につなげていくため、農林水産省では、再生可能エネルギー発電によって得られた収益を地域の農林漁業に還元するモデルの構築や、農林漁業者が中心となった再生可能エネルギー発電の立ち上げを支援するワンストップ窓口の設置等を行うこととしています。
事例 再生可能エネルギーの活用を通じた町づくり
高知県梼原町は、「森(森林)と水」、「共生と循環」をキーワードとした町づくりを進めています。
平成13(2001)年度からの第5次梼原町総合振興計画の策定に当たっては、住民参加による計画づくりを推進するため、公募により15人の住民が計画づくりに参加し、「共生と循環」のまちづくりの一つの柱として、自然エネルギーの利用促進に取り組むこととしました。同計画においては、平成11(1999)年に風の通りの良い四国カルスト高原に町が設置した風力発電施設から得られた売電収入を、森林の間伐等の保全活動と町民が再生可能エネルギーを活用した設備を導入する際の助成金として活用することとされました。
5年間間伐を実施し、残った材木について10年間皆伐禁止の約束を遵守できる森林所有者に町から交付金を交付することにより、平成13(2001)年度から22(2010)年度の間に、6,409ha(間伐対象森林の約7割)の間伐が完了しました。また、平成24(2012)年度からは、ペレット向け間伐材の搬出費用も補助しています。
このように、再生可能エネルギー発電の収益を通じ、カルスト高原の「風」を地域の最大の資源である「森林」の活用に活かす取組を行っています。
これらの取組に加え、太陽熱温水器、木質ペレットストーブ、個人用太陽光・風力・水力発電機等の設置についての助成を行うほか、木質ペレットの製造施設の整備、地中熱エネルギーを活用した温水プールの設置、廃油の燃料利用等にも取り組んでいます。
また、同町は、市街地を流れる河川の河道改修によって生じた6mの落差を活用して、小水力発電所を設置しました。昼間は隣接する中学校に電気を供給し、中学校で使用する電力の9割を賄うとともに、夜間は町の街路灯82基に電気を供給しています。これらの取組により、街路灯の電気代への住民負担はなくなりました。
事例 太陽光発電を活用して地域の酪農業をイメージアップ
北海道のJA浜中町では、自然環境と調和した生乳生産に取り組むため、酪農排水浄化槽の設置、ふん尿処理施設の整備、237haに及ぶ植林、野生動物が共生する緑の回廊づくり等の環境保全の取組と、スラリータワーの整備による家畜ふん尿の100%回収を行い農地に還元するクリーンな循環型農業を実践してきました。
また、二酸化炭素の排出削減やエネルギーの地産地消による農業経費の削減等、幅広い環境保全への取組が将来にわたる農業生産活動の維持・発展への礎になるとの考えの下、クリーンエネルギーによる酪農業の先駆けとして、平成22(2010)年、浜中町と厚岸町トライベツ地区の酪農家105戸に太陽光発電設備を設置しました。
発電量のうち、5割を農業施設において自家消費し、残りの5割を北海道電力に売電しています。
売電額は地区全体で年間2,600〜2,700万円程度となり、また、1戸当たりの電力経費も年間20万円程度削減されました。固定価格買取制度も始まり、今後の太陽光発電設備設置に向けた追い風となっています。
JA浜中町は、太陽光発電等の自然エネルギーの活用と、これまで行ってきた環境保全の取組により、浜中町で生産した生乳をきれいな環境の下で生産した「エコ牛乳」としてPRし、浜中ブランドのイメージを一層高めるとともに、今後は、品質面の一層の向上に取り組むこととしています。
(再生可能エネルギー導入に向けた課題と今後の取組)
農山漁村は、再生可能エネルギー供給の大きなポテンシャルを有しており、全国各地で様々な取組が行われていますが、一方、仮に再生可能エネルギー発電施設が無計画に整備された場合、農山漁村に存在する農林地や漁港、その周辺水域が果たしている食料生産や国土保全への重要な役割に支障を来す可能性があるのみならず、周辺環境に悪影響を与える可能性もあります。
このため、農山漁村における再生可能エネルギーによる発電の促進は、農林漁業の健全な発展との調和を図りながら、農林漁業者やその団体等が参画した再生可能エネルギー発電、発電事業によって得られた収益の地元還元、地域で発電した再生可能エネルギー電気の地域利用等、地域の農林漁業、農山漁村の活性化につながる形で推進していくことが重要です。
イ 農山漁村における新事業の創出に向けた取組
(農山漁村における新事業の創出に向けた取組)
農山漁村には、食料としての農林水産物はもとより、土地、水、風、熱、生物資源、歴史・文化等豊富な資源が存在します。また、機能性や薬効成分等の農林水産物が持つ多様な機能への消費者や企業の関心も高まっています。これらは、今後の経済成長へ向けた希少資源として、我が国の最大の強みの一つといえますが、第1次産業と第2次産業・第3次産業との価値連鎖を結合する仕組みが弱いため、その潜在的な活力が活かされていない状況にあります。
このため、農林漁業者と他産業との新たな連携を構築し、生産・加工・販売・観光等が一体化したアグリビジネスの展開や、先端技術を活用した新産業の育成、再生可能エネルギーの導入、農林水産物の多様な機能に対する新たなニーズの高まりを踏まえた産地形成等を進めていく必要があります。
農林水産省では、他産業の持つ革新的な技術を活用して、農林水産業・農山漁村の豊富な地域資源の潜在力を発揮させることにより、素材、エネルギー、医薬品等の分野において、平成32(2020)年までに6兆円規模の新産業を創出することを目標に、「緑と水の環境技術革命」を推進しています。
平成23(2011)年2月に策定した「緑と水の環境技術革命総合戦略」では、緑と水の環境技術革命を実現するため、将来的に相当規模の市場創出が見込まれ、農山漁村の活性化が期待されるとともに、その実現スピード及び確実性が高いと想定される6つの重点分野に施策を集中し、新事業創出を加速することとしています。
具体的には、革新的な技術を導入して行う新事業について、採算性等を検討する事業化可能性調査や技術実証等を支援する施策(緑と水の環境技術革命プロジェクト事業)を推進しています。
事例 ダイレクト冷却式ハイパワーLEDを光源とした植物工場の開発及び薬草
を始めとする機能性作物の栽培評価
「緑と水の環境技術革命総合戦略」において重点分野の一つに位置付けられた農林水産物の高度生産管理システムとして、LED(発光ダイオード)光源を利用した植物工場が注目されています。
LEDは光の素子の組み合わせにより様々な波長を含んだ光を作り出すことができ、太陽光に近い光や植物の生育に適した波長の光を効率的に照射することにより、作物を効率よく計画的に生産することができますが、LED設備の導入コストが普及の妨げとなっています。
玉川大学では、LEDを水等で直接冷却して熱による劣化を防ぎ、高出力で耐久性の高い植物工場用LED「ダイレクト冷却式ハイパワーLED」の開発に成功しました。従来よりも少ない電力及びLED数で同等の光量が照射できることから、光熱費や設備費の低コスト化を図ることができると見込まれます。また、LED光の波長バランスを調節することにより、リーフレタスの抗酸化成分や薬草であるニチニチソウの薬効成分を増加させ、付加価値
の高い植物を生産することができることも分かりました。
こうした成果を踏まえ、現在、西松建設(株)と連携して、LEDパネルを搭載した多段式の大型栽培装置を試作し、実用化に向けた検討を行っています。
今後、植物工場で試験栽培されたリーフレタスを玉川大学構内の食堂や近隣スーパーで試験販売し、その結果を踏まえた植物工場の事業性等の検証を行い、高品質で付加価値の高い機能性植物の生産・販売システムの確立を目指すこととしています。 |