令和4年7月の理事会における川村森林利用課長挨拶要旨

【川村竜哉 林野庁森林利用課長 挨拶要旨】
 新型コロナ禍に端を発したウッドショックと呼ばれる状況について若干報告させていただきます。コロナ禍が拡大し、当初は日本経済が冷え込み木材も非常に需要が落ち込んだことにより、丸太がだぶつき価格が暴落するという状況でした。
 ただ、その後、海外の木材需要、特に北米の住宅需要が回復したこと、また、コンテナ輸送の混乱など物流の混乱により、輸入材が入りにくくなり、木材価格が非常に高騰し、手に入りにくい状態となり、国産材を含めて現在丸太も木材製品も高止まりしている状況です。
 丸太の価格が上がるというのは、山側にとっては非常に歓迎すべきことですが、丸太を使っていただく木材産業あるいは住宅産業、こちらの方がコスト高で困ってしまったということになると、川上から川下までの木材産業全体としてはあまり好ましくないと考えています。できるだけ緩やかに価格が上昇して安定し、需要と供給のバランスが取れていることが望ましいと考えています。
 これに加えて、3月以降、ロシア・ウクライナ情勢の悪化により、ロシアがロシア材の輸出を禁止し、日本としても輸入禁止という品目も出てきています。これらの影響で輸入材の見通しは不透明な状況になっています。
 こうした状況を踏まえて、国産材への需要が高まっており、山側としてはこれにしっかり対応していく必要があると考えています。
このため、林野庁としては、まず短期的にはロシア材が入ってこないという状況に対応して丸太や木材製品の増産に向け、緊急的に予備費を活用して、原木、製品の運搬や一時保管、国産材製品への転換を図る設計・施工方法の導入や普及を臨時的に支援しています。
 そして、中長期的には、やはり国産材の安定供給、需要と供給がバランス良く伸びていくということ、しっかり川上から川下をうまくつなげていくことが重要だと考えています。そのため、令和3年度の補正予算も活用して、路網整備、高性能機械の導入、また、木材製品等の輸出拡大に向けた取組等の事業の支援を行っています。
 また、安定供給体制の確立については、昨年6月に森林・林業基本計画を改定しました。「新しい林業」としてデジタル技術などを導入して全体としてコストダウンを図って増産ができる体制づくりに取り組んでいきます。特に山側では担い手不足が非常にネックになってきており、このような課題にもしっかりと取り組んでいきたいと思っています。
 コロナ禍の影響を受けて、新たな生活様式が定着しつつあります。テレワークとか地方で生活しながら仕事ができる環境も整いつつあります。これは地方の追い風になるのではないかと期待しており、そうした企業活動の一環で、森林空間を人材育成や教育のフィールドとして活用していくということにもしっかり取組んでいきたいと思っています。林野庁ではこれを「森林サービス産業」と銘打っていますが、新たな山村地域の雇用の創出につながるよう取り組んでいきます。
森林経営管理制度と森林環境譲与税について、お願いも含めてお話しさせていただきます。
 令和元年度から、森林経営管理制度と森林環境譲与税が開始されています。森林経営管理制度については、市町村が中心になって所有者の皆さんの意向調査をした上で、必要に応じて市町村が権利を設定して適切に森林管理がなされるようにしていく仕組みとなっています。その財源として森林環境譲与税が新たに措置されました。
 この森林経営管理制度の取組状況は、令和元年度、2年度の2年間で所有者への意向調査が全国で約40万ha、20万人の所有者に対して行われており、各地域の市町村長さんに心より感謝申し上げます。森林環境譲与税が森林経営管理制度の発足とともに措置されたことから若干誤解をされている市町村の方がいるようですが、森林環境譲与税は森林経営管理制度以外にも幅広く活用できます。法律では森林の整備及びその促進に関する施策に幅広く活用できるようになっています。何がその施策に該当するかは一義的には市町村の判断で、幅広く活用できます。
 今年の1月末、森林環境譲与税の活用があまり進んでいない、5割程度が基金として積み立てられているという報道があり、国会でも非常に議論がなされています。この報道以降、自民党の森林吸収源対策プロジェクトチームにおいて、江藤拓先生が委員長で、当連盟会長の吉野正芳先生もメンバーですが、このチームでいくつかの市町村からヒアリングを行った上で課題の整理がなされ、農林水産省及び総務省に提言をいただきました。この提言の内容の一つに、市町村への配分基準が私有林人工林面積5割、林業従事者数5割、人口3割となっていますが、これを、より森林の多い市町村に配分されるよう検討することとされています。林野庁としては、まずは山側でしっかりと森林整備に使っていくということに取組んでいきたいと考えています。森林環境譲与税の5割が活用されていないという要因は、まず意向調査等の準備作業をやって、それから森林整備に活用していくことにしているとの声も沢山いただいています。市町村の取組については都道府県とも連携してサポートしていきたいと考えています。また、森林整備に活用する場合、森林経営管理制度以外でも国庫補助、都道府県単独補助への上乗せという形でも活用できます。
 森林環境譲与税をきちんと活用し、国民の皆さんにその成果を示していくことが非常に重要になっていると考えています。特に令和6年度から森林環境税の徴収が始まります。徴収の開始前おそらく令和5年度に、基金に積まれたままとなっていないか、適正に活用されているかが議論されると思います。その時に議論される対象は令和4年度までの活用実績となります。市町村長の皆様におかれては、是非、森林環境譲与税の活用をお願いします。令和4年度の当初予算執行は既に始まっていますが、9月補正、12月補正でしっかり上積みしていただくよう取組んでいただければと思います。できれば、基金の残高が増えることのないよう、4年度の譲与額を上回る予算措置を是非ご検討いただきたいと思います。
 森林環境譲与税の使途については、令和4年6月に総務省と林野庁の連名で「森林環境譲与税を活用して実施可能な市町村の取組の例について」の文書を発出し、活用できるいくつかの事例を示しています。このリストに掲載されているものであれば問題なく活用できます。リストに掲載されていないものでも、新しいアイデアを出していただいて幅広く活用できます。少しでも不安があればこのリストの末尾に記載している林野庁、総務省の窓口に相談いただければと思います。