全国山村振興連盟メールマガジンNO210

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2023.2.3

全国山村振興連盟事務局

 

○2023年1月の 農林水産行政

 

2023年1月の農林水産行政の主要な動向は、以下の通りでした

 

1 ベルリン農相会合で共同声明を採択

1月21日、ドイツ・ベルリンで世界最大級の農業大臣会合「ベルリン農相会合」が開催され、野村哲郎農相が出席した。農相は、就任後初の外遊となった。

ベルリン農相会合は、3年ぶりの対面開催となり、64カ国農相等と国際機関の関係者が出席し、共同声明を採択した。共同声明では、①新型コロナウィルス禍が世界の食料安全保障に悪影響を及ぼしていること、②ロシアのウクライナ侵攻が食料や肥料など生産資材の価格増大の要因となっていること、③世界の食料供給体制の強靭化を図るには農業の環境負荷低減や生産性の向上が重要であること、④途上国の危機軽減へWTOルールに即さない輸出規制など不当な貿易制限措置を開始すること、⑤肥料の過剰な使用の削減や使用効率の向上推進することなどを盛り込んだ。

野村農相は、各国が自国の資源を有効活用することの必要性を強調し、持続可能な農業は国ごとに異なる最適な取組で実現するべきだと訴えた。

また野村農相は、G 7 に加盟する5カ国・地域の農相らと個別に会談した。カナダのビボー農業・農産食料相、EU のヴォイチェホフスキ農業担当委員、ドイツのエズデミル食料・農業相、イタリアのロッロブリージダ農業・食料主催・森林相、フランスのフェノー農業・食料主権相と会談し、日本を議長国に4月に開く G 7農相会合への出席を要請した。またEUの閣僚には、日本産食品への輸入規制の早期撤廃を働きかけた。

 

2鳥インフルエンザで殺処分対象の鶏が 1000万羽超

鳥インフルエンザが猛威を振るい、殺処分対象となった鶏は、今季は初めて1000万羽を超えた。1月28日には宮城県角田市のアヒル農場で国内今季69例目が発生し、約1万2000羽の殺処分を行った。また千葉県匝瑳市の採卵鶏農場では70例目が発生し、約25万羽の殺処分を始めた。

こうした状況を受けて鶏卵の卸値は前年同期の約2倍に急騰しており、 JA 全農たまごの M サイズ卸値(東京市場)は1月の平均(20日まで)が1 kg 273円と前年同期の約2倍となっている。

殺処分対象の9割は採卵鶏であり、農林水産省は 鶏卵の安定供給について業界に対し「安定的な生産の確保と安定出荷向けへの優先供給に特段の配慮お願いする」旨の通知を出した。なお、鳥インフルエンザは今季世界的に流行しており、 アメリカでも12月時点で4300万羽の採卵鶏が殺処分の対象となり、鶏卵価格が 6割上昇しているとされる。

 

3 農産物輸出、年間過去最高を突破

1月6日、農林水産省は2022年1月から11月の農林水産物・食品の輸出額を公表した。前年同期比15%増の1兆2433億円で、2021年通年の実績も上回り、輸出額が年間の過去最高を突破した。このうち加工食品を含む農産物は11%増の7977億円、加工食品を除く1次農産品は前年比10%増の3385億円となっており 全体の約3割を占める。

1次農産品の内訳は、畜産品1138億円(12%増)、穀物566億円(13%増)、野菜・果実559億円(18%増)、その他農産物1122億円(5%増)となっている。 また林産物は582億円(13%増)、水産物は3514億円(31%増)だった。特に大きく伸びた品目は、牛乳・乳製品が27%増の281億円、 鶏卵が46%増の80億円、 ブドウが17%増の51億円、いちごが29%増の41億円などとなっている。

 

4 基本法の検証部会を2回開催

1月13日 と27日の両日、農林水産省は食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会を開催した。13日の検証部会では、多面的機能について「従来プラスの効果だけに着目していた一方で、農業による水質悪化や家畜からの温室効果ガスの発生など農業が国土保全や自然環境にマイナスの影響を与える可能性もある」と指摘。日本でも政策手法のグリーン化が必要だとした。世界的に規模が拡大している有機農業を有望視している。

また1月27日の検証部会では、「農村の振興」をテーマに有識者ヒアリングを行った。農林水産省からは、①農村コミュニティの機能を維持するため、移住者・関係人口の増加や起業が必要であること、②自然減による用排水施設の管理機能の低下に対処し、管理の継続のあり方を検討すべきこと、③農業生産活動の継続のみならず、鳥獣被害の防止のための体制整備を行う必要があることなどを説明した。また委員からは、①多面的機能支払のカバー率が50%台で頭打ちであり、どう上げていくかが課題であること、②現行基本法においては鳥獣害対策に対する記載がないことなどの意見が提起された。

 

5 世界農業遺産の申請地区と日本農業遺産の地区が決定

1月17日、農林水産省は国連食糧農業機関(FAO)が認定する世界農業遺産に和歌山県有田・下津地域の「石積み階段園みかんシステム」を申請することに決めた。有田・下津地域では400年以上前に急斜面に石を積み、階段状のみかん園が築かれた。景観だけでなく酸味の強いみかんを貯蔵することで糖度を高め、7か月の安定出荷が可能な蔵出し技術がある。本年秋頃に有田・下津地域を FAOへ申請する予定となっている。

また農林水産大臣が認定する日本農業遺産には、岩手県束稲山麓地域の「災害リスク分散型土地利用システム」、埼玉県比企丘陵地域の「比企丘陵の天水を利用した谷津沼農業システム」の2地域を選んだ。束稲山麓地域は洪水害を受けやすい川沿いだけでなく、中山間地域にも農家が農地を持ちリスクを分散させてきた。比企丘陵地域は雨水だけを水源とするため池で農業を営み、絶滅危惧種の淡水魚ミヤコタナゴの保全にも取り組んでいる。

 

第6その他

1 鳥獣被害額2021年度は4%減少

農林水産省は2021年度の野生鳥獣による農作物被害額を公表し、前年度比4%減の 155億1568万円で、3年ぶりに減少に転じたとした。侵入防止柵の設置や豚熱対策が進み、イノシシによる被害が39億1019万円で14%減と大幅に減った。被害額が前年より減ったのは36都府県にのぼる。

一方シカによる被害は拡大し、8%増の60億9723万円となった。シカの被害額は、2年連続で増えている。北海道の被害額が10%増の44億3966万円で全体の7割を占める。飼料作物やてんさいの被害が中心となった。イノシシ・シカ以外の鳥獣被害は7%減の55億826万円だった。

鳥獣被害防止総合対策交付金では、捕獲一頭当たり 7000円から9000円を、侵入防止柵設置には半額を助成している。

 

2 日本穀物検定協会に業務停止命令

1月24日、農林水産省は日本穀物検定協会に対し、農産物検査法に基づき3か月間の業務停止を命じた。期間は2月6日から5月5日となる。

穀物検定協会は、2022年8月、輸入米の一部にカビが生えていると認識しながら、検査証明書を発行した。また2022年7月には、水に濡れた荷物を検査せずに証明書を出した。農林水産省は同時に業務改善命令を発出し、法令遵守体制や再発防止策などを2月24日までに農相へ報告するよう求めている。

 

3 ロシアから漁業協定の協議を行わない旨の通知

北方四島周辺水域枠組み協定に基づく日ロ間の協議については、昨年から外交ルートを通じてロシア側と日程調整を行ってきたが、1月19日、ロシア側から外交ルートを通じて、「この協定に基づく政府間協議の実施時期は現時点では調整できない」旨の通知があった。

農林水産省は、「日本漁船の操業確保するため外務省と連携しながら、1日も早く協議を再開できるよう引き続き適切に対処したい」としている。また被害が出る漁船は他の漁場へ移動しなければならないので、そうした場合の取組みに必要な経費(中心的には人件費)について、支援する考えである。

 

4 配合飼料価格の高騰に対して、総理が追加措置を指示

2022年 10月から12月の第3四半期については、配合飼料価格の高騰に対する補填を予備費・補正予算で行ってきたが、異常補填基金の財源不足もあり、満額が出ない見通しとなっている。制度補填の 7750円に加えて緊急対策の6750円を合わせて、制度補填の上限より100円程度下回る見込みとなった。

1月に行われた物価・賃金・生活総合対策本部において、総理から「農林水産大臣には、昨年来の対策を継続し、本年1月から3月期について配合飼料コストを抑制するための追加策を講ずるように」との指示があった。

2023年 1月から3月の 第4四半期については、とうもろこし価格や円相場の動向にもよるため、3月末にならなければ補填額は明確にならないが、必要な場合には追加的な対策を講じることとなる見通しである。